2013年11月30日土曜日

王になろうとした男は、黒褐色の囚人に未来を託す

「王になろうとした男」
伊東 潤 (著)


単行本: 299ページ
出版社: 文藝春秋
言語 日本語
ISBN-10: 4163823204
ISBN-13: 978-4163823201
発売日: 2013/7/29


己を知るものほど強いものはおらぬ
天才信長の周囲に集まった者、五人のそれぞれの数奇な運命を描く歴史短編集。黒人奴隷の弥介、信長に父信行を殺された織田信澄など。
内容(「BOOK」データベースより)
現在最も注目を浴びる気鋭の歴史小説家が描く織田家をとりまく異色の人々、毛利新助、原田直政、津田信澄、彌介など。


「果報者の槍」
桶狭間で今川義元の首を獲った毛利新助。信長に認められながらも、周囲の者たちとの出世競争には目もくれず、おのれの道を進む。


「毒を食らわば」
明智光秀や羽柴秀吉にも勝る勢いで出頭を重ね、本願寺との合戦で討ち死にを遂げた原田直政。毛利新助の同僚であり、前作とほぼ同時代を側面から描く。


「復讐鬼」
野心家であるがゆえに墓穴を掘ってしまった荒木村重。信長を裏切り、茶人として大成していくが、やがて復讐の鬼となっていく。


「小才子(こざいし)」
父を伯父の織田信長によって暗殺され、復讐のために信長の一家臣として仕えた津田信澄。果てしない野望を秘めた男には、野望を秘めた者たちが集まってきて。


「王になろうとした男」
 ある夜、本能寺でめざめたヤシルバは、おのれの不可思議な過去を思い出す。象牙取りの仲間たちとともにポルトガル人に捕らえられ、売られ売られてこの国にたどり着いた。
 信長には、自分の黒い身体を美しいとほめられ、側に侍ることを許される。そのときからヤシルバは彌介となった。
 だが、謀反の旗が本能寺を取り囲む。信長の秘命を受けて、信長の長男・信忠を訪ねた彌介だったが、信忠はそれを是とせず、滅亡を選ぶ。
 彌介も捕らえられ、ふたたび奴隷として西国に向かうのだが、その途中、己の身に起こる運命を悟ったヤシルバは・・・

 日本国王になろうとした信長を取り巻く5人の男たちを中心にして、「信長の時代」を描く。
 この本では、今川との戦から始まり、本能寺の変で幕を閉じる構成だが、それぞれの短編の初出の雑誌は順番がことなっている。
 

2013年11月22日金曜日

11/22/63の事件を11/22/13に読了

「11/22/63」(上・下)
スティーヴン・キング著
白石朗訳

  • 単行本: 529ページ、527ページ
  • 出版社: 文藝春秋
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4163824804、4163824901
  • ISBN-13: 978-4163824802、978-4163824901
  • 発売日: 2013/9/13

巨匠がまたもや代表作を生み出してみせた!
過去へ旅することのできる「扉」の存在を知った男はケネディ暗殺阻止に挑む。キングにしか書けない壮大な物語。落涙保証の感動大作!
内容(「BOOK」データベースより)
小さな町の食堂、その倉庫の奥の「穴」。その先にあるのは50年以上も過去の世界、1958年9月19日。このタイムトンネルをつかえば、1963年11月22日に起きた「あの悲劇」を止められるかもしれない…ケネディ暗殺を阻止するためぼくは過去への旅に出る。世界最高のストーリーテラーが新たに放った最高傑作。

 ことの始まりは、ぼくの生徒が書いた作文だった。
 もっとも、これは成人教室で、書くこともままならず大人になった人たちのスクールだ。
 英語教師のぼくのもとに提出されたレポートには、今は校務員として働いている男の少年時代に起こった悲劇が書かれていた。母と別れた父が狂気にかられ、その年のハロウィンの夜、母と兄と妹を撲殺し、その男の片足を使えなくさせたのだ。
 たどたどしいそのレポートは州の賞を取り、男は有名人になる。

 その校務員と並んで写した写真を飾っていたのが、近くの食堂の主人。
 主人は、そのレポートに感動していた。

 そして食堂の主人はある秘密を教える。
 倉庫の地下室に下りていく階段を通ると、過去に通じるているのだという。そこは1958年の9月19日。そこで幾日かを過ごして帰って来ると、向こうでいくら時間をつかっても、下りていったときから、2分後に戻ってくるのだ。

 ぼくは半信半疑だったが、それなら、校務員の悲劇を救うことが出来るのではないか、と考えてしまった。
 ぼくは思わず、階段を下りていく。そこは事件が起こるハロウィンの2ヶ月前の世界。

