2013年2月20日水曜日

謎解きはディナーのあとで、推理は読みながら

「謎解きはディナーのあとで 」3
東川 篤哉

単行本: 269ページ
出版社: 小学館
言語 日本語
ISBN-10: 4093863474
ISBN-13: 978-4093863476
発売日: 2012/12/12


シリーズ累計300万部突破の人気ミステリ
国立署の新米刑事、宝生麗子は世界的に有名な『宝生グループ』のお嬢様。
『風祭モータース』の御曹司である風祭警部の下で、数々の事件に奮闘中だ。
大豪邸に帰ると、地味なパンツスーツからドレスに着替えてディナーを楽しむ麗子だが、難解な事件にぶちあたるたびに、その一部始終を話す相手は”執事兼運転手”の影山。
「お嬢様の目は節穴でございますか?」
――暴言すれすれの毒舌で麗子の推理力のなさを指摘しつつも、影山は鮮やかに謎を解き明かしていく。
2011年本屋大賞第1位、同年の年間ベストセラー第1位に輝いたシリーズ累計300万部突破の大人気ミステリ第3弾。
文芸誌『きらら』に連載した5編「犯人に毒を与えないでください」「この川で溺れないでください」「怪盗からの挑戦状でございます」「殺人には自転車をご利用ください」「彼女は何を奪われたのでございますか」に、書き下ろし「さよならはディナーのあとで」を加えた全6編。
【編集担当からのおすすめ情報】
敏腕探偵である執事の影山に頼り切りだった麗子が成長を遂げ、活躍するエピソードにご期待ください。そして、最終話では麗子と影山、風祭の3人の関係にも変化が訪れて…!?

「犯人に毒を与えないでください」
 青酸カリ中毒で亡くなったと思われる、老人の遺体。ベッドのそばの机には、飲みかけの水が入った湯のみ。ラベルがはがされたペットボトル。中身は普通の水らしい。乱れたタオルがそばに落ちている。部屋の捜査をした風祭警部は、薬をいれていたピルケースを見つけてご満悦だ。麗子は部屋の隅で、ちぎれた輪ゴムを見つけた。家族の話では、ペットの白猫が最近、行方不明になっており、老人は気落ちしていたのだという。そのショックで自殺したのだろうか。
 執事の影山は「ペットボトルと猫の共通点はなんですか?」と言い出す。そして、麗子には「お嬢様には、まったく進歩が見られません」とも。

「この川で溺れないでください」
 多摩川のほとりの空き地で、風祭が着るような白いスーツを身に着けた、やくざの死体が発見された。このやくざの遠い親戚だという富豪の屋敷に事情調査に赴いた風祭と麗子は、富豪の息子・娘たちから事情を聞く。そして殺されたやくざのアパートでは、風呂場から多摩川の水が入っていたとおぼしきバケツを発見する。犯行現場はここなのか。しかし・・・
 おりしも桜が舞い散る春の夜、富豪が所有する自家用の車の上には桜の花びらが降り積もっていた。
 「目の前にあるヒントにお気づきにならないとは―お嬢様にはがっかりです」と影山の、にくらしい一言。

「怪盗からの挑戦状でございます」
 宝生家に<怪盗レジェンド>からの挑戦状が届く。父のいいつけに従い、かかりつけの私立探偵・御神本光一を頼りにすることになった麗子。怪盗は高森鉄斎の名作、純金で彫られた『金の豚』という彫刻をねらっているらしい。果たして予告どおりあらわれた怪盗はまんまと皆を眠らせて『銀の豚』の塑像を奪っていく。だが、部屋の前では影山が見張っていたのだ。金の豚ではなく銀の豚を獲っていったのは何故なのか?
 影山はいきさつを解説しながら、「お嬢様、いま少し脳みそをお使いになったらいかがですか」。

「殺人には自転車をご利用ください」
 老婦人が食卓の赤ちゃん椅子に座らされた状態でこと切れていた。関係者には元競輪選手がおり、彼が怪しいのだが、いくら競輪用自転車とはいえ、犯行時間に自宅と現場を往復するのは至難の業だ。なおのこと、聞き込みで風祭警部が得た情報に従うと、犯行時間にその付近を往復していたとすると、時速90キロで走りぬいたことになる。
 そこで影山は言う。「お嬢様は風祭警部様とどっこいどっこいだと申し上げているのででございます」

