2010年9月23日木曜日

漢字の成り立ちと日本国の成り立ちと

「失われたミカドの秘紋」
エルサレムからヤマトへ 「漢字」がすべてを語りだす!
加治 将一

482ページ
出版社: 祥伝社 (2010/8/05)
言語 日本語
ISBN-10: 4396613709
ISBN-13: 978-4396613709
発売日: 2010/7/27

ブックレビューとして紹介しようとすると、すべてネタバレになりそう。
小説のスタイルをとって、古代史の謎を読み解いていく手法。昔、70年代に荒巻義雄さんの古代史「空白」シリーズを刮目して読んでいたことを思い出す。
その当時は大和朝廷の謎や、古墳を結ぶ謎の直線、太平洋を渡って伝わった文化、イースター島やムー大陸など、はらはらどきどきと読み継いでいたもの。

だが、今回、前から気になっていた加治さんの、日本と世界を結ぶ古代史をテーマにした最新刊を読むと、そのスケール感に驚く。
三井家の鎮護社にある三本柱の鳥居から始まって、中国王朝の成り立ち、秦の始皇帝の謎、長安にそびえるモスク、清の時代に西安に建てられたというキリスト教寺院。
魅力的な謎が次々と提示され・・・
小説仕立てということで、昭和天皇の薨去をめぐる真相を追求していた仲間が謎の転落事故で死亡したり、主人公の周辺にも怪しい人物が現れたりと、謎が一層深まる仕掛けがしてある。

読了すれば、タイトルが全てを語っているのが分かる。
孔子が漢字を作った。それも旧約聖書をを広めるために。
そんな〜、と思うのも当然だが、ついつい、さもありなん、と思わせる説得力がある。
そして、ヤマトへわたってきた大王は誰なのか、なぜ、倭国が大和になり日本になったのか。そしてミカドとは・・・

暑い夏の終わりに、ひんやりとした一瞬を楽しめた一冊。

2010年9月10日金曜日

崩壊した家族を再生するために、少年は走る




おめでとう、2010年度文春ベスト第1位。


ラスト・チャイルド(上・下)

ジョン・ハート 著
東野さやか 訳

文庫: 367、345ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4151767045
ISBN-13: 978-4151767043

発売日: 2010/4/30

13歳の少年・ジョニーが主人公。舞台はノース・カロライナ。
ジョニーの双子の妹・アリッサが拉致され行方不明になって1年になる。父は妹が拉致されたときの母の非難を受けて蒸発してしまった。その母も娘と夫を無くした喪失感 からくる倦怠と、そのスキに乗じて接近してきた街の有力者との絶ちがたい関係への嫌悪からクスリ漬けの日々を送っている。
ジョニーを見守るのは刑事のハント。ハントの同僚刑事の息子であるジャックはジョニーの親友だ。
家庭崩壊した少年とその母を見守る刑事、孤立しながらも自分のなすべきことだと信じて妹探しを続ける少年。刑事は少年の無謀を押し止めようとするが、反面、少年が指摘する犯人像が次々に真実味があるように思えてきて・・・。

早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品。ということで文庫版とミステリーブックス版で同時刊行。
冒頭、ワシの巣を狙いに自転車で走る少年の冒険が描かれる。文庫版では表紙に描かれているのがそのシーン。
まるでスティーヴン・キングの少年ものを彷彿とさせる。
そして猟奇的な事件の連続はトマス・ハリスか。
いや、これがアメリカの現実なのかもしれない。やりきれない現実と、それを乗り越える努力、その努力すら無くして行く人々。ひたすら、真実を追い求めるのは子供たち。救いは少年たちなのか・・・

そして、著者がひとつの手掛かりとして提出したのが、古来からの原住民、あるいは異国からつれて来られた奴隷たちの信奉していた闇の力、そして彼等には禁じられていたキリスト教の秘蹟。
自分に残された希望がそれ一つでしかなくなってしまったとき、少年は力を発揮する。その力を使って犯人を追いつめたとき・・・
というホラー小説的な読み方も出来る。

だが、ミステリー。そこにはきちんとした解決が用意されている。関係者はすべてそろっていた。すべての伏線がひとつの焦点を結んだとき・・・

家族の崩壊と少年の成長を描き、結末は悲しいが、後味は悪くない傑作。

爺の読書録