「光圀伝」
冲方丁
単行本: 751ページ
出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)
言語 日本語
ISBN-10: 404110274X
ISBN-13: 978-4041102749
発売日: 2012/9/1
何故この世に歴史が必要なのか。生涯を賭した「大日本史」の編纂という大事業。大切な者の命を奪ってまでも突き進まねばならなかった、孤高の虎・水戸光圀の生き様に迫る。『天地明察』に次いで放つ時代小説第二弾!
なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか―。老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す―。生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。
なぜ俺なんだ。
という、疑問というより怒りが、第一章の通奏低音を奏でる。
有名な、深夜に生首を持ち運ぶエピソードから始まる。父が家老を成敗し、その首が馬場のはずれにさらされている。それを持ち帰れというのが父の課題だった。厳しい父の命令には従わねばならない。ただ、光國(当時はこの字だった)は3男だ。次兄は幼くして亡くなったが、長兄は健在だ。なのに、自分が跡継ぎと決められている。
なぜ俺なのだ、と光國は訳が分からない。
さらに、疱瘡が癒えたばかりなのに、死人が流されてくる浅草川を泳いで渡れ、と言われる。
将軍家光から光國の名を賜る。同時に短刀も下げ渡された。
兄は大名として一家をなし、水戸家を出て行ってしまう。
元服の後、市中を遊びまわる。悪い仲間もできた。それぞれどこかの家中の若侍だが、その身分を隠して付き合っているのだ。その仲間から荒れ寺に住まう無宿人の浮浪者を切ってみせろ、と催促される。
そのとき出会ったのが宮本武蔵だった。そして、沢庵和尚。山鹿素行も仲間らしい。武蔵は無駄な殺人を非難し、人としての生き方を諭す。同時に人を死に至らしめる技をも伝授していく。
そのころ、明がほろび、清と名乗る国が勃興していた。ことによると幕府が清を成敗することになるかもしれない。光國の武士としての血が騒ぐ。
だが武蔵や沢庵はいくさの無意味さを解く。そして歴史や論語に傾注していった光國に論敵が現れる。林羅山の息子であり耕読斎と名乗る坊主だった。
なにしろ徳川光國だ。水戸を預かる父は神君家康公の息子。叔父たちは尾張、紀州の殿様、すなわち御三家そのもの。の家光は将軍、その自負があり、世間からも認められている。
武術を身につけるのは当然ながら、詩歌を愛し、儒教に傾倒し、なおかつ歴史にも思いを致す、文化人としての光國はなかなか新鮮だ。
第2章は「義」について。
光國は耕読斎に尋ねる。我が子でなく、兄の子を次の水戸藩主に据える。これは義か?
なぜ自分が跡継ぎなのか、という疑問から、歴史を学んだ結果、出て来た答えがこれだった。
反面、自分が手をつけた娘から生まれた子供を部下に押し付けたりする勝手なところもある。というのも近衛家から妻を娶ることが決まったからだ。よくできた嫁で、泰姫という天姿媛順な娘である。
だが、明暦の大火が江戸を襲う。そして林家がまとめていた歴史の書物が灰燼に帰す。光國はあらためて史書蒐集、歴史編纂への意気込みを燃やす。
だが、孤独な光國を理解してくれていた泰姫が病を得て、子も生まずに死んでしまう。
なおのこと、ライバルであり、良き理解者でもあった耕読斎もあっけなく亡くなってしまった。かわりのように現れたのが14歳の藤井紋太夫だった。
光國自身はもとより、周囲の人々の多彩さがすごい。なおかつ、その才人たちが次から次へと現れ、光國の意志が、みごとにリレーされていく。これは光國の才能ともいえるかもしれない。そういう時代だからこそ現れた人々だったかも。
「明窓浄机」というタイトルの光國の手記が各所にはさまれる。ここで光國は自分がなしてきた物事について、また、なしえなかったことについてつぶやいている。
最後に殺したあの男についても、自分の大義と、それを勘違いしてしまった悲劇について悔やんでいる。
そして第3章は水戸藩主となった光國の治世についての話となる。
藩主となった光國はまず、自分の後継について将軍に理解を得てもらうことにする。かねてからの宿願であった、兄の子を自分の養子にして、その子に水戸藩をつがせるという案である。将軍後見の保科正之の賛同を得て、光國の大望は認められる。
御三家とはいえ、水戸藩はさほど産物に恵まれていたわけではなかった。まず、国元を肥やし、領民の暮らしを楽にさせてやりたいと願う。領主の姿を見たこともない領民も多い。藩主を重く見るあまり、領民に犠牲を強いることなどもやめさせ、土地の悪人どもを逆に手なずけ、他国から悪人たちが入り込まないようにさせた。
しかし、世は五代将軍綱吉の時代になっていく。御三家はすべて代替わりしているが、かつての副将軍としての権威を今も持ち続けるよう、光國が引っ張っていく。
明から招いた朱子学の権威を中心にして学問所を創設。破戒坊主として名高い、佐々介三郎を雇うことになる。介さんはゆくゆく、諸国の情報を集めるための手足となって活躍する。小石川の藩邸には後楽園を作る。光國の晩年、製紙業が振興し、あらたな財源となっていく。
綱吉はそんな光國が煙たい。光國が隠居を言い出したときにはじつにすみやかにその許しを得た。中納言・水戸黄門の誕生である。
そして不穏な空気が江戸をおおう。綱吉に子が生まれないため、世継ぎを選べと世間がうるさいのだ。ちょうど発布された生類憐憫礼も人々には受けがよくない。
その最中、いよいよ「本朝史記」が完成し、諸藩の内部事情をまとめた土芥冦讎記の原型ができあがる。
そこに幕府転覆をはかる陰謀が明らかになる。それは光國の身内から現れた。
いやあ、長い長い話だ。751ページ。
大河ドラマにしたら面白いと思う。オールスターキャストで、出て来る人物それぞれがユニークだし、若い時から晩年まで、なんらかの形で日本史を形作ってきた人ばかりなのだ。2012年の年末2週間はこの本にかかりきり。さすが冲方。傑作です。
本はもっぱら図書館で借りて読む。
したがって新刊は少ない。半年遅れならましなほう。
本はもっぱら通勤電車の中で読む。
したがって感想は遅い。
独断と偏見に満ちたブックレビューをどうぞ。
2012年12月31日月曜日
2012年12月19日水曜日
ノエルがもたらす心安らぐひとときを
「ノエル: a story of stories」
道尾 秀介/著
単行本: 282ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語
ISBN-10: 4103003359
ISBN-13: 978-4103003359
発売日: 2012/9/21
物語をつくってごらん。きっと、自分の望む世界が開けるから――理不尽な暴力を躱(かわ)すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生と祖母の病で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を亡くし、生き甲斐を見失った老境の元教師。それぞれの切ない人生を「物語」が変えていく……どうしようもない現実に舞い降りた、奇跡のようなチェーン・ストーリー。最も美しく劇的な道尾マジック!
「光の箱」
童話作家として何冊かの本を出している卯月圭介。14年ぶりに故郷の町を訪れた。高校の同窓会に出席するためだ。そこで思い出すのはいじめられていた中学生のころ。そのころから一緒に絵本を作っていた弥生のこと。圭介が小学生のころに書いた童話にイラストをつけ、ふたりで絵本を作っていた。クリスマス・ソングの「赤鼻のトナカイ」をモチーフにした童話だった。その次に圭介が書いたのが「光の箱」という童話。これは「ママがサンタにキッスした」を翻案したものだった。そして高校生のときにふたりの友人となった夏美に訪れた悲劇も同時に思い出す。
そして今、クリスマスの飾りつけも華やかな同窓会場のホテルを訪れた圭介は玄関でアクシデントに見舞われる。
弥生もまた、夫とともに同窓会場を訪れたが、折悪しく雨。タクシーの運転手がわき見をしていたその瞬間・・・
「暗がりの子供」
莉子は小学校3年生。居間に飾り付けられたお雛様の段々のなか。そこは暗がりだけれど、ぼんぼりの明かりで絵本が読めるのだ。すると、父と母の話し声が聞こえた。
病気の祖母を引き取って面倒をみることになりそうだという。母のおなかにはもうすぐ産まれそうなあかちゃんもいて、莉子にはどちらも楽しみだ。だがおとなには、おとなの事情があるのだろう。父母にはそのどちらも大変な重荷に感じているようだ。
莉子が読んでいた絵本は「空飛ぶ宝物」という卯月圭介が書いた絵本。真子ちゃんという女の子が地下の世界に迷い込み、こびとたちと一緒に病気の王女様を助けようとするお話。
病気の王女様は背中の羽根を痛めてしまったので、宝物を使ってもう一度、空を飛べるようになりたいと思っていたのだ。
だが、あるときおばあちゃんのお見舞いに出掛けた莉子は、バスにその絵本を置き忘れてしまう。
それ以来、莉子には真子ちゃんの声が聞こえるようになる。
真子ちゃんは、赤ちゃんが産まれると莉子にはだれも構ってくれなくなる、と言い出す。お母さんが階段の上で足をすべらせるように仕掛けをして、お腹の中の子供を殺したらどうか、と作戦をたてた。
そして、ある午後、母の悲鳴が聞こえ、あわてて病院に電話をかけることに・・・
「物語の夕暮れ」
教職を辞して10年になる与沢。妻が亡くなって3か月。今まで妻と一緒に続けてきた「松ぽっくりクラブ」での読み聞かせのボランティアもそろそろ終わりにしようと思っている。
そんなとき、児童文学の雑誌で実家の写真を見つけた。幼いころに住んでいた海辺の家だ。何年か前に人手に渡ったのだが、この家をある童話作家が手に入れ、改装して住むことにしたという。
たちまち、思いは昔に飛ぶ。
少年のころ、祖母にもらった一円玉を握りしめて、お祭りの夜店であそんだこと。その頃あこがれていた、ときちゃんのこと。そして、そのころから、おはなしを作って、ときちゃんに聞かせていたこと。カブトムシと蛍が、光の箱を奪い合う物語。月桂樹の葉の香りとともに思い出す。
与沢は作家に手紙を出して、ある依頼をする。それは近く始まる村祭りの祭り囃子を電話口で聞かせてくれないかということだった。
妻を亡くし、生きる希望もなくなった与沢は、飼っていたインコを逃がし、部屋で練炭を燃やして一酸化炭素中毒で死のうとする。そのときは電話口から祭り囃子が聞こえているのだ。
「四つのエピローグ」
圭介は恩師からの手紙を受け取り、妻とともに逢いに行こうと思う。この電話が終わったら、そう話そう・・・
真子はインコを追いかけたが、インコは急展開して古いマンションの方向に逃げていった。その時、鳥かごがかかっている窓辺を見つける。インコはそこからにげだしたのだろうか・・・
若い郵便配達員は、マンションの郵便受けに入らない、書籍らしい郵便物をどうしようかと悩んでいる。ベルを鳴らしても住人は不在のようだ。午後にもう一度来てみようか、釣りをしていると思われる老人に直接渡しに行こうか。そういえば、夏の終わりに、この部屋のあるじの老人と若い男女と小学生の女の子が、病院の前の公園で笑い合っているのを見たことがあったなと思い出す。
それぞれの物語がエコーしながら結末に向かっていく。
赤鼻のトナカイが引くソリに乗ったサンタが運ぶ光の箱は、プレゼントをもらったそれぞれの人の心の中に何かを残して行く。
「ノエル」と題されたストーリー・オブ・ストーリーズ。クリスマス・シーズンには泣かされる話がうれしい。
道尾 秀介/著
単行本: 282ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語
ISBN-10: 4103003359
ISBN-13: 978-4103003359
発売日: 2012/9/21
物語をつくってごらん。きっと、自分の望む世界が開けるから――理不尽な暴力を躱(かわ)すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生と祖母の病で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を亡くし、生き甲斐を見失った老境の元教師。それぞれの切ない人生を「物語」が変えていく……どうしようもない現実に舞い降りた、奇跡のようなチェーン・ストーリー。最も美しく劇的な道尾マジック!