「彼女は何を奪われたのでございますか」
 カトレア学園の女子大生が絞殺されているのが発見された。白いワンピースを着ていたが、ベルトやメガネなど身に着けていた装飾品がすべて奪われていた。その前日、被害者に出会った後輩の女子大生が、そのときの彼女の行動に不思議な違和感を覚えていたと証言する。被害者が所属していた映画研究会のサークル仲間とはべつに、卒業後の今も付き合っているというサークルの元部長を訪ねた麗子と風祭は、その男が怪しいと確信するのだが。
 「この程度の謎が分からないとは、お嬢様は本当に役立たずでございますね」

「さよならはディナーのあとで」
 夏の盛り、資産家が殺されていた。自分の持ち物である木刀で撲殺されていたのを次女が発見したのだ。最近、このあたりには泥棒騒ぎが続いており、泥棒に気付いた当主が抵抗したところを返り討ちにあったのかと思われた。
 「失礼ながら、お嬢様は無駄にディナーをお召し上がりになっていらっしゃいます」
 そして、事件は解決。その後、風祭警部が警視庁へ栄転するという辞令が伝えられる。最後の最後に、麗子は風祭と屋台の焼き鳥屋で別れのディナーを食べるのだった。

 第3作。超マンネリ。謎らしい謎もない。勝手な判断で、謎解きとはいえない。などとネットでは悪評ふんぷん。
 とはいえ、面白い。このギャグは若者向けとは思われない。そこそこの年寄りが読んでこそ、面白みがあるのではないか。
 ということで、映画化を控えて、夏に向けて話題が盛り上がりそうな一作。

 

2013年2月9日土曜日

母性を望む、母たち娘たち

「母性」
湊 かなえ

単行本: 266ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語
ISBN-10: 4103329114
ISBN-13: 978-4103329114
発売日: 2012/10/31


「これが書けたら、作家を辞めてもいい。そう思いながら書いた小説です」著者入魂の、書き下ろし長編。
持つものと持たないもの。欲するものと欲さないもの。二種類の女性、母と娘。高台にある美しい家。暗闇の中で求めていた無償の愛、温もり。ないけれどある、あるけれどない。私は母の分身なのだから。母の願いだったから。心を込めて。私は愛能う限り、娘を大切に育ててきました──。それをめぐる記録と記憶、そして探索の物語。

 郊外の住宅地。
 高校生の娘が自宅アパートの4階から転落した。
 事故なのか、自殺なのか・・・
 その母は「愛能う限り、大切に育てた娘がこんなことになるなんて・・・」

第1章。 
「母の手記」から始まる物語は、神父さまへの告白という形をとる。
 夫と結婚することになったいきさつ。
 夫の実家に対する、友人からの忠告。あの家は息苦しい。
 夫の実家の人々は人を褒めるということをしない家族だ。
 でも、私は大丈夫。ちゃんと人の思惑を理解して先回りできるのだから。

 結婚後も実家に近い一軒家に住み、実家の母から妻としての教育を受ける。
 自分の母の思い入れがわかる。義母に嫌われてはいけない。
 でも私は大丈夫。褒められることはないけれど、叱られることもなかったのだから。

第2章からは「母性について」の章がはさまれる。
 亡くなった高校生は、同僚の国語教師が前任していた学校に在籍していた。
 「わたし」は新聞報道を見て、なにか、ひっかかるものを感じる。
 「母の手記」では、台風の夜に母が亡くなる悲劇が語られる。
 そして「娘の回想」。
 大好きなおばあちゃんは刺繍が得意なやさしいおばあちゃんだった。だが、台風の夜に自分をかばって亡くなってしまった。
 
第3章
 「母性について」。わたしは国語教師を、たこ焼き屋にさそい、話を聞こうとする。
 「母の手記」。夫の実家で暮らすことになり、いよいよこの家族がきらいになっていく。女子大を卒業した次女の律子が就職もせずに帰ってきて、その世話もせねばならない。
 だが次女はあやしい男にカネを貢いでいるようだ。
 「娘の回想」。実家の離れで暮らしながら、律子と交流を重ねるが、やがて出て行ってしまういきさつ。

