2013年3月22日金曜日

ロスジェネの逆襲はこれから始まるぞ

「ロスジェネの逆襲」
池井戸 潤

単行本(ソフトカバー): 386ページ
出版社: ダイヤモンド社
ISBN-10: 4478020507
ISBN-13: 978-4478020500
発売日: 2012/6/29

人事が怖くてサラリーマンが務まるか!
人気の「オレバブ」シリーズ第3弾となる『ロスジェネの逆襲』は、バブル世代の主人公が飛ばされた証券子会社が舞台。親会社から受けた嫌がらせや人事での圧力は、知恵と勇気で倍返し。ロスジェネ世代の部下とともに、周囲をあっと言わせる秘策に出る。
エンタテインメント企業小説の傑作!
内容(「BOOK」データベースより)
ときは2004年。銀行の系列子会社東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。そこにIT企業の雄、電脳雑伎集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいと相談を受ける。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビッグチャンスだ。ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、周囲をアッといわせる秘策に出た―。胸のすくエンタテイメント企業小説。

AERAで初めに取り上げられた「ロストジェネレーション」
略して「ロスジェネ」世代とは、バブル崩壊後の失われた10年間、
1994年から2005年の超・就職氷河期に就職活動を行った世代のこと。

ここで出て来るロスジェネ世代の代表は新興IT企業のオーナー。「東京スパイラル」社長・瀬名。
その「東京スパイラル」を買い取ろうとする「電脳雑技集団」の社長・平山と彼の妻であり副社長の美幸。ここらはバブル世代といえる。
対決するのは、こちらもバブル世代で、買い取りの相談を受けた「東京セントラル証券」の営業企画部長・半沢。
半沢の部下の森山はロスジェネ世代、実は、中高で瀬名の同級生だった。

まず、東京セントラル証券に企業買収の話が持ちかけられる。
 
ところが、半沢たちが対処にとまどっているうちに、横やりが入り、その話は立ち消えになる。じゃまをしたのはなんとセントラル証券の親会社である「東京中央銀行」だった。

 
瀬名はホワイトナイトとして新株発行を請け負う、フォックスというPC関連機器会社を見つけて来ていた。だが、その会社のバックには電脳が控えているようなのだ。
このままフォックスにまかせておけば、東京スパイラルは電脳に乗っ取られてしまう。半沢と森山は瀬名を救うための方策を練る。
 
セントラル証券が画策したのは敵対的買収だ。それもフォックスを吸収合併してしまおうというのだ。
そして、フォックスが取引している米国の新興通販会社がめざましい飛躍を遂げていることが判明する。
その間、東京スパイラルの株価はあまり下がる気配も見せず、フォックスとの提携が報じられると瞬く間に反発する。

東京中央銀行は電脳への投資をふたたび見直さねばならない事態に陥る。
親会社の銀行に楯突くような態度をとる子会社の証券への反目も、当然ある。
森山は2年前に電脳が、ある子会社を吸収したときの資料を見つけ出す。資産価値があまりない会社なのに、倍以上の価格で買い取っている。これには何か裏があるのではないか。

そして、銀行は人事権を持ち出し、半沢の動きを防ぐ方策に出る。
取締役会に出席した半沢は、銀行そのものの危機を防ぐことを訴える。

ロスジェネの逆襲というタイトルなのだが、逆襲はこれから始まる、いや、始めねばならない、とバブル世代の半沢はそう訴えている。
 

2013年3月18日月曜日

ゴリアテ、やて


「ゴリアテ」―ロリスと電磁兵器―
スコット・ウエスターフェルド(著)
小林 美幸(訳)

単行本: 494ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4153350079
ISBN-13: 978-4153350076
発売日: 2012/12/7

