2011年3月21日月曜日

日本を襲う爆弾魔の恐怖、立ち向かうのは

「ハイ・アラート」
福田 和代

単行本: 366ページ
出版社: 徳間書店
ISBN-10: 4198630208
ISBN-13: 978-4198630201
発売日: 2010/9/16

 ~high alert 非常警戒態勢~

 新宿の雑踏の中で爆発する風船爆弾。
 爆弾は浅草寺、六本木ヒルズ、新丸ビルと標的を変えながら、人々の話題をさらっていく。
 犯人は「十二神将」と名乗り、「怒れる神」の名で声明を出したりして、被害者のいない犯罪という面から、世間からは愉快犯のように思われていく。
 やがて二つの大企業の社屋のロゴマークが狙われる。そのときカラスが爆弾を運んできたという目撃もあり、十二神将には、犯罪者として警察から捜査の手が延びる。2企業は世間から悪役扱いを受けていたこともあったが、株の空売りで儲けた仕手筋もあるといわれて、十二神将は一躍悪者にされてしまう。

 かたや、神戸に到着した在ペルーの日系3世警官と共同で操作を始める主人公、三沢慎吾。なにやら不審な過去を持つ男だが、スポーツクラブを経営する、かなりハードボイルドな存在。ペルーから出稼ぎに来た仲間が行方不明で、その捜査の過程で、彼が十二神将に関わっているのではないかとの疑いが浮かび上がる。行方不明の仲間は火薬の知識をもつエリートだったのだ。

 そして、有名大学の大学院に在籍しながら、TNT爆弾を作る手伝いをさせられている学生や、その仲間のフリーターたち。十二神将は彼らなのか。
 スケールの大きな始まりだが、ストーリーが一直線に流れていき、大きな仕掛けがある訳でもなく、悪役が小物すぎるなど、評価としては高い点をつけられない。
 また、若者たちが死にすぎるのも辛いところ。
 ま、たまには辛い点をつける作品もある。
 福田さんは、近作の「迎撃せよ」が評判なので、できれば、また近いうちにお目にかかりたいもの。
 

2011年3月14日月曜日

幕末日本をリードしていく快男児の成長


『ジョン・マン 波濤編』

山本 一力


単行本: 290ページ
出版社: 講談社 (2011/1/6)
言語 日本語
ISBN-10: 4062167697
ISBN-13: 978-4062167697
発売日: 2011/1/6


     幕末の風雲児、中浜万次郎。遭難して漂流した土佐の漁師がアメリカの船に救われて渡米、アメリカの実態をつぶさに観察、倒幕の大きな力となる知識を持ち帰って日本の夜明けを早めた。アメリカ人につけてもらった愛称がジョン・マン。
     というのが通りいっぺんの知識だと思う。
     昨年の大河ドラマでもトータス松本さんが、その前の篤姫では勝地涼さんが演じていて、いいポイントをおさえる役どころ。

     さて、その万次郎と同郷の山本一力さんが描く大河小説。今回はその1冊目。

     開幕は米国北部、マサチューセッツ州フェアヘブンの向かいにあるニューベッドフォード。
     アイルランド訛が「んだべ」などと表記され、万次郎たちの土佐弁と対をなす。
     ホイットフィールド船長が新しい捕鯨船「ジョン・ハウランド号」の出帆に先駆けて地元の豪商たちと商売の駆け引きに忙しい。
     この本は確か日本の時代小説だよな、と、思わず表紙を確かめる、こともないけどね。

     かたや日本の足摺岬近辺の中ノ浜では、12歳の幼い身で漁師たちの炊事役をまかされていた万次郎が、ある事情から母との辛い別れを余儀なくされる。
     中ノ浜から宇佐浦までの舟の旅。
     その舟の中で筆之丈という漁師に出会う。
     筆之丈にも万次郎の目の良さ、舟の中での炊事作業を見る勉強熱心さなどを認められ、漁師の仲間に引き入れられることになる。

     さて、物語はまだまだ始まったばかり。
     12歳の万次郎が14歳になり、目出たい新年の初竿に同乗したころ、ジョン・ハウランド号は日本近海での捕鯨漁に向かっている。
     さあ、堂々たるオープニングを楽しもう。
     

    2011年3月12日土曜日

    滅びゆく人類が最後に託したもの。久方ぶりのSFに酔う

    「華竜の宮」
    上田早夕里著

    単行本(ソフトカバー): 592ページ
    出版社: 早川書房
    ISBN-10: 4152091630
    ISBN-13: 978-4152091635
    発売日: 2010/10/22

    3月11日「2011年東北地方太平洋沖地震」発生。
    亡くなられた方、ご家族ご親戚の方々にはお悔やみを、被害にあわれた方にはお見舞いを申し上げます。
    TVで報道される津波の映像、燃え上がる夜の街には背筋が凍る思いがします。15年前の阪神淡路大震災よりも大規模な、列島のほぼ半分以上を巻き込んだ被害に慄然とするばかりです。



    さて今回の作品は、昨年の「SFが読みたい」で2010年の日本作品第一位に輝いた傑作。
    長い。2段組み590ページ。
    そして舞台は、地球的な規模の地殻変動で現在の標高260メートル以下の地域が水没してしまった地球。今回の津波以上の災厄が人類を襲ったわけ。
    人類は海中でも生活できるように遺伝子操作によって改造された海上民と、ブローブによってアシスタント知性体と結ばれた陸上民とに分かれて文明を維持している。
    世界は残された地上部分とかつての首都の海上に築かれた海上都市で構成されている。
    その世界の捉え方がSFだ。見事なまでに細部の構築がなされている。こういう世界を作り出せた作者の力量には感嘆、そしてそれが女性だということで納得。


    主人公と呼ぶべきか、中心になって世界をまとめていこうとするのは青澄セイジ。彼のパートは彼のアシスタントである人口知性体のマキの一人称によって語られる。それが効果を出して、読者はセイジに感情移入していく。
    海上民の女性オサであるツキソメや、汎アジア連合の代表者など、政治的な動きをまとめ、アクション部分はセイジが身を以て努めている。


    世界が陸上民と海上民の和解に向けて動き始めたとき、新たな災厄が人類に襲いかかる。
    そのとき科学者たちがとった行動は、まさにSF。
    センスオブワンダーとはこのこと、ラストで身震いするのは昔からのSFファンだった爺だけではあるまい。


    災厄を乗り越えて生き抜いて来た人類が託す最後の夢。
    2011年の津波の災厄を乗り越えていく日本人に希望を!


     

    爺の読書録