「光の箱」
童話作家として何冊かの本を出している卯月圭介。14年ぶりに故郷の町を訪れた。高校の同窓会に出席するためだ。そこで思い出すのはいじめられていた中学生のころ。そのころから一緒に絵本を作っていた弥生のこと。圭介が小学生のころに書いた童話にイラストをつけ、ふたりで絵本を作っていた。クリスマス・ソングの「赤鼻のトナカイ」をモチーフにした童話だった。その次に圭介が書いたのが「光の箱」という童話。これは「ママがサンタにキッスした」を翻案したものだった。そして高校生のときにふたりの友人となった夏美に訪れた悲劇も同時に思い出す。
そして今、クリスマスの飾りつけも華やかな同窓会場のホテルを訪れた圭介は玄関でアクシデントに見舞われる。
弥生もまた、夫とともに同窓会場を訪れたが、折悪しく雨。タクシーの運転手がわき見をしていたその瞬間・・・
「暗がりの子供」
莉子は小学校3年生。居間に飾り付けられたお雛様の段々のなか。そこは暗がりだけれど、ぼんぼりの明かりで絵本が読めるのだ。すると、父と母の話し声が聞こえた。
病気の祖母を引き取って面倒をみることになりそうだという。母のおなかにはもうすぐ産まれそうなあかちゃんもいて、莉子にはどちらも楽しみだ。だがおとなには、おとなの事情があるのだろう。父母にはそのどちらも大変な重荷に感じているようだ。
莉子が読んでいた絵本は「空飛ぶ宝物」という卯月圭介が書いた絵本。真子ちゃんという女の子が地下の世界に迷い込み、こびとたちと一緒に病気の王女様を助けようとするお話。
病気の王女様は背中の羽根を痛めてしまったので、宝物を使ってもう一度、空を飛べるようになりたいと思っていたのだ。
だが、あるときおばあちゃんのお見舞いに出掛けた莉子は、バスにその絵本を置き忘れてしまう。
それ以来、莉子には真子ちゃんの声が聞こえるようになる。
真子ちゃんは、赤ちゃんが産まれると莉子にはだれも構ってくれなくなる、と言い出す。お母さんが階段の上で足をすべらせるように仕掛けをして、お腹の中の子供を殺したらどうか、と作戦をたてた。
そして、ある午後、母の悲鳴が聞こえ、あわてて病院に電話をかけることに・・・
「物語の夕暮れ」
教職を辞して10年になる与沢。妻が亡くなって3か月。今まで妻と一緒に続けてきた「松ぽっくりクラブ」での読み聞かせのボランティアもそろそろ終わりにしようと思っている。
そんなとき、児童文学の雑誌で実家の写真を見つけた。幼いころに住んでいた海辺の家だ。何年か前に人手に渡ったのだが、この家をある童話作家が手に入れ、改装して住むことにしたという。
たちまち、思いは昔に飛ぶ。
少年のころ、祖母にもらった一円玉を握りしめて、お祭りの夜店であそんだこと。その頃あこがれていた、ときちゃんのこと。そして、そのころから、おはなしを作って、ときちゃんに聞かせていたこと。カブトムシと蛍が、光の箱を奪い合う物語。月桂樹の葉の香りとともに思い出す。
与沢は作家に手紙を出して、ある依頼をする。それは近く始まる村祭りの祭り囃子を電話口で聞かせてくれないかということだった。
妻を亡くし、生きる希望もなくなった与沢は、飼っていたインコを逃がし、部屋で練炭を燃やして一酸化炭素中毒で死のうとする。そのときは電話口から祭り囃子が聞こえているのだ。
「四つのエピローグ」
圭介は恩師からの手紙を受け取り、妻とともに逢いに行こうと思う。この電話が終わったら、そう話そう・・・
真子はインコを追いかけたが、インコは急展開して古いマンションの方向に逃げていった。その時、鳥かごがかかっている窓辺を見つける。インコはそこからにげだしたのだろうか・・・
若い郵便配達員は、マンションの郵便受けに入らない、書籍らしい郵便物をどうしようかと悩んでいる。ベルを鳴らしても住人は不在のようだ。午後にもう一度来てみようか、釣りをしていると思われる老人に直接渡しに行こうか。そういえば、夏の終わりに、この部屋のあるじの老人と若い男女と小学生の女の子が、病院の前の公園で笑い合っているのを見たことがあったなと思い出す。
それぞれの物語がエコーしながら結末に向かっていく。
赤鼻のトナカイが引くソリに乗ったサンタが運ぶ光の箱は、プレゼントをもらったそれぞれの人の心の中に何かを残して行く。
「ノエル」と題されたストーリー・オブ・ストーリーズ。クリスマス・シーズンには泣かされる話がうれしい。
2012年12月16日日曜日
二流小説家が描くアメリカの暗闇
「二流小説家」
デイヴィッド・ゴードン
青木千鶴/訳
新書: 454ページ
出版社: 早川書房
ISBN-10: 4150018456
ISBN-13: 978-4150018450
発売日: 2011/3/10
ハリーは冴えない中年作家。シリーズもののミステリ、SF、ヴァンパイア小説の執筆で食いつないできたが、ガールフレンドには愛想を尽かされ、家庭教師をしている女子高生からも小馬鹿にされる始末だった。だがそんなハリーに大逆転のチャンスが。かつてニューヨークを震撼させた連続殺人鬼より告白本の執筆を依頼されたのだ。ベストセラー作家になり周囲を見返すために、殺人鬼が服役中の刑務所に面会に向かうのだが…。ポケミスの新時代を担う技巧派作家の登場!アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補作。
すでに昨年(2011年)の年間ミステリベストで第一位を獲得した傑作。それも「このミス、文春、ベスト」の三冠達成という快挙。面白くなかろうはずがない。
売れない中年作家でありながら、今は女子高生クレアの家庭教師で食いつないでいるハリー。
ハリーのもとに、死刑囚の告白本をゴーストライターとして執筆するという企画が舞い込む。ベストセラー作家を夢見るハリーは喜んでこのプランに飛びつく。
死刑囚ダリアンは12年前に、4人の女性を残忍に殺害した。まずヌード写真を撮影し、その後に殺害。そしてその首を切り落とし、遺体をばらばらに切断していたのだ。そしてその惨状をも写真に撮っていた。被害者の首はいまだに発見されていない。
不思議なことに彼のファンだという女性たちがいる。彼のサディスティックなおこないが気に入っているらしい。
被害者の親族たちは、まもなく処刑が執行されることに満足している。
ただ、双子の姉を殺された、ストリッパーのダニエラだけは、何か違う考えをもっているようだ。
ハリーはダリアンへのインタビューで彼の生い立ちを聞く。
今なお送られてくるファンの女性たちからのファンレターを見せられる。
殺人鬼が変態なら、ファンだという女性たちも変態だ。ファンの女性たちはおおむね“S”っ気がある女たちだ。
ハリーにはそんな女性たちの心の動きが理解できた。
というのも、ハリーはミステリー、SF、にとどまらず、ポルノ小説をも、筆名を変えて書き続けていたのだから。
彼女たちのインタビューにおもむいたハリーは、わが意を得たりと感心したり、行き過ぎだと感じたり。このあたり、アメリカ人の肉欲というものをユーモラスに誇張して面白い。
だが、インタビューした女たちが惨殺されてしまう。それも、かつてダリアンが犯した手口とまったく同じ殺され方をしていた。
囚われのダリアンには犯罪は犯せない。誰か模倣犯がいるのか。まさか事件の犯人は別にいてダリアン本人は冤罪なのか。
改めて、殺された女たちの捜査を再開したハリーを謎の銃弾が襲う・・・・
と、ストーリーは二転三転。
探偵をいびる頭のいい女子高校生、ひとくせありそうな女弁護士、おきまりの、探偵にまとわりつく美女、今は立派な編集者になっている別れた恋人。だらしない男の周りは頼りになるいい女だらけだ。
そして、残り100ページのところで、事件は急転直下解決する。
あらためてダリアンへのインタビューを試みたハリーは、悪意の真相ともいうべきものをまのあたりにする。生い立ちにまつわる悲劇、養い親との相克、母親との仲間意識、悪意そのものを抱いて生きて来たダリアンは悪魔ともいえる人間なのか。
その告白の中から、ハリーは被害者たちの頭部が隠されているであろう場所を特定する。だが、掘り返されたそこにあったのは3人分の頭蓋骨だけだった。4人目の遺体はどこにあるのか・・・
饒舌な文体がストーリーを翻弄し、間にはさまれるバンパイア小説がハリーのアンチヒーローぶりを際立たせ、SF小説の部分では進退窮まったハリーの心境をも垣間見させる。こった手法が小説の面白さを堪能させてくれる、2011年のベスト1。
デイヴィッド・ゴードン
青木千鶴/訳
新書: 454ページ
出版社: 早川書房
ISBN-10: 4150018456
ISBN-13: 978-4150018450
発売日: 2011/3/10
ハリーは冴えない中年作家。シリーズもののミステリ、SF、ヴァンパイア小説の執筆で食いつないできたが、ガールフレンドには愛想を尽かされ、家庭教師をしている女子高生からも小馬鹿にされる始末だった。だがそんなハリーに大逆転のチャンスが。かつてニューヨークを震撼させた連続殺人鬼より告白本の執筆を依頼されたのだ。ベストセラー作家になり周囲を見返すために、殺人鬼が服役中の刑務所に面会に向かうのだが…。ポケミスの新時代を担う技巧派作家の登場!アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補作。
すでに昨年(2011年)の年間ミステリベストで第一位を獲得した傑作。それも「このミス、文春、ベスト」の三冠達成という快挙。面白くなかろうはずがない。
売れない中年作家でありながら、今は女子高生クレアの家庭教師で食いつないでいるハリー。
ハリーのもとに、死刑囚の告白本をゴーストライターとして執筆するという企画が舞い込む。ベストセラー作家を夢見るハリーは喜んでこのプランに飛びつく。
死刑囚ダリアンは12年前に、4人の女性を残忍に殺害した。まずヌード写真を撮影し、その後に殺害。そしてその首を切り落とし、遺体をばらばらに切断していたのだ。そしてその惨状をも写真に撮っていた。被害者の首はいまだに発見されていない。
不思議なことに彼のファンだという女性たちがいる。彼のサディスティックなおこないが気に入っているらしい。
被害者の親族たちは、まもなく処刑が執行されることに満足している。
ただ、双子の姉を殺された、ストリッパーのダニエラだけは、何か違う考えをもっているようだ。
ハリーはダリアンへのインタビューで彼の生い立ちを聞く。
今なお送られてくるファンの女性たちからのファンレターを見せられる。
殺人鬼が変態なら、ファンだという女性たちも変態だ。ファンの女性たちはおおむね“S”っ気がある女たちだ。
ハリーにはそんな女性たちの心の動きが理解できた。
というのも、ハリーはミステリー、SF、にとどまらず、ポルノ小説をも、筆名を変えて書き続けていたのだから。
彼女たちのインタビューにおもむいたハリーは、わが意を得たりと感心したり、行き過ぎだと感じたり。このあたり、アメリカ人の肉欲というものをユーモラスに誇張して面白い。
だが、インタビューした女たちが惨殺されてしまう。それも、かつてダリアンが犯した手口とまったく同じ殺され方をしていた。
囚われのダリアンには犯罪は犯せない。誰か模倣犯がいるのか。まさか事件の犯人は別にいてダリアン本人は冤罪なのか。
改めて、殺された女たちの捜査を再開したハリーを謎の銃弾が襲う・・・・
と、ストーリーは二転三転。
探偵をいびる頭のいい女子高校生、ひとくせありそうな女弁護士、おきまりの、探偵にまとわりつく美女、今は立派な編集者になっている別れた恋人。だらしない男の周りは頼りになるいい女だらけだ。
そして、残り100ページのところで、事件は急転直下解決する。
あらためてダリアンへのインタビューを試みたハリーは、悪意の真相ともいうべきものをまのあたりにする。生い立ちにまつわる悲劇、養い親との相克、母親との仲間意識、悪意そのものを抱いて生きて来たダリアンは悪魔ともいえる人間なのか。
その告白の中から、ハリーは被害者たちの頭部が隠されているであろう場所を特定する。だが、掘り返されたそこにあったのは3人分の頭蓋骨だけだった。4人目の遺体はどこにあるのか・・・
饒舌な文体がストーリーを翻弄し、間にはさまれるバンパイア小説がハリーのアンチヒーローぶりを際立たせ、SF小説の部分では進退窮まったハリーの心境をも垣間見させる。こった手法が小説の面白さを堪能させてくれる、2011年のベスト1。
2012年12月8日土曜日
伏は日本版ヴァンパイアサーガになるのだろうか
「伏(ふせ)」
贋作・里見八犬伝
桜庭 一樹・著
単行本: 480ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 416329760X
ISBN-13: 978-4163297606
発売日: 2010/11/26
桜庭ワールド、今度は江戸時代へ!
