2012年7月30日月曜日

ジョン・マン、ハワイへ行く

「ジョン・マン 大洋編」
山本 一力/著

単行本: 310ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062174294
ISBN-13: 978-4062174299
発売日: 2011/12/20

大海へ! 世界へ!!
初めて挑む歴史大河小説 待望の第2弾

郷土の先達、中浜万次郎ことジョン・マンの奇跡の生涯
異人たちとの出会い、クジラとの格闘、未知の島々
新たな世界へ飛び出す決断の時!

鎖国日本から漂流し、初めてアメリカで生活を送り、初めて地球を一周し、自力で帰国した誇るべき日本人の物語!

黒船襲来の十二年前。土佐の漁師の息子・万次郎、十四歳。初めて乗った船で嵐に巻き込まれ、仲間とともに身ひとつで遭難。無人島に流され、五ヵ月後、米捕鯨船ジョン・ハウランド号に救助された。まだ何者でもない少年は、初めて世界を知る。

 鳥島でアメリカの捕鯨船に救助された万次郎たち一行5人は、自分たちの持てる技術を駆使して船員たちと交流を深めて行く。
 帆柱を駆け上がり、疑似餌でシイラを捕獲し、塩とニンニクで味付けして、シイラはまずいという米国人に感嘆の声を上げさせる。
 
 はたまた、ジョン・ハウランド号の乗員に関わる過去も語られて行く。
 料理人のいきさつ。銛つくりの職人たちが乗り込んでいる理由。

 かれらとの関わりが万次郎を成長させる。
 万次郎は絵を描くことで、船員たちとコミュニケーションを取り、英語も覚えて行く。

 故郷の高知では宇佐浦の網元・徳右衛門が、むかし、海に流されて帰って来た漁師の話を聞きおよび、いっそう
万次郎たち一行の生存を信じることになる。



 捕鯨の実態も描かれるが、迫力満点の場面でもある。



 そして、万次郎たちはハワイへ赴き、日本と変わらない貧しさの島を見る。

 万次郎はそこで仲間と別れて、ひとり、米本土に向かう。ニュー・ベッドフォードに入った、初めての日本人である。

 

 昨年のスタートから1年と少し、なかなかストーリーは進まない。

 ジョン・ハウランド号のマン=「ジョン・マン」はまだ15歳。これからが楽しみだ。




2012年7月25日水曜日

スクウェアの仲間たちが大阪を駈ける


「スクウェア」1
福田 和代

単行本: 274ページ

出版社: 東京創元社
言語 日本語
ISBN-10: 4488024912
ISBN-13: 978-4488024918
発売日: 2012/2/28

薬物対策課の刑事・三田が〈スクウェア〉で出会った、清潔そうなバーテンダーの青年。この男と長いつき合いになるとは、三田は想像していなかった──。福田和代の新境地。

 どうも「新境地」には弱い。
 大阪を舞台にしたハードボイルド連作。
 三田靖彦。大阪府警の刑事。30代で、いかつい顔、厚い胸板。一般人が見たら少しびびるほどの貫禄がある。
 リョウ。名無しのリョウ、と三田があだなをつけた、ショットバーのバーテンダー。聖職者ふうの服装と雰囲気がマッチしている。だが、なにか裏がありそうな謎の男。
 宇多島健志。ウダケンで知られた、もと世界チャンピオンのボクサー。いまはスポーツ店チェーンを経営する実業家。
 
 この3人が大阪の街を駆け抜け、地元の暴力団とからんだ麻薬戦争を繰り広げる。三田は警察官としてリョウや宇多島とは一線を画しながら、彼らの動きが気になってならない。

<スクウェア>
 三田は、ぶらりと入った、お初天神裏のショットバーで、リョウと呼ばれるバーテンダーと知り合うことに。その店が「スクウェア」という名前。カウンターの隅でバーボンを呑んでいたのが宇多島だった。
 その店には那珂川アリサという歌手がいた。売れっ子なのに、事情があって事務所から隠れて逃走中。いろいろのいきさつのあと、三田といい仲になる。声が出なくなったというアリサの健康状態も改善されてきた。だが、ある日突然、東京へ戻ってしまう。
 そして以前から予定されていた大阪城ホールでのアリサのライブが行われることになる。そのとき、アリサについてのタレコミが警察本部に届く。三田はアリサとの関係を隠したまま、当夜のライブに出かけていく。

