「首都感染」
高嶋 哲夫
単行本: 482ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062166402
ISBN-13: 978-4062166409
発売日: 2010/12/17
近未来、20XX年初夏という設定。
サッカーワールドカップが中国本土で開かれている。だが、どうも中国政府の様子がおかしい。
ネットの書き込みが急に減っているというのだ。当局が意識的に削除しているようだ。
軍部がベトナム国境で不穏な動きをしている。自国民を始末しているという報道もある。
主人公は東京の病院の医師。瀬戸崎優司というアル中気味の36歳。離婚歴があり、それにまつわる悲しい過去が徐々に明らかになる。父親は総理大臣という恵まれた立場だが、それを指摘されて本人は言い放つ「1億3千万分の2の確立だ」。父と同居して世話をしている姉がいるのだ。
別れた妻は今は再婚してスイスのWHO本部で勤務しているが、その父親は現職の厚労相、父親の総理とは学生時代から家族ぐるみの付き合いだった。
そして優司のもとに日本政府から依頼がくる。
インフルエンザの襲来に備えた対策を練るという。大臣たちはインフルエンザの恐ろしさを知らない。先の豚インフルの空騒ぎで勇み足を警戒しているし、鳥インフルなどのレベルでしか事態を捉えられない。
H5N1型から変異した強毒性インフルエンザの前では日本の対策は無きにしも等しいのに。
病院の同僚医師がベスト8に進出したサッカーチームの応援に中国へ出掛けていく。
応援のために中国に大挙して押しかけた日本人サポーターたちが、もしもインフルエンザを日本に持ち帰ったら・・・・
そして世界にちらばったサポーターが世界各国にウイルスを持ち込むことも考えられる。
ここまでで100ページ、5分の1あたり。
やはり発生した新型インフルエンザが猛威を古い、中国始め世界でパンデミックをみせる。
体内で強烈な変化をみせるウイルスの前で、医師たちはなすすべもなく死者を見送るばかり。世界での致死率は60%との数字が出る。
だが、優司と政府がタッグを組んでウイルスの隔離に成功した日本では、世界の患者数とは一桁少ない犠牲者で推移している。
しかし、それでも一人の医師、家族から見守られて死んでいく患者、悲しさ、無力感が優司を襲う。
後半、首都を封鎖し、抗インフルエンザ薬の開発を進める優司たちの活躍が描かれる。
基本的な手法だと優司たちはあくまで控えめだが、その基礎的なことが出来ないのが人間の住む世界、別れた妻にもそう指摘される。
ラッキーなタイミングで、かなり無理なシチュエーションがうまく行きすぎる展開にはなるが、これほどの強権を発動することの出来る政府や病院関係者が日本にもいることを望みたい。
鳥インフルのニュースを見ながら、さて、日本国民は大丈夫だろうかとの不安に背筋が凍る大作。
本はもっぱら図書館で借りて読む。
したがって新刊は少ない。半年遅れならましなほう。
本はもっぱら通勤電車の中で読む。
したがって感想は遅い。
独断と偏見に満ちたブックレビューをどうぞ。
2011年2月22日火曜日
2011年2月15日火曜日
はばたく想像力、作家の限界はどこにある

「原稿零枚日記」
小川 洋子
単行本: 240ページ
出版社: 集英社
言語 日本語
ISBN-10: 4087713601
ISBN-13: 978-4087713602
発売日: 2010/8/5
いやあ、小川さんの想像力にはあらためて恐れ入ります。
『日記』というタイトル、そして、表題もなく、
「9月のある日(金)
長編小説の取材のため・・・」
と始まる物語で、読者はついつい、ちょっとしたエッセイかな、と思い込み、物語の中に入り込んで行くことになる。
そこにあるのは、
苔料理専門店で供される苔料理の数々。
子供時代の間取りを思い出すとともに部屋中に広がる方眼紙。