娘で猟師の浜路は江戸に跋扈する人と犬の子孫「伏」を狩りに兄の元へやってきた。里見の家に端を発した長きに亘る因果の輪が今開く
江戸で「伏」と呼ばれる者による凶悪犯罪が頻発。小娘だが腕利きの猟師浜路は、浪人の兄と伏狩りを始める。そんな娘の後を尾け、何やら怪しい動きをする滝 沢馬琴の息子。娘は1匹の伏を追いかけ、江戸の地下道へと迷いこむ。そこで敵である伏から悲しき運命の輪の物語を聞くが……。『里見八犬伝』を下敷きに、 江戸に花開く桜庭一樹ワールド。疾走感溢れるエンターテインメントをお楽しみください。(YS)
疾走感あふれる、との評どおり、ストーリーは疾駆する。
浜路、14歳。猟銃を肩からぶらさげた犬人間狩りのプロの少女。
道節、21歳。酒びたりの浜路の兄、ひげづらの大男。
このふたりが、江戸の片隅で身を潜めている「伏」どもを探り当て、狩りをする。
伏と呼ばれる犬人間とは、いつのころからか、江戸の街なかに隠れ棲む、犬と人間との混血生命体。ときたま悪さをし、人間を殺し、八つ裂きにしたり、腕を切り落としたりする、という。命は短く、二十歳前後に死んでしまう。からだのどこかに牡丹の模様のあざがある。
さて、江戸にでてきた浜路は、さっそくその嗅覚で伏を発見したが、取り逃がしてしまう。
兄とともに伏のさらし首を見るが、それは人間とまったく見分けがつかないものだった。
滝沢馬琴の息子・冥土にさそわれ吉原に。そこで花魁になっていた伏の正体を暴き、銃で撃ち抜く。凍鶴とよばれるその太夫は「どうせ寿命だし」といいながら、おはぐろどぶに身を沈めて死んでいく。
そのとき凍鶴が残した書き置きを届けるべく、冥土と一緒に、伏の潜む町家を訪ねる。
いっぽう、冥土は父の馬琴に対抗するかのように「贋作・里見八犬伝」を書き継いでいた。
応仁の乱の直前、安房の山奥・里見の国で起こった美しい姫とその愛犬との物語。そこに登場するのはやんちゃな伏姫。その弟の鈍色。鈍色が銀色の森の前で見つけてきた大きな白犬・八房。
八房を欲しくなった伏姫は天守から身を投げるという賭けに勝ち、弟からその犬を奪い取る。
だが、戦乱の世は里見の国にもおよび、隣国が里見の城を取り囲む。そのとき城主は八房にいう。「敵の大将の首をとってくれば、娘の伏姫をお前にやろう」
そしてその通りに、八房は翌朝、敵の大将の首をくわえて帰ってくる。
やがて、城主の約束のまま、伏姫と八房は森に消えていく。
何年かののち、八房は誤って猟師に撃たれ、正気を失った伏姫は城の天守の奥深くの座敷牢にかくまわれる。
それから永い年月が経ち、今は誰もその話を忘れているが、その地にいけば、昔話は今も息づいている。
これは里見八犬伝の裏返しの物語。だが、逆に真実をついているのかもしれない。
浜路は吉原での捕り物騒ぎで知り合った信乃という歌舞伎役者を追い詰め、凍鶴太夫の息子の親兵衛、さらし首になっていた伏の妹・雛衣など、市中に潜む犬人間の実態を目の当たりにする。
伏は隠れ住むことなく、役者や花魁、町医者や大店の町娘として、陽のあたる場所で生きていたのだ。
信乃は、あるとき伏たちがそろって安房の国へ、自分たちのルーツを探る旅に出たときの思い出話を語る。
そして湯島天神の地下から江戸城へ通じる地下道を発見した信乃と浜路は、対決しながらもこころを通わせる。
そして、江戸城での対決。信乃に天守から突き落とされた浜路は兄に救われる。冥土はそれを面白おかしく瓦版にして世間に発表する。
やがて、浜路と兄の道節は天下公認の伏狩人としての鑑札をいただくことになった。
だが、どうだろう、読者は伏にこそ感情移入して、その存在を容認し、その未来を信じたいと思うのではないか。
だとすれば、浜路と道節の兄妹は、読者の反感を買う悪役なのだ。
造形的には天真爛漫な浜路やあっけらかんとした道節、ふたりと伏を結びつける滝沢冥土など、決して悪人ではない。
そして伏も、自らの出自を知らぬまま世の中を生き抜いていく寂しい存在だ。
今回、アニメ化され、文庫にもなった。爺が読んだのもその文庫版だ。
いろいろスピンオフ作品もあるようだ。
今後どういう展開を見せるのか、楽しみなところも。
2012年12月2日日曜日
静おばあちゃんにおまかせはミステリーか、あるいはファンタジーなのか
「静おばあちゃんにおまかせ」
中山 七里
単行本: 318ページ
出版社: 文藝春秋
言語 日本語
ISBN-10: 4163815201
ISBN-13: 978-4163815206
発売日: 2012/7/12
神奈川県内で発生した警官射殺事件。被害者も、容疑者も同じ神奈川県警捜査四課所属。警視庁捜査一課の葛城公彦は、容疑者となったかつての上司の潔白を証明するため、公休を使って事件を探り出したが、調査は思うに任せない。そんな葛城が頼りにしたのは、女子大生の高遠寺円。――円はかつてある事件の関係者で、葛城は彼女の的確な洞察力から事件を解決に導いたことがあった。円は中学生時代に両親を交通事故で亡くし、元裁判官だった祖母の静とふたり暮らしをしている。静はいつも円相手に法律談義や社会の正義と矛盾を説いており、円の葛城へのアドバイスも実は静の推理だったのだが、葛城はそのことを知らない。そしてこの事件も無事に解決に至り、葛城と円は互いの存在を強く意識するようになっていった――(「静おばあちゃんの知恵」)。以下、「静おばあちゃんの童心」「不信」「醜聞」「秘密」と続く連作で、ふたりの恋が進展する中、葛城は円の両親が亡くなった交通事故を洗い直して真相を解明していく。女子大生&おばあちゃんという探偵コンビが新鮮で、著者お約束のどんでん返しも鮮やかなライトミステリー。
<担当編集者から一言>
警視庁捜査一課の葛城公彦刑事は、警官殺しの容疑がかかる過去の上司の潔白を証明するため、個人的に捜査をするが、行き詰まる。そこで、葛城が頼りにしたのは、名推理で過去に事件解決に貢献した女子大生の高遠寺円。でも、実際に事件の真相に導いていたのは、元裁判官である円の祖母だった!? 異色の探偵コンビが、軽やかに事件を解決。『さよならドビュッシー』『贖罪の奏鳴曲』で、注目の著者による連作短編のライトミステリー。(IY)
昨年の「このミス」でも話題になった『さよならドビュッシー』いらいの中山作品。
可愛い女子大生とおばあちゃんの表紙が目を引く。
イケメン刑事と美人女子大生のコンビが事件の謎を解く。ただ、女子大生のバックには静おばあちゃんがいた。静おばあちゃんは日本で14番目の女性裁判官だった。両親を亡くした円(まどか)は、おばあちゃんに育てられ、きびしくしつけられていたのだ。
警視庁刑事の葛城公彦は、円と大学近くの大型書店の喫茶コーナーで待ち合わせ、事件のいきさつを説明する。一緒に捜査に出向いたりするのだが、はて、そんなのありかいな? という厳しい目は置いといて、さらっと楽しむのがライトミステリー。
『静おばあちゃんの知恵』
横浜の港のそばで警官が殺されていた。それも斜め上方から銃で撃たれている。鑑識では弾丸のライフルマークから、刑事の持つ拳銃で射殺されたと判断する。その銃を持つ刑事の名前も明らかになった。
だが、その刑事は否認。現にさいきん、その銃を使った形跡もなかった。
葛城はその刑事に恩があり、みずから再調査に赴く。それも円を連れて。
円は家に帰り、捜査の経過を静おばあちゃんに説明する。おばあちゃんは「遺体がいったんあおむけに倒れたあとでうつ伏せにされていたのは何故?」と言い出す。
『静おばあちゃんの童心』
大金持ちだが、吝嗇家の老女が殺された。孫の美緒は赤頭巾ちゃんのような雰囲気を持った女子大生。円は彼女のためにも犯人を捕らえたいと思い、葛城に協力することに。
それは老女が、女優がかぶるようなつば広の大きな帽子をかぶって街をうろついていた、という行動を再現するものだった。
『静おばあちゃんの不信』
新興宗教の教祖が亡くなった。たまたまその場に居合わせたのが、警察庁のお偉方の娘。彼女ははその場から遺体が忽然と消えるのを見てしまう。「復活の儀式だ」と信者たちは気にしていない様子。
経過を知った葛城は、「それは警察用語では死体遺棄というんだ」。おばあちゃんも「今回は、元の身体のまま復活しないことがしないってことが肝ね」。
『静おばあちゃんの醜聞』
新名所東京スーパータワーの工事中。その地上450メートル付近でクレーンで足場解体中の作業員が突然倒れた。一部始終はモニタ—で監視されていたが、死体を降ろしてみると、腹部をカッターナイフで刺されている。空中の密室ともいうべきクレーン台で、もう1台のクレーンで作業していた外国人技師が犯人と疑われるが・・・
おばあちゃんが現役裁判官だったころの冤罪事件も出て来る。今回、外国人労働者が犯人と疑われていることで、おばあちゃんは冤罪はあってはならないと主張する。
「ふたつのことを確認して」というおばあちゃん。それは死体検案書と鑑識報告を見直すことだった。
『静おばあちゃんの秘密』
南米の小国パラグニアの大統領が東京のホテルで殺害された。軍事政権の独裁者ということで、護衛の兵士や大統領夫人が部屋の周囲を見守っているなかでの出来事だった。
葛城のもとにその捜査協力の依頼がきた。複数の人間がその銃声を聞き、そのときのアリバイも全員が持っていた。
おばあちゃんは、「犯人が誰であっても関係ない」と。
そして最後に明らかにされる、おばあちゃんの秘密とは・・・
全作を通して、6年前に円の両親が交通事故で亡くなった事件の追求が進められる。犯人はアルコールの匂いがしていたが、警察はそれを証明しなかった。運転していたのは三枝といい、ふたつの事件でも葛城と関係してくる。三枝は本所署の刑事だったのだ。円は葛城の捜査について行ったときに三枝と鉢合わせする。だが、交通事故で最初に出会ったときとはどこか違う印象を抱く。
そして、最後におばあちゃんの秘密とともに、両親の事故の真相も明らかにされる。
連作とはいえ、冤罪事件、法曹界の内情や裁判のあり方など、おばあちゃんが孫に教え、円がそれを吸収して成長していく過程がおもしろい。
中山 七里
単行本: 318ページ
出版社: 文藝春秋
言語 日本語
ISBN-10: 4163815201
ISBN-13: 978-4163815206
発売日: 2012/7/12
神奈川県内で発生した警官射殺事件。被害者も、容疑者も同じ神奈川県警捜査四課所属。警視庁捜査一課の葛城公彦は、容疑者となったかつての上司の潔白を証明するため、公休を使って事件を探り出したが、調査は思うに任せない。そんな葛城が頼りにしたのは、女子大生の高遠寺円。――円はかつてある事件の関係者で、葛城は彼女の的確な洞察力から事件を解決に導いたことがあった。円は中学生時代に両親を交通事故で亡くし、元裁判官だった祖母の静とふたり暮らしをしている。静はいつも円相手に法律談義や社会の正義と矛盾を説いており、円の葛城へのアドバイスも実は静の推理だったのだが、葛城はそのことを知らない。そしてこの事件も無事に解決に至り、葛城と円は互いの存在を強く意識するようになっていった――(「静おばあちゃんの知恵」)。以下、「静おばあちゃんの童心」「不信」「醜聞」「秘密」と続く連作で、ふたりの恋が進展する中、葛城は円の両親が亡くなった交通事故を洗い直して真相を解明していく。女子大生&おばあちゃんという探偵コンビが新鮮で、著者お約束のどんでん返しも鮮やかなライトミステリー。
<担当編集者から一言>
警視庁捜査一課の葛城公彦刑事は、警官殺しの容疑がかかる過去の上司の潔白を証明するため、個人的に捜査をするが、行き詰まる。そこで、葛城が頼りにしたのは、名推理で過去に事件解決に貢献した女子大生の高遠寺円。でも、実際に事件の真相に導いていたのは、元裁判官である円の祖母だった!? 異色の探偵コンビが、軽やかに事件を解決。『さよならドビュッシー』『贖罪の奏鳴曲』で、注目の著者による連作短編のライトミステリー。(IY)
昨年の「このミス」でも話題になった『さよならドビュッシー』いらいの中山作品。
可愛い女子大生とおばあちゃんの表紙が目を引く。
イケメン刑事と美人女子大生のコンビが事件の謎を解く。ただ、女子大生のバックには静おばあちゃんがいた。静おばあちゃんは日本で14番目の女性裁判官だった。両親を亡くした円(まどか)は、おばあちゃんに育てられ、きびしくしつけられていたのだ。
警視庁刑事の葛城公彦は、円と大学近くの大型書店の喫茶コーナーで待ち合わせ、事件のいきさつを説明する。一緒に捜査に出向いたりするのだが、はて、そんなのありかいな? という厳しい目は置いといて、さらっと楽しむのがライトミステリー。
『静おばあちゃんの知恵』
横浜の港のそばで警官が殺されていた。それも斜め上方から銃で撃たれている。鑑識では弾丸のライフルマークから、刑事の持つ拳銃で射殺されたと判断する。その銃を持つ刑事の名前も明らかになった。
だが、その刑事は否認。現にさいきん、その銃を使った形跡もなかった。
葛城はその刑事に恩があり、みずから再調査に赴く。それも円を連れて。
円は家に帰り、捜査の経過を静おばあちゃんに説明する。おばあちゃんは「遺体がいったんあおむけに倒れたあとでうつ伏せにされていたのは何故?」と言い出す。
『静おばあちゃんの童心』
大金持ちだが、吝嗇家の老女が殺された。孫の美緒は赤頭巾ちゃんのような雰囲気を持った女子大生。円は彼女のためにも犯人を捕らえたいと思い、葛城に協力することに。
