2013年1月29日火曜日

歳々年々、同じでないものは

「歳々年々、藝同じからず」
米朝よもやま噺
桂 米朝/語り

単行本: 219ページ
出版社: 朝日新聞出版
言語 日本語
ISBN-10: 402250997X
ISBN-13: 978-4022509970
発売日: 2012/8/7


 大阪・朝日放送のラジオ番組「米朝よもやま噺(ばなし)」を再構成した本の3冊目。なつかしい芸人や役者、芸者にお茶屋の思い出から、枝雀や吉朝ら、弟子のことまで自在に語る。「そもそも、民主主義と芸事というものは、どこか相いれんもんがあるような気はしますなあ」と、さらり。「芸というものを他人に教えるというのは、実に難しいことなんや」と言いつつ、自らの師匠・四代目桂米團治(よねだんじ)から「いろんな話を聴かせてもらいました」と振り返る。「それは師匠が、ネタのことを常々考えてたから自然にできたことです。ほんまに芸が好きやからこそ語れる、それが芸談なんや」。まさにそんな本だ。
[聞き手]市川寿憲


 2009年12月〜2012年5月『朝日新聞』大阪本社版連載「米朝口まかせ」をまとめたもの。
 もとはラジオでの口演→新聞に連載、ということで、いくら米朝さんでも、口調をそのまま再現するというのは難しかろう。
 とはいえ、芸歴の長さ、つきあいの広さ、遊びの深さがかもし出す名人ぶりには感嘆する。

 寄席の名人たちの名前もなつかしい。
 それよりも今現在のお弟子さん、各界の名人たちの話題も豊富だ。
 当世落語家たちを集めた高座なのに、昔の名人がよかった、という観客に向かって、昔の人は忘れて今の落語家たちを聞いてください、と発奮するディレクターの思い入れがうれしい。
 
 落語もしばらく遠ざかっていたが、最近になってTVの上方落語などを録画して見直すこともあり、少し気分を変えての一冊となった。落語も聞かなくっちゃ。
 

2013年1月23日水曜日

ひなこまち騒ぎに湧く江戸の町で

「ひなこまち」
畠中恵著

単行本: 253ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語
ISBN-10: 4104507164
ISBN-13: 978-4104507160
発売日: 2012/6/29


お江戸のみんなが、困ってる!?  大人気「しゃばけ」シリーズ最新刊。いつも元気に(!?)寝込んでる若だんなが、謎の木札を手にして以来、続々と相談事が持ち込まれるようになった。船箪笥に翻弄される商人に、斬り殺されかけた噺家、霊力を失った坊主、そして恋に惑う武家。そこに江戸いちばんの美女探しもからんできて――このままじゃ、ホントに若だんなが、倒れちゃう! シリーズ第11弾は、いつもの年より一月早いお届けです!

 いつもは夏に読む「しゃばけ」シリーズだが、今回予約が遅れてしまって、半年遅れの「冬しゃばけ」。いやいや、季節には関わらず、いつ読んでもおもしろい。ピークが桜のころの話になるので、春に向けての気持ちの準備もかねて、大いに楽しませていただいた。
 
 長崎屋の荷物にまぎれて「お願いです、助けてください」と書かれた木札がどこからか舞い込んでくる。ここから若だんな・一太郎の冒険が始まる。

『ろくでなしの船箪笥』
 友人の七之助が上方から持ち帰った船箪笥。なぜだか引き出しが開けられない。たしか荷物の中には上方の根付けが入っているだけなのに。そして店に怪異が現れる。誰もいない部屋で奇妙な影が現れたり、魚が急に腐ったりするのだ。そのわけは・・・

『ばくのふだ』
 広徳寺の住職が悪夢から人を救うという「獏の札」を配っているのだが、それがまったく効かなくなっている。そのために、江戸の町に怪異が続く。悪夢を食べる獏が消えてしまったのだという。 
 ある夜、落語を聴きに寄席に出向いた若旦那はそこでも怪異に出会う。怪談話そのままに幽霊が歩き始めた。そして怪談噺が得意な噺家を、浪人がなぜかつけねらっているのだ。
 噺家は本島停馬久という、獏の化身だった。
 
