2011年9月25日日曜日

美ら島沖縄の風物をもう一度

トロイメライ 「唄う都は雨のち晴れ」
池上 永一



単行本: 260ページ
出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)
ISBN-10: 4048742027
ISBN-13: 978-4048742023
発売日: 2011/5/31
 

筑佐事(岡っ引き)の武太が活躍する「テンペスト」異聞・「トロイメライ」第2弾。
沖縄の風物を取り混ぜ、部分美人の竈、鍋、カミーの三姉妹も健在。
 
第一夜 間切倒
 間切倒(まぎりだおれ)とは、今の地方自治体が財政再建団体に陥ってしまうこと。王府から派遣された下知役の横暴により村が荒れ果ててしまう。武太や三姉妹は村を救うために役人と対決するが、解決策をもたらしたのは、王族神の聞得大君・真牛だった。

第二夜 職人の意地
 琉球の文化向上のため、新しい菓子と器のコンテストが行われる。カミーは半端物の材料でお菓子を、漆器職人の新入り思亀は残りかすの顔料で透明な塗りの器を完成させた。

第三夜 雨後の子守唄
 小雨まじりの夕方、三姉妹が営む「をなり宿」を妙齢の婦人が訪れた。ウフスーコーという祝い料理を注文していくが、それが3夜も続き、なにやらおかしな雰囲気だ。武太があとをつけると、その正体は・・・

第四夜 那覇ヌ市
 ジュリの魔加那が海商のお大尽におねだりして一万貫の指輪を巻き上げ、武太は抜荷の蛇皮をさがす那覇の夜。謎の義賊・黒マンサージが探し当てたのは。

第五夜 琉球の風水師
 比嘉盛村にフンシーミー・神山がやって来て、あれこれ指示を出す。先の風水師は100年先の村作りを目指したのだろうが、現在の村の窮地を救う手だてが神山にはあったのだ。だが、その資格を疑われた神山はお上によっ風水の技量を試験されることになる。

第六夜 芭蕉布に織られた恋
 年の瀬、住民税を払えない三姉妹や武太はやりくりに大変だ。王府の御用物座の役人が、首里天加那志が身にまとう芭蕉布をさがして布里の住まう森を訪れる。


 テレビドラマ版テンペストが終わってしまい寂しいかぎりだが、まだまだドラマの余韻にひたりたい向きには、このシリーズが残っている。テンペスト3Dなどの企画もあるようだが、それはそれ、われわれは琉球を愛している。
 

2011年9月19日月曜日

解かれることは不可能な謎なのか


「不可能」
松浦 寿輝

単行本: 258ページ
出版社: 講談社
言語 日本語
ISBN-10: 4062170280
ISBN-13: 978-4062170284
発売日: 2011/6/22

 中表紙の裏に「サド公爵夫人」からの抜粋がある。
 そして、三島由紀夫(本名 平岡公威 1925ー1970)との注釈。
 主人公は平岡という名で登場するが、実は、「あの」事件で死ぬことが出来なかった三島由紀夫なのだ。生きながらえて老残の身をさらすという、一番忌避していた事態を生きさらばえている三島だ。

「地下」
 とある罪で終身刑の判決を受け、27年後、出所した平岡は、過去の財産や自分の財団からの収入もある、資産家として悠々自適の老後を送っている。
 郊外の、地下室のある家に住まい、女中の世話を受けて過ごしているのだが、その地下室に、ある日、人形を飾ろうと思い立ち、S君という若者に依頼すると、S…君は見事にその思い入れを聞き入れて、バーの雰囲気を醸す為にバックグラウンドの会話やざわめきなどもセッティングしてくれた。そこに平岡自身の像を加えることにする。ただ、それは首から上がない人形なのだ。

「川」
 平岡はスコットランドを旅している。
 T君の世話で高級なホテルに宿泊してアメリカ人の牧場主だという老婦人から、ここに来たらこのウイスキーを飲まなくては、と勧められて、その味の奥行きの深さに感動する。

「鏡よ鏡」
 日本に帰った平岡は地下室の人形にかわり、生きた人間をセットするようS君に依頼する。彼らは平岡の意向どおり、彼を意識することもなく、バーの客としてその場にあるだけだ。やがて平岡自身が首なしの人形に成り代わろうかという野望も芽生えてきて。

「塔」
 平岡は西伊豆に塔を建てる。外からは入り口がわからないデザインだが、頂上からは360度の展望が拓け、空間につつまれた孤独を深めることができる。ここで月の光を浴びて浮遊するという感覚を手に入れることに。

