2013年5月25日土曜日

天皇の代理人として暗躍する外交官とは

「天皇の代理人」
赤城 毅

単行本: 239ページ
出版社: 角川春樹事務所
言語 日本語
ISBN-10: 4758412030
ISBN-13: 978-4758412032
発売日: 2012/10/11

日本・イギリス・ドイツ・スイスの4国で起こった戦前外交の秘史を追う、ふたりの外交官。4つの事件は真実なのか、つくり話なのか―。ヨーロッパを舞台に秘密外交官の暗躍を描く、日本昭和史の物語。

序章 津村老人は語る
 昭和が終わろうとするころ。著者は銀座のバーで津村昌雄に出会う。そして、昔話に付き合ってくれたまえと、津村老人は話し始めたのだった。
 表紙のカッコいい昭和男子の二人が、若き日の津村と天皇の代理人だ。

第一話 死神は誤射した
 昭和4年11月29日、箱根富士屋ホテル。
 津村は外交官補として佐分利貞男公使の自殺騒動の後始末を命じられる。佐分利公使は悪化しつつある支那との友好関係に憂慮していた。
 そこで出会ったのは外務省嘱託の身分ながら特命全権大使の権限を与えられているという砂谷(さや)周一郎だった。
 彼は佐分利が自殺ではなくピストルで射殺され、自殺のように見せかけるよう工作されたのだと見抜く。そして部屋を担当していたボーイに奇妙なジェスチャーを見せると、途端にボーイの顔色が変わり・・・
第二話 頑固な理由
 昭和11年、ロンドン大使館。
 そのころの英国大使はのちに総理となる吉田茂。遠縁だという白洲次郎が大使公邸に間借りしていた。その吉田大使と親しげにしゃべり、白洲にはケンブリッジ時代の友人への紹介状を督促していたのが砂谷だった。
 砂谷は囚われていた独人ファン・ズーレンなる人物を解放させ、日独軍事協定をめぐるソ連のクリヴィッキー機関の暗躍を証した。
 しかし吉田が頑に反対していた日独防共協定は結ばれることになり、三国同盟から戦争につながることになっていく。
第三話 操り人形(マリオネット)の計算
 昭和14年。1939年。ベルリン。津村は配下の女スパイから重大情報を手に入れようとしていた。シンガポール要塞の防衛体制を記した極秘文書だ。
 だが、砂谷がそれに絡んで来て、女スパイは二重スパイであり、その文書の信憑性をうたがう。そして、交渉の席に独軍将校とともに現れた女スパイに向かって、今回の思惑は日本を英国と戦わそうと仕組んだ罠だと喝破する。

第四話 終幕に向かう列車  
 昭和20年、ベルン。
 独人ハックは米国との和平交渉の重大なチャンネルだった。もとは武器商人として、日本やドイツを相手取り戦争を仕掛けていた男なのだが。
 ハックを護衛してスイスを縦断する任務が津田と砂谷に与えられた。襲ってくるのはソ連の工作員だろう。
 だが、列車が無事にベルンに着いたと思われたそのとき・・・

終章 最後の挨拶
 昭和27年。吉田首相の引き立てにより、欧州に赴任することになった津田は、首相官邸で砂谷に出会う。

 そして吉田の口から砂谷の正体を聞くことになった。それはなんと・・・

2013年5月22日水曜日

1922は私が転落することになった年

「1922」
スティーヴン キング (著)
横山 啓明 (翻訳)
中川 聖 (翻訳)

文庫: 308ページ
出版社: 文藝春秋 (2013/1/4)
言語 日本語
ISBN-10: 4167812142
ISBN-13: 978-4167812140
発売日: 2013/1/4

恐怖の帝王キングの最新作品集!
かつて妻を殺害した男を徐々に追いつめる狂気。友人の不幸を悪魔に願った男が得たものとは。巨匠が描く、真っ黒な恐怖の物語を2編。

8年前、私は息子とともに妻を殺し、古井戸に捨てた。殺すことに迷いはなかった。しかし私と息子は、これをきっかけに底なしの破滅へと落下しはじめたのだ…罪悪のもたらす魂の地獄!恐怖の帝王がパワフルな筆致で圧倒する荒涼たる犯罪小説「1922」と、黒いユーモア満載の「公正な取引」を収録。巨匠の最新作品集。
 