『ひなこまち』
 大江戸美人コンテスト、雛小町えらびが始まった。ひなこまちに選ばれた美女は、来年のひな祭りのお雛様のモデルになるという。ひなこまちに選ばれればどこかの大名の側室に選ばれることもあるかもしれない。若い娘たちは夢中だ。それにあやかって盗品の着物を売ろうとする悪者なども現れて大騒ぎ。古着屋の美人娘の於しなが古着を盗まれて困っているところに一太郎が出くわす。

『さくらがり』
 少し訳ありで、若旦那には昨年の桜見物の記憶が飛んでしまっている。広徳寺に桜見物に出掛けた若旦那や妖たちのもとに、河童の禰々子が大利根河童の手土産を持って訪れる。それは河童の秘薬と呼ばれる何種類かの丸薬だった。
 たまたま寺に桜見物に来ていたお侍・安居さまが、その中の「惚れ薬」を欲しそうにする。安居の妻で、子供ができずに悩んでいる雪柳が出家しないよう、その薬で繋ぎ止めたいのだという。
 そしてさくらがりに出向いた一同は、夢ともうつつともわからないままに・・・

『河童の秘薬』
 いよいよ雛小町選びが始まり、一太郎も西方の選考をまかされることに。
 安居の妻・雪柳も河童の秘薬を飲んでしまい、一同の夢の中でひとりの子供に出会う。その子供が誘拐され、芝居小屋に連れ込まれてしまう。
 さて、その子供の正体は。そして、始めに現れた木札の因縁がここにようやく判明する。

 と、屏風のぞきをはじめ、妖たちがオールスターで大活躍。かっこいい禰々子さんも要所を締めてくれて、ほんわかとした読後感はなにより。
 来年が楽しみ。
 

2013年1月19日土曜日

眠れる女を狂卓の騎士が守る


 「眠れる女と狂卓の騎士」(上・下)
スティーグ・ラーソン/著
ヘレンハルメ 美穂 (翻訳),
岩澤 雅利 (翻訳)

ペーパーバック: 494ページ、473ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語, 日本語, 日本語
ISBN-10: 4152090480
ISBN-13: 978-415209048597
発売日: 2009/7/9


宿敵ザラチェンコと対決したリスベットは、相手に重傷を負わせたものの、自らも傷つき、瀕死の状態に陥ってしまった。現場に駆けつけたミカエルの手配で、リスベットとザラチェンコは病院に送られ、一命を取りとめる。だが、彼女の拉致を図っていた金髪の巨人ニーダマンは逃走してしまう。この事件は、公安警察の特別分析班の元班長グルベリに衝撃を与えた。特別分析班は、政府でも知る人の少ない秘密の組織で、ソ連のスパイだったザラチェンコの亡命を極秘裡に受け入れ、彼を匿ってきた。今回の事件がきっかけでそれが明るみに出れば、特別分析班は糾弾されることになるからだ。グルベリは班のメンバーを集め、秘密を守るための計画を立案する。その中には、リスベットの口を封じる卑劣な方策も含まれていた…
リスベットは回復しつつあったが、様々ないわれのない罪を着せられていた。リスベットを守るためミカエルは、彼女の弁護士になった妹のアニカ、警備会社の社長アルマンスキー、彼女の元後見人パルムグレンらを集めて、行動を開始する。だが、特別分析班は、班の秘密に関与する者たちの抹殺を始めた。さらに彼らの過去の悪事を露見させる書類をミカエルたちから取り戻すべく、強硬策に出る。一方ミカエルは、病院内にいるリスベットと密かに連絡を取ることに成功、必要な情報を彼女から得ようとする。そして、特別分析班の実態を暴く捜査を開始した公安警察と手を組み、巨大な陰謀を解明しようとする。やがて、リスベットの裁判が始まり、特別分析班に操られた検事とアニカ、リスベットが法廷で白熱の闘いを繰り広げる!
世界中に旋風を巻き起こした驚異のミステリ三部作、ついに完結!