それは老女が、女優がかぶるようなつば広の大きな帽子をかぶって街をうろついていた、という行動を再現するものだった。
『静おばあちゃんの不信』
新興宗教の教祖が亡くなった。たまたまその場に居合わせたのが、警察庁のお偉方の娘。彼女ははその場から遺体が忽然と消えるのを見てしまう。「復活の儀式だ」と信者たちは気にしていない様子。
経過を知った葛城は、「それは警察用語では死体遺棄というんだ」。おばあちゃんも「今回は、元の身体のまま復活しないことがしないってことが肝ね」。
『静おばあちゃんの醜聞』
新名所東京スーパータワーの工事中。その地上450メートル付近でクレーンで足場解体中の作業員が突然倒れた。一部始終はモニタ—で監視されていたが、死体を降ろしてみると、腹部をカッターナイフで刺されている。空中の密室ともいうべきクレーン台で、もう1台のクレーンで作業していた外国人技師が犯人と疑われるが・・・
おばあちゃんが現役裁判官だったころの冤罪事件も出て来る。今回、外国人労働者が犯人と疑われていることで、おばあちゃんは冤罪はあってはならないと主張する。
「ふたつのことを確認して」というおばあちゃん。それは死体検案書と鑑識報告を見直すことだった。
『静おばあちゃんの秘密』
南米の小国パラグニアの大統領が東京のホテルで殺害された。軍事政権の独裁者ということで、護衛の兵士や大統領夫人が部屋の周囲を見守っているなかでの出来事だった。
葛城のもとにその捜査協力の依頼がきた。複数の人間がその銃声を聞き、そのときのアリバイも全員が持っていた。
おばあちゃんは、「犯人が誰であっても関係ない」と。
そして最後に明らかにされる、おばあちゃんの秘密とは・・・
全作を通して、6年前に円の両親が交通事故で亡くなった事件の追求が進められる。犯人はアルコールの匂いがしていたが、警察はそれを証明しなかった。運転していたのは三枝といい、ふたつの事件でも葛城と関係してくる。三枝は本所署の刑事だったのだ。円は葛城の捜査について行ったときに三枝と鉢合わせする。だが、交通事故で最初に出会ったときとはどこか違う印象を抱く。
そして、最後におばあちゃんの秘密とともに、両親の事故の真相も明らかにされる。
連作とはいえ、冤罪事件、法曹界の内情や裁判のあり方など、おばあちゃんが孫に教え、円がそれを吸収して成長していく過程がおもしろい。
2012年11月29日木曜日
機龍警察が暗黒市場に乗り込むとき
「機龍警察 暗黒市場」
月村了衛
単行本: 416ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4152093218
ISBN-13: 978-4152093219
発売日: 2012/9/21
元ロシア警官のユーリ・オズノフ警部は、警視庁特捜部との契約を解除され武器密売に手を染めた。そんな中特捜部は、近々ロシアマフィアによる有人搭乗兵器の見本市が行われることを察知するが……。
警視庁との契約を解除されたユーリ・オズノフ元警部は、旧友のロシアン・マフィアと組んで武器密売に手を染めた。一方、市場に流出した新型機甲兵装が〈龍機兵〉(ドラグーン)の同型機ではないかとの疑念を抱く沖津特捜部長は、ブラックマーケット壊滅作戦に着手した――日本とロシア、二つの国をつなぐ警察官の秘められた絆。リアルにしてスペクタクルな“至近未来”警察小説、世界水準を宣言する白熱と興奮の第3弾。
第一章 契約破棄
栃木で派出所襲撃事件が発生。はだしで交番に逃げ込んできた男が、追ってきたトラックから突き出された重機関銃で交番もろとも破壊させられる。文字通り破壊だ。その重機関銃は装甲兵装が握っていたという。男は実は警官で、密輸武器の捜査をおこなっていたことが判明する。
一方、ユーリ・オズノフは警視庁との契約を破棄され、ソ連時代の昔なじみで、今はロシアン・マフィアの顔役になっているゾロトフに接近する。最初の取引の場所を訪れたユーリは、そこにいた台湾人だという男の素性を暴く、「そいつは警官だ」。潜入捜査官はそのまま引き連れられ、ユーリは仲間として認められる。
警視庁では秘密裏に特捜部の会合が持たれる。有人搭乗兵器の見本市にロシアから新型兵器が出品されるというのだ。沖津警視正は当然のこと、姿警部補をはじめ、ライザや鈴石緑も参加する。そこで明かされた作戦に緑は驚愕した。ユーリは囮捜査のために敵に潜入したというのだ。
第二章 最も痩せた犬達
ユーリの少年時代。転校生としてやって来たゾロトフは、父が荒くれ者で、ゾロトフ自身も虐待を受けている。そして酒場であばれたゾロトフの父を逮捕したのがユーリの父だった。
夏休みのある日、ユーリはゾロトフに連れられて、モスクワの廃墟を訪ねた。かつての秘密警察の拷問の形跡が残る地下室。ゾロトフはここが自分の別荘だとうそぶく。その夜、事件を起こしたゾロトフの父を、ユーリの父が射殺してしまう。
ユーリは兵役が明けたあと、民警に就職、父と同じ道を進むことになる。先輩たちは父ともなじみで、影からユーリを応援してくれる。かれらこそ、イワンの最も痩せた犬達こと、誇り高い警官たちだった。
ある日、先輩刑事の年の離れた妹と知り合い、ひそかに将来を語り合う仲になる。そんなとき、ユーリの前に刺青をしたゾロトフが現れる。
運命はユーリを翻弄する。
警察の上司の罠にはまったユーリは、母や婚約者、仲間の警官たちのすべてを失いゾロトフの庇護を求めることになる。逃れて落ち行く先はアジアの辺境。機甲兵装をまとい、ギャングたちの護衛に身を持ち崩していたユーリの前に現れたのは、警視庁の沖津だった。沖津はユーリに、モスクワ時代の罪を帳消しにするから、あらためて日本の警察で働けという。
第三章 悪徳の市
ユーリとゾロトフは密輸武器の競売に参加するために日本へ。そこには、ロシアの武器密輸業者の大物や中国のチャイニーズマフィアも加わり、新型機甲兵装の見本市が開かれる。
新宿のホテルに集まり、那須高原の保養施設に移動するころには、参加者の数も徐々に減っていく。警察の追跡をかわすための組織の仕掛けだった。ギャングたちは入札がおこなわれる仙台のカジノへ向かう。 そこでユーリの実態に気付いたマフィアは、新型機と対決する装甲兵装のオペレーターにユーリを担当させ、見本の性能をアピールすると同時に邪魔者を消そうとする。
東京から遠く離れた宮城県のホテルの場所を連絡する手立てもなく、ユーリは機兵同士の戦いに臨むことになったが・・・
ということで、身の丈3メートルの機甲兵装に身を包み、知力と体力を尽くして男や女たちが暴れまわる第3弾。
第1作はこちら「機龍警察」。沖津の暗躍が近未来の日本警察を変えていく。
第2作はライザが白い死神となって活躍する「自爆条項」。
今回最後の大舞台が宮城県に設定され、震災後の復旧が進まないまま、不良外人の巣窟と化したカジノ都市のホテルが描かれる。そこでおこなわれる武器密輸の暗黒市場。マフィアやギャングたちが目の色を変えて欲しがる武器とは、やはり新型の機甲兵装だった。それはドラグーンと呼ばれる警視庁の龍機兵を上回る性能を持つのだろうか。
だが、やはり主役は元ロシア警察の痩せ犬ユーリ・オズノフ。かれの生い立ちと、任務にひたすら忠実な彼の内なる葛藤が、はがゆいばかりのハードボイルドになっている。
そして、新型機との対決で見せたユーリの意地と根性。痩せ犬は痩せ犬でも、誇りある痩せ犬の姿に感動しよう。 さて、次巻はいよいよ姿警部補の物語になる、のかな?
月村了衛
単行本: 416ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4152093218
ISBN-13: 978-4152093219
発売日: 2012/9/21
元ロシア警官のユーリ・オズノフ警部は、警視庁特捜部との契約を解除され武器密売に手を染めた。そんな中特捜部は、近々ロシアマフィアによる有人搭乗兵器の見本市が行われることを察知するが……。
警視庁との契約を解除されたユーリ・オズノフ元警部は、旧友のロシアン・マフィアと組んで武器密売に手を染めた。一方、市場に流出した新型機甲兵装が〈龍機兵〉(ドラグーン)の同型機ではないかとの疑念を抱く沖津特捜部長は、ブラックマーケット壊滅作戦に着手した――日本とロシア、二つの国をつなぐ警察官の秘められた絆。リアルにしてスペクタクルな“至近未来”警察小説、世界水準を宣言する白熱と興奮の第3弾。
第一章 契約破棄
栃木で派出所襲撃事件が発生。はだしで交番に逃げ込んできた男が、追ってきたトラックから突き出された重機関銃で交番もろとも破壊させられる。文字通り破壊だ。その重機関銃は装甲兵装が握っていたという。男は実は警官で、密輸武器の捜査をおこなっていたことが判明する。
一方、ユーリ・オズノフは警視庁との契約を破棄され、ソ連時代の昔なじみで、今はロシアン・マフィアの顔役になっているゾロトフに接近する。最初の取引の場所を訪れたユーリは、そこにいた台湾人だという男の素性を暴く、「そいつは警官だ」。潜入捜査官はそのまま引き連れられ、ユーリは仲間として認められる。
警視庁では秘密裏に特捜部の会合が持たれる。有人搭乗兵器の見本市にロシアから新型兵器が出品されるというのだ。沖津警視正は当然のこと、姿警部補をはじめ、ライザや鈴石緑も参加する。そこで明かされた作戦に緑は驚愕した。ユーリは囮捜査のために敵に潜入したというのだ。
第二章 最も痩せた犬達
ユーリの少年時代。転校生としてやって来たゾロトフは、父が荒くれ者で、ゾロトフ自身も虐待を受けている。そして酒場であばれたゾロトフの父を逮捕したのがユーリの父だった。
夏休みのある日、ユーリはゾロトフに連れられて、モスクワの廃墟を訪ねた。かつての秘密警察の拷問の形跡が残る地下室。ゾロトフはここが自分の別荘だとうそぶく。その夜、事件を起こしたゾロトフの父を、ユーリの父が射殺してしまう。
ユーリは兵役が明けたあと、民警に就職、父と同じ道を進むことになる。先輩たちは父ともなじみで、影からユーリを応援してくれる。かれらこそ、イワンの最も痩せた犬達こと、誇り高い警官たちだった。
ある日、先輩刑事の年の離れた妹と知り合い、ひそかに将来を語り合う仲になる。そんなとき、ユーリの前に刺青をしたゾロトフが現れる。
運命はユーリを翻弄する。
警察の上司の罠にはまったユーリは、母や婚約者、仲間の警官たちのすべてを失いゾロトフの庇護を求めることになる。逃れて落ち行く先はアジアの辺境。機甲兵装をまとい、ギャングたちの護衛に身を持ち崩していたユーリの前に現れたのは、警視庁の沖津だった。沖津はユーリに、モスクワ時代の罪を帳消しにするから、あらためて日本の警察で働けという。
第三章 悪徳の市
ユーリとゾロトフは密輸武器の競売に参加するために日本へ。そこには、ロシアの武器密輸業者の大物や中国のチャイニーズマフィアも加わり、新型機甲兵装の見本市が開かれる。
新宿のホテルに集まり、那須高原の保養施設に移動するころには、参加者の数も徐々に減っていく。警察の追跡をかわすための組織の仕掛けだった。ギャングたちは入札がおこなわれる仙台のカジノへ向かう。 そこでユーリの実態に気付いたマフィアは、新型機と対決する装甲兵装のオペレーターにユーリを担当させ、見本の性能をアピールすると同時に邪魔者を消そうとする。
東京から遠く離れた宮城県のホテルの場所を連絡する手立てもなく、ユーリは機兵同士の戦いに臨むことになったが・・・
ということで、身の丈3メートルの機甲兵装に身を包み、知力と体力を尽くして男や女たちが暴れまわる第3弾。
第1作はこちら「機龍警察」。沖津の暗躍が近未来の日本警察を変えていく。
第2作はライザが白い死神となって活躍する「自爆条項」。
今回最後の大舞台が宮城県に設定され、震災後の復旧が進まないまま、不良外人の巣窟と化したカジノ都市のホテルが描かれる。そこでおこなわれる武器密輸の暗黒市場。マフィアやギャングたちが目の色を変えて欲しがる武器とは、やはり新型の機甲兵装だった。それはドラグーンと呼ばれる警視庁の龍機兵を上回る性能を持つのだろうか。
だが、やはり主役は元ロシア警察の痩せ犬ユーリ・オズノフ。かれの生い立ちと、任務にひたすら忠実な彼の内なる葛藤が、はがゆいばかりのハードボイルドになっている。
そして、新型機との対決で見せたユーリの意地と根性。痩せ犬は痩せ犬でも、誇りある痩せ犬の姿に感動しよう。 さて、次巻はいよいよ姿警部補の物語になる、のかな?
2012年11月15日木曜日
ショートスカート・ガールが仕掛けた罠は
「ショートスカート・ガール」
加藤 眞男
単行本(ソフトカバー): 234ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062176033
ISBN-13: 978-4062176033
発売日: 2012/6/28
横浜の弁護士・添野のもとを臼井あさぎという女性が相談に訪れた。15年前に駅で自分のスカートの中を盗撮した犯人が、今判ったので訴えたいという。添野は時効だし、当時は盗撮を犯罪とする法律もなかった、とあきらめるように諭して帰した。その後あさぎは消息をたつ。それから3週間後、朝の電車内で痴漢騒ぎが起きた。痴漢は被害者に腕を掴まれ、大怪我をしたという。過剰防衛とされ、警察に拘留された被害者女性は添野を弁護人に選任する。被害者は臼井あさぎその人であり、その後事件は意外な展開をみせる--!