<1922>
 1922年、私は妻を殺した。14歳だった息子のヘンリーも心ならず共犯となった。
 その後の転落が語られる。
 ヘンリーは同級生のシャノンを妊娠させ、家のトラックを盗み、ふたりで駆け落ちしてしまう。
 殺した妻を井戸に放り込み、その上に、飼っていた牛を放り込み、山から持ってきた土で井戸を埋めた。だが、その井戸からあらわれたネズミが私に復讐を始めた。
 ヘンリーは遠くの街で強盗として新聞種になる。シャノンと共に小売店や銀行を襲撃するふたりは「恋する強盗」として有名になっていく。ボニーとクライドみたいだ。
 ネズミは私の指に噛み付き、治療するのが遅れた私は左手首から先を切り落とすことになった。
 恋する強盗だったはずのヘンリーたちは、はずみで人を殺してしまい、殺人犯として追われることになった。そしてあるとき、店番に撃たれたシャノンはお腹の中の子供と共に死んでしまう。それをはかなんだヘンリーは自ら頭を打ち抜き自殺してしまった。
 数日後に発見されたヘンリーはネズミに頭を食い破られ、おぞましい姿になっていた。
 やがて私は農場を売り払い、街に住まうことになった。
 だが、ネズミたちは私に付きまとっている。8年後の今も、ドアの外に、妻と、妻が率いるネズミたちが、私がドアを開けるのを待っている。さあ、入ってこい
 
<公正な取引>
 癌にかかったデヴィッド・ストリーターは街の路地裏で不思議な男エルビッド(ELVID)と取引をする。
 「延長」してやるから、15年間、収入の15%の利益を寄越せ。
 やがてストリーターの身体から癌が消滅、息子のジェイクはITゲーム業界で名を売る。娘のメイは作家として独り立ち。ストリーターの商売は順調。順風満帆な人生が開けてきた。
 そのかわり、友人のトム・グッドヒューの一家が悲惨な目にあう。息子が心臓発作でなくなり、娘は歯槽膿漏で歯をすべてうしなう。妻は癌で死亡。本人はアルコール依存症だ。
 だが、デヴィッドは地方紙に記事を書き始めた妻にこういう。「人生は公平なんだ。サイコロゲームのクラップスで7の目を出し続ける人もいれば、2ばかり出し続ける人もいる」
 喜劇か悲劇か、自分でも気付いていない自分残酷さを気付かせる一作。

  

2013年5月16日木曜日

少年十字軍はみずからの運命を切り開く

「少年十字軍」
皆川 博子

単行本: 382ページ
出版社: ポプラ社
言語 日本語
ISBN-10: 4591134210
ISBN-13: 978-4591134214
発売日: 2013/3/7

13世紀、フランス。“天啓”を受けた羊飼いの少年・エティエンヌの下へ集った数多の少年少女。彼らの目的は聖地エルサレムの奪還。だが国家、宗教、大人たちの野心が行く手を次々と阻む―。直木賞作家・皆川博子が作家生活40年余りを経て、ついに辿りついた最高傑作。

 狼少年と呼ばれる野生児ルーが自分のテリトリーとする森で出会ったのは、16歳の少年エティエンヌが率いる6人の子供たちだった。彼らはエルサレムを目指すというのだ。その中にはアンヌという13歳の少女がおり、彼女の弟は6歳で、メンバーの最年少だった。

 いまや80歳を超える皆川さんが新人のころから抱いていた草案を具体化した一冊。
 歴史的にも有名(らしい)な la croisade des enfants(子供の十字軍)の物語。ブレヒトの著作にもあると、あとがきにあった。
 造本がすばらしい。ポプラ社といえば児童書。6人の子供たちが描かれた表紙もさることながら、本文の周囲には二重線のなかに十字のカットがあしらわれ、あたかも聖書を読むがごとく、物語が進んで行く。

 ポプラ社らしく、中学生から大人まで楽しめる内容。
 子供たちを引率しているフルクという修道士がいた。かつて自分が修道士として宰領していたサン・レミ修道院で薬草を栽培していたという。そのサン・レミ修道院で修道士たちを薬殺する。それが、あたかもエティエンヌが雷光を呼び寄せ、ふしだらな修道士たちをこらしめたという噂に発展する。

