2010年3月31日水曜日

「花ちらしの雨」

「花ちらしの雨—みをつくし料理帖」
高田 郁

文庫: 293ページ
出版社: 角川春樹事務所
ISBN-10: 4758434387
ISBN-13: 978-4758434386
発売日: 2009/10/

2010年3月29日月曜日

「絵伝の果て」

 「絵伝の果て」
早瀬 乱

単行本: 381ページ
出版社: 文藝春秋 (2010/2/10)
ISBN-10: 4163286101
ISBN-13: 978-4163286105
発売日: 2010/2/10

サッカー・ワールド・カップの年に送る、蹴鞠・応仁カップ物語。
さる公家の御曹司が巻き込まれた、京都炎上絵巻にまつわる、謎解きと冒険の旅。
といえば、波瀾万丈の一大伝奇物語と錯覚するだろう。残念ながらそうはならない。

貧乏公家の家に持ち込まれた絵巻物らしきものの断片。そこには炎上する塔が描かれている。そしてその周辺に蠢き回る鬼らしきもの。この絵はいつ描かれたのか、いつの時代を描いているのか。では、鬼とはなにか。絵巻は切断されている。では残りの絵巻を見つけ出せば、絵巻は完成するのではないか。そこには何が描かれているのか。それを見たものはどうなるのか。
謎は謎を呼び、怪しい人物が徘徊する。
設定は面白いのだが、登場人物も魅力的なのだが、物語が動かないのが惜しい。

炎上する塔や街はひょっとしたら、未来を暗示しているのではないか。と主人公たちは考える。京の町が燃え上がり、平安の象徴とも言える相国寺の塔が燃える日がくるのではないか。いわばそれは世界の破滅だ。末法の世がいよいよせまっているのでは。
時代は室町末期、細川、山名、日野、そして足利将軍家が覇権を争う時代であり、われわれの時代から振り返れば、それから200年におよぶ争乱の時代の幕開けだと認識している。主人公たちもその予感にとらわれて、京の町をさまよい、鬼を探しにさまよう。

ラスト、避けられない運命のままに、大屋根の上でおこなわれる蹴鞠大会。勝っても負けても死を免れない仕掛けのなかで、蹴り上げた鞠はどこへ落ちて行くのか。
読者は鞠のごとくあちらこちらに翻弄されつつ、最後に著者が仕掛けた罠の中に蹴り込まれることになる。

ことしはサッカー・W杯の年。
と思えば、記念に読むのもいいかも。

2010年3月28日日曜日

「風の中のマリア」

今回、データがこわれてしまい、
アップが遅れましたことをお詫びします。
といっても、誰にも迷惑はかけてないんだけどね。

というわけで、少し前に読了した、少し古いご本ですが。
最近有名ですが、筆者は「探偵ナイトスクープ」などの構成作家さん。

「風の中のマリア」
百田尚樹

単行本: 258ページ
出版社: 講談社 (2009/3/4)
ISBN-10: 4062153645
ISBN-13: 978-4062153645
発売日: 2009/3/4

昨年の話題作である。
前回アップした「ブラッド・メリディアン」に勝るとも劣らない、すさまじい殺戮の現場が描かれる。多種族の生物と見れば、それは殺して食べ物にし、子供の栄養素としてその肉を持ち帰るための対象にすぎない。たとえそれが幼い子供であれ、その種族の王であれ、相手の地位は問わない。自分が殺戮のために生きていること、種の存続のために活動することだけが自分の存在理由であると自覚している。だからからこそ燃焼するエネルギー。それもそうだ、主人公は30日の命しかもたない。
疾風のマリア。キルステン、サンドラ、クララ、「偉大なる母アストリッド」、アンネ・ゾフィー。国籍不明の名前が大勢出てくる。だが躊躇することはない。出て来ても何ページかあとには皆、死体となって地に落ちていることになる。ヴェスパ・マンダリニア。日本ではオオスズメバチといわれる。
マリアはハンターなのだ。巣を守り、種族を維持し、次の種族を生み出すための時期に生まれ、自分の勤めを果たしたときには死に行く運命を担ったオオスズメバチのハンターなのである。
ハチの生態、種族保存のための活動、それを阻もうとする自然界の脅威の実態、DNAの謎、ゲノム保存のための知恵の発揮には驚かされる。
単なるハチの小説ではない。ハードボイルドともいえる。子供向き、大人は読むに耐えないなどの批判もある。じゃが、爺は、批判はしないぞ。読んだ時間、その物語に入り込んだ時間そのものが大事なのじゃ。
そうでなければ、「探偵ナイトスクープ」ファンとはいえないもんね。

2010年3月9日火曜日

「ブラッド・メリディアン」


「ブラッド・メリディアン」
Blood Meredian or the Evening Redness in the West
コーマック・マッカーシー
黒原敏行・訳
単行本: 432ページ
出版社: 早川書房
ISBN-10: 4152090936
ISBN-13: 978-4152090935
発売日: 2009/12/18

 タイトルは「血の正午」といった意味。「血まみれの真昼」とでも訳そうか。訳者あとがきにはMeredianとは子午線や正午を意味し、ニーチェによれば正午とは世界が完成する時だとある。また原題には「あるいは西部の真っ赤な夕焼け」と付け加えられている通り、物語は開拓時代のアメリカ西部が舞台である。邦訳は昨年だが、発表されたのは1985年。
 会話をかっこで括らず地の文にとけ込ませた読点のない文章で綴られる物語は血と暴力と殺戮に彩られた頭皮狩り隊の2年間におよぶコロニクルであり神話を持たないアメリカで神話となるべき男たちの争いと禅問答かとも思われる会話とそれに続く裏切りと争いである。濃密な文章から現れてくるのは開拓期アメリカの混乱のなかで自分たちのあるべき姿を模索しつつも貧困と恐怖から仲間以外の全てを敵にまわしそれを殺して奪うことしか出来なかった14歳の少年を含む男たちとそれを誘導していく謎の力を持つ大男の姿だ。
 昨年、少年と父親が灰色に滅びた世界をさまよい歩くピューリッツァー賞受賞作「ザ・ロード」を読んで以来、マッカーシーはマイブームだ。文体は詩的と評価されるのだが、訳者の力量によるところも大か。透徹な文章は黒光りする鉱石を深夜の洞窟の中で見つけたような輝きだ。暴力賛美・戦争賛美ともとれる物語だが、合間に挿入される哲学的な示唆に満ちた野蛮な男たちの会話からは人類のよってきたるところの暴力性、どうしようもない悲しさが垣間見える。ヒトは他を殺すことでここまで進化してきた。それがどうした。そんな生物なのだ。

爺の読書録