運動会あらしでもらった賞品の学習ノートに書かれる物語。
そして編集者や母とのかかわりと、孤独な小説家の内面に巣食う暗い情念。
ひきこもりの作家かと思えば行動的。健康スパランドに出向くかと思えば、飛行機と新幹線を乗り継ぎ、屋外美術展で冒険を繰り広げる。
繰り返すが、この想像力はどうだろう。
デビュー当時から一目置いてはいたが、こうして短編集の形態をとる連作長編を読むと、小川さんの頭の中をのぞいて見たくなる。
2011年2月8日火曜日
龍馬や勝海舟と関わるひとりの快男児
「荒ぶる波濤」
~幕末の快男子陸奥陽之助~
津本 陽
単行本:281ページ
出版社: PHP研究所
ISBN-10: 4569775047
ISBN-13: 978-4569775043
発売日: 2010/6/10
陸奥宗光。名前は聞いたことがあるが、実態は定かではなかった。
坂本龍馬や勝海舟と行動を共にし、龍馬の影として動乱の幕末を駆け抜け、明治政府でも外務大臣を務めるなど、大きな力を発揮する。
とはいえ、今回はその前半生、宗光となる前の時代をメーンとして描いたおかげで、龍馬のいいとこどりになってしまったようだ。龍馬や海舟の片腕として活躍した、という結論になってしまいそう。
というのも、歴史解説ルポルタージュを見ているような、あらすじを読んでいるような文体のせいもある。山場といえるものが少なく、淡々と事態が進行していくのだ。
紀州藩執政として藩をきりもりしていた父が失脚、幼い牛麿、のちの陸奥陽之助は田舎暮らしで成長する。やがて江戸へ出て小次郎と名を改め、刀は苦手だが、勉学と逃げることだけは得意だという青年に成長する。ジゴロのような立場で生活したりして、女にも強いところを伺わせる。
そのころ、幕末の波が、赦免された一家にも訪れ、父や兄と共に、江戸で脱藩浪人としての暮らしを続けることになる。そのときに出会った龍馬や海舟の薫陶を受け、神戸海軍塾の設立運営にいそしみ、やがて長崎の亀山社中にも参加し、蒸気船に乗っての上海交易などで世界の広さを実感していく。
龍馬や海舟の視点で事態を見つめる小次郎改め陽之助は、やはり世界観がちがう。その拠って立つところが幕府や朝廷、はたまた薩摩長州土佐といった雄藩の動きをも理解したうえでの物の見方をすることが出来る。いわば超越した歴史家の目なのだ。そのあたりも、物語の抑揚に欠ける部分とつながっているのかもしれない。
巻末近く、大政奉還から龍馬暗殺にいたる経過が駆け足で語られ、やはり昨年の大河ドラマに合わせた企画なのかなと思わせるところが辛い。
続刊で明治時代の宗光の活躍が語られるらしい。それを待ちながら、というところか。
津本 陽
単行本:281ページ
出版社: PHP研究所
ISBN-10: 4569775047
ISBN-13: 978-4569775043
発売日: 2010/6/10
陸奥宗光。名前は聞いたことがあるが、実態は定かではなかった。
坂本龍馬や勝海舟と行動を共にし、龍馬の影として動乱の幕末を駆け抜け、明治政府でも外務大臣を務めるなど、大きな力を発揮する。
とはいえ、今回はその前半生、宗光となる前の時代をメーンとして描いたおかげで、龍馬のいいとこどりになってしまったようだ。龍馬や海舟の片腕として活躍した、という結論になってしまいそう。
というのも、歴史解説ルポルタージュを見ているような、あらすじを読んでいるような文体のせいもある。山場といえるものが少なく、淡々と事態が進行していくのだ。
紀州藩執政として藩をきりもりしていた父が失脚、幼い牛麿、のちの陸奥陽之助は田舎暮らしで成長する。やがて江戸へ出て小次郎と名を改め、刀は苦手だが、勉学と逃げることだけは得意だという青年に成長する。ジゴロのような立場で生活したりして、女にも強いところを伺わせる。