第4章
 「母の手記」。嫁いだ長女がこのところ、毎日のように子供を連れて帰ってくる。子供は少し発達障害のようだ。
 そして母は妊娠に気付く。実家の母は気に入らなさそうだ。だが、お腹の子供はふとした事故で流産してしまう。
 「娘の回想」。伯母の子供が母にまとわりついて煩わしい。つい、手を上げてしまう。伯母は祖母といっしょになって母をないがしろにする。そんな時に母の流産騒動。

第5章
 「母性について」。同僚国語教師に聞く。「愛能う限りってなんでしょう?」
 「母の手記」。手芸教室に通うことで、ほっとできた日々。そこで知り合った霊能者のような人とのあれこれ。
 「娘の回想」。母が落ち着いてきたのはうれしいが、なにやらきな粉のような薬を飲まされるのには閉口した。手芸教室で知り合った人から勧められていたようだが、やがてそれもおさまっていく。

第6章
 「母性について」。母性を持たない母親。母親になっても誰かに庇護されていたいと願って母性をなくしてしまう親がいる。
 「母の手記」。夫の浮気。娘の自殺騒動。
 「娘の回想」。祖母が亡くなったときの本当の理由がわかった。私を助けようとして家具の下敷きになったのだが、その時に起こった本当のこと。それを告げたのは父の浮気相手だった。彼女をワインボトルで殴りつけた私は家に帰って桜の木にロープを巻き付ける。

終章
 「母性について」
 父は私の自殺騒動のあと姿を消したが、その15年後の3年前、ひょっこり帰って来て、今は母と暮らしている。認知症が進んだ祖母の介護に、母は明るい表情で臨んでいる。
 わたしは結婚してまもなく母になる。わたしは子供を愛するだろうが、決して「愛能う限り愛する」とは言わないだろう。
 愛を求めようとするのが娘であり、自分が求めたものを我が子に捧げたいと思うのが母性なのではないだろうか。


 という流れで、冒頭の高校生の転落さわぎと、実は18年以前に起こった「わたし」の自殺さわぎがリンクする。母という存在とはどういうものか。母になりたい、それよりも母の子供でいたい。「母性」のなりたちを、それぞれの立場から描く。
 印象がまとまらないので、このレビューを書くのに時間がかかった。
 母になれない娘、娘につらくあたることしか出来ない母。それでも母を愛する娘、母のような母親になりたくない娘。だが、そんな母でも娘を愛しているはずだ。そんな娘でも母を愛している筈だ。
 そういったことかな。少し違う気もするが。
 

 

2013年2月5日火曜日

アルカトラズ幻想は日本の悲劇を避けようとするが

「アルカトラズ幻想」
島田荘司

単行本: 537ページ
出版社: 文藝春秋
言語 日本語
ISBN-10: 4163816607
ISBN-13: 978-4163816609
発売日: 2012/9/23


1939年、ワシントンDCの森の中で、娼婦の死体が発見された。被害者は両手をブナの木の枝から吊るされ、性器の周辺がえぐられたため股間から膣と子宮が垂れ下がっていた。時をおかず第2の殺人事件も発生。凄惨な猟奇殺人に世間も騒然とする中、ジョージタウン大学の大学院生が逮捕され、サンフランシスコ沖に浮かぶ孤島の刑務所、アルカトラズに収監される。やがて、犯人は刑務所を脱獄し、島の地下にある奇妙な場所で暮らし始める――。現代ミステリーの最前線を走る著者の渾身の一作がついにベールを脱ぐ!(AK)

 文藝春秋・編集部さんの紹介文が、あれよあれよの展開なので、どうなってるの、という感想になってしまいそう。
 だけど、その通りに物語が進む。

 ワシントンDC、グローバーアーチボルドの森で女性の変死体が発見される。木から両手を吊るされ、下半身をくりぬかれていたため、内臓がというより膣と子宮が垂れ下がっていた。すわ猟奇的な殺人かと思われたが、死因は心臓麻痺だと判明する。死んだ後に下半身をえぐられたらしい。
 その死因が判明したと時を同じくして再び、吊り下げられた変死体が見つかる。先の事件と同じように吊り下げられた女性の死体。頭蓋骨折が直接の死因のようだ。そのうえ骨盤が割られ、鉛筆が挟まれて、元の状態に戻らないように工作されていた。これは交通事故で死亡した後に死体への冒涜がおこなわれたのだ。

