2011年8月31日水曜日

夏の終わりの方程式は解けるのか

「真夏の方程式」
東野圭吾

単行本: 416ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 416380580X
ISBN-13: 978-4163805801
発売日: 2011/6/6

 小学5年生の恭平は、ブティックを経営する両親の仕事の都合から、夏休みの一週間を伯母夫婦が営む海辺の旅館で過ごすことになる。
 一人旅の車中で変わり者の男と知り合った恭平は、その男に旅館の名前と住所を教えたところ、あとでその男も宿泊客になってしまった。それが湯川学だ。 

 東野ミステリーはいつでも超人気。そのガリレオシリーズの最新作。
 主人公は当然、天才物理学者の湯川学。どうもTVドラマや映画の影響が残っていて、ついつい福山雅治さんや柴崎コウさんの顔が浮かんでくるのがつらい。少し、イメージが違うのでね。
 今回は恭平くんとその従姉や伯父伯母がからむ人情篇。「容疑者Xの献身」につづく、献身の物語。

 海辺の町では、ある企業が海底開発を進めるための説明会をおこなっていた。湯川は科学者としてオブザーバーの立場で科学的見地からの評価を進めるらしい。
 恭平の従姉の成実は海を愛する立場から慎重に企業の説明会にも参加している。
 恭平と伯父が庭で花火を楽しんでいた翌日、旅館の宿泊客が海岸の堤防から落ちて死亡しているのが見つかる。最初は事故死で片付けられたが、身元が判明するや、司法解剖もおこなわれる。
 被害者はもと警視庁の刑事だったのだ。そして死因は一酸化炭素中毒だった。殺されてから海岸に運ばれたのか。県警からも大規模な捜査陣が送り込まれることに。

 恭平と湯川の交流が楽しい。水ロケットにカメラをセットして沖合いの海底を実況中継したり、花火の原理を、実物の花火を楽しみながら説明する。少年にはいい夏休みだ。
 町を守ろうと立ち上がる人々と、高校時代の同級生の警官からも情報を仕入れながら、成実は捜査の状況をさぐる。

 東京では、警視庁の草薙や内海薫が、湯川の指示で独自の捜査を始めた。被害者と恭平の伯母たち成実の家族には、なんらかのつながりがあるはずだ。

 謎は大掛かりでもなく、解決はこれでよかったのか、との思いも残る。
 ただ、事件はそれぞれの立場で解決したといえよう。
 人はそれぞれの思いを持って生き続ける。
 「どんな問題にも答えはある。答えを出すためには自分自身の成長が求められる。だから人間は学び、努力し、自分を磨く必要があるんだ」
 少年と博士、一夏の花火が消えていく。
 
 この夏の傑作。おそらく、今年のベスト1だろう。
 

2011年8月29日月曜日

そして新しい龍馬がよみがえる

「龍馬奔る 少年篇」
山本 一力

単行本: 267ページ
出版社: 角川春樹事務所
ISBN-10: 4758411743
ISBN-13: 978-4758411745
発売日: 2011/07/08
 天保6年11月15日。土佐の高知城下でひとりの男の子が産声をあげた。誕生の日の朝に、父親は金色の駒の夢を、母親は火を吹く龍の夢をほぼ同時にみたという。産まれた子供は毛深く、背中の産毛が特に濃かった。男の子は龍馬と名付けられた。
 坂本家の外戚にあたる才谷屋は土佐藩勘定御用も勤める両替商であり、藩の侍たちには質屋として重宝がられている。
 当主の五代目八郎右衛門は龍馬の誕生を盛大に祝い、半里四方の村々に触れて回り、餅撒きをおこなう。


 その才谷屋の庇護の元、姉の乙女にも可愛がられ、龍馬は通常より背の高い、たくましい少年として育っていく。
 そして、満一歳になったときには河田小龍が家庭教師として読み書きを教えることになった。
 四歳になった6月、龍馬は高知城の石垣登りに挑んで成功し、苦手だったアオダイショウも同時に克服する。

 その2ヶ月前の天保9年4月13日、柏木村の大庄屋、中岡家に待望の男子が産まれた。福太郎と名付けられたその子は三人の姉に守られて、聡明な少年に育っていく。
 3歳で光次、7歳で慎太郎と名を改めたころ、龍馬との出会いがある。