 そう、エティエンヌは神から天啓を受けた超能力者なのだった。
 病人を癒し、けが人を治癒することができる。

 サン・レミからは3人の助修士たちが同行することになった。
 そして、こども達はガブリエルに巡り合う。
 ガブリエルの章は彼自身の言葉で語られる。
 記憶を持たない彼には、サルガタナスと呼ぶ悪魔つきまとっている。悪魔は蝶の姿を借り、かれの周りを飛び回る。神、あるいは悪魔と呼ばれるものが自ら作り出すものだとしたら、彼が作り出したサルガタナスとはいったい何者なのか?
 ガブリエルの主人は領主の息子レイモンだ。
 自分の胸にみずから焼きごてを当て十字架を具現している。神に選ばれた証だと広めて、自らを十字軍として正当化しようとしていたのだ。そんな行動はその後もエティエンヌと対立するような形で続けられる。エティエンヌ自身はそんなことは歯牙にもかけない。みずからの信じる道を歩むばかりだ。
 レイモンは子供たちをひきいてマルセイユに向かう。

 この本の直前に読んでいた「満つる月の如し」では、仏像が人々を救えるのか、という仏師みずからの問いが物語の根幹をなしていた。
 今回、キリストの「よみがえり」がひとつの山となる。

 ガブリエルは記憶喪失だ。あるとき、その原因の出来事を思い出してしまう。彼は十字軍として従軍していたときに戦で負傷し、生死のさかいをさまようことになった。
 そのとき、彼は虚無を見た。
 死の先には天国などない、無しかないのではないか、と彼は思っているのだ。現にキリストは死から甦ったあと、何も言わずにいずこかへ去ってしまったではないか。キリストは虚無を見たのだ。

 やがて子供たちはある豪商の手引きでマルセイユへの船旅が出来ることになる。
 だが、それは陰謀だった。
 巻末、エティエンヌは激しい戦闘に巻き込まれ意識不明になる。
 そのエティエンヌを子供たちが、手をかざして救い出そうとする。

 死の一歩手前まで行ったエティエンヌがそこで見たものとは・・・

2013年5月14日火曜日

満つる月の如し輝きをはなつ仏像を見に行かねば


「満つる月の如し」 仏師・定朝
澤田 瞳子

単行本: 384ページ
出版社: 徳間書店;
言語 日本語
ISBN-10: 4198633622
ISBN-13: 978-4198633622
発売日: 2012/3/6

日本美術史に燦然と輝く仏師・定朝。だが、その生涯は今も不詳のまま。気鋭が大胆な着想で描ききった定朝が瑞々しく蘇る!
時は藤原道長が権勢を誇る平安時代。若き仏師・定朝はその才能を早くも発揮していた。道長をはじめとする顕官はもちろん、一般庶民も定朝の仏像を心の拠り所とすがった。が、定朝は煩悶していた。貧困、疫病が渦巻く現実を前に、仏像づくりにどんな意味があるのか、と。華やかでありながら権謀術数が渦巻く平安貴族の世界と、渦中に巻き込まれた定朝の清々しいまでの生涯を鮮やかに描き出した傑作。最少年で中山義秀賞を受賞した気鋭の待望の最新刊。

 平等院鳳凰堂。
 その中心に輝く国宝阿弥陀如来坐像。表紙の写真がそれだ。
 その作者が仏師・定朝である。

 寛仁4年(1020)春、叡山の若き僧・隆範は藤原道長の屋敷隣に建立された法成寺の開山式で、若い仏師の腕前を見て感嘆する。技師たちが、運び込もうとした仏像を、運搬中の失敗で頬に傷をつけてしまったのだ。その傷を補修すべく鑿を振るった仏師によって、その仏像はこの世ならぬ美しさ、妖艶さをもって生まれ変わってしまう。あたかも月光の下で貴人を見たかのように。
 「むらさきの 雲路に渡る鐘の音に こころの月を託してもがな」
 ある女童がふと歌を詠む。
 
 藤原通雅。ちょうど当子内親王との密会が醜聞となり、三条帝からふたりの仲を裂かれてしまったころだ。
 「今はただ 思ひ絶えなんとばかりを 人づてならで言ふよしもがな」
 百人一首の歌が突然でてきてびっくりする。