<ザ・リヴァー>
 三田が3年前に刑務所に送り込んだ小山が出所してきた。彼は三田につきまとうが、三田は19歳の学生が関係する脱法ドラッグ事件で忙しい。これを機に新藤という暴力団の中枢に捜査を進めたいのだ。新藤は小山とも関係していた。

 小山はかつて逮捕されたときに「川や。川を渡ってしもうたんや」と独り言をつぶやいていた。「渡ってしまったなら、引き返せ」と怒った三田に対する小山の答えは。
 <スクランブル!>
 捜査班唯一の若手・大迫刑事の視点から描かれる、少し趣向を変えたユーモア編。
 勝芝班長の中学3年生の娘が誕生日だというので、課の面々が打ちそろってサプライズ・プレゼントを届けることになった。それなのに大迫の捜査報告所が仕上がらない。おまけに、班長がすでに買い込んでいたプレゼントの双眼鏡をこわしてしまったようなのだ。三田をはじめ、捜査班全員が「緊急出動」して、てんやわんやのあげく・・・

<チョイス>
 宇多島の元妻に麻薬所持容疑がかかる。 そして、暴力団の脅迫が宇多島に届き、宇多島はひとりその男との決闘の場に出向くことに。
 チョイスとは宇多島が好んで呑むバーボンの銘柄、ジム・ビームズ・チョイスから。だが、3人がこれから進む道を選ぶきっかけになった事件を象徴するタイトルかもしれない。

<デイイン・デイアウト>
 タイトルはフランク・シナトラの歌で「昼も夜も」といった意味らしい。

 「スクウェア」のあるビルの2階には「ギャルソン」というオカマ・バーがある。訳ありのオカマをリョウが助けてやる。
 かつて犬飼というヤクザものを逮捕したときに関係していたのがそのオカマ・なぎさだった。犬飼は組を表向き波紋されていたが、宇田島の店が放火される事件が発生。事件の影に犬飼の存在を感じ取った三田は、宇田島に罪を犯させてはならないと水無瀬のハイキングコースまでおもむくが・・・
 <バナナズ!>
 そんな馬鹿な! という意味の俗語だそうだ。
 今回も大迫刑事の視点から描かれるユーモア編。
 出社すると缶コーヒーを飲みながら、バナナ3本を食べる三田にかこつけたタイトルでもある。
 若手として大事にされている大迫だが、班の皆からは早く一人前になるようにと期待もされている。そしてある事件で犯人と直接対峙するはめに陥るのだが・・・

 大阪が舞台。お初天神裏のデッドエンド・ストリートと呼ばれる路地なんてあったかな? そこはそれ、フィクションで描かれるもうひとつの大阪なのだろう。福島や夢洲、高槻などの地名が頻出する。三田が地下鉄に乗るのは谷町4丁目だし、梅田で一番の繁華街は東通などという表現も。
 刑事たちが交わす会話は大阪弁から翻訳された標準語だ。ハードボイルドには大阪弁は似合わないのかもしれない。
 
 フィクションとしての大阪を楽しもう。
 第2巻「スクウェア2」で事態はどうなる。

 

2012年7月23日月曜日

太閤暗殺は誰の願いだったのか

「太閤暗殺」
岡田 秀文

349ページ
出版社: 光文社
ISBN-10: 4-334-92355-0
発売日: 2002/3/25


ようやく授かった我が子・お拾(ひろい)にすべてを譲り渡したい……太閤秀吉は、実の甥である関白秀次(ひでつぐ)を疎ましく思い始めていた。 危機感を抱いた秀次の側近・木村常陸介(きむら・ひたちのすけ)は、大盗賊・石川五右衛門に太閤の暗殺を依頼した! 迎え撃つ石田三成と前田玄以(まえだ・げんい)の秘策とは? 本格時代小説にして本格ミステリー。戦慄のラストに驚愕必至の、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作!

