2013年5月16日木曜日

少年十字軍はみずからの運命を切り開く

「少年十字軍」
皆川 博子

単行本: 382ページ
出版社: ポプラ社
言語 日本語
ISBN-10: 4591134210
ISBN-13: 978-4591134214
発売日: 2013/3/7

13世紀、フランス。“天啓”を受けた羊飼いの少年・エティエンヌの下へ集った数多の少年少女。彼らの目的は聖地エルサレムの奪還。だが国家、宗教、大人たちの野心が行く手を次々と阻む―。直木賞作家・皆川博子が作家生活40年余りを経て、ついに辿りついた最高傑作。

 狼少年と呼ばれる野生児ルーが自分のテリトリーとする森で出会ったのは、16歳の少年エティエンヌが率いる6人の子供たちだった。彼らはエルサレムを目指すというのだ。その中にはアンヌという13歳の少女がおり、彼女の弟は6歳で、メンバーの最年少だった。

 いまや80歳を超える皆川さんが新人のころから抱いていた草案を具体化した一冊。
 歴史的にも有名(らしい)な la croisade des enfants(子供の十字軍)の物語。ブレヒトの著作にもあると、あとがきにあった。
 造本がすばらしい。ポプラ社といえば児童書。6人の子供たちが描かれた表紙もさることながら、本文の周囲には二重線のなかに十字のカットがあしらわれ、あたかも聖書を読むがごとく、物語が進んで行く。

 ポプラ社らしく、中学生から大人まで楽しめる内容。
 子供たちを引率しているフルクという修道士がいた。かつて自分が修道士として宰領していたサン・レミ修道院で薬草を栽培していたという。そのサン・レミ修道院で修道士たちを薬殺する。それが、あたかもエティエンヌが雷光を呼び寄せ、ふしだらな修道士たちをこらしめたという噂に発展する。

 そう、エティエンヌは神から天啓を受けた超能力者なのだった。
 病人を癒し、けが人を治癒することができる。

 サン・レミからは3人の助修士たちが同行することになった。
 そして、こども達はガブリエルに巡り合う。
 ガブリエルの章は彼自身の言葉で語られる。
 記憶を持たない彼には、サルガタナスと呼ぶ悪魔つきまとっている。悪魔は蝶の姿を借り、かれの周りを飛び回る。神、あるいは悪魔と呼ばれるものが自ら作り出すものだとしたら、彼が作り出したサルガタナスとはいったい何者なのか?
 ガブリエルの主人は領主の息子レイモンだ。
 自分の胸にみずから焼きごてを当て十字架を具現している。神に選ばれた証だと広めて、自らを十字軍として正当化しようとしていたのだ。そんな行動はその後もエティエンヌと対立するような形で続けられる。エティエンヌ自身はそんなことは歯牙にもかけない。みずからの信じる道を歩むばかりだ。
 レイモンは子供たちをひきいてマルセイユに向かう。

 この本の直前に読んでいた「満つる月の如し」では、仏像が人々を救えるのか、という仏師みずからの問いが物語の根幹をなしていた。
 今回、キリストの「よみがえり」がひとつの山となる。

 ガブリエルは記憶喪失だ。あるとき、その原因の出来事を思い出してしまう。彼は十字軍として従軍していたときに戦で負傷し、生死のさかいをさまようことになった。
 そのとき、彼は虚無を見た。
 死の先には天国などない、無しかないのではないか、と彼は思っているのだ。現にキリストは死から甦ったあと、何も言わずにいずこかへ去ってしまったではないか。キリストは虚無を見たのだ。

 やがて子供たちはある豪商の手引きでマルセイユへの船旅が出来ることになる。
 だが、それは陰謀だった。
 巻末、エティエンヌは激しい戦闘に巻き込まれ意識不明になる。
 そのエティエンヌを子供たちが、手をかざして救い出そうとする。

 死の一歩手前まで行ったエティエンヌがそこで見たものとは・・・

0 件のコメント:

コメントを投稿

爺の読書録