人造獣と機械が空を舞う第一次大戦。東京へ向かう飛行獣リヴァイアサンは、ロシアのツングースカで驚異の光景を見る。公子アレックの戦争終結の願いは叶うのか? 世界で絶賛される三部作完結篇
オスマン帝国のイスタンブールで、ドイツの野望を打ち砕いた公子アレックと男装の士官候補生デリン。英国海軍の飛行獣リヴァイアサンで東京へ向かっていた彼らは、ロシアのツングースカで驚異の光景を目にする。その状況を引き起こしたという天才科学者ニコラ・テスラは、戦争終結の可能性がある電磁兵器、ゴリアテをニューヨークに建設しているという。なんとしても戦争を終結させたいアレックは、ゴリアテの真価を判断すべくテスラに接近するが……。はたしてアレックの願いはかなうのか。そしてデリンの、アレックへの密かな想いの行方は? スチームパンク冒険譚三部作、完結篇

 さて、イスタンブールをあとにして、飛行獣リヴァイアサンはロシアを横断していく。
 デリンとアレックの恋物語の要素を秘めて、波乱の地へ飛び続ける。
 
 ロシアのツングースカで恐るべき破壊力を目の当たりにしたアレックたち一行は、その原因をつくったという発明家ニコラ・テスラを拾って日本に向かう。
 日本もいまやダーウィニストとクランカーが共存する国家と化している。ただ、日本独自の進化獣である<カッパ>の造形はいただけないが。

 ロシアを横断中にアレックはデリンが女性だということに気付く。そしてそれは、彼女が自分を欺いていた、彼女に裏切られたという思いにつながっていく。ましてや、自分はオーストリアを率いる身分であり、彼女は平民だ。平民あがりの自分の母がどんなに苦労してきたかは知り尽くしている。デリンをそんな目に合わしたくはない。
 デリンはデリンで、自分の思いを明かすわけにはいかない。

 ニコラ・テスラは自分が開発した「ゴリアテ」は平和を作り出す兵器になると言い、帝国劇場で大々的に発表する。
 そしてアメリカへ。サンフランシスコで新聞王ハーストやピュリッツアーと出会う。ハーストが経営する映画会社は冒険活劇映画を撮影している。そしてメキシコでは革命家パンチョ・ヴィラの活躍をニュース映画として撮影していた。
 
 だが、アメリカ人記者エディ・マローンは、デリンが女性だということに気付く。それが公表されると、アレックとデリンばかりでなく、イギリスやオーストリアを巻き込んだスキャンダルになってしまう。
 アレックは非常手段に訴えることにして、自分とデリンを救うことに成功。
 そしてニューヨークへ。ロングアイランドのテスラの研究施設にゴリアテのタワーが建てられている。
 デリンはドイツ軍が海底ウォーカーを使って攻めてくるのをリヴァイアサンの上から目撃する。
 そしてアレックはテスラがベルリンを滅亡させようと仕組んでいることに気付く。それを防ぐには・・・
 

 ふたりの冒険が大戦を防ぐまでには至らなかったが、それぞれの思いが交差しながらも、やがて落ち着くべきところに収斂していく。
 才知ロリスと呼ばれる人口獣が、察知ロリスかと思われるほどの進化を遂げ、あたかも未来の情報端末のようなものになって来ている。
 あるいは、あり得たかも知れない過去を生きて行く恋人たち。
 かれらが行き着いた未来はどうなっているだろう。
 残念ながら、今のところ、その未来は描かれていないそうだ。
 読者はここで飛行獣から降りて現実の世界に戻ることになる。
  

2013年3月15日金曜日

バーニング・ワイヤーはライムを焼き尽くすのか

「バーニング・ワイヤー」
ジェフリー ディーヴァー
池田 真紀子 (翻訳)
単行本: 477ページ
出版社: 文藝春秋 (2012/10/11)
言語 日本語
ISBN-10: 4163817107
ISBN-13: 978-4163817101
発売日: 2012/10/11


突然の閃光と業火―それが路線バスを襲った。送電システムの異常により、電力が一つの変電所に集中、爆発的な放電が発生したのだ。死者一名。これは事故ではなかった。電力網をあやつる犯人は、ニューヨーク市への送電を予告なしに50%削減することを要求する。だがそれはNYに大停電を引き起こし、損害は膨大なものとなると予想された。FBIと国土安全保障省の要請を受け、科学捜査の天才リンカーン・ライムと仲間たちが捜査に乗り出した。しかし敵は電気を駆使して罠をしかけ、容易に尻尾をつかませず、第二の殺戮の時刻が容赦なく迫る。一方でライムはもう一つの大事件を抱えていた―宿敵たる天才犯罪者ウォッチメイカーがメキシコで目撃された。カリフォルニア捜査局のキャサリン・ダンスとともに、ライムはメキシコ捜査局をサポートし、ウォッチメイカー逮捕作戦を進めていたのだ。ニューヨークを人質にとる犯人を頭脳を駆使して追うリンカーン・ライム。だが彼は絶体絶命の危機が迫っていることを知らない―。