 さて、土佐出身の山本さん。ジョン万次郎が始まったばかりだというのに、今度は龍馬と中岡慎太郎だ。
 土佐の風物、名産、食い物、酒は当然司牡丹を散りばめ、若き日の龍馬と慎太郎の成長を丁寧に描いている。
 そこで龍馬は瓜を握りつぶすことで握力を鍛え、石垣登りで度胸をつけ、室戸岬のクジラ漁師のもとで根性を鍛えることになる。
 中岡慎太郎は料理番の子・跳太を遊び相手に、川で泳ぎを覚え、肝試しの滝壺飛び込みで度胸のあるところを知らしめる。それは同時に人の上に立つ資質を際立たせるものでもあった。


 そして、成長する者と対比するように親しい人たちも亡くなっていく。才谷屋五代目の葬儀にはクジラ漁師たちが華やかな幟をたてて参列する。そして、巻末、母重篤の知らせを聞いた龍馬は、室戸から漁師の勢子舟に乗って高知城下へ急行することになる。


 いやあ、新しい龍馬像に感嘆する。
 さて、いつまで付き合えるのか。
 

2011年8月24日水曜日

チャンバラ版『俺たちに明日はない」ーなのかな


ARAKURE あらくれ」
矢作 俊彦・司城 志朗 

単行本: 282ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4152092173
ISBN-13: 978-4152092175
発売日: 2011/6/23

 百姓の子ながら、負けず嫌いで自己流の剣術の腕をみがいていた亮介は、名主の困った事態を救う。だが、そのせいで煙たがられ、故郷を逃げ出すはめに陥る。
 生まれ故郷を追われた亮介は無宿渡世人となり関東をさまよっていたが、ある宿場の賭場で、同じく無宿人の欣蔵と出会う。
 賭場でのもめごとを納めたことで欣蔵は、年下ではあるが亮介の子分として従うことになった。

 物語の始まりは、またまた「横浜」。
 前回山崎さんのレビューでは横浜は明治期の活気あふれる街になっていたが、今回の横浜は異人たちの居留地が出来始めたころの、まだまだ神奈川宿の一寒村でしかない。
 矢作、司城コンビの時代劇。と書いて、調べてみると、何作か明治時代の冒険活劇があるようで、あわてて、コンビ初の、と書いていたのを削除。今回は幕末のロード・ムービー。

 賭場で賭け金のかたとしてもらいうけた割符をもって横浜港へ荷物を受け取りに行くと、「それはわしの荷物じゃきに」と土佐弁の男が邪魔をする。中身はピストルとライフルだった。この男、才谷梅太郎という宛名の主は自分だと主張するのだが、人には坂本さんと呼ばれていたようだ。怪しい。
 ピストル2丁とライフルを自分のものにした亮介と欣蔵、ここからふたりの賭場荒らしというギャング生活が始まるのだ。

 そこに講談師があらわれ、二人のあらくれぶりを講談に仕立てて人気を博する。ふたりにとっても、悪党だ、義賊だ、残虐な人殺しだ、と勝手なうわさが先行することを避けることにもなった。
 坂本龍馬の所属する小千葉道場には、村の幼なじみの良吉とその妹も顔を出していた。妹の舞とは浅からぬ因縁がある。
 ある宿場では京へむかう近藤勇との出会いがあった。いつか京へくれば侍にしてやる、との言葉が亮介の心に火をつける。

 幕末オールスターキャストだね。
 なおかつ会津藩の大名行列をそれと知らずに襲い、大金を手にしてからは、幕末の歴史に流されていく悲劇が語られていく。
 悲劇だけれど、喜劇。昔の東映明朗時代劇、日活の無国籍ギャング映画のノリで楽しめる。ある映画監督の評では、べたぼめだった。映像化される日がくるかもしれない。

 「明日に向かって走れ」「俺たちに明日はない」を日本の幕末に舞台を移して、かっこ悪い男たちのかっこ悪い生き様を描く、時代劇ハードボイルド。
 

2011年8月21日日曜日

唐人お吉が明治の横濱で活躍する


「横濱 唐人お吉異聞」
山崎 洋子

単行本: 226ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062167530
ISBN-13: 978-4062167536
発売日: 2011/1/28

 明治12年、横浜。
 絵双紙屋で働く20歳の瑠璃をめぐる物語。
 母は紀代といい髪結の腕は一流だが、時代の流れについていけないところもある。なにせ明治もハイカラな西洋風になっていこうという頃合いだ。父は増吉というが、実の父ではなく、何事につけ事態をリードする紀代に頭があがらない。
 実は瑠璃には、親に捨てられたという記憶がある。目覚めると馬小屋で寝ていた時の、旅芝居の白粉の匂いにまみれていた時の記憶が鮮明に残っているのだ。