<担当者コメント>
島田さんと講談社がタッグを組んで昨年より発動したプロジェクトですが、おかげさまで 200本を越える応募をいただき団塊の世代の「熱気」をあらためて確認しました。「ショートスカート・ガール」は、軽いタッチで読みやすいながらも、作者の社会体験が反映された重厚さも兼ね備えた作品です。ぜひご一読をお願いします。
<島田荘司選 ベテラン新人プロジェクト受賞作!>
新人賞の選考委員をするようになって二十年以上が経つが、このような圧倒的パワーを見せる新人に対するのははじめてだ。しかもそれが若者でなく、退職高齢世代に現れた。おそらくはこういうことが、モノづくり日本を支えた団塊の世代の持つ秘密であり、力なのであろう―――選評より
臼井あさぎ。長野市で一人住まいしていた新入社員のころのこと。新調したスーツが手違いで超ミニスカートに仕上がってきた。気合を入れて着込んでいったが、スカートの中を盗撮されてしまう。そのときは仕事の前で忙しく、盗撮犯を交番に突き出して会社へ出勤してしまった。ところが、当時は迷惑防止条例もなく、犯人は警官に諭されただけで、事件扱いもされずにそのまま釈放されてしまう。
そして15年後。あさぎは、最近TVで話題の、弁護士であり大学教授の吉見渓慈郎がそのときの盗撮犯人ではないか、という疑いを抱き弁護士のもとを訪れた。
添野耕三、横浜の弁護士。あさぎの訴えを聞いたものの、15年前の事件で、当時の条例からみても立件することはむつかしいと返答する。
「ベテラン新人プロジェクト」という新人賞をとった作品。選考委員の島田荘司さんや爺と同年輩のベテラン新人だという。
あさぎは、その依頼をした3週間後、電車で痴漢を撃退する騒ぎを起こす。痴漢の手をつかんで電車の扇風機に指を突っ込み怪我をさせたのだ。いちやくTVでも話題になり、あさぎは時の人だ。その痴漢というのは15年前の長野での盗撮騒ぎのときに、交番勤務をしていた警官の富田だった。
TVの報道で驚くべきことが分かる。富田は、あさぎにストーカー行為を繰り返していたというのだ。では痴漢退治をしたあさぎは、その報復をしたというのだろうか。このトラブルは双方からの訴えもなく、事件として扱われることもなかった。
そして半月後、あさぎの部屋に侵入しようとした富田を、あさぎが包丁で刺殺する。それも、咄嗟に110番通報をした携帯電話がつながれたままで、いわば実況中継の中での事件だった。
裁判が始まり、あさぎの弁護は添野が所属する法律事務所長が担当した。その経過がワイドショーでも報道される。
弁護士の吉見も番組のなかでコメントをかさねるが、15年前の盗撮犯は吉見ではないかというイエロー新聞紙のスクープが世間をにぎわすことになっていく。
それは編集局に届いた一通の投書が訴えていたものだった。その投書の差出人は「S.S.G.」となっている。もちろん、あさぎは拘留中で手紙を出せるわけもない。では、誰が・・・
事件そのものは前半に発生し、後半は、裁判の経過とともに過去の事件の背景が明らかにされる。
登場人物のつながりも判明し、読者の思惑をひっくり返しながら、物語はエンディングへ。
裁判で無罪を勝ち取ったあさぎは故郷の長野へ帰る。法律事務所の助手の瑞穂がそこに訪れ、千曲川のほとりで言った言葉は・・・
加藤 眞男
単行本(ソフトカバー): 234ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062176033
ISBN-13: 978-4062176033
発売日: 2012/6/28
横浜の弁護士・添野のもとを臼井あさぎという女性が相談に訪れた。15年前に駅で自分のスカートの中を盗撮した犯人が、今判ったので訴えたいという。添野は時効だし、当時は盗撮を犯罪とする法律もなかった、とあきらめるように諭して帰した。その後あさぎは消息をたつ。それから3週間後、朝の電車内で痴漢騒ぎが起きた。痴漢は被害者に腕を掴まれ、大怪我をしたという。過剰防衛とされ、警察に拘留された被害者女性は添野を弁護人に選任する。被害者は臼井あさぎその人であり、その後事件は意外な展開をみせる--!
<担当者コメント>
島田さんと講談社がタッグを組んで昨年より発動したプロジェクトですが、おかげさまで 200本を越える応募をいただき団塊の世代の「熱気」をあらためて確認しました。「ショートスカート・ガール」は、軽いタッチで読みやすいながらも、作者の社会体験が反映された重厚さも兼ね備えた作品です。ぜひご一読をお願いします。
<島田荘司選 ベテラン新人プロジェクト受賞作!>
新人賞の選考委員をするようになって二十年以上が経つが、このような圧倒的パワーを見せる新人に対するのははじめてだ。しかもそれが若者でなく、退職高齢世代に現れた。おそらくはこういうことが、モノづくり日本を支えた団塊の世代の持つ秘密であり、力なのであろう―――選評より
臼井あさぎ。長野市で一人住まいしていた新入社員のころのこと。新調したスーツが手違いで超ミニスカートに仕上がってきた。気合を入れて着込んでいったが、スカートの中を盗撮されてしまう。そのときは仕事の前で忙しく、盗撮犯を交番に突き出して会社へ出勤してしまった。ところが、当時は迷惑防止条例もなく、犯人は警官に諭されただけで、事件扱いもされずにそのまま釈放されてしまう。
そして15年後。あさぎは、最近TVで話題の、弁護士であり大学教授の吉見渓慈郎がそのときの盗撮犯人ではないか、という疑いを抱き弁護士のもとを訪れた。
添野耕三、横浜の弁護士。あさぎの訴えを聞いたものの、15年前の事件で、当時の条例からみても立件することはむつかしいと返答する。
「ベテラン新人プロジェクト」という新人賞をとった作品。選考委員の島田荘司さんや爺と同年輩のベテラン新人だという。
あさぎは、その依頼をした3週間後、電車で痴漢を撃退する騒ぎを起こす。痴漢の手をつかんで電車の扇風機に指を突っ込み怪我をさせたのだ。いちやくTVでも話題になり、あさぎは時の人だ。その痴漢というのは15年前の長野での盗撮騒ぎのときに、交番勤務をしていた警官の富田だった。
TVの報道で驚くべきことが分かる。富田は、あさぎにストーカー行為を繰り返していたというのだ。では痴漢退治をしたあさぎは、その報復をしたというのだろうか。このトラブルは双方からの訴えもなく、事件として扱われることもなかった。
そして半月後、あさぎの部屋に侵入しようとした富田を、あさぎが包丁で刺殺する。それも、咄嗟に110番通報をした携帯電話がつながれたままで、いわば実況中継の中での事件だった。
裁判が始まり、あさぎの弁護は添野が所属する法律事務所長が担当した。その経過がワイドショーでも報道される。
弁護士の吉見も番組のなかでコメントをかさねるが、15年前の盗撮犯は吉見ではないかというイエロー新聞紙のスクープが世間をにぎわすことになっていく。
それは編集局に届いた一通の投書が訴えていたものだった。その投書の差出人は「S.S.G.」となっている。もちろん、あさぎは拘留中で手紙を出せるわけもない。では、誰が・・・
事件そのものは前半に発生し、後半は、裁判の経過とともに過去の事件の背景が明らかにされる。
登場人物のつながりも判明し、読者の思惑をひっくり返しながら、物語はエンディングへ。
裁判で無罪を勝ち取ったあさぎは故郷の長野へ帰る。法律事務所の助手の瑞穂がそこに訪れ、千曲川のほとりで言った言葉は・・・
2012年11月12日月曜日
起終点駅は人生のターミナル
「起終点駅(ターミナル)」
桜木 紫乃 (著)
単行本: 252ページ
出版社: 小学館
言語 日本語
ISBN-10: 4093863180
ISBN-13: 978-4093863186
発売日: 2012/4/16
生きて行きさえすれば、いいことがある。
笹野真理子が函館の神父・角田吾朗から「竹原基樹の納骨式に出席してほしい」という手紙を受け取ったのは、先月のことだった。十年前、国内最大手の化粧品会社華清堂で幹部を約束されていた竹原は、突然会社を辞め、東京を引き払った。当時深い仲だった真理子には、何の説明もなかった。竹原は、自分が亡くなったあとのために戸籍謄本を、三ヶ月ごとに取り直しながら暮らしていたという――(「かたちないもの」)。
道報新聞釧路支社の新人記者・山岸里和は、釧路西港の防波堤で石崎という男と知り合う。石崎は六十歳の一人暮らし、現在失業中だという。「西港防波堤で釣り人転落死」の一報が入ったのは、九月初めのことだった。亡くなったのは和田博嗣、六十歳。住んでいたアパートのちゃぶ台には、里和の名刺が置かれていた――(海鳥の行方」)。
雑誌「STORY BOX」掲載した全六話で構成しています。
<編集者からのおすすめ情報>
第146回直木賞候補作にして2011年下期には書評家・編集者の注目を一気に集めた『LOVE LESS(ラブレス)』から6ヶ月、デビュー短編「雪虫」から10年目に満を持して、最高傑作登場!
短編集。北海道が舞台。
それぞれの作にはなんのつながりもない。しいていえば、「無縁」だとか。雑誌に発表されたときは『無縁1~6』というタイトルだった。だが、小説である以上、結果的に「縁」の物語になっている。
著者の桜木さんは、前作が直木賞候補になって一躍有名になったが、すでに10年選手だ。じじいが読むのは初めて。そして直木賞候補になるくらいだから、文章に「情」がある。
「かたちないもの」
笹野真理子。化粧品メーカーの幹部管理職。
函館。外人墓地。ロシア正教会の葬儀で葬られたのは、真理子の先輩であり恋人でもあったが、45歳で引退した竹原。引退してすでに10年になる。
神父は吾郎という30歳のイケメン。
竹原は引退後、母の介護をして、この地で亡くなった。糖尿病を患っていたという。
葬儀でなく、納骨儀式に呼ばれたのはなぜだろう、と真理子は思う。神父の吾郎は「かたちのない自分をみてほしかったのではないでしょうか」と答える。
「海鳥の行方」
山岸里和。新聞社の新人。
釧路。港の土砂置き場から不発弾が発見されたというニュースの取材に行き、そこで石崎という60歳くらいの労務者と出会う。
今は別れてくらしていた里和のかつての恋人がうつ病による自殺未遂事件を起こす。
里和は石崎とふたたび面会し、防波堤の釣りを楽しむ。
だが、あるとき石崎が死に、実は名前は偽名で元受刑者だったということが分かる。
里和は受刑者の元妻だった女に会いに行き、記事にしたいと思うのだが・・・
「起終点駅」(ターミナル)
弁護士・鷲田完治。
釧路。裁判所で、覚せい剤使用事件で椎名敦子の執行猶予判決を勝ち取る。
敦子は行方不明になっている恋人を探し出したい様子だ。
完治は息子と妻を棄てて来た。その息子が結婚するという連絡がくる。
冴子という、学生時代に深い仲になった女が覚せい剤事件でつかまり、留萌で裁判所支部長をしていたときに判決を言い渡した。そのときにふたりでやり直そうと誘ったのだが、冴子は・・・
敦子の恋人は覚せい剤で命を落としかけているところを完治と敦子が救い出す。
「スクラップ・ロード」
道央。
飯島久彦。銀行を中途退職。ホームレスになっている父・文彦を見つけたが、今は沢田美奈というまだ若い女と一緒に暮らしていた。
久彦も就職先がなく、アパートで寝たり起きたりの生活を繰り返している。
そのうち、風邪をこじらせた父はそのまま医者にも行けず亡くなってしまう。
美奈といっしょに空き地に父の遺骸を埋める。生前の父が自ら掘った穴だった。このあたりにみんなが埋まっている。
美奈は言う。あんたはここが居心地よくなるタイプの人間だ。廃品になるタイプの人間だ。
そうかもしれない、と思いつつ、久彦は履歴書を書くことにした。
「たたかいにやぶれて咲けよ」
山岸里和も記者になって3年目。
女流歌人・中田ミツが死んだ。82歳の今まで道東の短歌会を牽引してきた存在だ。特別養護老人ホームで暮らしていた。タイトルはミツの歌からとられている。その後には、「・・・ひまわりの種をやどしてをんなを歩く」と続く。50代まで「エロス」の看板を掲げていた歌人だった。代表的な歌集は『ひまわり』と題されている。
ミツの姪が経営する「KAJIN」という喫茶店へ出向いた里和は、姪の父と歌人が関係を持っていたという情報を得る。そこで近藤悟のことを聞く。
晩年の歌人とともに暮らしていたという悟は作家志望の35歳。どこかまだ夢見がちの少年という雰囲気をまとっている。だが、彼がともに過ごした5年間はふたりにとって濃密な5年間であり、その経験をぽつりぽつりと語る悟に、里和はふと思い当たることが・・・
「潮風(かぜ)の家」
手塩町。
久保田千鶴子。江別で高齢者向けの宅配弁当の配達を仕事にしている。
弟の永大供養を済ますために、30年ぶりに手塩の町を訪れた。そこには町にいたときから世話になっていた、たみ子という老婆がいる。町にいたころ、千鶴子や弟をかばってくれたおばちゃんだった。
たみ子は若いときから吉原で稼ぎ、仕送りして今の海辺の家を建てたのが自慢だった。60年もの間、潮風に吹かれている、タイムスリップしたような家だった。
そこで薄いふとんにくるまって千鶴子のこれまでを語り合う。たみ子は別れ際に、「ワシが死んでも戻って来るな」と言い残す。
江別へ帰った千鶴子は弁当の宅配先で平田という老人が倒れているのを発見する。そんなときのためのネットワークが準備してあり、医者や身寄りへの連絡もスムーズだ。
そして、たみ子へワイド液晶テレビをプレゼントすることにした。
涙なしに読めない物語。ある書評では「読者に媚びない暗さ」が魅力だとも書かれている。暗い。だが、一冊にまとまって読み終えると、巻末にもってきた作品が少し明るい要素を持っているようだ。年寄りの力強さが見事だ。
桜木 紫乃 (著)
単行本: 252ページ
出版社: 小学館
言語 日本語
ISBN-10: 4093863180
ISBN-13: 978-4093863186
発売日: 2012/4/16
生きて行きさえすれば、いいことがある。
笹野真理子が函館の神父・角田吾朗から「竹原基樹の納骨式に出席してほしい」という手紙を受け取ったのは、先月のことだった。十年前、国内最大手の化粧品会社華清堂で幹部を約束されていた竹原は、突然会社を辞め、東京を引き払った。当時深い仲だった真理子には、何の説明もなかった。竹原は、自分が亡くなったあとのために戸籍謄本を、三ヶ月ごとに取り直しながら暮らしていたという――(「かたちないもの」)。
道報新聞釧路支社の新人記者・山岸里和は、釧路西港の防波堤で石崎という男と知り合う。石崎は六十歳の一人暮らし、現在失業中だという。「西港防波堤で釣り人転落死」の一報が入ったのは、九月初めのことだった。亡くなったのは和田博嗣、六十歳。住んでいたアパートのちゃぶ台には、里和の名刺が置かれていた――(海鳥の行方」)。
雑誌「STORY BOX」掲載した全六話で構成しています。
<編集者からのおすすめ情報>
第146回直木賞候補作にして2011年下期には書評家・編集者の注目を一気に集めた『LOVE LESS(ラブレス)』から6ヶ月、デビュー短編「雪虫」から10年目に満を持して、最高傑作登場!