担当編集者から一言
ベストセラー作家ディーヴァーのリンカーン・ライム・シリーズ最新作の登場です。今回の敵は「電気」。この目に見えぬ凶器を巧みに操って殺戮を繰り返す犯罪者がニューヨークを恐怖の淵に叩きこむ。惨劇への秒読みが進むなか、ライムは微細な証拠から犯人を割り出そうと苦闘する。だが同時に彼は、メキシコで進行中の天才犯罪者ウォッチメイカー逮捕作戦の支援もしなくてはならない。今もっとも面白いミステリを書く作家ディーヴァーの面目躍如。今回も衝撃的なドンデン返しが待ち受けています。(NS)


 四股麻痺で首から下が動かせない、天才科学捜査官。おなじみのリンカーン・ライムシリーズ。
 今回の敵は電気―といわれてしまうと、そうか、と思ってしまうが、実は裏がある。

 電気を停めろ。停めなければ被害者が出る、という脅迫。
 犯人はその証拠に路線バスに電気の火花を送る。垂れ下がった送電線に数万ボルトの電気を流し、路線バスを襲う。たまたま乗り場にいたプエルトリコ人の男性が被害にあう。電気ショックばかりでなく、そばの金属ポールがやけただれて爆発、そのかけらが男の体に突き刺さったのだ。溶けた金属で傷口がふさがれ出血がほとんどないまま苦しみぬいて男は死ぬ。

 そしてふたたび脅迫状が。
 こんどは送電量をカットせよ、というのだ。
 だが、送電量を減らせば、今のニューヨークでは逆に被害が他におよび、あまたの死者が出る。
 と説明するのは電力会社の女性CEO。
 彼女の解説によって読者は電気の怖さ、必要性が理解できる。

 微細証拠物件を収集し、分析した結果、犯人の姿が浮かび上がる。
 犯人は同じ電力会社の、トラブルマンと呼ばれる技師のレイだった。自身が白血病になったのは電気のせいだ、と電力会社に恨みを抱いているというブログの手記が見つかる。だがレイは姿をくらまし、次の犠牲者を求めて暗躍する。

 かたや、サンフランシスコのキャサリン・ダンスはリンカーンの宿敵ウォッチ・メイカーがメキシコに姿を現したという情報を伝えてきており、リンカーンはこれにも対処せねばならない。

 ニューヨークではアメリア・サックスの活躍はもとより、警察とのつなぎ役であるロンをはじめ、潜入捜査官のフレッドが華々しい活躍を見せ、オールキャストの立体的な捜査が描かれていく。

 ホテルを襲った犯人は客たちを閉じ込め数人の被害者が出る。そのさまを目の当たりにしたアメリアはその悲惨さと恐怖に凍りつく。だが、犯人が次の標的に選んだのはアメリア本人だった。
 若き相棒とともにアメリアは、レイらしき男が女性を人質に取っている倉庫に乗り込む。だが、それは犯人の罠だったのだ。

 今回、犯人像があまり具体的に現れてこない。それは作品自体の仕掛けでもあるのだが、いつものどんでん返しで次の章につながっていく流れが、もひとつしっくりこない。
 それは爺だけの読み方かもしれない。書評ではみなさま満足しておられるようだ。
 犯人は女性CEOこそ首謀者だと暗示をかける。再生可能エネルギー推進派が電力会社に対して嫌がらせをしているのだとして、みずから犠牲者になっているという。
 
 だが、犯人の真の狙いは他にあった。当然リンカーンはそれを防ぐのだが・・・
 事件が落ち着いたあと、最後の事件が描かれる。それは、今後の展開にどう影響を及ぼすのか。

 

爺の読書録