そのころ、幕末の波が、赦免された一家にも訪れ、父や兄と共に、江戸で脱藩浪人としての暮らしを続けることになる。そのときに出会った龍馬や海舟の薫陶を受け、神戸海軍塾の設立運営にいそしみ、やがて長崎の亀山社中にも参加し、蒸気船に乗っての上海交易などで世界の広さを実感していく。
龍馬や海舟の視点で事態を見つめる小次郎改め陽之助は、やはり世界観がちがう。その拠って立つところが幕府や朝廷、はたまた薩摩長州土佐といった雄藩の動きをも理解したうえでの物の見方をすることが出来る。いわば超越した歴史家の目なのだ。そのあたりも、物語の抑揚に欠ける部分とつながっているのかもしれない。
巻末近く、大政奉還から龍馬暗殺にいたる経過が駆け足で語られ、やはり昨年の大河ドラマに合わせた企画なのかなと思わせるところが辛い。
続刊で明治時代の宗光の活躍が語られるらしい。それを待ちながら、というところか。
2011年1月31日月曜日
ピアノとベートーヴェンのうんちくと、そして謎
「さよならドビュッシー」
中山 七里
単行本: 367ページ
出版社: 宝島社 (2010/1/8)
ISBN-10: 4796675302
ISBN-13: 978-4796675307
発売日: 2010/1/8
Ⅰ Tempestoso delirante テンペストーゾ デリランテ ~嵐のように狂暴に~
Ⅱ Adagio sotto voce アダージオ ソツト ヴオーチエ ~静かに声をひそめて~
Ⅲ Con duolo gemendo コン ドウオーロ ジエメンド ~悲嘆に暮れて苦しげに~
Ⅳ Vivo altisonante ヴイーヴオ アルテイソナンテ ~生き生きと高らかに響かせて~
Ⅴ Ardente pregando アルデンテ プレガンド ~熱情をこめて祈るように~
第8回『このミステリーがすごい!』大賞 (2010年)受賞作。選考委員が大絶賛した話題の感動作!
ということでミステリー。
16歳の少女が主人公。シンデレラ・ストーリーでもあるのだが、甘ったれた話ではない。
それぞれの章題は上の通りで、中身をうまく表現して、ストーリーのうねりを教えてくれている。
舞台は中部地方のようだ。著者の名前も岐阜県の紅葉の名所だし。
祖父が資産家という恵まれた家庭に育った「遙」の「あたし」という一人称で語られる物語。
いとこのルシアはインドネシアの津波で両親を亡くした帰国子女。
だが、祖父と一緒に住む離れが火事になり、祖父とルシアが焼死してしまう。
遙自身も大やけどを負い、2ヶ月間の寝たきり生活を余儀なくされる。
遙は高校の音楽科に入学することが決まっていた。
大やけどで全身の皮膚を移植した遙は、包帯姿のままタクシー通学することになる。
高校で改めてピアノの練習を積むのだが、励まし、理論づけて練習の手助けをしてくれるのがイケメンのピアニスト・岬洋介。
父が法曹界の大物で地方検事正として名高い人であり、洋介自身も司法試験を一番の成績で突破しておきながら音楽の道に選んだとして父から反目され、勘当同様の身の上であるらしい。
彼がピアノ教師の枠を超え探偵役として遙と関わっていくことになる。
まず、病気療養中の遙を襲う謎の敵。自宅の階段の滑り止めが細工され、遙の松葉杖にも仕掛けがほどこされる。あげくの果ては道路に突き飛ばされ、クルマに撥ねられそうになる。
遙が祖父の遺産を受け取ることになったことに対する嫌がらせなのか。
そして、遙の母親が神社の階段から突き落とされ、脳挫傷で死んでしまうという事故が起こる。これは事故なのか、はたまた、遙に対する陰謀の一部なのか。
ストーリーの流れの中で音楽、とくにピアノやベートーヴェンに対するうんちくと、ピアノの練習方法が語られることで、読者は行間から立ち上がるピアノの音色を聞きながら、物語に翻弄されていく。
音楽を言葉で語れるのはすごいと思う。
まあ、それは音楽に対する思い入れや解説に近いものだろうけれど、それでも読者は確かにホールの反響を耳にすることになり、観衆の感動、演奏者の高揚感を目の当たりにすることになる。