 到着した9月末からひと月後のハロウィンの夜、別れた父が母を襲いに来る。それを防ぎに来た僕は、将来、ぼくの教え子になる校務員の少年を救い出す。
 2010年に戻ったぼくは、食堂の写真がなくなっていることに安堵する。
 そして、改変された過去を調べてみる。当時の新聞では、謎の男として、ぼくのことを捜索している記事が残っていた。
 だが、校務員となっていたはずの男はベトナム戦争で戦死していた。

 歴史改編が現在になにをもたらすか。
 キングは、歴史がリセットされる、ということから始める。
 時間旅行者が過去に舞い戻ると、その時点で、すべては旅行者の過去にリセットされる。
 そこからすべてが始まるのだ。

 ある日、食堂の主人は突然やせ衰えていた。
 それも肺がんになり、余命わずかだと自分で告げる。
 そして、自分が4年に渡って調査してきた結果をぼくに告げ、ひとつの願いを依頼してくる。
 それは11/22/63に起こった事件を防いでくれという願いだった。

 1963年11月22日、テキサス州ダラス。
 ケネディ暗殺を阻止しようと、4年間を過去の世界で過ごしてきたが、体力ももたないので帰って来た。それをぼくにもう一度完遂してほしいというのだ。

 もう一度1958年に戻ったぼくは、リセットされた過去の中で、改めてその校務員の少年時代を救うことになる。今度はうまくやる。そう思いながらも、歴史の流れがダイナミックに、改編を許そうとしない動きをしてくる。

 やがて、英語教師としてハイスクールに勤め、アメフトの選手を主役にして演劇公演を成功に導く。
 そして、図書館の新任司書セイディ—が登場。
 彼女とは心を許せる仲になるのだが、ある日、うかつなことに、ぼくはローリングストーンズの歌を唄ってはしゃいでしまった。それは7年後に発表される楽曲だったのだ。

 これもジムラの呪いなのか?

 ここまで上巻。

 下巻ではいよいよ、標的であるオズワルドとの駆け引きが始まる。
 そしてセイディーも昔結婚していた男と別れるべく努力するのだが、変態男はなかなか離婚に応じてくれず、つきまとってくる。

 オズワルドの周辺をおさえ、事件が起こるであろうときに備えるための対策が出来てきたとき、事件が起こる。

 これも歴史改変への警告なのかもしれない。
 セイディーが別れた夫に襲われ、ほほを切り裂かれてしまったのだ。
 治療費を稼ぐために、ギャングのノミ屋とボクシング試合の賭けをして、まんまと大金を手にすることに成功。

 だが、ギャングはそんなぼくを徹底的に叩きのめす。
 ぼくは一時的に記憶を失い、何のためにダラスに行こうとしたのかさえ思い出せない。
 セイディーはぼくを助けるために、ともにダラスへ赴く。

 そしてダラスで起こったこと、
 ケネディは助かるのか、
 そして歴史はどう変わっていくのか・・・

 物語の結末はどうあれ、読後の爽快さはいつもながらのキング節だ。

 キング自身のあとがきでは、暗殺時のフィルムを見ていてわかるとおり、ケネディは後方の高い場所からではなくて、前方から撃たれている、と断言している。
 そのフィルムは事件後10年もたってから発表されているのだ。

 歴史の闇は何を飲み込んでいるのだろう。
 たまたま、読了したのは11月22日だった。
 

2013年11月10日日曜日

ゴーン・ガールが、ごつーんと来る

「ゴーン・ガール」(上・下)
ギリアン・フリン著
中谷友紀子訳

  • 文庫: 413ページ、381ページ
  • 出版社: 小学館
  • 言語 日本語, 日本語
  • ISBN-10: 4094087923、409408830X
  • ISBN-13: 978-4094087925、978-4094088304
  • 発売日: 2013/6/6

NYタイムズベストセラー第1位のミステリ
ニックは34歳、ニューヨークで雑誌のライターをしていたが、電子書籍の隆盛で仕事を失い、2年前に妻エイミーとともに故郷ミズーリ州の田舎町に帰ってきた。しかし、両親ともに高名な童話作家で、その人気児童文学シリーズのモデルでもあったニューヨーク育ちのエイミーにとって、この田舎町での生活は決して満足するものではなかった。
そんななか、結婚5周年の記念日にエイミーが突如謎の失踪を遂げる。家には争った形跡があり、確かなアリバイのないニックに容疑がかけられる。次々とニックに不利な事実が浮上するなか、彼はみずから妻探しを始めるが、その一方で何かを隠すかのように嘘を重ねるのだった……。
ニックの語る結婚生活と、交互に挿入されるエイミーの日記。夫婦双方の言い分からなるふたつの物語が重なるとき――。大胆な仕掛けと息苦しいほどの緻密さで描写される夫婦のリアルな愛憎劇、やがて浮かび上がる衝撃の真実とは――。