 ここで第2章になるのだが、これがなんと「重力論文」。
 恐竜は実在しない、というのが結論。よくイラストや映画などで、首を振り回しているシーンを見受けるが、化石の骨を見ていると、構造上こんな動きは不可能なのだという。ティラノザウルスは2足歩行で、前足など両手のように見えるのだが、こんな、象よりも重い体重を後ろ足だけで支えることが出来たのだろうか。ましてや、地球の重力のもとでこんな身軽に動くことができたはずがない。
 ほかの恐竜にしても、血液が脳に到達するまでには心臓から送り出す力がどれほど必要だろうか。翼竜にしても、こんな体重の重い物体が空を飛べた筈がない。
 そこから導かれるのは、地球の引力は古生代には今よりもっと少なかったということだ。自転が早い惑星などでは、地球より引力が少なく、体重も軽くなる。地球もかつては今より自転が速かったのだが、小惑星の衝突などによって、急に回転が遅くなり、今の24時間となり、引力も現在のものに落ち着いたというのだ。

 そして第3章以降は、死体を傷つけた罪に問われたジョージタウン大学院生のバーナードが主役となる。
 バーナードが書いた重力論文に目をつけた刑事たちはバーナードから自白を引き出すことに成功。バーナードは殺人を犯したのではなく、自分の重力論文の正しさを立証しただけだった。マスコミは猟奇殺人をメーンにして、恐怖をあおった。裁判の陪審員にも女性が多く、被告には不利な条件のまま、バーナードは有罪宣告を受け、サンフランシスコに送られる。
 アルカトラズ監獄。過去に幾度か脱獄を試みたことがある凶悪犯を収容してきた監獄だ。初犯のバーナードがなぜここに送られたのか、わからないまま、彼は徐々にこの監獄に慣れていく。
 受刑者たちには大学院生という知識人がめずらしく、仲間にしたがる。監獄での話題はナチスの新兵器だ。新型爆弾でアメリカは焼き尽くされてしまう、という恐怖感が監獄を支配している。
 また、奇妙な噂があった。監獄の地下には別世界が広がっているというのだ。そして、囚人たちの議論は地球空洞説にまでおよんでいた。自分の重力理論から、それに反論するバーナード。
 そこに脱獄の計画が持ち上がる。長身のバーナードがいれば、脱走ルートはクリアできる。
 ある雨の夜、脱獄が始まる。気に沿わぬまま、そのプランに同行したバーナードだが、警備の機関銃が彼の足元で炸裂する。3階の屋上から転落、バーナードは意識もうろうとしたまま警備員から逃げ惑う。
 そのとき、小さな女がバーナードを導く。地面の鉄板を引きはがして、女はバーナードを階段に誘う。それは、監獄の地下に広がる謎の空間だった。

 第4章は「パンプキン王国」。
 背の低い黄色い顔をした人々が、植物と紙で出来た家に住んでいる。床も植物の繊維を編んだ柔らかいもので出来ている。そこがパンプキン王国―なんだいこれは。
 傷ついたバーナードは夢の中にいるように、王国をさまよう。案内役は雨の夜に彼を救ってくれたポーラだ。だが、それは現実離れした世界だ。
 窓がない地底世界。ここではパンプキンが主食だという。ポーラはことさらにパンプキンと言う言葉を強調した。そして「V605」と書かれた紙。ラジオからも時折「V605、PUMPUKIN」なる言葉が聞こえて来る。
 ポーラの案内で地下世界から階段を上ると、そこにはもうアルカトラズ監獄はなく、高層建築物が立ち並んでいた。
 ポーラは回復して来たバーナードに、しきりに日にちを尋ねる。その日はいつなのだ、と訊くのだがバーナードには意味不明だ。あるときポーラは行方をくらまし、そのあとを辿っていくバーナードは謎のドアの前に導かれる。不思議な4枚の図がそれぞれに描かれたドアの前で、男の声が、その図の意味が理解出来ればポーラの居場所が判るという。
 ドアを開けたバーナードはポーラに再会、突然、理解する。そして8月11日という日を思い出す。だが、天候不順でその日は早められるだろう。そうなら、それは今日9日だ。
 世界はあっけなく滅びていく。まばゆい閃光と轟音によって人々が焼き殺されてしまうのだ。