遙は松葉杖をつきながらもピアノコンクールに出場するまでに回復する。予選をクリアして、本選の課題曲・ドビュッシーの「月の光」に続いて自由曲に選んだのが、同じくドビュッシーの「アラベスクその1」なのだった。
そして、末尾に驚くべき謎が明かされる。
その謎の中に「さよなら」の意味が込められているのだ。
中山 七里
単行本: 367ページ
出版社: 宝島社 (2010/1/8)
ISBN-10: 4796675302
ISBN-13: 978-4796675307
発売日: 2010/1/8
Ⅰ Tempestoso delirante テンペストーゾ デリランテ ~嵐のように狂暴に~
Ⅱ Adagio sotto voce アダージオ ソツト ヴオーチエ ~静かに声をひそめて~
Ⅲ Con duolo gemendo コン ドウオーロ ジエメンド ~悲嘆に暮れて苦しげに~
Ⅳ Vivo altisonante ヴイーヴオ アルテイソナンテ ~生き生きと高らかに響かせて~
Ⅴ Ardente pregando アルデンテ プレガンド ~熱情をこめて祈るように~
第8回『このミステリーがすごい!』大賞 (2010年)受賞作。選考委員が大絶賛した話題の感動作!
ということでミステリー。
16歳の少女が主人公。シンデレラ・ストーリーでもあるのだが、甘ったれた話ではない。
それぞれの章題は上の通りで、中身をうまく表現して、ストーリーのうねりを教えてくれている。
舞台は中部地方のようだ。著者の名前も岐阜県の紅葉の名所だし。
祖父が資産家という恵まれた家庭に育った「遙」の「あたし」という一人称で語られる物語。
いとこのルシアはインドネシアの津波で両親を亡くした帰国子女。
だが、祖父と一緒に住む離れが火事になり、祖父とルシアが焼死してしまう。
遙自身も大やけどを負い、2ヶ月間の寝たきり生活を余儀なくされる。
遙は高校の音楽科に入学することが決まっていた。
大やけどで全身の皮膚を移植した遙は、包帯姿のままタクシー通学することになる。
高校で改めてピアノの練習を積むのだが、励まし、理論づけて練習の手助けをしてくれるのがイケメンのピアニスト・岬洋介。
父が法曹界の大物で地方検事正として名高い人であり、洋介自身も司法試験を一番の成績で突破しておきながら音楽の道に選んだとして父から反目され、勘当同様の身の上であるらしい。
彼がピアノ教師の枠を超え探偵役として遙と関わっていくことになる。
まず、病気療養中の遙を襲う謎の敵。自宅の階段の滑り止めが細工され、遙の松葉杖にも仕掛けがほどこされる。あげくの果ては道路に突き飛ばされ、クルマに撥ねられそうになる。
遙が祖父の遺産を受け取ることになったことに対する嫌がらせなのか。
そして、遙の母親が神社の階段から突き落とされ、脳挫傷で死んでしまうという事故が起こる。これは事故なのか、はたまた、遙に対する陰謀の一部なのか。
ストーリーの流れの中で音楽、とくにピアノやベートーヴェンに対するうんちくと、ピアノの練習方法が語られることで、読者は行間から立ち上がるピアノの音色を聞きながら、物語に翻弄されていく。
音楽を言葉で語れるのはすごいと思う。
まあ、それは音楽に対する思い入れや解説に近いものだろうけれど、それでも読者は確かにホールの反響を耳にすることになり、観衆の感動、演奏者の高揚感を目の当たりにすることになる。
遙は松葉杖をつきながらもピアノコンクールに出場するまでに回復する。予選をクリアして、本選の課題曲・ドビュッシーの「月の光」に続いて自由曲に選んだのが、同じくドビュッシーの「アラベスクその1」なのだった。
そして、末尾に驚くべき謎が明かされる。
その謎の中に「さよなら」の意味が込められているのだ。
2011年1月24日月曜日
迷子になった医師が、迷子石で救われたのは
「迷子石」