 そこで、ふたりの関係を調べてみた。
 ふたりはある事件で共謀したというのだ。 
 こうして実在の人物たちが顔をそろえたところで、物語が動き始める。

 出てくる人物の多さに驚く。またその人物の名前が読みにくいし、ややこしい。皇室、藤原家、それぞれがいりまじって、人間関係も複雑だ。

 隆範は、まだ若い定朝に、仏像彫刻を頼みに行く。
 だが、定朝は仏像に疑念を抱いている。仏は、ひとに何をしてくれるのだ。仏にすがる人々を仏が救ってくれるのではないのか。救われないひとばかりのこの世で、救ってくれることのない仏を彫って、どうなるというのだ。
 
 都では敦明親王がおのれの不遇を呪ってか、傍若無人のふるまいに及んでいる。道長の策謀により東宮の地位を異母弟に奪われ、道長の娘を妃としたものの、いらだちを隠さず、情け容赦のない暴力沙汰を起こしている。

 だが、その敦明親王をひそかに慕う女御がいた。藤原彰子の女房として仕える中務宥子である。乳兄妹として育った幼なじみで、彼の悲しみをよく理解し、彼の本質も見抜いている。

 物語は宥子が、女房仲間の小式部の病を伝えるべく、敦明のもとに駆けつけようとしたときに暗転する。
 宥子は雪の舞う都の路地で、敦明の元の家来だった武士にかどわかされそうになり、行き倒れてしまったのだ。
 翌日発見された宥子は野犬に喰いちぎられた無惨な姿であった。

 だが、定朝はその死体の顔から、御仏の真の姿を見る。

 敦明親王と、彼をめぐる女たち、そして道雅や劉範など、宮廷と関わりの深い僧侶や武家がおりなすタペストリー。
 その中心に造仏という一大事業を据え、絢爛たる藤原氏の栄華と影を描き出す。
 アマゾンの書評をみても全て満点という傑作。
 いま注目の時代小説作家として名を挙げられる澤田さん、今後も注目していかねば。

 

2013年5月7日火曜日

鬼談百景という百物語が終わったとき


「鬼談百景」
小野 不由美

単行本: 316ページ
出版社: メディアファクトリー
ISBN-10: 4840146519
ISBN-13: 978-4840146517
発売日: 2012/7/20

九年ぶりの新作。小野不由美が初めて手がけた百物語怪談本。怪談文芸の最高傑作の誕生。幽連載に新作書き下ろし十八編を加えた充実の一冊。長編ホラー『残穢』(新潮社)と本書は、つながっているーー。

お気に入り(抜粋掲載)
Yさんの娘は、近頃ようやく単語をいくつか喋れるようになったところだ。お気に入りの玩具は「みふぃ」のぬいぐるみで、お気に入りの遊びは「ぶらんこ」。ぬいぐるみはYさん自身がお友達として買い与えたものだが、なぜブランコが好きなのかは、よく分からなかった。あまりに「ぶらんこ」と言うので、公園のブランコに抱きかかえて坐ってみた。ところがこれは「ぶらんこ」とは違うらしく、ブランコに乗っていながら、「ぶらんこ」と言ってむずがる。
「いったい何なんだろうなあ」
Yさん夫婦は首をひねっている。そもそも少し不思議なところのある子なのだ。
動物や子供には、大人の眼には見えないものが見える、という。何かの折にふっと視線を上げ、そしてしばらく食い入るように宙を見ている。楽しそうに笑い声を立てながら、宙を指差すこともある。
実を言うと、Yさんは今住んでいる部屋があまり好きになれなかったのだ。旦那さんの職場に近いうえ、家賃も安かったのでその部屋に決めたものの、マンション自体、どことなく暗くて気に入らなかった。部屋もなんだか空気が淀んだ感じがする。そんなに古い建物でもないし、どちらかというと垢抜けたスタイルの部屋なのに、なんとなく気の塞ぐ感じがするのだ。そればかりではない。時折、ふと理由もなくぞっとすることがある。夜中などに、妙な物音が耳につくこともある。それはさーっと何かが物を撫でるような音だ。
そんなある日のことだ。Yさんが洗い物をしていると、背後で娘が楽しそうな笑い声を上げた。機嫌良く遊んでいるなあ、と思いながら洗い物を終えると、娘が妙なものを提げていた。「みふぃ」の首に紐をかけて、それを振り回して笑っている。 何してるの、と声を荒げると、娘はきょとんとして、「ぶらんこ」と言った。
以来、Yさんは娘が宙を見つめていると、そこに異常なものがぶら下がっているような気がして、怖くて堪らない。
小野不由美が描く九十九の怪異。読むほどに不穏な闇は深まり、恐怖がいや増すーー。百物語怪談文芸の最高傑作、ここに誕生! 『幽』好評連載に加え新作十八編を書き下ろし収録。