 エピローグ。すべての謎が判明する。
 2001年9月。ジョン・ストレッチャーはポール・高木という老人を長崎に訪ねる。
 ポーラは高木の妹だった。バーナードとポーラは戦後を生き延び、10年ばかり前に亡くなっていた。
 戦時中、バーナードが担っていた役割がわかる。そして、ポーラが彼の危機を救ったことも。だが、すべては遅かったのだ。

 謎の猟奇殺人かと思われた事件から、重力理論、地底世界、果ては第二次大戦中の日本軍の秘策まで。
 V605の意味、パンプキンの意味。
 巨匠だから許される、一風変わった超本格ミステリー。

 

2013年1月29日火曜日

歳々年々、同じでないものは

「歳々年々、藝同じからず」
米朝よもやま噺
桂 米朝/語り

単行本: 219ページ
出版社: 朝日新聞出版
言語 日本語
ISBN-10: 402250997X
ISBN-13: 978-4022509970
発売日: 2012/8/7


 大阪・朝日放送のラジオ番組「米朝よもやま噺(ばなし)」を再構成した本の3冊目。なつかしい芸人や役者、芸者にお茶屋の思い出から、枝雀や吉朝ら、弟子のことまで自在に語る。「そもそも、民主主義と芸事というものは、どこか相いれんもんがあるような気はしますなあ」と、さらり。「芸というものを他人に教えるというのは、実に難しいことなんや」と言いつつ、自らの師匠・四代目桂米團治(よねだんじ)から「いろんな話を聴かせてもらいました」と振り返る。「それは師匠が、ネタのことを常々考えてたから自然にできたことです。ほんまに芸が好きやからこそ語れる、それが芸談なんや」。まさにそんな本だ。
[聞き手]市川寿憲


 2009年12月〜2012年5月『朝日新聞』大阪本社版連載「米朝口まかせ」をまとめたもの。
 もとはラジオでの口演→新聞に連載、ということで、いくら米朝さんでも、口調をそのまま再現するというのは難しかろう。
 とはいえ、芸歴の長さ、つきあいの広さ、遊びの深さがかもし出す名人ぶりには感嘆する。

 寄席の名人たちの名前もなつかしい。
 それよりも今現在のお弟子さん、各界の名人たちの話題も豊富だ。
 当世落語家たちを集めた高座なのに、昔の名人がよかった、という観客に向かって、昔の人は忘れて今の落語家たちを聞いてください、と発奮するディレクターの思い入れがうれしい。
 
 落語もしばらく遠ざかっていたが、最近になってTVの上方落語などを録画して見直すこともあり、少し気分を変えての一冊となった。落語も聞かなくっちゃ。
 

2013年1月23日水曜日

ひなこまち騒ぎに湧く江戸の町で

「ひなこまち」
畠中恵著

単行本: 253ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語
ISBN-10: 4104507164
ISBN-13: 978-4104507160
発売日: 2012/6/29


お江戸のみんなが、困ってる!?  大人気「しゃばけ」シリーズ最新刊。いつも元気に(!?)寝込んでる若だんなが、謎の木札を手にして以来、続々と相談事が持ち込まれるようになった。船箪笥に翻弄される商人に、斬り殺されかけた噺家、霊力を失った坊主、そして恋に惑う武家。そこに江戸いちばんの美女探しもからんできて――このままじゃ、ホントに若だんなが、倒れちゃう! シリーズ第11弾は、いつもの年より一月早いお届けです!

 いつもは夏に読む「しゃばけ」シリーズだが、今回予約が遅れてしまって、半年遅れの「冬しゃばけ」。いやいや、季節には関わらず、いつ読んでもおもしろい。ピークが桜のころの話になるので、春に向けての気持ちの準備もかねて、大いに楽しませていただいた。
 
 長崎屋の荷物にまぎれて「お願いです、助けてください」と書かれた木札がどこからか舞い込んでくる。ここから若だんな・一太郎の冒険が始まる。

『ろくでなしの船箪笥』
 友人の七之助が上方から持ち帰った船箪笥。なぜだか引き出しが開けられない。たしか荷物の中には上方の根付けが入っているだけなのに。そして店に怪異が現れる。誰もいない部屋で奇妙な影が現れたり、魚が急に腐ったりするのだ。そのわけは・・・