梶 よう子
単行本: 266ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062165988
ISBN-13: 978-4062165983
発売日: 2010/12/10
幕末、安政の大地震の翌年というのだから、映画「赤ひげ」で描かれたような、そんな時代。舞台は富山藩の江戸藩邸。
羽坂孝之助は藩の見習い蘭方医だが、病人相手が苦手で、子供たちに絵を教えたりする毎日。富山の薬売りたちが売る「置き薬」のおまけに付ける、江戸の景色を描いた版画の下絵描きなどで小遣い稼ぎをしていた。
そんな、のんびりした日常が突然、破られる。
江戸藩邸の工事で犠牲者が出たり、台風が襲って幼馴染の絹代親子が災難にあったりする。
そこに国許から、おなじく幼馴染で、いまは勘定方として一目置かれている長右衛門が江戸詰めとして出府してくる。彼から同郷の仲間たちの近況を聞いたりして懐かしい思いをするのもしばし。長右衛門は江戸藩邸と国許との間に微妙な溝があることを薄々気付き、江戸勤めを避けたい気持ちでいるらしい。
薬売りの惣吉が意外な報告をもたらす。「江戸へ向かっていた、お父上が殺されました」。そしてその犯人は、これも幼馴染の村岡順也だというのだ。しかし薬売り風情の惣吉がなぜそんな事態をつかんでいるのだ。
タイトルの迷子石とは、嵐のあとで行方不明になったり、家族とはぐれたりした人々のために消息を書き留めておくための掲示板を示す標識のこと。
梶 よう子
単行本: 266ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062165988
ISBN-13: 978-4062165983
発売日: 2010/12/10
幕末、安政の大地震の翌年というのだから、映画「赤ひげ」で描かれたような、そんな時代。舞台は富山藩の江戸藩邸。
羽坂孝之助は藩の見習い蘭方医だが、病人相手が苦手で、子供たちに絵を教えたりする毎日。富山の薬売りたちが売る「置き薬」のおまけに付ける、江戸の景色を描いた版画の下絵描きなどで小遣い稼ぎをしていた。
そんな、のんびりした日常が突然、破られる。
江戸藩邸の工事で犠牲者が出たり、台風が襲って幼馴染の絹代親子が災難にあったりする。
そこに国許から、おなじく幼馴染で、いまは勘定方として一目置かれている長右衛門が江戸詰めとして出府してくる。彼から同郷の仲間たちの近況を聞いたりして懐かしい思いをするのもしばし。長右衛門は江戸藩邸と国許との間に微妙な溝があることを薄々気付き、江戸勤めを避けたい気持ちでいるらしい。
薬売りの惣吉が意外な報告をもたらす。「江戸へ向かっていた、お父上が殺されました」。そしてその犯人は、これも幼馴染の村岡順也だというのだ。しかし薬売り風情の惣吉がなぜそんな事態をつかんでいるのだ。
タイトルの迷子石とは、嵐のあとで行方不明になったり、家族とはぐれたりした人々のために消息を書き留めておくための掲示板を示す標識のこと。
人生の岐路にたたされた孝之助が迷子石に導かれて行くのは・・・
人付き合いにはうとく、政治向きなど、とんと無関心だった孝之助だが、陰謀の実態を知るにつれて、国許に戻った惣吉と連絡をとる必要が生じてくる。そこで孝之助は版画に暗号をひそませて国許に送るという手段を考え出す。本書の紹介にはこのエピソードがメーンにされているのだが、実は後半になって出てくる話なのだ。大きくは孝之助が医師として成長して行く物語。伊東玄朴などという著名人も孝之助を育てるひとりの医師として登場する。
富山の国許と江戸との距離感がどうも分かりづらく、そうまでして連絡を取り合う必要があるのか、とも思ってしまうが、そこは舞台装置と理解して、ひとつのトリックとして認めてしまおう。