 ミステリーからスタートした山崎さんだが、ファンタジー色の強い作品から、今回のような人情味劇までポジションは幅広い。

 友だちの奈加と遊びに行った夜店で、らしゃめんと外人に因縁をつけられたところをお吉という気っぷの良い女に救われる。
 お吉とは何者?
 幕末の下田で時のアメリカ総領事ハリスの囲いものとなった、有名な唐人お吉なのか。周囲の人たちはお吉の顔見知りであり、何年ぶりかの再会を喜んでいるようだ。ただ、紀代だけは関わりを避けている。ともに髪結を生業とするのだが。二人の間に何があるのか。
 
 明治が明治となっていく横濱、あえて旧字で書かれたタイトルが意味深。
 お茶場という、輸出用の茶の加工場で働く女たち。居留地で外人に雇われる男たち。当の紀代にしても西洋風の髪型を自分の技術に取り入れることに抵抗を感じたりもしている。お吉の方は破天荒な生き方そのままに新しさを自分の売り物にする。写真術の進展なども大きな比重を占め、主人公のこれからにも大きく影響を与える。

 さて、瑠璃は前から気に掛けていたイケメンの元次が悪漢に襲われて重傷を負い、その看病の中で、二人の仲が急速に接近する。
 その時、お吉が明かす真実。そして紀代が明かす真実。
 
 明治初期の横浜を舞台になぞの女がもたらした家族再生の物語。
 

2011年8月17日水曜日

昭和のモダンタイムズの記録のすきまから


「小さいおうち」
中島 京子

ハードカバー: 319ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 4163292306
ISBN-13: 978-4163292304
発売日: 2010/05/30



 昨年(2010年)上半期の直木賞受賞作品。
 昭和初期から、日支事変、太平洋戦争をはさんで語られる、女中さんの思い出話。
 ひとつ仕掛けがしてあって、この思い出の手記を甥っ子が時々読んでいる、ということで、現代の若者から見た「その時代」への違和感が筆者と甥の会話の中で表されるが、それが読者の感想に結びつくことになる。

 昭和5年春、タキは12歳で山形の農家から女中奉公に出た。小説家の家での短い奉公のあと、タキが仕えたのはひとり息子を持つ時子奥様。タキと時、というゴロもよいが、時子さん自身の造形が鮮やかで、戦前の華麗な御婦人の様子が浮かび上がる。
 タキが時子の家に奉公にあがって間もなく、ご主人が亡くなり、時子は幼い息子とともに平井家へ再婚することになる。
 平井は一回りも年上の実業家だが、優しい男で、連れ子の長男恭一と、女中のタキも同時に厄介になることに。
 そして、当時には目新しい、私鉄沿線沿いの瀟洒な一戸建てでの生活。画家と思しい青年がスケッチしに来るような家で、タキの本格的な女中奉公が始まるのだ。

 玩具製造会社の重役として、着々と事業をこなしていく平井。その家の女中として、タキは時子や恭一とともに幸せな一時期を過ごす。
 東京オリンピックが中止になり、日本に戦争の足音が近づく。だが、生活を楽しむタキたちには重苦しさはない。鎌倉の知り合いの別荘での海水浴、デパートでの買い物や食事など、この時代の華やかな場面ばかりがトキの記憶に残っているのだ。
 その中には会社の新人玩具デザイナーの板倉正治もいた。彼と時子夫人との秘め事がタキにとっても気がかりなことになる。
 
 初めに仕えた小説家の先生が教えてくれたイギリスの学者の家政婦の話。良い家政婦は学者が世に出すのをはばかる原稿を、それと知って自分から火の中に投じる。
 このエピソードが女中としてのタキの立場を正当化する。

 出征を前にした板倉と、時子の関係に決着をつけようとするタキ。
 そのとき、タキがとった手段とは。
 東京大空襲の前にタキは田舎へ帰される。疎開してきた子供たちを見るたびに、恭一ぼっちゃんのことを思い出す。そして、子供たちを送って一年ぶりに東京へ戻ったタキは時子奥様と最後の別れをすることになる。

 最終章「小さなおうち」は、甥の健史が、亡くなって4年になるタキが最後に残したブリキのジープの話を追求する物語になる。タイトルに使われたバートンの「ちいさなおうち」の原書からヒントを得て、ある作品を残した作家から導かれ、過去を巡る旅に出る。
 そこで見つかる、大伯母の秘密とは・・・
 