「おすすめ文庫王国・時代小説部門」第1位に輝く傑作が復刊!
 というのが、今回の文庫化に際してのウリ。
 2002年に初版、2004年に文庫化されていた本だが、今回双葉社での文庫化で、またまた話題になっている。

 あらすじどおりの展開ではあるのだが、一筋縄ではいかない。
 秀次を仰ぎ、その将来を楽しみにしていた木村常陸介だが、ここにきて秀次に愛想が尽きてくる。そのわがままぶり、暴虐ぶりに、自分のこれまでの努力は何だったのだ、と慨嘆する。

 石田三成は悪役だが、それに徹しているところがすごい。だが、腹心の島左近にも自分の思うところをさらけ出さず、なにやら画策しているふう。
 
 そこで、主役の前田玄以の活躍が光る。京都所司代として組織をまとめ、ひっぱる。だが、その思惑より事態が先に進んでしまう。



 石川五右衛門。鍛え抜かれた肉体と忍びの術ともいえる技をもち、太閤暗殺に全精力を傾ける。


 彼らが太閤を狙い、そして防御する側はその動きを阻止せんと、先手をとり、後の先を取ろうとする。
 
 だが、最後に笑うのは豊臣秀吉その人である。
 太閤は何かを恐れ、何かを画策している。
 太閤暗殺は歴史上あり得ない。
 しかし、その裏に蠢く男どもは、確かにいた。
 

2012年7月15日日曜日

幽女の如き怨むものは果たして何処にひそむのか

「幽女の如き怨むもの」
三津田 信三

単行本: 566ページ
出版社: 原書房
言語 日本語
ISBN-10: 4562047968
ISBN-13: 978-4562047963
発売日: 2012/4/17


戦前、戦中、戦後にわたる三軒の遊郭で起きた三人の花魁が絡む不可解な連続身投げ事件。
誰もいないはずの階段から聞こえる足音、窓から逆さまに部屋をのぞき込むなにか……。
大人気の刀城言耶シリーズ最新書き下ろし長編!

第一部 花魁-初代緋桜の日記
 桃苑遊郭の「金瓶梅楼」。
 うちが、ここに来てからもう3年になる。うちは、お父の借金のかたに田舎から売られてきた。それでも、まもなく花魁になれる。これまで、本家のお嬢様や、坊ちゃんのお世話をしながら花魁になれる日を待っていたが、ようやくその時がきたのだ。
 だが、花魁になって、その厳しい毎日が、うちの思い描いていた日々とは全く違うことにようやく気付いた。
 そして、この金瓶梅楼にはなにか恐ろしい秘密がある。

 別館との渡り廊下を、誰も知らない、なにかが歩いて行く。裏にある「鬼小屋」は何をするところなのか。 ある日、通小町という花魁が自殺する。田舎の恋人に捨てられたのを怨みながら。
 それに続いて、うちも何かに魅かれるようにその部屋から飛び出そうとしたが、危ないところを同僚の花魁に助けてもらい、命拾いすることができた。
 だが、鬼子をみごもった花魁が離れの小屋で赤子を始末した直後、3階の部屋から飛び降りてしまう。
 何かが、幽女が、遊女たちを殺そうとしているのだ。
 うちはここから逃げ出すことができるだろうか・・・
 
第二部 女将-半藤優子の語り
 「梅遊記楼」これが今の店の名前です。
 母から遊郭を受け継いだ私のもとに、桜子という女が、苦境にある実家の商売を助けるためにやってきました。彼女を2代目の緋桜として売り出すことにしましたのは、彼女の雰囲気が、何年か前に緋桜として売れっ子だった花魁に似たものがあったからです。
 でも、それが引き金になったのか、恐ろしい事件が起こり始めました。
 お産のために預かっていた親戚の若奥様が、赤ん坊を出産した直後、気が触れたようになって3階の部屋から飛び降りて死んでしまったのです。
 つづいて、2代目の緋桜こと桜子さんも、同じように飛び降りようとするところを必死につかまえて、これは助けることができました。
 でも、その後、まもなくもうひとりの花魁が飛び降り自殺をしてしまうのです。
 古くからいる遣り手婆は、この店にいる幽女の仕業だと恐れおののいておりました。
 ただ、戦争が厳しくなって来たこともあり、店を閉めることにしました。そのときには花魁たちの借金はすべて棒引きにして、みんなが新しい生活を始められるよう、心から応援したのです。