人付き合いにはうとく、政治向きなど、とんと無関心だった孝之助だが、陰謀の実態を知るにつれて、国許に戻った惣吉と連絡をとる必要が生じてくる。そこで孝之助は版画に暗号をひそませて国許に送るという手段を考え出す。本書の紹介にはこのエピソードがメーンにされているのだが、実は後半になって出てくる話なのだ。大きくは孝之助が医師として成長して行く物語。伊東玄朴などという著名人も孝之助を育てるひとりの医師として登場する。
富山の国許と江戸との距離感がどうも分かりづらく、そうまでして連絡を取り合う必要があるのか、とも思ってしまうが、そこは舞台装置と理解して、ひとつのトリックとして認めてしまおう。
2011年1月19日水曜日
ほんわかユーモア・ジェットコースターノベル
「さよなら、ベイビー」
里見蘭
単行本: 250ページ
出版社: 新潮社
ISBN-10: 4103130121
ISBN-13: 978-4103130123
発売日: 2010/10/20
ひきこもり青年・雅祥(まさよし・まあくん)の子育て奮戦記。
といえば、なんじゃいな、と思われるだろう。だが、これがミステリー色ゆたかな、サスペンスたっぷりの物語になっている。
あまり馴染みのない著者だが、ファンタジーノベル大賞を受賞しているということで、それはそれで安心して読み始める。
ユーモア小説ともいえるし、謎が謎を呼ぶ展開のジェットコースターノヴェル、結末にはあっと驚く仕掛けがあるミステリー。
母の死がショックで自殺未遂をおかして、ひきこもりに拍車がかかる。そして4年。
父親が突然、赤ちゃんを連れて帰ってくる。知り合いの赤ちゃんをしばらく預かるといって、喜々として世話をし始めるのだ。
だが、その父が急死、赤ちゃんを預けるにしても、役所や警察は相手にしてくれない。
赤ちゃんの世話など21歳の独身男子には無理だ。助けを求めて外へ出るのことも出来ないのが引きこもりなのだから。
おむつの世話、ミルクの調合、泣きじゃくるときの対処の仕方、すべて手探り。
従姉のしーちゃんに訳をはなして協力してもらうが、次から次に難題がふりかかる。
並行して赤ちゃんと関連していると思われるエピソードが語られる。
美佐の不倫とその娘である成美の幼い恋。
里見蘭
単行本: 250ページ
出版社: 新潮社
ISBN-10: 4103130121
ISBN-13: 978-4103130123
発売日: 2010/10/20
ひきこもり青年・雅祥(まさよし・まあくん)の子育て奮戦記。
といえば、なんじゃいな、と思われるだろう。だが、これがミステリー色ゆたかな、サスペンスたっぷりの物語になっている。
あまり馴染みのない著者だが、ファンタジーノベル大賞を受賞しているということで、それはそれで安心して読み始める。
ユーモア小説ともいえるし、謎が謎を呼ぶ展開のジェットコースターノヴェル、結末にはあっと驚く仕掛けがあるミステリー。
母の死がショックで自殺未遂をおかして、ひきこもりに拍車がかかる。そして4年。
父親が突然、赤ちゃんを連れて帰ってくる。知り合いの赤ちゃんをしばらく預かるといって、喜々として世話をし始めるのだ。
だが、その父が急死、赤ちゃんを預けるにしても、役所や警察は相手にしてくれない。
赤ちゃんの世話など21歳の独身男子には無理だ。助けを求めて外へ出るのことも出来ないのが引きこもりなのだから。
おむつの世話、ミルクの調合、泣きじゃくるときの対処の仕方、すべて手探り。
従姉のしーちゃんに訳をはなして協力してもらうが、次から次に難題がふりかかる。
並行して赤ちゃんと関連していると思われるエピソードが語られる。
美佐の不倫とその娘である成美の幼い恋。
しーちゃんの不妊治療。
それぞれに関わる婦人科医の思い。
それぞれに関わる婦人科医の思い。
そして、父が保証人になっていたという事実から、自分の生活が脅かされることになり・・・
だが、圧巻は可愛いベイビーのはちゃめちゃぶりと、まあくんその人の成長だろう。