2011年8月13日土曜日

首都をねらうミサイル、対するは自衛隊BMD

「迎撃せよ」
福田 和代

単行本: 389ページ
出版社: 角川書店
ISBN-10: 4048741616
ISBN-13: 978-4048741613
発売日: 2011/1/29
 前々回のレビューに続く福田さんの作品。
 それも、超話題作。と期待がつのる。
 たしかに、スタイリッシュ、そしてクール。かっこいい作品。

 プロローグ、4月のある日、マレーシアから中国に曳航されていくメガフロートが武装集団に奪われる。
 そして、「北」から弾道ミサイルが日本に向けて発射される。ミサイルは日本上空を通過して太平洋上に落下した。自衛隊のミサイル防御部隊はそれを見送り、実被害のなかったことで安堵するのだが。
 そのどさくさの中、岐阜の自衛隊基地からF−2戦闘機が何者かに奪われ、装備していたミサイルが富士山麓の樹海に発射される。
 
 主人公は航空自衛隊府中基地に所属する安濃一尉。いまは強迫神経症にも似た症状に悩まされている。しかし、彼は退官した加賀山一佐に薫陶を受け、真の自衛隊員としての心に目覚めていた。
 安濃の部下、遠野真樹二尉。女ながらピストルの腕はオリンピック選手として折り紙つき。彼女が安濃をバックアップして事件が進展する。

 F−2戦闘機を奪った犯人から日本政府に脅迫状が送られて来る。30時間後にミサイルを打ち込む。身代金は9億円。
これは「北」の陰謀なのか?
 9億円では戦闘機1台にも及ばない額だ。
 犯人の狙いは本当は何なのか?

 そして安濃が師と仰ぐ加賀山元一佐。加賀山が何かを握っていると見た安濃は、彼が身を潜めている北軽井沢へ単身乗り込んで行く。
 そこではすでに工作員たちが罠を仕掛けて待ち受けていた。安濃を追って北軽井沢へ向かう真樹と自衛隊員たち。工作員たちの襲撃をかわした安濃と真樹は真相を握る加賀山を追求していく。
 
 「北」の工作員の狙いと加賀山が目指すもの。その乖離と、それを予測している加賀山が目標としていた真の対象とは?
 ミサイルは打ち込まれるのか。奪われた戦闘機は撃墜されるのか。ミサイルが発射されたときに迎撃できる能力は自衛隊に存在するのだろうか?
 
 きれいにまとまりすぎた、といえば言い過ぎかな。国産ミリタリー・ミステリーを期待する向きには、あっさりし過ぎ。ハイテクスリラーにすれば短かすぎるかも。日本の風土に根ざした軍事小説は、まだまだ発展途上のようだ。
 

2011年8月9日火曜日

キングに敵対するクイーン、さてその顛末は


「キング&クイーン」
広司

単行本: 298ページ
出版社: 講談社 (2010/5/26)
言語 日本語
ISBN-10: 4062162237
ISBN-13: 978-4062162234
発売日: 2010/5/26


 元SP、冬木安奈。いまは六本木のバーでホステス兼、セクハラ酒飲み男の追い出し係みたいなことをやっている。
 彼女のもとに警護の依頼が届く、というより押し付けられる。依頼者はレンちゃんこと宋蓮花。警護されるのはアンディ・ウォーカーというチェスの世界チャンピオン。彼はある事から米大統領の怒りを買い、国家反逆罪で手配されているという。
 そんなアンディを誰かが狙っているというのか。

 一昨年、短編連作「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」で話題をさらった著者の、趣向を変えた長編。文体は短編向きかと思えるが、設定はなかなか入り組んでいる。
 チェスのチャンピオンという人種の一風変わった生態、その精神的ひずみがもたらす変人ぶりとトラブルがあらわにされていく。

 安奈は元SPの素養を活かしてアンディを匿っていくが、アンディの場当たり的な対応とレンちゃんの非協力な態度で、保護されるべき対象がみずから隠れ家を抜け出したりしてしまう。
 現在の逃避行とアンディの少年時代、チャンピオンとなっていく過程が並行して描かれていくが、途中、あれ、と思う回想が出てくる。9・11の悲劇がもたらす影が覆うもの。それは・・・

 やはりチェスの奥深さ、チェスチャンピオンなる人物の不可解さが物語のメーンだろうか。チェスの指し手と公安関係の思考経路がなにやらだぶってくるというのも、著者の筆の冴だ。究極の頭脳戦、と帯にあるが、なるほどそうかも。