著者について

12月24日、大分県中津市生まれ。京都大学推理小説研究会に所属し、小説の作法を学ぶ。1988年、講談社X文庫ティーンズハートからデビュー。89年「ゴーストハント(悪霊)」シリーズ第一作『悪霊がいっぱい!?』がヒット、人気シリーズに。91年『魔性の子』に続き、92年『月の影 影の海』を発表、「十二国記」シリーズとなる。94年『東京異聞』を発表。98年『屍鬼』がベストセラーに。2001年『黒祠の島』刊行。11年より怪談専門誌『幽』で「営繕かるかや怪異譚」を連載中。

 怪異、妖しのもの、呪い、など、怖がらせるのはお手の物。このご本の中では不思議な話が爺のお気に入りになった。

 Nさんの父親の話「遺志」。亡くなった父が、飼いたいと生前に言っていた猫が家に迷い込んで来る。葬儀の後、つぎつぎに壊れてしまった電化製品が、保険金ですべて新しく換えることができた。母が新品がほしいと思っていたものばかりだ。夜、無人の家に帰ると、消して出掛けたはずの電気がひとつ点いている。仏壇のろうそくが、嬉しいニュースを報告すると、踊るように揺れるのだという。

 「第7コース」は中学校のプールでの出来事。かつて第7コースの下にある排水溝で女子学生が亡くなる事故があり、それいらい、学生たちにはプールの授業は不人気だった。その年、25メートル競泳で全員のタイムを計測することになる。コースは8、生徒は40人。出席簿順に8人ずつ計測していったが、なぜか最後に、第7コースにひとりの生徒が残ってしまう。
 
 なかなか目にすることが少ない小野さんのご本。それも百物語。
 怖がりながら、驚きながら、え、と思いながら読み続ける。
 なかには、単なるまた聞きの怪談で終わってしまう話もあるが、なにかが襲ってきたり、だれかが犠牲になったり、と百物語の雰囲気が最後まで持続する。
 この本とリンクしているという長編を読みたいのだが、さて、いつになるか。

 

2013年5月2日木曜日

言語都市が再生する


「言語都市」
チャイナ・ミエヴィル (著),
内田 昌之 (翻訳)

単行本: 496ページ
出版社: 早川書房 (2013/2/26)
言語 日本語
ISBN-10: 4153350087
ISBN-13: 978-4153350083
発売日: 2013/2/26

遙かな未来、人類は辺境の惑星アリエカに居留地“エンバシータウン”を建設し、謎めいた先住種族と共存していた。アリエカ人は、口に相当する二つの器官から同時に発話するという特殊な言語構造を持っている。そのため人類は、彼らと意思疎通できる能力を備えた“大使”をクローン生成し外交を行っていた。だが、平穏だったアリエカ社会は、ある日を境に大きな変化に見舞われる。新任大使エズ/ラーが赴任、異端の力を持つエズ/ラーの言葉は、あたかも麻薬のようにアリエカ人の間に浸透し、この星を動乱の渦に巻き込んでいった…。現代SFの旗手が描く新世代の異星SF。ローカス賞SF長篇部門受賞


 この本には参ってしまった。
 よく分からないのである。
 書評をみていると皆さんほめている。
 だが、爺にはついていけない。
 ついていけないながら、結局最後まで読み続けたのだが、結局よくわからなかった。

 むかしから読んでいたSFが、ここまで変質していることに驚く。
 そこで爺には、ある時期、SFを読むのを中断してしまったという後悔が残る。
 ちょうどSF界のニューウェーブが話題になったころ。かたやヒロイックファンタジーに進み、あるいはサイバーパンクが出始めた頃、なんとなく敬遠していた時期があった。それからは冒険小説やミステリーに読みふけってしまい、SFから遠ざかってしまっていたのだ。

 そのころからSFの本流は進化し続けている。
 いまやシンギュラリティー後の世界は当たり前。
 長編は長いのが当たり前。
 説明されないのも当たり前。
 というわけで、おもしろく読んだのだが、果たして、何を読んだのだろう?
 

爺の読書録