東野圭吾
単行本: 416ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 416380580X
ISBN-13: 978-4163805801
発売日: 2011/6/6
小学5年生の恭平は、ブティックを経営する両親の仕事の都合から、夏休みの一週間を伯母夫婦が営む海辺の旅館で過ごすことになる。
一人旅の車中で変わり者の男と知り合った恭平は、その男に旅館の名前と住所を教えたところ、あとでその男も宿泊客になってしまった。それが湯川学だ。
東野ミステリーはいつでも超人気。そのガリレオシリーズの最新作。
主人公は当然、天才物理学者の湯川学。どうもTVドラマや映画の影響が残っていて、ついつい福山雅治さんや柴崎コウさんの顔が浮かんでくるのがつらい。少し、イメージが違うのでね。
今回は恭平くんとその従姉や伯父伯母がからむ人情篇。「容疑者Xの献身」につづく、献身の物語。
海辺の町では、ある企業が海底開発を進めるための説明会をおこなっていた。湯川は科学者としてオブザーバーの立場で科学的見地からの評価を進めるらしい。
恭平の従姉の成実は海を愛する立場から慎重に企業の説明会にも参加している。
恭平と伯父が庭で花火を楽しんでいた翌日、旅館の宿泊客が海岸の堤防から落ちて死亡しているのが見つかる。最初は事故死で片付けられたが、身元が判明するや、司法解剖もおこなわれる。
被害者はもと警視庁の刑事だったのだ。そして死因は一酸化炭素中毒だった。殺されてから海岸に運ばれたのか。県警からも大規模な捜査陣が送り込まれることに。
恭平と湯川の交流が楽しい。水ロケットにカメラをセットして沖合いの海底を実況中継したり、花火の原理を、実物の花火を楽しみながら説明する。少年にはいい夏休みだ。
町を守ろうと立ち上がる人々と、高校時代の同級生の警官からも情報を仕入れながら、成実は捜査の状況をさぐる。
東京では、警視庁の草薙や内海薫が、湯川の指示で独自の捜査を始めた。被害者と恭平の伯母たち成実の家族には、なんらかのつながりがあるはずだ。
謎は大掛かりでもなく、解決はこれでよかったのか、との思いも残る。
ただ、事件はそれぞれの立場で解決したといえよう。
人はそれぞれの思いを持って生き続ける。
「どんな問題にも答えはある。答えを出すためには自分自身の成長が求められる。だから人間は学び、努力し、自分を磨く必要があるんだ」
少年と博士、一夏の花火が消えていく。
この夏の傑作。おそらく、今年のベスト1だろう。