「いのちなりけり」
葉室 麟
単行本: 255ページ
出版社: 文藝春秋 (2008/08/10)
2009年最後のアップになるので、
12月といえば忠臣蔵。忠臣蔵といえば、ということで、何の関係があるのか、というと、実は葉室さんの新作が忠臣蔵にからんだご本で、この「いのちなりけり」の主人公がそこにも登場しているそうです。
さて、忍ぶ恋のお話。
中心人物は蔵人と咲弥という男女。幼い頃のお花見で見初めた少女を思い詰め、無事に婚儀にまでこぎつけた蔵人だが、そのときの少女・咲弥は今や出戻りの後家であり、また、周囲は蔵人みたいな無骨ものに咲弥は相応しくないなどと、かまびすしい。なおのこと咲弥は婚儀の夜にこう尋ねる。
「これこそご自身の心だと思われる和歌を教えていただきたい」
咲弥の前夫は、強いばかりでなく風雅の道も心得てこそ武士だといっていたのだとか。これはつらい。そしてそのときから蔵人の歌を探す旅が始まる。
お話は元禄7年(1694)年に始まる。最初に登場するのは水戸光圀。おなじみ「すけさん」も重要な役割を果たしているよ。そこでは蔵人が水戸藩に登用されることが明らかにされる。だが、なにやら問題があるらしい。
そしてお話は18年前に戻る。さきの婚儀の頃のことである。
蔵人の和歌探しの旅は、苦難の道だ。当然そればかりじゃないものね、男の世界は。
島原の乱に起因するともいえる鍋島家のある因縁、水戸家と徳川本家との諍い、公家による徳川家・武家社会への陰謀、その手段として使われた「古今伝授」、水戸家が危ない。
はっきり言ってややこしい話だよ。
だが、蔵人はややこしくない。ひとつの道を貫く。家を守り、咲弥を守る。恋しい人を恋し抜くのだ。
そして18年後、敵を討ち取り、満身創痍になった蔵人がひとつの和歌を探し当てて咲弥の前に現れる。
筆者は末尾に佐賀鍋島家の「葉隠」の一節をあしらった。そのなかに
「忍ぶ恋こそ・・・・」とある。のだそうだ。