短編集。北海道が舞台。
それぞれの作にはなんのつながりもない。しいていえば、「無縁」だとか。雑誌に発表されたときは『無縁1~6』というタイトルだった。だが、小説である以上、結果的に「縁」の物語になっている。
著者の桜木さんは、前作が直木賞候補になって一躍有名になったが、すでに10年選手だ。じじいが読むのは初めて。そして直木賞候補になるくらいだから、文章に「情」がある。
「かたちないもの」
笹野真理子。化粧品メーカーの幹部管理職。
函館。外人墓地。ロシア正教会の葬儀で葬られたのは、真理子の先輩であり恋人でもあったが、45歳で引退した竹原。引退してすでに10年になる。
神父は吾郎という30歳のイケメン。
竹原は引退後、母の介護をして、この地で亡くなった。糖尿病を患っていたという。
葬儀でなく、納骨儀式に呼ばれたのはなぜだろう、と真理子は思う。神父の吾郎は「かたちのない自分をみてほしかったのではないでしょうか」と答える。
「海鳥の行方」
山岸里和。新聞社の新人。
釧路。港の土砂置き場から不発弾が発見されたというニュースの取材に行き、そこで石崎という60歳くらいの労務者と出会う。
今は別れてくらしていた里和のかつての恋人がうつ病による自殺未遂事件を起こす。
里和は石崎とふたたび面会し、防波堤の釣りを楽しむ。
だが、あるとき石崎が死に、実は名前は偽名で元受刑者だったということが分かる。
里和は受刑者の元妻だった女に会いに行き、記事にしたいと思うのだが・・・
「起終点駅」(ターミナル)
弁護士・鷲田完治。
釧路。裁判所で、覚せい剤使用事件で椎名敦子の執行猶予判決を勝ち取る。
敦子は行方不明になっている恋人を探し出したい様子だ。
完治は息子と妻を棄てて来た。その息子が結婚するという連絡がくる。
冴子という、学生時代に深い仲になった女が覚せい剤事件でつかまり、留萌で裁判所支部長をしていたときに判決を言い渡した。そのときにふたりでやり直そうと誘ったのだが、冴子は・・・
敦子の恋人は覚せい剤で命を落としかけているところを完治と敦子が救い出す。
「スクラップ・ロード」
道央。
飯島久彦。銀行を中途退職。ホームレスになっている父・文彦を見つけたが、今は沢田美奈というまだ若い女と一緒に暮らしていた。
久彦も就職先がなく、アパートで寝たり起きたりの生活を繰り返している。
そのうち、風邪をこじらせた父はそのまま医者にも行けず亡くなってしまう。
美奈といっしょに空き地に父の遺骸を埋める。生前の父が自ら掘った穴だった。このあたりにみんなが埋まっている。
美奈は言う。あんたはここが居心地よくなるタイプの人間だ。廃品になるタイプの人間だ。
そうかもしれない、と思いつつ、久彦は履歴書を書くことにした。
「たたかいにやぶれて咲けよ」
山岸里和も記者になって3年目。
女流歌人・中田ミツが死んだ。82歳の今まで道東の短歌会を牽引してきた存在だ。特別養護老人ホームで暮らしていた。タイトルはミツの歌からとられている。その後には、「・・・ひまわりの種をやどしてをんなを歩く」と続く。50代まで「エロス」の看板を掲げていた歌人だった。代表的な歌集は『ひまわり』と題されている。
ミツの姪が経営する「KAJIN」という喫茶店へ出向いた里和は、姪の父と歌人が関係を持っていたという情報を得る。そこで近藤悟のことを聞く。
晩年の歌人とともに暮らしていたという悟は作家志望の35歳。どこかまだ夢見がちの少年という雰囲気をまとっている。だが、彼がともに過ごした5年間はふたりにとって濃密な5年間であり、その経験をぽつりぽつりと語る悟に、里和はふと思い当たることが・・・
「潮風(かぜ)の家」
手塩町。
久保田千鶴子。江別で高齢者向けの宅配弁当の配達を仕事にしている。
弟の永大供養を済ますために、30年ぶりに手塩の町を訪れた。そこには町にいたときから世話になっていた、たみ子という老婆がいる。町にいたころ、千鶴子や弟をかばってくれたおばちゃんだった。
たみ子は若いときから吉原で稼ぎ、仕送りして今の海辺の家を建てたのが自慢だった。60年もの間、潮風に吹かれている、タイムスリップしたような家だった。
そこで薄いふとんにくるまって千鶴子のこれまでを語り合う。たみ子は別れ際に、「ワシが死んでも戻って来るな」と言い残す。
江別へ帰った千鶴子は弁当の宅配先で平田という老人が倒れているのを発見する。そんなときのためのネットワークが準備してあり、医者や身寄りへの連絡もスムーズだ。
そして、たみ子へワイド液晶テレビをプレゼントすることにした。
涙なしに読めない物語。ある書評では「読者に媚びない暗さ」が魅力だとも書かれている。暗い。だが、一冊にまとまって読み終えると、巻末にもってきた作品が少し明るい要素を持っているようだ。年寄りの力強さが見事だ。
2012年11月8日木曜日
コレキヨの恋文が日本を救う
「コレキヨの恋文」
新米女性首相が高橋是清に国民経済を学んだら
三橋 貴明
単行本: 315ページ
出版社: 小学館
言語 日本語
ISBN-10: 4093863261
ISBN-13: 978-4093863261
発売日: 2012/3/28
【笑って泣いて経済もわかる傑作小説誕生! 】
混迷の日本。現在と驚くほど似ていた時代があった。リーマンショック、ユーロ危機VSウォール街大暴落。デフレ円高不況VS昭和大恐慌。東日本大震災VS関東大震災。そして頻繁に失脚する総理大臣…そんな昭和初期に7度の大蔵大臣と首相として日本を世界恐慌から脱出させたのが、希代の財政家・高橋是清だった。
不況が続く201X年、大混乱を経て初々しい女性宰相が誕生した。官邸での就任パーティ。増税・緊縮財政路線の財務省と成長路線の補佐官との板挟みに疲れた霧島さくら子首相は官邸の庭に出ると桜の下で髭を蓄えた和装の老人に会う。二人はお互いを知らぬまま政治、経済状況を語り合うのだが、不思議と平仄が合う。さくら子は老人の確信に満ちた話に感銘を受け、それをヒントに、財務省の筋書きとは違う大胆な経済成長策を打ち出す。果たしてそれが奏功し、日本はデフレ不況から脱することができるのか。
何度かの邂逅で、さくら子は、老人はもしや高橋是清翁では、と思い始める。ということは…老人は2月26日に大変な不幸に巻き込まれてしまうではないか!どうする、さくら子!
笑って泣いて、日本と世界の経済の仕組みがストンとわかる傑作小説誕生!
【編集担当からのおすすめ情報】
高橋是清の時代って、まるで現在の日本と同じ状況だったんですね。そして、本を読み進むと、どうすれば日本の景気が良くなるかがわかるのだから、本当に面白くてお得です。それと登場人物が誰をモデルにしているのか、当てるのがけっこう楽しいですよ。
いま人気の画家・鈴木康士氏のカバー・イラストもお楽しみ下さい。
4月20日に書いています。18日、三橋氏、さかき漣氏、イラストの鈴木康士氏とでささやかな増刷お祝いをいたしました。三橋氏が鈴木氏に会うのは初めてでした。
お陰様で好調を維持しています。アマゾンでは38件のブックレビューが出ており、三橋氏によると、彼のこれまでの本で最多と。「感動した」「思わず泣いてしまった」「三橋氏のこれまでの本で最高傑作!」との声が多く、まぁこれは編集者冥利でしょうか。
この本がなぜこれほど読者の感動を呼ぶのか、私なりの1つの答えは、本の中で高橋是清が語るセリフのポイントの部分が、実は本当に彼が書き残したものだということです。例えば、国民経済とは何かをさくら子に語ったところとか、最後の手紙の部分とか。実際の“恋文”はもちろんさくら子や今の国民に宛てて書いた物ではありませんが、それ以外の部分は本当に是清が書いた物なのです。そのリアリティが涙を誘うのでは。それがわかって、読み直してみるのもまた一興ではないでしょうか。かく言う小生も、もう三度くらい泣いています。
というわけで、紹介文がすべてを語っている。
霧島さくら子、日本国総理大臣。
就任パーティーの夜、総理官邸に咲き誇る桜の下でひとりの老人と出会う。
はて、きょうのパーティーの招待客にこんな人はいたのかしら、と思うのだが、向こうは向こうで、今や日本中の人気者である霧島総理を知らないようで、女性記者かなにかだと思っているらしい。
そして、気負って日本の現状や、総理としての自分の思惑などを語り続けるうちに、日本をデフレから救うことができるかもしれない方策のヒントを得る。
デフレのときの国の財政のあり方。そもそも国民経済とはなにか。税金とは何か。国民個人の貯蓄はなぜ国力を奪うのか。
第一章はさくら子の立場と是清の立場相互の視点で描かれる。
さくら子の時代は、長い不況と何度も変わる総理大臣、混迷内閣の連続による国民の不満が爆発。ようやく行われた総選挙では民主党が敗北し、自民政権の復活。だが、起死回生の手法はだれにもわからない。
一方、是清は大正バブルの崩壊、関東大震災、昭和金融恐慌を経験し、さくら子と出会う前の年には5・15事件が勃発している。この時代も何度も総理大臣が入れ替わっている。
なにげない出会いが、さくら子を総理としての役目に目覚めさせる。
どこをどう通ってふたりが出会ったのか、それは解明されない。
だが、その老人は高橋是清ではないか、とさくら子は思い当たる。
調べてみると昭和の初めと今の平成の時代はそっくりなのだった。是清は大蔵大臣を何度も務めた経験から、さくら子の提案を評価し、また自分の思いのたけを語る。
満開の桜の下での出会いが3年続き、さくら子の政治手腕が日本経済を明るくしていく。
だが、次に会うことは出来ない、とさくら子は思い当たる。来年の桜が咲くひと月前に是清は暗殺されてしまうのだ。
さくら子は自分が未来の人間だということを是清に信じてもらうために、最後の出会いだと思われる、是清の時代、昭和10年の歴史的事実をこと細かく是清に説明する。
そして、歴史の大きな波は日本を軍事国家に変貌させていく。
次の年、是清が暗殺される前夜に書いたと思われる遺書が発見される。それは総理大臣としてのさくら子にあてた手紙であり、未来の日本人にあてた是清の恋文だった。
著者の三橋氏は異端の経済学者として売れっ子だが、本質はサラリーマンあがりのTV評論家だと、ネットでは悪評ふんぷん。ケインズと是清が好きだということが、この著作でも良く分かる。果たして日本の経済は誰が救ってくれるのだろうか。
霧島さくら子待望論が出ないのは、国民が政治に期待するものがないからだろうか。
新米女性首相が高橋是清に国民経済を学んだら
三橋 貴明
単行本: 315ページ
出版社: 小学館
言語 日本語
ISBN-10: 4093863261
ISBN-13: 978-4093863261
発売日: 2012/3/28
【笑って泣いて経済もわかる傑作小説誕生! 】
混迷の日本。現在と驚くほど似ていた時代があった。リーマンショック、ユーロ危機VSウォール街大暴落。デフレ円高不況VS昭和大恐慌。東日本大震災VS関東大震災。そして頻繁に失脚する総理大臣…そんな昭和初期に7度の大蔵大臣と首相として日本を世界恐慌から脱出させたのが、希代の財政家・高橋是清だった。
不況が続く201X年、大混乱を経て初々しい女性宰相が誕生した。官邸での就任パーティ。増税・緊縮財政路線の財務省と成長路線の補佐官との板挟みに疲れた霧島さくら子首相は官邸の庭に出ると桜の下で髭を蓄えた和装の老人に会う。二人はお互いを知らぬまま政治、経済状況を語り合うのだが、不思議と平仄が合う。さくら子は老人の確信に満ちた話に感銘を受け、それをヒントに、財務省の筋書きとは違う大胆な経済成長策を打ち出す。果たしてそれが奏功し、日本はデフレ不況から脱することができるのか。
何度かの邂逅で、さくら子は、老人はもしや高橋是清翁では、と思い始める。ということは…老人は2月26日に大変な不幸に巻き込まれてしまうではないか!どうする、さくら子!
