2013年10月4日金曜日

壺中の回廊で裁かれるものは誰なのか

「壺中の回廊」
松井 今朝子

単行本: 360ページ
出版社: 集英社
言語 日本語
ISBN-10: 4087715124
ISBN-13: 978-4087715125
発売日: 2013/6/26

昭和五年。歌舞伎の大劇場・木挽座に「掌中の珠を砕く」と脅迫状が届き、人気役者が舞台中に殺される。
江戸歌舞伎最後の大作者、桜木治助の末裔・治郎が謎解きに挑む長編バックステージミステリー!

昭和五年、東京。「忠臣蔵」の舞台で事件は起きる。容疑者は役者、裏方、観客すべて。だが、「嘘をつくのが商売」の役者たちを相手に捜査は難航。築地署は江戸狂言作者の末裔・桜木治郎に捜査協力を要請した。激動の時代を背景にした渾身の長編歌舞伎バックステージ・ミステリー。

 昭和の初め、東京。歌舞伎座ならぬ木挽座に起こる殺人事件。それは招来を嘱望される花形役者・蘭五郎が毒殺されるという事件だった。

 当初は殺人の事実を伏せ、亡くなったことも報道されない。
 事件当日、木挽座にいた桜木治郎は事件の渦中に投げ込まれる。
 木挽座には「掌中の玉を砕く」なる、脅迫ともとれる脅しが届いていたのだ。

 さて、江戸時代を舞台として、歌舞伎やその他の風俗を描いて来た作者が、関東大震災から7年後の、昭和の東京を舞台に、連続殺人事件を描く。
 事件はその後、蘭五郎の先輩女形の蘭香が殺され、真相を探っていた新聞記者までが暴行を受けて死んでしまうという事態に陥る。

 その間、関東大震災後の復興を祝う「帝都復興祭」がおこなわれ、昭和の時代も華やかさを増して行く。
 探偵役の治郎は帝都復興祭で鵬男爵と出会う。バロン・オオトリとも呼ばれる財閥の長。治郎が身元を引き受けている従妹の澪子は男爵の妻と知り合うことになった。
 男爵の妻は新劇のよき理解者であり、澪子は築地小劇場の研究生だったのだ。

 澪子にもイプセンの戯曲で初舞台の声がかかる。
 木挽座でも、ふたりの死者が出たショックを乗り越え、新たな演し物の演出にも治郎が関わることになっていく。

 メーデーの日、澪子はデモ行進のなかに、木挽座の役者を見た。亡くなった蘭五郎の弟子だった。だが、それ以上に不思議に思ったのは、ヤスエという先輩女優の話だった。小劇場の新進として期待されていた女優だったが、さっさと辞めてしまった。彼女には歌舞伎界の役者という虫がついていたという。それが蘭五郎だったのだ。

 治郎は事件の核心をつかみ、鵬男爵の邸を訪れる。
 そこで治郎が対決することになった相手とは・・・

 昭和デモクラシーと、歌舞伎界、築地小劇場に象徴される新しい芝居と、台頭して行く女優たち。
 だが、7年前の震災が引き起こした、ある因縁がもたらした結果。
 さばかれるべきは誰なのか。

爺の読書録