 ということで、実は「ミレニアム」3部作の完結篇。
 刊行は3年前で、その年のミステリーベストなどで3部作がベストワンに輝いている。そのときに2巻までは読んだのだが、その後、話題が広がり、図書館で見つけることがなく、ついつい延び延びになってしまった。
 昨年、本国での3部作映画化に次いで、米国でも第1話がダニエル・クレイグの主演でリメイクされ、それを見ていると、やはり続きが気になって、気になって・・・
 
 で、ようやく読み始めることができて、第1巻の映画や、第2巻のストーリーを思い出しながら読むことになる。
 ミレニアムというのは左翼系の雑誌の名前。といっても過激な部分はなく、政府に対する批判やスウェーデンの闇を暴くことが中心になっている。
 ミカエルはその雑誌の経営者であり編集長だが、ある財閥の背景を暴いたことで政府から目をつけられ、雑誌をやめることに。そのときにミカエルの身上調査をしたのがリスベットだった。
 リスベットは天才ハッカーの女性で、背中にドラゴンの刺青をしている。第1巻「ドラゴン・タトゥーの女」の由縁である。
 失業したミカエルは地方の金持ちの伝記の執筆をまかされることに。だが、この豪族の一家には秘密があり、なおかつ、36年前にある少女が邸宅のある島から謎の消失をしたまま行方不明になっている。
 その調査を進めるためにミカエルはリスベットを協力者として迎える。
 この話が映画化された第1巻。本国版は原作に忠実に、米国版は結末が違っている。
 だが、女性差別、ネオナチの暗躍など、主要なテーマは踏襲されていた。

 第2巻では、リスベットの過去が少し現れてくる。
 そしてミカエルの標的が姿を現す。人身売買、日常的な強姦など、スウェーデンの暗部が描かれる。
 だが、3巻へのつなぎの要素が多く、早く次を、という欲求が加算されるばかり。
 リスベットは幼いころ、母を虐待する父親・ザラチェンコとの反目から父親をクルマごと燃やそうとしたことがある。それが「火と戯れる女」というわけ。
 ザラチェンコはソ連から亡命したのだが、公安警察のスパイとして、政府の暗部で行動していた。
 公安の実態をつかんだミカエルは、それを公表することの危険も理解していた。
 その恐れのとおり、ミカエルとリスベットは襲撃を受ける。リスベットは頭に銃弾を受け、地下に埋められてしまう。

 そして第3巻。
 リスベットは病院のICUに隔離されている。
 ザラチェンコや、その一味との対決のなかで瀕死の重傷を負い、頭部にも銃弾を受けていた。頭部の銃傷は外科医により銃弾も取り除かれ、奇跡的な回復をみせる。
 かたや、ザラチェンコも重症のまま病院に収容され、リスベットのとなりの部屋で治療を受けていた。そしてリスベットの命を奪おうとするかのような動きをみせる。
 
 ザラチェンコが回復して真相を語るのを恐れる公安警察内の一部の組織は、ザラチェンコを処分、さらにリスベットをも標的にする。
 リスベットは重要参考人として拘束され、誰にも面会が許されない。
 そこでミカエルは自分の妹をリスベットの専任弁護士として彼女を担当させる。

 弁護士のアニカはリスベットを理解し、ミカエルとの連絡役として重要な役目を果たすことになる。加えて、手術を担当した外科医師もリスベットの本質を見抜き、協力を惜しまない。
 傷が回復したリスベットのもとにミカエルからPDAが届く。
 そこからは天才ハッカー・リスベットの面目躍如だ。まずyahooにふたつのグループを作る。「狂卓」(アーサー王の円卓のもじりだという)、そしてもうひとつが「騎士」だ。これが日本版のタイトルだね。そこにリスベットとつながりのある優秀なハッカーたちが世界中から集まってくる。当然電脳世界に国境はないのだが、何人かはコンピューターをクルマに積んで直接コペンハーゲンまでやって来る。
 すべては、回復したリスベットを待っている裁判に向けての対応策を練るためだ。

 だが、裁判が始まる前に、ミカエルや、ミレニアムをやめて新聞社の編集長になった共同経営者のエリカに悪の公安組織の手が伸びる。これを予知したリスベットが、ネット仲間を通じて妨害する手際のあざやかさ。
 そして公安警察の良心的な警官たちは、ミカエルに協力して警察の悪の部分を断ち切ろうとする。
 