『ばくのふだ』
 広徳寺の住職が悪夢から人を救うという「獏の札」を配っているのだが、それがまったく効かなくなっている。そのために、江戸の町に怪異が続く。悪夢を食べる獏が消えてしまったのだという。 
 ある夜、落語を聴きに寄席に出向いた若旦那はそこでも怪異に出会う。怪談話そのままに幽霊が歩き始めた。そして怪談噺が得意な噺家を、浪人がなぜかつけねらっているのだ。
 噺家は本島停馬久という、獏の化身だった。
 
『ひなこまち』
 大江戸美人コンテスト、雛小町えらびが始まった。ひなこまちに選ばれた美女は、来年のひな祭りのお雛様のモデルになるという。ひなこまちに選ばれればどこかの大名の側室に選ばれることもあるかもしれない。若い娘たちは夢中だ。それにあやかって盗品の着物を売ろうとする悪者なども現れて大騒ぎ。古着屋の美人娘の於しなが古着を盗まれて困っているところに一太郎が出くわす。

『さくらがり』
 少し訳ありで、若旦那には昨年の桜見物の記憶が飛んでしまっている。広徳寺に桜見物に出掛けた若旦那や妖たちのもとに、河童の禰々子が大利根河童の手土産を持って訪れる。それは河童の秘薬と呼ばれる何種類かの丸薬だった。
 たまたま寺に桜見物に来ていたお侍・安居さまが、その中の「惚れ薬」を欲しそうにする。安居の妻で、子供ができずに悩んでいる雪柳が出家しないよう、その薬で繋ぎ止めたいのだという。
 そしてさくらがりに出向いた一同は、夢ともうつつともわからないままに・・・

『河童の秘薬』
 いよいよ雛小町選びが始まり、一太郎も西方の選考をまかされることに。
 安居の妻・雪柳も河童の秘薬を飲んでしまい、一同の夢の中でひとりの子供に出会う。その子供が誘拐され、芝居小屋に連れ込まれてしまう。
 さて、その子供の正体は。そして、始めに現れた木札の因縁がここにようやく判明する。

 と、屏風のぞきをはじめ、妖たちがオールスターで大活躍。かっこいい禰々子さんも要所を締めてくれて、ほんわかとした読後感はなにより。
 来年が楽しみ。
 

2013年1月19日土曜日

眠れる女を狂卓の騎士が守る


 「眠れる女と狂卓の騎士」(上・下)
スティーグ・ラーソン/著
ヘレンハルメ 美穂 (翻訳),
岩澤 雅利 (翻訳)

ペーパーバック: 494ページ、473ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語, 日本語, 日本語
ISBN-10: 4152090480
ISBN-13: 978-415209048597
発売日: 2009/7/9


宿敵ザラチェンコと対決したリスベットは、相手に重傷を負わせたものの、自らも傷つき、瀕死の状態に陥ってしまった。現場に駆けつけたミカエルの手配で、リスベットとザラチェンコは病院に送られ、一命を取りとめる。だが、彼女の拉致を図っていた金髪の巨人ニーダマンは逃走してしまう。この事件は、公安警察の特別分析班の元班長グルベリに衝撃を与えた。特別分析班は、政府でも知る人の少ない秘密の組織で、ソ連のスパイだったザラチェンコの亡命を極秘裡に受け入れ、彼を匿ってきた。今回の事件がきっかけでそれが明るみに出れば、特別分析班は糾弾されることになるからだ。グルベリは班のメンバーを集め、秘密を守るための計画を立案する。その中には、リスベットの口を封じる卑劣な方策も含まれていた…
リスベットは回復しつつあったが、様々ないわれのない罪を着せられていた。リスベットを守るためミカエルは、彼女の弁護士になった妹のアニカ、警備会社の社長アルマンスキー、彼女の元後見人パルムグレンらを集めて、行動を開始する。だが、特別分析班は、班の秘密に関与する者たちの抹殺を始めた。さらに彼らの過去の悪事を露見させる書類をミカエルたちから取り戻すべく、強硬策に出る。一方ミカエルは、病院内にいるリスベットと密かに連絡を取ることに成功、必要な情報を彼女から得ようとする。そして、特別分析班の実態を暴く捜査を開始した公安警察と手を組み、巨大な陰謀を解明しようとする。やがて、リスベットの裁判が始まり、特別分析班に操られた検事とアニカ、リスベットが法廷で白熱の闘いを繰り広げる!
世界中に旋風を巻き起こした驚異のミステリ三部作、ついに完結!

