2013年12月17日火曜日

潜航せよ、3年前は、迎撃せよ、と言ったのに

「潜航せよ」
福田 和代 (著)

単行本: 398ページ
出版社: 角川書店
言語 日本語
ISBN-10: 4041105846
ISBN-13: 978-4041105849
発売日: 2013/10/26

中国の戦略型原子力潜水艦が、日本海で原因不明の爆発事故を起こした。同じ頃、春日基地で防空管制を勤める遠野真樹一等空尉は、海栗島に赴任したばかりの安濃小隊長を呼び出し、驚愕した。この男は、安濃ではない!
内容(「BOOK」データベースより)
核弾頭ミサイル搭載潜水艦で起きた叛乱。拉致された自衛官。日本海を挟み高まる緊張、それぞれが決死の攻防に立ち上がる! 大型ミリタリー・サスペンス!

 3年前の事件。
 官邸にメッセージが送られて来る。首都を攻撃するというのだ。猶予は30時間。そんな中、航空自衛隊岐阜基地から、ミサイル搭載戦闘機F―2が盗まれた。犯行予告の動画に、自衛官・安濃はおどろく。俺はこの男を知っている!
 それが、2011年1月に刊行された

「迎撃せよ」
だった。

 その時に事件を解決した安濃一尉が今回もまたまた事件に巻き込まれる。当時の部下だった遠野真樹一等空尉もこれまた、事件の渦中に飛び込んで行く。
 
 主人公・安濃(あのう)は事件の責任をとらされる形で、硫黄島へ転任されていた。そして今回、島根県対馬の基地へ配置転換されることに。

 フェリーの深夜便で島へ渡ろうとする安濃は漁師らしい男と知り合い、男の誘いで、基地からの迎えが来るまでの数時間を、男の家で過ごすことにする。

 一方、中国の原子力潜水艦が極秘任務で日本海を北上中、副長と配下の乗員たちが反乱を起こす。艦長の劉暁江は船医とともに反乱の動機を探ろうと動き始める。

 そのころ北京ではクーデターが発生。その鎮圧をはかっていた、暁江の弟である亞州は、韓国人らしき男から、兄の乗った潜水艦が日本人の手で攻撃を受け沈没したと知らされ、その男とともに釜山へおもむくことに。

 という流れで、謎の潜水艦といえば、レッド・オクトーバー。不可解な行動を起こし、世界を破滅の寸前にまで導こうとするわけだが、今回の潜水艦は、竹島へミサイルを撃ち込むことで日本との戦闘状態に持ち込もうとする。

 遠野真樹は福岡の基地にいたが、安濃が対馬に移動するときいて、連絡をとろうとするが、どうもうまく通じない。結局、基地にいる安濃に電話を代わってもらったとたんに、相手は安濃ではないことに気付き、ただちにその男を捕らえることを基地の責任者に通報する。

 安濃は、釜山にとらわれの身となっていたのだが、かくまわれていた家の子供と親しくなることで脱出を成功させる。

 釜山では安濃と亞州の追撃戦が始まる。そこに遠野が到着して、みずからの射撃の腕前を披露して安濃を救うのだが・・・。

 潜水艦の反乱、北京のクーデター、暗躍する韓国人。舞台は大掛かりだが、どうも動きが単純すぎて、せっかくの大事件が尻すぼみになったような。
 艦長が立派だし、弟も肉体を駆使して、自分の信じる道を進んでいる。この兄弟はなかなか見物だ。

 巻末、謎の韓国人がふたたび弟を迎えに来るのだが、これは次につなげるための伏線だろう。
 つぎに日本にはどんな危機が訪れるのか。
 「世界一ついてない自衛官」(宣伝動画から)の安濃は、はたまたどこで事件に遭遇することになるのか。巻き込まれパイロットの遠野は・・・
 

2013年12月7日土曜日

晩夏光、まだ8月の香港で

「晩夏光」
池田 久輝


単行本: 260ページ
出版社: 角川春樹事務所
ISBN-10: 4758412235
ISBN-13: 978-4758412230
発売日: 2013/10/08


2012年、夏、香港。この地には、観光客を標的にした【スリ】、その盗品を売りさばく【露店】、回収した盗品を持ち主に返し謝礼を得る【回収】とそれぞれグループが存在し、三者共存の掟があった。ある日、回収側の人間である劉巨明が、何者かによって殺害された。仲間であった新田悟は、それを回収側のトップである陳小生から聞かされ、巨明の妻、麗文の元を訪ねるように指示される。そこで新田は、彼女からあるメモを渡される。メモには殺害された巨明の文字で「任家英に気を付けろ」と書かれていたのだ。果たして、巨明を殺害した犯人とは? 〝任家英〟とは何者なのか? 香港に渦巻く深い闇に、新田は巻き込まれていく――。北方謙三、今野敏、角川春樹、全選考員満場一致で受賞。あのハードボイルドの重鎮たちをも唸らせた!! 香港を舞台にしたハードボイルド群像劇。


 結局、悪口になってしまいそう。
 ハードボイルドの重鎮たちを唸らせたというのは、
 じつはあまりのあっけなさに嘆いて、唸ったんじゃないの?


 傷心をかかえた新田悟は、香港の裏社会で、日本人観光客とのつながりを通して、日本とのつながりをかろうじて持ち続けている。
 
 ある日、殺人事件が起こる。
 劉巨明(ラウ・ゴイミン)、回収側の使い走りだ。彼が殺される。その葬儀のだんどりをつけようと、巨明の家へおもむくが、巨明の妻・麗文(ライマン)のそぶりがおかしい。部屋の中に誰かいるのか?


 新田たちのグループの長である陳小生(チャン・シウサン)がひそかに動き回っている。何者かが新田たちのグループをかき回しているようだ。


 葬儀屋、許志論(ホイ・ヂーロン)はまだ若い男だが、不気味さをもったやっかいな存在だ。かれらの裏社会に通じている、その如才なさが、逆に安心感を与えてもいる。
 1年半前、新田が香港に着いたばかりの頃に、新田と許は初めて出会っている。
 そのとき、張富君(チュン・フーワン)の一人娘、玲玲(レンレン)が自殺する騒ぎがあった。まだ15歳の若さで、アパートの屋上から飛び降りたのだ。母親の楚如(チョー・ユイ)のなげきはいかばかりだったか。
 


 死んだ巨明が隠し持っていた手紙には、新田に謝罪する文章が書かれていた。また、陳を裏切ったとも。
 そして任家英(ヤム・ガーイン)に気をつけろ、と言い残していた。


 羅朝森(ロー・チウサム)、陳に頭のあがらない、香港警察の悪徳刑事だ。管轄は違うが、捜査に協力しているという。新田と羅が乗ったトヨタに、何者かが襲撃を仕掛けて来る。
 
 そんな男たちが、香港の街を駆け抜けていく。
 ヴィクトリア・ハーバーは維多利亞彎であり、タクシーは的士、そんな書き方が異国ムードをかき立てるかと言うと、そうでもない。


 人物名からしてそうだ。
 製本の構成では、きっちりと、見開きページの最初に出て来たところにルビを振ってくれている。だが、左のページに移ってしまうと、思わず、右面からルビをさがしてしまう。
 そこで、読み進めるのが遅れて来る。


 事件が起こって、そこから進展しそうなのだが、はがゆいほど堂々めぐりばかり。
 結局、チンピラたちが右往左往しているだけの印象しか残らない。
 すべての動機のもとにしても、やっぱり、という程度。
 最大の悪者・任家英の正体も明らかにならず、これは続編狙いなのか?
 日本のハードボイルドがこれだと思われても困る。
 

爺の読書録