笑って泣いて、日本と世界の経済の仕組みがストンとわかる傑作小説誕生!
【編集担当からのおすすめ情報】
高橋是清の時代って、まるで現在の日本と同じ状況だったんですね。そして、本を読み進むと、どうすれば日本の景気が良くなるかがわかるのだから、本当に面白くてお得です。それと登場人物が誰をモデルにしているのか、当てるのがけっこう楽しいですよ。
いま人気の画家・鈴木康士氏のカバー・イラストもお楽しみ下さい。
4月20日に書いています。18日、三橋氏、さかき漣氏、イラストの鈴木康士氏とでささやかな増刷お祝いをいたしました。三橋氏が鈴木氏に会うのは初めてでした。
お陰様で好調を維持しています。アマゾンでは38件のブックレビューが出ており、三橋氏によると、彼のこれまでの本で最多と。「感動した」「思わず泣いてしまった」「三橋氏のこれまでの本で最高傑作!」との声が多く、まぁこれは編集者冥利でしょうか。
この本がなぜこれほど読者の感動を呼ぶのか、私なりの1つの答えは、本の中で高橋是清が語るセリフのポイントの部分が、実は本当に彼が書き残したものだということです。例えば、国民経済とは何かをさくら子に語ったところとか、最後の手紙の部分とか。実際の“恋文”はもちろんさくら子や今の国民に宛てて書いた物ではありませんが、それ以外の部分は本当に是清が書いた物なのです。そのリアリティが涙を誘うのでは。それがわかって、読み直してみるのもまた一興ではないでしょうか。かく言う小生も、もう三度くらい泣いています。
というわけで、紹介文がすべてを語っている。
霧島さくら子、日本国総理大臣。
就任パーティーの夜、総理官邸に咲き誇る桜の下でひとりの老人と出会う。
はて、きょうのパーティーの招待客にこんな人はいたのかしら、と思うのだが、向こうは向こうで、今や日本中の人気者である霧島総理を知らないようで、女性記者かなにかだと思っているらしい。
そして、気負って日本の現状や、総理としての自分の思惑などを語り続けるうちに、日本をデフレから救うことができるかもしれない方策のヒントを得る。
デフレのときの国の財政のあり方。そもそも国民経済とはなにか。税金とは何か。国民個人の貯蓄はなぜ国力を奪うのか。
第一章はさくら子の立場と是清の立場相互の視点で描かれる。
さくら子の時代は、長い不況と何度も変わる総理大臣、混迷内閣の連続による国民の不満が爆発。ようやく行われた総選挙では民主党が敗北し、自民政権の復活。だが、起死回生の手法はだれにもわからない。
一方、是清は大正バブルの崩壊、関東大震災、昭和金融恐慌を経験し、さくら子と出会う前の年には5・15事件が勃発している。この時代も何度も総理大臣が入れ替わっている。
なにげない出会いが、さくら子を総理としての役目に目覚めさせる。
どこをどう通ってふたりが出会ったのか、それは解明されない。
だが、その老人は高橋是清ではないか、とさくら子は思い当たる。
調べてみると昭和の初めと今の平成の時代はそっくりなのだった。是清は大蔵大臣を何度も務めた経験から、さくら子の提案を評価し、また自分の思いのたけを語る。
満開の桜の下での出会いが3年続き、さくら子の政治手腕が日本経済を明るくしていく。
だが、次に会うことは出来ない、とさくら子は思い当たる。来年の桜が咲くひと月前に是清は暗殺されてしまうのだ。
さくら子は自分が未来の人間だということを是清に信じてもらうために、最後の出会いだと思われる、是清の時代、昭和10年の歴史的事実をこと細かく是清に説明する。
そして、歴史の大きな波は日本を軍事国家に変貌させていく。
次の年、是清が暗殺される前夜に書いたと思われる遺書が発見される。それは総理大臣としてのさくら子にあてた手紙であり、未来の日本人にあてた是清の恋文だった。
著者の三橋氏は異端の経済学者として売れっ子だが、本質はサラリーマンあがりのTV評論家だと、ネットでは悪評ふんぷん。ケインズと是清が好きだということが、この著作でも良く分かる。果たして日本の経済は誰が救ってくれるのだろうか。
霧島さくら子待望論が出ないのは、国民が政治に期待するものがないからだろうか。
2012年11月4日日曜日
ザ・ストレインがもたらす災厄は
「ザ・ストレイン」
ギレルモ・デル・トロ(著)
チャック・ホーガン(著)
大森望(訳)
単行本(ソフトカバー): 574ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4152090669
ISBN-13: 978-4152090669
発売日: 2009/9/10
2010年9月、ニューヨーク・JFK国際空港で旅客機が着陸直後に外部との無線連絡を絶ち、照明を消し、すべての電気系統を落として誘導路上で沈黙した。人質事件の懸念から突入したレスキュー隊が発見したのは、二百名近くの乗客が席に着いたまま静かに息絶えている姿だった…。バイオテロの可能性から、当局はCDC(疾病対策センター)の特別班を召集する。チームを率いる疫学者イーフリアムは最愛の息子と過ごす貴重な週末をきりあげて空港に急行し、機内のバイオハザード調査に入るのだった。事件の原因究明にあたるイーフはやがて、この悪疫がいくつもの家族と社会秩序を引き裂き、猛烈な勢いで蔓延していくさまを目の当たりにする。それは同時に、太古の昔から地球に生きる、ある忌まわしい種族の復権を意味していた―アカデミー賞映画監督ギレルモ・デル・トロが長年あたためてきたアイディアを惜しまずそそいで贈る極上のスリル。全米ベストセラー・リストランクイン、世界21カ国で翻訳決定の傑作ノンストップ・パンデミック・スリラー。
2009年の発刊。舞台はその1年後の2010年。ニューヨークのJFK国際空港。
今回、本編とその続編が文庫で刊行されることになり、急遽、読んでおかねば、となった次第。
航空機が着陸したが、その乗客が全員死亡していた、というのは「フリンジ」なんかでもあったプロローグ。
だが、そこには4人の生存者がいた。乗客はなぜ死んだのか。4人はなぜ生き残ったのか。
まず、なんらかの疫病が疑われる。機長をはじめ、乗客乗員の全員は、機が到着する寸前まで生きていたのだ。
機内を調べたCDC(疾病対策センター)のイーフリアム(イーフ)は貨物室に奇妙な巨大棺を発見する。だが、その直後、何者かによってその棺は運び出されてしまう。
遺体を検視してみると、遺体には血液がなくなり、体組織が白い脂肪みたいになっている。体内からなにやらうごめく虫みたいなものが出てくる。
その翌朝、皆既日食が起こる。
だから、文庫になったこの作品は「沈黙のエクリプス」というタイトルに改題されている。
その日食のさなか、うごめくものがいた。
最初はパンデミックスリラーで始まる。細菌がばらまかれたのか。機内には血液ではない謎の液体がぶちまけられている。
日食の夜、死者たちはすべて、いずこへか姿を消す。解剖された遺体もなくなってしまう。
そして、4人の生存者たちにも奇妙な兆候が・・・
ストーリーの合間に、間奏曲として、ナチスの収容所から脱走するエイブラハム・セトラキアンの逃亡劇が描かれる。収容所というより、そこは太古からの支配者が跋扈する暗黒地帯だ。
セトラキアンはやがてイーフを探し出し、太古の種族を撲滅するべく協力を求めるのだった。
バイオハザードをはじめ、ゾンビ集団との戦いはもはや陳腐なイメージになってしまった。
いまさら、という感もあるが、ここに古代から人類を捕食していた存在をもってきて、なおかつ、永遠の命を求める大富豪が暗躍するニューヨークを舞台にして、映画化が間違いない大アクションが展開される。
さて、続刊が楽しみだ、といちおうは期待を残しておこう。
ギレルモ・デル・トロ(著)
チャック・ホーガン(著)
大森望(訳)
単行本(ソフトカバー): 574ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4152090669
ISBN-13: 978-4152090669
発売日: 2009/9/10
2010年9月、ニューヨーク・JFK国際空港で旅客機が着陸直後に外部との無線連絡を絶ち、照明を消し、すべての電気系統を落として誘導路上で沈黙した。人質事件の懸念から突入したレスキュー隊が発見したのは、二百名近くの乗客が席に着いたまま静かに息絶えている姿だった…。バイオテロの可能性から、当局はCDC(疾病対策センター)の特別班を召集する。チームを率いる疫学者イーフリアムは最愛の息子と過ごす貴重な週末をきりあげて空港に急行し、機内のバイオハザード調査に入るのだった。事件の原因究明にあたるイーフはやがて、この悪疫がいくつもの家族と社会秩序を引き裂き、猛烈な勢いで蔓延していくさまを目の当たりにする。それは同時に、太古の昔から地球に生きる、ある忌まわしい種族の復権を意味していた―アカデミー賞映画監督ギレルモ・デル・トロが長年あたためてきたアイディアを惜しまずそそいで贈る極上のスリル。全米ベストセラー・リストランクイン、世界21カ国で翻訳決定の傑作ノンストップ・パンデミック・スリラー。
2009年の発刊。舞台はその1年後の2010年。ニューヨークのJFK国際空港。
今回、本編とその続編が文庫で刊行されることになり、急遽、読んでおかねば、となった次第。
航空機が着陸したが、その乗客が全員死亡していた、というのは「フリンジ」なんかでもあったプロローグ。
だが、そこには4人の生存者がいた。乗客はなぜ死んだのか。4人はなぜ生き残ったのか。
まず、なんらかの疫病が疑われる。機長をはじめ、乗客乗員の全員は、機が到着する寸前まで生きていたのだ。
機内を調べたCDC(疾病対策センター)のイーフリアム(イーフ)は貨物室に奇妙な巨大棺を発見する。だが、その直後、何者かによってその棺は運び出されてしまう。
遺体を検視してみると、遺体には血液がなくなり、体組織が白い脂肪みたいになっている。体内からなにやらうごめく虫みたいなものが出てくる。
その翌朝、皆既日食が起こる。
だから、文庫になったこの作品は「沈黙のエクリプス」というタイトルに改題されている。
その日食のさなか、うごめくものがいた。
最初はパンデミックスリラーで始まる。細菌がばらまかれたのか。機内には血液ではない謎の液体がぶちまけられている。
日食の夜、死者たちはすべて、いずこへか姿を消す。解剖された遺体もなくなってしまう。
そして、4人の生存者たちにも奇妙な兆候が・・・
ストーリーの合間に、間奏曲として、ナチスの収容所から脱走するエイブラハム・セトラキアンの逃亡劇が描かれる。収容所というより、そこは太古からの支配者が跋扈する暗黒地帯だ。
セトラキアンはやがてイーフを探し出し、太古の種族を撲滅するべく協力を求めるのだった。
バイオハザードをはじめ、ゾンビ集団との戦いはもはや陳腐なイメージになってしまった。
いまさら、という感もあるが、ここに古代から人類を捕食していた存在をもってきて、なおかつ、永遠の命を求める大富豪が暗躍するニューヨークを舞台にして、映画化が間違いない大アクションが展開される。
さて、続刊が楽しみだ、といちおうは期待を残しておこう。
2012年10月30日火曜日
東京プリズンに囚われていたのは
赤坂 真理
単行本: 441ページ
出版社: 河出書房新社
ISBN-10: 4309021204
ISBN-13: 978-4309021201
発売日: 2012/7/6
戦争を忘れても、戦後は終らない……16歳のマリが挑んだ現代の「東京裁判」を描き、朝日、毎日、産経各紙で、“文学史的”事件と話題騒然! 著者が沈黙を破って放つ、感動の超大作。
2009年、東京にいる「私」のもとに電話がかかってくる。それは1980年のアメリカにいる「私」からの電話だった。救いを求める私はそうしてコレクトコールの電話をかけた覚えがあった。
そして「私」は、「私」をめぐる記憶の旅に出る。
主人公は15歳でアメリカにホームステイしている「マリ」。10月のある日、友人に誘われてハンティングに行く。そこでヘラジカを撃ち、その肉を分け合い、ステイ先の家族と一緒にステーキにして食べる。そのときのハンティングでは連れが誤って子鹿を撃ってしまう。子鹿を殺すのは州法にふれる罪だ。みんなでその罪を隠してその罪を分け合うために、一緒に行った仲間達は子鹿を解体して、それぞれが遺体の部分を始末することになる。マリには耳の部分があてがわれ、マリはその耳を箱にいれて庭の片隅に埋める。
そしてハロウィンの翌日、マリは16歳になった。
現代の日本の「マリ」は40台のなかばになり、再婚した夫とともに千葉に住む作家である。子供はいないのだが、過去からのマリの電話にはマリの母親だと偽って返答する。現代のマリも、自分の母が東京裁判で通訳をしていたことを知り、巣鴨プリズンがあった場所や、極東軍事裁判がおこなわれた場所をさがしてさまようことになる。
16歳のマリは学校の発表会で「日本について」発表するようにという課題を与えられる。マリは古くからの日本文化をテーマにしようと考えるが、校長はこういう。「真珠湾攻撃から戦争を経て天皇の降伏宣言があったことこそ、大事なテーマだ」。アメリカではそれこそが日本を表すものであるらしい。
天皇の降伏。
16歳のマリには実態がつかめない。教科書にのっているのは二重橋の前で正座して泣き崩れる人々の写真。ここはどこにあるのだ、とマリにはなにも分からない。その都度、東京の母に聞いてみる。二重橋は皇居よ、そこは江戸城だったところ。母は自分の体験以外にも、祖母から聞いた話を教えてくれる。
アメリカの資料には、天皇の玉音放送を録音したレコードや原稿の写真などが残されている。その放送を聞いた日本人たちは、天皇の肉声というものを初めて聞いたのだ。
そこでマリは思う。なぜ、私は日本が降伏したことをきちんと教えてもらっていないのだろう。今の日本人は日本の敗戦をどうして大切なものとして残してこなかったのだろう。終戦記念日とはいうが、何を記念しているのだ。
そしてディベートが行われる。マリは練習では天皇の戦争責任を否定する立場で、本番では肯定する立場での役割を担う。
先にヘラジカの耳のエピソードがあり、解体したヘラジカの肉を食べたことで、その肉が自分の体の一部になっているという意識がつきまとう。
マリの夢想のなかで、ヘラジカがときおり現れる。それは大君であったり、アメリカの原住民の王であったりする。
その夢想のなかでは、ベトナム戦争で枯れ葉剤の被害者となった結合双生児も現れる。アメリカを否定する立場で結合双生児はマリに語りかけ、応援するともなく、マリの言い分を聞く。
ママとの電話は未来への電話であるとともに、現代に生きるマリには過去の自分への応援メッセージでもあった。過去からの電話は、劇場に入る時に通る、緞帳の掛けられた小さな部屋の役割を果たすのだ。
イエスの家系など考えられないのに、天皇には万世一系といわれる家系図が残る。神の家系図とは何なのだろう。
天皇は神に奉られただけなのだ。天皇の人間宣言とは、米軍占領下でのアメリカの思惑が潜んでいないか。
そして天皇機関説。天皇はエンペラーでなく、あくまでTENNOUである。
日本人は関東大震災と空襲による焼け野が原を似通った風景として記憶している。それは民間人を犠牲にしようとしたアメリカの戦略だ。 広島、長崎、そしてベトナム。アメリカの民間人虐殺は、アメリカの神の仕業なのだ。日本軍は、あくまで民間人の虐殺などしたことがない。日本の神は虐殺などしない。
ディベートで、マリはそう訴える。それが真実なのだ。だが、日本人はそんなアメリカの神を受け入れた。その結果が現代の日本につながっている。そして今の日本人は、戦争に負けたこと、天皇が神だったこと、アメリカに占領されていたことに触れようとしない。そんなことはなかったかのようにふるまう。
日本人は太平洋戦争の敗戦いらい、アメリカとの関係について、何かに囚われていたのだろうか?