 ということで、実は「ミレニアム」3部作の完結篇。
 刊行は3年前で、その年のミステリーベストなどで3部作がベストワンに輝いている。そのときに2巻までは読んだのだが、その後、話題が広がり、図書館で見つけることがなく、ついつい延び延びになってしまった。
 昨年、本国での3部作映画化に次いで、米国でも第1話がダニエル・クレイグの主演でリメイクされ、それを見ていると、やはり続きが気になって、気になって・・・
 
 で、ようやく読み始めることができて、第1巻の映画や、第2巻のストーリーを思い出しながら読むことになる。
 ミレニアムというのは左翼系の雑誌の名前。といっても過激な部分はなく、政府に対する批判やスウェーデンの闇を暴くことが中心になっている。
 ミカエルはその雑誌の経営者であり編集長だが、ある財閥の背景を暴いたことで政府から目をつけられ、雑誌をやめることに。そのときにミカエルの身上調査をしたのがリスベットだった。
 リスベットは天才ハッカーの女性で、背中にドラゴンの刺青をしている。第1巻「ドラゴン・タトゥーの女」の由縁である。
 失業したミカエルは地方の金持ちの伝記の執筆をまかされることに。だが、この豪族の一家には秘密があり、なおかつ、36年前にある少女が邸宅のある島から謎の消失をしたまま行方不明になっている。
 その調査を進めるためにミカエルはリスベットを協力者として迎える。
 この話が映画化された第1巻。本国版は原作に忠実に、米国版は結末が違っている。
 だが、女性差別、ネオナチの暗躍など、主要なテーマは踏襲されていた。

 第2巻では、リスベットの過去が少し現れてくる。
 そしてミカエルの標的が姿を現す。人身売買、日常的な強姦など、スウェーデンの暗部が描かれる。
 だが、3巻へのつなぎの要素が多く、早く次を、という欲求が加算されるばかり。
 リスベットは幼いころ、母を虐待する父親・ザラチェンコとの反目から父親をクルマごと燃やそうとしたことがある。それが「火と戯れる女」というわけ。
 ザラチェンコはソ連から亡命したのだが、公安警察のスパイとして、政府の暗部で行動していた。
 公安の実態をつかんだミカエルは、それを公表することの危険も理解していた。
 その恐れのとおり、ミカエルとリスベットは襲撃を受ける。リスベットは頭に銃弾を受け、地下に埋められてしまう。

 そして第3巻。
 リスベットは病院のICUに隔離されている。
 ザラチェンコや、その一味との対決のなかで瀕死の重傷を負い、頭部にも銃弾を受けていた。頭部の銃傷は外科医により銃弾も取り除かれ、奇跡的な回復をみせる。
 かたや、ザラチェンコも重症のまま病院に収容され、リスベットのとなりの部屋で治療を受けていた。そしてリスベットの命を奪おうとするかのような動きをみせる。
 
 ザラチェンコが回復して真相を語るのを恐れる公安警察内の一部の組織は、ザラチェンコを処分、さらにリスベットをも標的にする。
 リスベットは重要参考人として拘束され、誰にも面会が許されない。
 そこでミカエルは自分の妹をリスベットの専任弁護士として彼女を担当させる。

 弁護士のアニカはリスベットを理解し、ミカエルとの連絡役として重要な役目を果たすことになる。加えて、手術を担当した外科医師もリスベットの本質を見抜き、協力を惜しまない。
 傷が回復したリスベットのもとにミカエルからPDAが届く。
 そこからは天才ハッカー・リスベットの面目躍如だ。まずyahooにふたつのグループを作る。「狂卓」(アーサー王の円卓のもじりだという)、そしてもうひとつが「騎士」だ。これが日本版のタイトルだね。そこにリスベットとつながりのある優秀なハッカーたちが世界中から集まってくる。当然電脳世界に国境はないのだが、何人かはコンピューターをクルマに積んで直接コペンハーゲンまでやって来る。
 すべては、回復したリスベットを待っている裁判に向けての対応策を練るためだ。

 だが、裁判が始まる前に、ミカエルや、ミレニアムをやめて新聞社の編集長になった共同経営者のエリカに悪の公安組織の手が伸びる。これを予知したリスベットが、ネット仲間を通じて妨害する手際のあざやかさ。
 そして公安警察の良心的な警官たちは、ミカエルに協力して警察の悪の部分を断ち切ろうとする。
 
