2010年3月9日火曜日

「ブラッド・メリディアン」


「ブラッド・メリディアン」
Blood Meredian or the Evening Redness in the West
コーマック・マッカーシー
黒原敏行・訳
単行本: 432ページ
出版社: 早川書房
ISBN-10: 4152090936
ISBN-13: 978-4152090935
発売日: 2009/12/18

 タイトルは「血の正午」といった意味。「血まみれの真昼」とでも訳そうか。訳者あとがきにはMeredianとは子午線や正午を意味し、ニーチェによれば正午とは世界が完成する時だとある。また原題には「あるいは西部の真っ赤な夕焼け」と付け加えられている通り、物語は開拓時代のアメリカ西部が舞台である。邦訳は昨年だが、発表されたのは1985年。
 会話をかっこで括らず地の文にとけ込ませた読点のない文章で綴られる物語は血と暴力と殺戮に彩られた頭皮狩り隊の2年間におよぶコロニクルであり神話を持たないアメリカで神話となるべき男たちの争いと禅問答かとも思われる会話とそれに続く裏切りと争いである。濃密な文章から現れてくるのは開拓期アメリカの混乱のなかで自分たちのあるべき姿を模索しつつも貧困と恐怖から仲間以外の全てを敵にまわしそれを殺して奪うことしか出来なかった14歳の少年を含む男たちとそれを誘導していく謎の力を持つ大男の姿だ。
 昨年、少年と父親が灰色に滅びた世界をさまよい歩くピューリッツァー賞受賞作「ザ・ロード」を読んで以来、マッカーシーはマイブームだ。文体は詩的と評価されるのだが、訳者の力量によるところも大か。透徹な文章は黒光りする鉱石を深夜の洞窟の中で見つけたような輝きだ。暴力賛美・戦争賛美ともとれる物語だが、合間に挿入される哲学的な示唆に満ちた野蛮な男たちの会話からは人類のよってきたるところの暴力性、どうしようもない悲しさが垣間見える。ヒトは他を殺すことでここまで進化してきた。それがどうした。そんな生物なのだ。

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