2010年9月10日金曜日

崩壊した家族を再生するために、少年は走る




おめでとう、2010年度文春ベスト第1位。


ラスト・チャイルド(上・下)

ジョン・ハート 著
東野さやか 訳

文庫: 367、345ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4151767045
ISBN-13: 978-4151767043

発売日: 2010/4/30

13歳の少年・ジョニーが主人公。舞台はノース・カロライナ。
ジョニーの双子の妹・アリッサが拉致され行方不明になって1年になる。父は妹が拉致されたときの母の非難を受けて蒸発してしまった。その母も娘と夫を無くした喪失感 からくる倦怠と、そのスキに乗じて接近してきた街の有力者との絶ちがたい関係への嫌悪からクスリ漬けの日々を送っている。
ジョニーを見守るのは刑事のハント。ハントの同僚刑事の息子であるジャックはジョニーの親友だ。
家庭崩壊した少年とその母を見守る刑事、孤立しながらも自分のなすべきことだと信じて妹探しを続ける少年。刑事は少年の無謀を押し止めようとするが、反面、少年が指摘する犯人像が次々に真実味があるように思えてきて・・・。

早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品。ということで文庫版とミステリーブックス版で同時刊行。
冒頭、ワシの巣を狙いに自転車で走る少年の冒険が描かれる。文庫版では表紙に描かれているのがそのシーン。
まるでスティーヴン・キングの少年ものを彷彿とさせる。
そして猟奇的な事件の連続はトマス・ハリスか。
いや、これがアメリカの現実なのかもしれない。やりきれない現実と、それを乗り越える努力、その努力すら無くして行く人々。ひたすら、真実を追い求めるのは子供たち。救いは少年たちなのか・・・

そして、著者がひとつの手掛かりとして提出したのが、古来からの原住民、あるいは異国からつれて来られた奴隷たちの信奉していた闇の力、そして彼等には禁じられていたキリスト教の秘蹟。
自分に残された希望がそれ一つでしかなくなってしまったとき、少年は力を発揮する。その力を使って犯人を追いつめたとき・・・
というホラー小説的な読み方も出来る。

だが、ミステリー。そこにはきちんとした解決が用意されている。関係者はすべてそろっていた。すべての伏線がひとつの焦点を結んだとき・・・

家族の崩壊と少年の成長を描き、結末は悲しいが、後味は悪くない傑作。

0 件のコメント:

コメントを投稿

爺の読書録