 やがて回復したリスベットはミカエルの妹の弁護士とともに裁判に臨む。リスベットの異常さを訴え法的に拘束しようとする組織に対して、リスベットとミカエルは裁判での対抗弁論と雑誌や単行本、TV放送をも巻き込んだ対抗手段を取る。

 いやあ、おもしろい。法廷場面は短すぎて、ある書評ではリーガル・サスペンスだ、などとおっしゃる方もおられたが、そこまではいかないまでも、そこに盛り上がりを持ってくる手法は納得。それより、PDAを手にしたリスベットがここぞとばかりネットの海をさまようあたり、これはコンピューター小説じゃないか、と、古い言い方で思ったりする。
 さてこそ、著者の急逝でシリーズはここでおしまい。
 たしかに、次巻への伏線らしきものもあり、残念なことこのうえないが、そこはそれ、物語は続く、だがそれは別の話だ。
 2013年の年頭の2週間、3年遅れだけど楽しませていただきました。
 


2013年1月5日土曜日

アイ・コレクターは逆転に向かって進む

「アイ・コレクター」
セバスチャン・フィツェック
小津 薫 (翻訳)

新書: 405ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4150018588
ISBN-13: 978-4150018580
発売日: 2012/4/6

ベルリンを震撼させる連続殺人事件。その手口は共通していた。子供を誘拐して母親を殺し、設定した制限時間内に父親が探し出せなければその子供を殺す、というものだ。殺された子供が左目を抉り取られていたことから、犯人は“目の収集人”と呼ばれた。元ベルリン警察の交渉人で、今は新聞記者として活躍するツォルバッハは事件を追うが、犯人の罠にはまり、容疑者にされてしまう。特異な能力を持つ盲目の女性の協力を得て調査を進める彼の前に、やがて想像を絶する真相が! エピローグから始まる奇抜な構成、予測不能の展開。『治療島』の著者が放つ衝撃作。

 ふむふむ、と思うでしょう。
 405ページから始まり、404,403・・・と減っていく。
 エピローグのアレクサンダー・ツォルバッハ(わたし) からはじまり、最終章・結末、続いて第83章、82章と減っていく。ラストは序章・始まりなのだ。
 ただ、それは単なる章だてで、ストーリーは時系列にそって進んで行く。
 それが判明するまで逆にへんなこだわりを持ってしまって、ストーリーに入り込むまで時間がかかった。
 
 冒頭の「エピローグ」では刑事時代のツォルバッハが、誘拐された子供を救うため犯人を射殺せざるを得なかった経過が描かれる。そして今、記者となり、警察の情報を違法傍受しつつ、警察とは別に犯人追跡を続けている。
 ツォルバッハは妻との離婚調停をかかえながら、「目の収集人」追跡を続ける。犯人は子供を誘拐し、何処かに隠している。その子の母親を殺し、母親の死体が見つかると同時にカウントダウンを始める時計を残して行く。その時計が45時間を刻むと子供が殺される時間になる。
 そして、今回、収集人が4度目のゲームを始めたという情報が届く。
 なおかつ、息子のユリアンの行方がわからない、と妻からの電話。
 
 そんなツォルバッハの前に謎の女性が登場する。盲目の物理療法士だというアリーナだ。彼女は犯人を見たという。見たというより、彼女と接触したときに、犯人の記憶を見ることができたという。彼女とともに捜査を進めるが、その情報があまりに真実に近いがために、警察から犯人だと疑われることに・・・
 ツォルバッハは新聞社の実習生フランクの助けを借りながら、警察の裏をかいて犯人の足跡、誘拐された子供のありかを探索していく。
 
 張り巡らされた罠。まるで映画の「ソウ」シリーズみたいだ。 
 ツォルバッハの母を介護していた看護士を巻き込んだりして、犯人の意図が、いよいよツォルバッハの悪意を暴き出そうとしているように見える。
 間に挿入される、誘拐された子供の、脱出への試み。
 それがサスペンスを盛り上げる。
  
 フィチェックの作品は初期のころから読んではきたが、このブログでは初めてかな。
 暗い結末で、評価は分かれるところだが、すんなり読めるところはお勧め。
 

爺の読書録