「竹林まで」
 となりの家は廃屋なのだが、何者かに導かれてつい、家のなかに入り込んでいった。中には平岡の分身かと思われる老人がおり、言葉をかわすことになった。ただ、その男には首がなかった。

「ROMS」「判決」「不可能」
 S君の紹介で悔悛老人クラブだという、ROMSという老人クラブへ入会した。その例会に冷やかし半分に出かけた平岡だが、テントで酒を酌み交わすだけの付き合いだと思っていたのに、酔い覚ましに外へ出て隅田川をながめていると、そこへ首なしの死体が漂着する。川の向こうでは突如空襲がはじまり、逃げ惑う人の声が聞こえてくる。あれは戦争中の悪夢なのか、いや東京スカイツリーなども上半分が炎上しているのを確かに見た。だが、翌日の新聞にはそんなことは何も報道されていない。

 ROMSの集まりから半年ほど過ぎて、行く気もなかった集まりに顔を出すことにした平岡。とある会場で会議の中で表決をくだすことになり、その結果、芝居じみた男女にまつわる処刑場面を目の当たりにする。そしてその処刑を執行することになった。平岡に手渡されたのは大きなかみそり。

 めずらしく30人ばかりの客を招待して集まりをおこなった平岡。場所は伊豆の塔がある別荘だ。そこで順番に景色を堪能してもらったあと、ビュッフェ形式の晩餐をとり、客を送り出したあと、国会議員とともに東京へ帰る。
 そしてその翌日、平岡の首が東京の地下室で発見される。胴体のほうは伊豆の塔の展望室から発見された。DNA鑑定では平岡その人と判断されるのだが・・・

 三島由紀夫の冒険、とのタイトルでもよかったかな。
 とくに後半の3編、前半の生きているのか死んでいるのか、と彼自身が韜晦するような生き方から脱皮して、うってかわった異次元の世界へと活躍の場を広げていくさまは見事だ。
 それは起こりうる事件だったろうか。

 だがしかし、何故、三島なんだろう?
 主人公が三島由起夫であるべき理由は、その背景にある文学的な多様性、そして死に様に通じる生き様を期待する著者のひいき目から来ているのか。
 三島はしかし、こんな行動を起こしただろうか?
 永久に解かれることのない謎。不可能だが、魅力的な謎ではある。
 

2011年9月13日火曜日

夏はやっぱり、しゃばけの季節

「やなりいなり」
畠中恵

単行本: 253ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語
ISBN-10: 4104507148
ISBN-13: 978-4104507146
発売日: 2011/7/29

 おなじみ、廻船問屋・長崎屋の病弱な若だんな一太郎と、その取り巻きの妖怪たちがはしゃぎまわる大江戸妖怪騒動。今回は5篇の短編集。それぞれにレシピがついており、なにやら、みをつくし料理帖のおもむき。

●こいしくて
 京橋の橋姫さま。結界を守っているはずなのに、なぜか行方不明。おかげで通町には疫病神たちがあれこれ現れて大変な騒ぎに。どうやら
橋姫さまはだれかに懸想しているようだが。

●やなりいなり
 おいしい稲荷ずしを食べようと集まったときに幽霊が透明な手を延ばしてきた。事情を聞いてみると、なにやら寄席芸人の幽霊のようだ。この世に未練をもっているのだろうが、一太郎たちに助けることができるのだろうか。

●からかみなり
 この三日ばかり、長崎屋の主人藤兵衛の姿が見えない。空雷も激しいし、なにか気になることが起こりそう。妖たちはあれこれ推理をめぐらすが、藤兵衛は思わぬ近くに居て・・・

●長崎屋のたまご
 ゆで卵に顔を描いて遊ぶのが好きな鳴家(やなり)たちが、空から落ちて来た卵を見つけて追いかけ回す。あとからあとから奇妙な神様たちが現れてくる。兄弟を探しているというのだ。

●あましょう
 雨が降りそうな空具合だからと一太郎は外へ出してもらえない。さっきまで晴れていたのに、誰か雨性の人が出掛けたのだろうか。友の栄吉のお菓子屋へは駕篭で出掛けることを許されたのだが、そこで、幼なじみらしい若者たちの喧嘩さわぎに巻き込まれて。
 
 おなじみの妖怪たちに加えて、今回はいろいろな神様、幽霊、空に住む妖魅たちまで現れて、にぎやかな一巻。
 前作の「ゆんでめて」では、全体を通したストーリーが浮かんで来たが、今作は全体を通じてのムードが一貫しており、妖怪たちの活躍は今ひとつながら、一太郎と他のあやかしたちとのつきあいが発展していく、はちゃめちゃ篇。
 

爺の読書録