引きこもりの男子が赤ちゃんのために一念発起、助けを求めて震えながら町へ出て行く。
読者はまあくんに感情移入しながら、応援し、ベイビーの暴れん坊ぶりに快哉することになる。
子育てのハウツーものとまでは言わないが、ほんわかミステリーとして、赤ちゃんがいた頃が懐かしくなる傑作エンターテインメント。
2011年1月16日日曜日
隻眼の少女の謎と、本格ミステリの頂点の謎
「隻眼の少女」
麻耶 雄嵩
単行本: 420ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 416329600X
ISBN-13: 978-4163296005
発売日: 2010/09/30
死に場所を求めて信州の小さな温泉宿をおとずれた大学生の種田静馬。そこで遭遇したのは凄惨な首切り殺人事件。しかも被害者はまだ15歳の少女。
被害者の首が置かれていた場所をさかんに訪れていた静馬は容疑者と疑われる。それを助けてくれたのが水干姿の美少女探偵・御陵みかげ。
2011年文春ベスト、このミス、ともに4位。本格ミステリベストでは、めでたく1位にランクされている。
本格ミステリということで、人里はなれた寒村、首切り連続殺人、怪しげな旧家の人々、三つ子の姉妹と、舞台装置は万全。
探偵役は占いを生業とする隻眼の美少女、ワトソン役はその助手にやとわれた大学生。
当然のように起こる連続殺人、見透かしたようなせりふを吐きながら事件を防げない探偵たち。これもお決まりか。
淡々と事態が進行するのだが、被害者の家族、姉妹たちの嘆き、悲しみなどが伝わってこない。
そして危うくミステリーのルール違反になりそうな設定。
探偵が探偵されていく、その中でひっくり返される真実。
じじいとしては、もっとおどろおどろしい展開を期待するのだが、登場人物たちはその役目を淡々と引き受け、事態を冷静に受けいれる。
ミステリの設定としてはフェアではないのではないか、という疑問も残るが、ロジックとしてこれが成り立つところに今の本格ミステリの面白いところがある。
本格ミステリの頂点を知るには最適な一冊。
麻耶 雄嵩
単行本: 420ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 416329600X
ISBN-13: 978-4163296005
発売日: 2010/09/30
死に場所を求めて信州の小さな温泉宿をおとずれた大学生の種田静馬。そこで遭遇したのは凄惨な首切り殺人事件。しかも被害者はまだ15歳の少女。
被害者の首が置かれていた場所をさかんに訪れていた静馬は容疑者と疑われる。それを助けてくれたのが水干姿の美少女探偵・御陵みかげ。
2011年文春ベスト、このミス、ともに4位。本格ミステリベストでは、めでたく1位にランクされている。
本格ミステリということで、人里はなれた寒村、首切り連続殺人、怪しげな旧家の人々、三つ子の姉妹と、舞台装置は万全。
探偵役は占いを生業とする隻眼の美少女、ワトソン役はその助手にやとわれた大学生。
当然のように起こる連続殺人、見透かしたようなせりふを吐きながら事件を防げない探偵たち。これもお決まりか。
淡々と事態が進行するのだが、被害者の家族、姉妹たちの嘆き、悲しみなどが伝わってこない。
そして危うくミステリーのルール違反になりそうな設定。
探偵が探偵されていく、その中でひっくり返される真実。
じじいとしては、もっとおどろおどろしい展開を期待するのだが、登場人物たちはその役目を淡々と引き受け、事態を冷静に受けいれる。
ミステリの設定としてはフェアではないのではないか、という疑問も残るが、ロジックとしてこれが成り立つところに今の本格ミステリの面白いところがある。
本格ミステリの頂点を知るには最適な一冊。
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