 やがて回復したリスベットはミカエルの妹の弁護士とともに裁判に臨む。リスベットの異常さを訴え法的に拘束しようとする組織に対して、リスベットとミカエルは裁判での対抗弁論と雑誌や単行本、TV放送をも巻き込んだ対抗手段を取る。

 いやあ、おもしろい。法廷場面は短すぎて、ある書評ではリーガル・サスペンスだ、などとおっしゃる方もおられたが、そこまではいかないまでも、そこに盛り上がりを持ってくる手法は納得。それより、PDAを手にしたリスベットがここぞとばかりネットの海をさまようあたり、これはコンピューター小説じゃないか、と、古い言い方で思ったりする。
 さてこそ、著者の急逝でシリーズはここでおしまい。
 たしかに、次巻への伏線らしきものもあり、残念なことこのうえないが、そこはそれ、物語は続く、だがそれは別の話だ。
 2013年の年頭の2週間、3年遅れだけど楽しませていただきました。
 


2013年1月5日土曜日

アイ・コレクターは逆転に向かって進む

「アイ・コレクター」
セバスチャン・フィツェック
小津 薫 (翻訳)

新書: 405ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4150018588
ISBN-13: 978-4150018580
発売日: 2012/4/6

ベルリンを震撼させる連続殺人事件。その手口は共通していた。子供を誘拐して母親を殺し、設定した制限時間内に父親が探し出せなければその子供を殺す、というものだ。殺された子供が左目を抉り取られていたことから、犯人は“目の収集人”と呼ばれた。元ベルリン警察の交渉人で、今は新聞記者として活躍するツォルバッハは事件を追うが、犯人の罠にはまり、容疑者にされてしまう。特異な能力を持つ盲目の女性の協力を得て調査を進める彼の前に、やがて想像を絶する真相が! エピローグから始まる奇抜な構成、予測不能の展開。『治療島』の著者が放つ衝撃作。

 ふむふむ、と思うでしょう。
 405ページから始まり、404,403・・・と減っていく。
 エピローグのアレクサンダー・ツォルバッハ(わたし) からはじまり、最終章・結末、続いて第83章、82章と減っていく。ラストは序章・始まりなのだ。
 ただ、それは単なる章だてで、ストーリーは時系列にそって進んで行く。
 それが判明するまで逆にへんなこだわりを持ってしまって、ストーリーに入り込むまで時間がかかった。
 
 冒頭の「エピローグ」では刑事時代のツォルバッハが、誘拐された子供を救うため犯人を射殺せざるを得なかった経過が描かれる。そして今、記者となり、警察の情報を違法傍受しつつ、警察とは別に犯人追跡を続けている。
 ツォルバッハは妻との離婚調停をかかえながら、「目の収集人」追跡を続ける。犯人は子供を誘拐し、何処かに隠している。その子の母親を殺し、母親の死体が見つかると同時にカウントダウンを始める時計を残して行く。その時計が45時間を刻むと子供が殺される時間になる。
 そして、今回、収集人が4度目のゲームを始めたという情報が届く。
 なおかつ、息子のユリアンの行方がわからない、と妻からの電話。
 
 そんなツォルバッハの前に謎の女性が登場する。盲目の物理療法士だというアリーナだ。彼女は犯人を見たという。見たというより、彼女と接触したときに、犯人の記憶を見ることができたという。彼女とともに捜査を進めるが、その情報があまりに真実に近いがために、警察から犯人だと疑われることに・・・
 ツォルバッハは新聞社の実習生フランクの助けを借りながら、警察の裏をかいて犯人の足跡、誘拐された子供のありかを探索していく。
 
 張り巡らされた罠。まるで映画の「ソウ」シリーズみたいだ。 
 ツォルバッハの母を介護していた看護士を巻き込んだりして、犯人の意図が、いよいよツォルバッハの悪意を暴き出そうとしているように見える。
 間に挿入される、誘拐された子供の、脱出への試み。
 それがサスペンスを盛り上げる。
  
 フィチェックの作品は初期のころから読んではきたが、このブログでは初めてかな。
 暗い結末で、評価は分かれるところだが、すんなり読めるところはお勧め。
 

爺の読書録