 空襲で焼けた離れから、誰とも知れぬ焼死体が発見されたと聞いたのは、戦争も押し詰まった終戦間近のことでした・・・

第三部 作家-佐古荘介の原稿
 「梅園楼」には幽霊がいるらしい。
 僕はそんな話をきいて、伯母の店に興味を持った。梅園楼は戦前は「金瓶梅楼」、戦時中は「梅遊記楼」と言われていたのだ。
 そして終戦。アメリカ軍による占領。だが、終戦直後の8月26には、もう特殊慰安施設協会という、娼妓に関する法律が出来ていた。
 梅園楼はカフェーと呼ばれる特殊飲食店として、女給とお客との橋渡しが出来る店になっている。そこに、3代目の緋桜さんがいるらしいのだ。
 そして、自殺騒ぎが起こる。さきの金瓶梅楼、梅遊記楼とも関わりのあった男が、3階の部屋から身投げして死亡する。
 またもや、3人の自殺者が出るのだろうか。ふたりめは果たして3代目の緋桜さんだった。彼女は、同僚の女の子に救われたのだが。
 (そして3人目は・・・)

第四部 探偵
刀城言耶の解釈
 刀城は半藤優子のもとで、事件の解釈を試みる。
 亡くなった遊女たち。救われた遊女たち。そして名前こそ変わっていたが、一軒の遊郭にまつわる歴史と、関わった人々の行く末。
 そこで、刀城は、重大な結論を導く。

 
刀城言耶、今回は直接の冒険談はないが、民俗学研究家としての面目躍如。戦前から戦後にかけての、ある地方の遊郭で起こった3人ずつ9件の自殺事件と自殺未遂。そこに現れる謎の幽女。緋桜という名前の花魁に関わる謎とは・・・

2012年7月8日日曜日

ベヒモス、そして新種の知性獣も登場


「ベヒモス」 ―クラーケンと潜水艦―
スコット・ウエスターフェルド (著),
小林 美幸 (翻訳)

単行本: 453ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4153350044
ISBN-13: 978-4153350045
発売日: 2012/6/8


英国の飛行獣リヴァイアサンは親ドイツ化するトルコへ。そこで脱走を試みたアレックが出会ったものは!? 人造獣が空を舞い、機械兵が地を駆ける第一次世界大戦で、少年少女の心の絆が試される!

イギリスなど遺伝子操作を駆使する〈ダーウィニスト〉と、ドイツら機械工学を発展させた〈クランカー〉、対立するふたつの勢力はついに世界大戦に突入した。英国海軍が誇る巨大飛行獣リヴァイアサンは、オスマン帝国へ赴く。急速に親ドイツ化しつつあるトルコで、皇帝を説得する任にあたるノラ・バーロウ博士を運ぶためだ。男装の士官候補生デリンは、博士とともにドイツ軍の侵攻を目撃する。一方、亡きオーストリア大公の息子アレックはイスタンブールで逃亡を図るが――デリンとアレック、ふたりの友情が革命の鍵となるスチームパンク冒険譚、激動の第二部。

 イスタンブールに到着した巨大飛行獣リヴァイアサン。
 今の身分はオーストリア大公となるアレックは、飛行獣から脱出、降り立ったイスタンブールで、アメリカ人の新聞記者・エディ・マローンと知り合う。

 デリンことディラン・シャープはアレックとは異なるルートで記者と遭遇、アレックがつかんだドイツ軍の情報から、その陰謀を阻止するべく、イスタンブールに舞い降りる。

 少年少女スチームパンクともいうべきSF大作。
 今回はイスタンブールという西洋とアジアの境目にある街で、ドイツ軍の侵攻を食い止めるべく活躍する姿が描かれる。

 そして、魅力的な脇役。
 イスタンブールの政治動向を見極めようと暗躍する、統一と進歩委員会の謎の婦人・サヴェン。
 その孫娘であるリリトは、デリンを女とは知らず、彼女に恋心を抱く。奇妙な三角関係がかもし出されるが、こちらもデリンの正体を知らないアレックは、デリンを冷やかすばかり。

 そして、何より素晴らしい存在は、前巻でダーウィニストのノーラ・バーロウ博士が運び込んだ卵から生まれた、知力ある人造獣。その名も才知ロリスと名付けられ、ポケットコンピューターのような存在にも見えて来る。まだまだ人の真似をするだけだが、巻末、2頭に増えたロリスたちは互いにおしゃべりを始める。今後の発育が楽しみ。

 タイトルのベヒモスは最後に活躍するだけだが、水中獣としてドイツ軍に手痛い打撃を与える。

 そして、ふたたびリヴァイアサンに戻ったアレックとデリンだが、ローマ教皇の死去にともない、アレックの身分を保障した勅書はどうなっていくのか、など波乱含みのまま、リヴァイアサンは東へ、アジアへ向かって飛行を始める。

 次巻、最終巻、世界はどこへ向かっているだろう。

爺の読書録