2013年5月7日火曜日

鬼談百景という百物語が終わったとき


「鬼談百景」
小野 不由美

単行本: 316ページ
出版社: メディアファクトリー
ISBN-10: 4840146519
ISBN-13: 978-4840146517
発売日: 2012/7/20

九年ぶりの新作。小野不由美が初めて手がけた百物語怪談本。怪談文芸の最高傑作の誕生。幽連載に新作書き下ろし十八編を加えた充実の一冊。長編ホラー『残穢』(新潮社)と本書は、つながっているーー。

お気に入り(抜粋掲載)
Yさんの娘は、近頃ようやく単語をいくつか喋れるようになったところだ。お気に入りの玩具は「みふぃ」のぬいぐるみで、お気に入りの遊びは「ぶらんこ」。ぬいぐるみはYさん自身がお友達として買い与えたものだが、なぜブランコが好きなのかは、よく分からなかった。あまりに「ぶらんこ」と言うので、公園のブランコに抱きかかえて坐ってみた。ところがこれは「ぶらんこ」とは違うらしく、ブランコに乗っていながら、「ぶらんこ」と言ってむずがる。
「いったい何なんだろうなあ」
Yさん夫婦は首をひねっている。そもそも少し不思議なところのある子なのだ。
動物や子供には、大人の眼には見えないものが見える、という。何かの折にふっと視線を上げ、そしてしばらく食い入るように宙を見ている。楽しそうに笑い声を立てながら、宙を指差すこともある。
実を言うと、Yさんは今住んでいる部屋があまり好きになれなかったのだ。旦那さんの職場に近いうえ、家賃も安かったのでその部屋に決めたものの、マンション自体、どことなく暗くて気に入らなかった。部屋もなんだか空気が淀んだ感じがする。そんなに古い建物でもないし、どちらかというと垢抜けたスタイルの部屋なのに、なんとなく気の塞ぐ感じがするのだ。そればかりではない。時折、ふと理由もなくぞっとすることがある。夜中などに、妙な物音が耳につくこともある。それはさーっと何かが物を撫でるような音だ。
そんなある日のことだ。Yさんが洗い物をしていると、背後で娘が楽しそうな笑い声を上げた。機嫌良く遊んでいるなあ、と思いながら洗い物を終えると、娘が妙なものを提げていた。「みふぃ」の首に紐をかけて、それを振り回して笑っている。 何してるの、と声を荒げると、娘はきょとんとして、「ぶらんこ」と言った。
以来、Yさんは娘が宙を見つめていると、そこに異常なものがぶら下がっているような気がして、怖くて堪らない。
小野不由美が描く九十九の怪異。読むほどに不穏な闇は深まり、恐怖がいや増すーー。百物語怪談文芸の最高傑作、ここに誕生! 『幽』好評連載に加え新作十八編を書き下ろし収録。

著者について

12月24日、大分県中津市生まれ。京都大学推理小説研究会に所属し、小説の作法を学ぶ。1988年、講談社X文庫ティーンズハートからデビュー。89年「ゴーストハント(悪霊)」シリーズ第一作『悪霊がいっぱい!?』がヒット、人気シリーズに。91年『魔性の子』に続き、92年『月の影 影の海』を発表、「十二国記」シリーズとなる。94年『東京異聞』を発表。98年『屍鬼』がベストセラーに。2001年『黒祠の島』刊行。11年より怪談専門誌『幽』で「営繕かるかや怪異譚」を連載中。

 怪異、妖しのもの、呪い、など、怖がらせるのはお手の物。このご本の中では不思議な話が爺のお気に入りになった。

 Nさんの父親の話「遺志」。亡くなった父が、飼いたいと生前に言っていた猫が家に迷い込んで来る。葬儀の後、つぎつぎに壊れてしまった電化製品が、保険金ですべて新しく換えることができた。母が新品がほしいと思っていたものばかりだ。夜、無人の家に帰ると、消して出掛けたはずの電気がひとつ点いている。仏壇のろうそくが、嬉しいニュースを報告すると、踊るように揺れるのだという。

 「第7コース」は中学校のプールでの出来事。かつて第7コースの下にある排水溝で女子学生が亡くなる事故があり、それいらい、学生たちにはプールの授業は不人気だった。その年、25メートル競泳で全員のタイムを計測することになる。コースは8、生徒は40人。出席簿順に8人ずつ計測していったが、なぜか最後に、第7コースにひとりの生徒が残ってしまう。
 
 なかなか目にすることが少ない小野さんのご本。それも百物語。
 怖がりながら、驚きながら、え、と思いながら読み続ける。
 なかには、単なるまた聞きの怪談で終わってしまう話もあるが、なにかが襲ってきたり、だれかが犠牲になったり、と百物語の雰囲気が最後まで持続する。
 この本とリンクしているという長編を読みたいのだが、さて、いつになるか。

 

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