 ジョーカー・シリーズはある意味、裏切られる楽しみがあったが、今回は素直にストーリーに詰め寄られたかっこう。こころよいチェックを楽しもう。
 

2011年8月7日日曜日

六本木のビルをビルジャックした犯人たちの目的は

「タワーリング」
福田 和代

単行本: 249ページ
出版社: 新潮社
ISBN-10: 4103294612
ISBN-13: 978-4103294610
発売日: 2011/04/22

 東京の巨大ビル・ウインドシア六本木がハイジャックならぬビルジャックされる。
 人質にされたのはこのビルのテナントに勤務するすべての社員、そしてビルに住まう人々、なおかつビルのオーナーであり都市開発企業マーズ・コーポレーションの社長・川村章吾。
 犯人たちはエレベーターをは停止、すべての通路を遮断し、逃走用のヘリコプターと現金5億円を要求して立て籠った。

 と、構想は壮大だが、いかんせん、少し小粒にまとまってしまった。
 犯人たちに対決するのは、ウインドシアを建設したマーズ・コーポの社員たち。とくに川村社長の幼なじみで献身的に社長に尽くす副社長・中沢。そしてまだ若輩ながら、中沢からは目をかけられている課長の船津。ビルの構成を知り尽くしている社員たちはビルジャック犯に立ち向かい、その裏をかいてSITの突撃に協力していくのだが。

 犯人像が鮮やか。元マーズの社員で社長にうらみを抱く男、余命いくばくもなく都市開発に復讐心を持つ中年、自分の過去をふっきれないオタク崩れ、そんな男たちを束ねる主犯格の少女。だが、ボスはもうひとりいるようなのだ。

 犯人たちの裏をかき、お掃除ロボットを使って警官たちとの接触をはかる船津。犯人たちは意外な手段で脱出の道を開こうとする・・・。

 3月の「ハイ・アラート」では、ちょっと厳しい評価を下してしまったが、今回もせっかくの設定を活かしきれていないというか、もっと発展する余地もあったのに、中編程度に短く収まってしまった。やはり、話題作「迎撃せよ」に期待するか。

2011年8月6日土曜日

だるまさんがころんだ、で、後ろを振り返ると

「七人の鬼ごっこ」
三津田信三

単行本: 394ページ
出版社: 光文社
言語 日本語
ISBN-10: 4334927491
ISBN-13: 978-4334927493
発売日: 2011/3/19

 「西東京・生命の電話」に自殺志願者から電話がかかってくる。受けたのはベテラン相談員の沼田八重。
 奇妙なことに、そのとき、声が聞こえた。
 「だぁーれまさんが、こーろしたー」

 そのとき、八重のなかになつかしい風景が思い浮かぶ。そして、相談者との会話から、電話の相手が自分の知っている場所から電話しているのだと結論する。
 八重は市の福祉課に知らせ、翌日の夜に自殺しようとしているはずの男を保護するよう依頼した。だが、翌日の夜、すでに男の姿は消え、崖から転落した跡と血痕が見つかっただけだった。

 刀城言耶シリーズではなく単独もの。刀城言耶もカメオ出演するけれど。
 ホラーミステリー作家の速水晃一が連続殺人の謎を解く。

 そして次の週、ホラーミステリー作家である速水晃一のもとに捜査員が訪れる。
 自殺志願者は多門栄介といい、えいちゃんの愛称で、こうちゃんこと速水晃一の幼なじみだったのだ。
 栄介はその週、毎晩、幼なじみたちに電話をかけていた。自分を含めて6人の仲間たちに一日ずつ生き延びるチャンスを与えてもらっていたのだ。しかし、6日目にはもう電話をかける相手がいなくなり、生命の電話に頼っていた。しかし、七日目にはもう誰も電話する相手がいない。

 そして、電話をうけていた幼なじみたちのもとに、翌週、再び電話がかかってくる。そのとき、無言電話のなかにかすかな声が聞こえた。
 「だぁーれまさんが、こーろしたー」
 そして電話を受けた仲間たちがひとり、またひとりと不審な死にかたをする。

 摩舘市、垂麻一族、達磨神社など、怪しいネーミングの地名や、3章ごとに挟み込まれる「ある風景」で描写される子供たちの「だるまさんが、ころんだ」の遊戯の風景が徐々に恐怖をつのらせていく。

 その恐怖の連鎖が連続殺人の被害者の連鎖につながり、残酷な殺人が読者の眼前で再現される。
 速水は信頼する幼なじみの友人である教授と一緒にその謎を解明しようとするのだが、ついに彼にも魔の手がせまる。
 七人目は意外なところから判明していくのだが。
 さあ、恐怖の鬼ごっこの八人目になろう。
 

爺の読書録