それは一体何なのか。
プリズンから抜け出すことはできるのか?
2012年10月22日月曜日
置かれた場所で咲きなさい、そうしましょう
「置かれた場所で咲きなさい」
渡辺 和子
単行本: 159ページ
出版社: 幻冬舎
ISBN-10: 4344021746
ISBN-13: 978-4344021747
発売日: 2012/4/25
Bloom where God has planted you.
置かれたところこそが、今のあなたの居場所なのです。
咲けない時は、根を下へ下へと降ろしましょう。
「時間の使い方は、そのまま、いのちの使い方なのですよ。置かれたところで咲いていてください」
結婚しても、就職しても、子育てをしても、「こんなはずじゃなかった」と思うことが、次から次に出てきます。そんな時にも、その状況の中で「咲く」努力をしてほしいのです。
どうしても咲けない時もあります。雨風が強い時、日照り続きで咲けない日、そんな時には無理に咲かなくてもいい。その代わりに、根を下へ下へと降ろして、根を張るのです。次に咲く花が、より大きく、美しいものとなるために。
現実が変わらないなら、悩みに対する心の持ちようを変えてみる。
いい出会いにするためには、自分が苦労をして出会いを育てなければならない。
心にポッカリ開いた穴からこれまで見えなかったものが見えてくる。
希望には叶わないものもあるが、大切なのは希望を持ち続けること。
信頼は98%。あとの2%は相手が間違った時の許しのために取っておく。
「ていねいに生きる」とは、自分に与えられた試練を感謝すること。
著者について
1927年2月、教育総監・渡辺錠太郎の次女として生まれる。51年、聖心女子大学を経て、54年上智大学大学院修了。56年、ノートルダム修道女会に入りアメリカに派遣されて、ボストン・カレッジ大学院に学ぶ。74年、岡山県文化賞(文化功労)、79年、山陽新聞賞(教育功労)、岡山県社会福祉協議会より済世賞、86年、ソロプチミスト日本財団より千嘉代子賞、89年三木記念賞受賞。ノートルダム清心女子大学(岡山)教授を経て、90年3月まで同大学学長。現在、ノートルダム清心学園理事長。
主な著書に、『愛と祈りで子どもは育つ』『目に見えないけれど大切なもの』『美しい人に』『愛と励ましの言葉366日』『幸せのありか』『マザー・テレサ 愛と祈りのことば<翻訳>』(以上、PHP研究所)他多数がある。
去年、岡山の居合道全国大会に行ったときに、ノートルダム清心学園の前を歩いたことがあった。新幹線を降りて、岡山の球場やサッカー競技場がある総合グラウンドに向かうにはちょうど通り道に当たっている。著者の渡辺シスター(Sr.)はそこの理事長だということで、ほほう、そうだったの、という感じ。
さて、新書だが、見開き2ページから3ページにわたってひとつのテーマが書かれている。なるほど、PHPなんかでよく見かけるショートエッセイのスタイルといえば分かりよいかも。2ページの文章の後に1ページでそのテーマの要約が書かれている。
したがって、総ページ数の割には内容はほぼ四分の三ということになるかも。行き帰りの電車の中で読めてしまう。
そのなかで心に残った珠玉の言葉を。
「むくいを知らず、朝も夜もよろこんで仕える、ぞうきんになりたい」=という内容の詩がある
「王さまのご命令。王さまは私の心だ」=これも若者の詩だ。心の声とは自分の本音でもある。
「私の微笑みは神様のポケットにはいったのだ」=こちらからの愛想が受け止めてもらえないときにはこう思おう。
「親の価値観が子供の価値観をつくる」=下の言葉にも通じる。親が自分の価値観で子供を縛り付けることがあってはならない。
「こどもは親の言う通りにならないが、『する通り』になる」=親の背中を見て育つ。
「まず考え、感じ、その後に行動する」=その逆に、行動して感じその後に考えていては野生の動物だ。
「笑顔でいると何事もうまくいく」=とはいえ、それが出来ないときもおおいけどね。
「大切なのはカルカッタに行くことでなく、あなたちの周辺にあるカルカッタに気付くこと」=マザーテレサの言葉だそうな。
「毎日が『わたしの一番若い日』」=きょう以後はどんどん更けていくのだ。いまが、今日がわたしの一番若い日だと信じて行動しよう。85歳の渡辺Sr.にして、こうおっしゃる。
「○○しか出来ない、でなく、○○なら出来ると評価する」=たしかにマイナス評価よりプラス評価が人を育てるのはよくわかる。
人を信用するのは98パーセントまで。あとの2パーセントはその人が失敗したときのために保留しておこうということらしい。ひとは神様ではないのだから。神様は100パーセント信用できるのだろう。あやまちと人が感じるのは神様の過ちではないらしい。それが試練というものなのだそうだ。
キリスト者としての信念に裏付けられた言葉の数々。
そのまま取り入れるのかどうかは人それぞれ。
なにを今さら、などと思ってしまう爺なんかにはおよそ神様は救いの手を差し出してくださらないだろう。そう思う。
渡辺 和子
単行本: 159ページ
出版社: 幻冬舎
ISBN-10: 4344021746
ISBN-13: 978-4344021747
発売日: 2012/4/25
Bloom where God has planted you.
置かれたところこそが、今のあなたの居場所なのです。
咲けない時は、根を下へ下へと降ろしましょう。
「時間の使い方は、そのまま、いのちの使い方なのですよ。置かれたところで咲いていてください」
結婚しても、就職しても、子育てをしても、「こんなはずじゃなかった」と思うことが、次から次に出てきます。そんな時にも、その状況の中で「咲く」努力をしてほしいのです。
どうしても咲けない時もあります。雨風が強い時、日照り続きで咲けない日、そんな時には無理に咲かなくてもいい。その代わりに、根を下へ下へと降ろして、根を張るのです。次に咲く花が、より大きく、美しいものとなるために。
現実が変わらないなら、悩みに対する心の持ちようを変えてみる。
いい出会いにするためには、自分が苦労をして出会いを育てなければならない。
心にポッカリ開いた穴からこれまで見えなかったものが見えてくる。
希望には叶わないものもあるが、大切なのは希望を持ち続けること。
信頼は98%。あとの2%は相手が間違った時の許しのために取っておく。
「ていねいに生きる」とは、自分に与えられた試練を感謝すること。
著者について
1927年2月、教育総監・渡辺錠太郎の次女として生まれる。51年、聖心女子大学を経て、54年上智大学大学院修了。56年、ノートルダム修道女会に入りアメリカに派遣されて、ボストン・カレッジ大学院に学ぶ。74年、岡山県文化賞(文化功労)、79年、山陽新聞賞(教育功労)、岡山県社会福祉協議会より済世賞、86年、ソロプチミスト日本財団より千嘉代子賞、89年三木記念賞受賞。ノートルダム清心女子大学(岡山)教授を経て、90年3月まで同大学学長。現在、ノートルダム清心学園理事長。
主な著書に、『愛と祈りで子どもは育つ』『目に見えないけれど大切なもの』『美しい人に』『愛と励ましの言葉366日』『幸せのありか』『マザー・テレサ 愛と祈りのことば<翻訳>』(以上、PHP研究所)他多数がある。
去年、岡山の居合道全国大会に行ったときに、ノートルダム清心学園の前を歩いたことがあった。新幹線を降りて、岡山の球場やサッカー競技場がある総合グラウンドに向かうにはちょうど通り道に当たっている。著者の渡辺シスター(Sr.)はそこの理事長だということで、ほほう、そうだったの、という感じ。
さて、新書だが、見開き2ページから3ページにわたってひとつのテーマが書かれている。なるほど、PHPなんかでよく見かけるショートエッセイのスタイルといえば分かりよいかも。2ページの文章の後に1ページでそのテーマの要約が書かれている。
したがって、総ページ数の割には内容はほぼ四分の三ということになるかも。行き帰りの電車の中で読めてしまう。
そのなかで心に残った珠玉の言葉を。
「むくいを知らず、朝も夜もよろこんで仕える、ぞうきんになりたい」=という内容の詩がある
「王さまのご命令。王さまは私の心だ」=これも若者の詩だ。心の声とは自分の本音でもある。
「私の微笑みは神様のポケットにはいったのだ」=こちらからの愛想が受け止めてもらえないときにはこう思おう。
「親の価値観が子供の価値観をつくる」=下の言葉にも通じる。親が自分の価値観で子供を縛り付けることがあってはならない。
「こどもは親の言う通りにならないが、『する通り』になる」=親の背中を見て育つ。
「まず考え、感じ、その後に行動する」=その逆に、行動して感じその後に考えていては野生の動物だ。
「笑顔でいると何事もうまくいく」=とはいえ、それが出来ないときもおおいけどね。
「大切なのはカルカッタに行くことでなく、あなたちの周辺にあるカルカッタに気付くこと」=マザーテレサの言葉だそうな。
「毎日が『わたしの一番若い日』」=きょう以後はどんどん更けていくのだ。いまが、今日がわたしの一番若い日だと信じて行動しよう。85歳の渡辺Sr.にして、こうおっしゃる。
「○○しか出来ない、でなく、○○なら出来ると評価する」=たしかにマイナス評価よりプラス評価が人を育てるのはよくわかる。
人を信用するのは98パーセントまで。あとの2パーセントはその人が失敗したときのために保留しておこうということらしい。ひとは神様ではないのだから。神様は100パーセント信用できるのだろう。あやまちと人が感じるのは神様の過ちではないらしい。それが試練というものなのだそうだ。
キリスト者としての信念に裏付けられた言葉の数々。
そのまま取り入れるのかどうかは人それぞれ。
なにを今さら、などと思ってしまう爺なんかにはおよそ神様は救いの手を差し出してくださらないだろう。そう思う。
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