 ニックの一人称の語りと、エイミーの日記とが交互にあらわれる。

 結婚5周年の記念日、妻のエイミーが失踪する。謎の置き手紙を残して。
 置き手紙には、わたしを探して、というメッセージが暗示され、そのヒントが隠されている。
 ニックはそのヒントに従ってエイミーの行方を探す・・・フリをしているのか?

 ニックの双子の妹、マーゴ。ニックと二人でバーを経営する。
 ニックの父ベンはアルツハイマー、ニックの妻のエイミーのこともわからない状態。
 ニックの母モーリーンはベンを介護しながら、息子夫婦を憂いている。

 エイミーの父母はエイミーをモデルにした児童小説で一世を風靡したが、いまは落ち目。
エイミーの信託財産までも取り戻して、借金の返済にあてている。
 
 ニックは短大でジャーナリズム論の講師をしていて、その教え子のアンディと不倫関係にあった。それも妹の知るところとなってしまう。

 刑事たちはエイミーが失踪したというニックの証言を疑い始める。
 ふたりが言い争ったというが、部屋は片付いていた。 
 部屋が荒らされていないのに、台所にルミノール反応がある。
 上空をジェット機が飛んだだけで、室内の植物の葉っぱが舞い散るのに、部屋には花びらひとつ落ちていなかった。
 ニックのクレジットカードの請求額が21万2千ドルに達していてその払いが滞っている。
 パソコンで、ミシシッピ川を検索した記録が残っていた。「人体 流れ ミシシッピ川」これはどういうこと?
 
 友人たちがエイミーの捜査に協力しようと、探す会を催す。
 挨拶に立ったニックの前に現れたエイミーの友達は、「ニックがエイミーを殺したのよ、エイミーは妊娠していた」と叫ぶ。

 ニックはニューヨークへ飛び、テレビで有名な弁護士タナー・ボルトに面会する。
 タナーはただちに愛人と手を切れ、身重の妻が失踪しているのに不倫はまずい、尋問の予行演習をしようと約束した。

 家に帰ったニックはエイミーのヒントで思い浮かんだ、妹の家の裏にある薪小屋に向かうが、そこを開けると・・・嘘だ嘘だ嘘だ。
(以上上巻)

 下巻になると、冒頭から驚かされる。
 エイミーの手記から始まるのだ。
 そこでエイミーは、ニックを陥れるために、自分が仕掛けた罠の数々を暴露している。

 だが、エイミーの逃亡は永くは続かない。持ち金を失い、彼女が頼ったのは、ニックと結婚する前に付き合っていた男だった。エイミーは、その男は暴力的なサディストだとして日記に書き込んでいた。

 ニックは有力弁護士や女性ディレクターなどとつるんで、無実を証明しようとあせっている。警察や、愛人として名乗りを上げた教え子のアンディ―も、ニックにとって強敵だった。

 やがてエイミーは自分が仕掛けた罠の仕上げにかかる。
 それは、恐ろしいたくらみだったが、エイミーにはその仕上げには自信があった。

 いやはや、嫌ミスという言葉があるが、それはこういうミステリーのことを指すのだと、実感。
 でも、決して嫌いではない。

 男も女も自業自得だ、と思ってしまう。それが面白いと思うなら、嫌ミスもなかなか捨てたものではない。

2013年11月9日土曜日

たぶんねこ、たぶんしゃばけ、たぶん盛り返すだろうね

「たぶんねこ」
畠中恵

単行本: 266ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語, 日本語
ISBN-10: 4104507180
ISBN-13: 978-4104507184
発売日: 2013/7/22

病弱若だんなが兄やと交わした五つの約束とは? 累計580万部「しゃばけ」シリーズ最新作!
えっ、若だんなが大店の跡取り息子たちと稼ぎの競い合いをすることになったってぇ!? 長崎屋には超不器用な女の子が花嫁修業に来るし、幼なじみの栄吉が奉公する安野屋は生意気な新入りの小僧のおかげで大騒ぎ。おまけに幽霊が猫に化けて……。てんやわんやの第十二弾の鍵を握るのは、荼枳尼天様と「神の庭」!

「しゃばけ」シリーズ第12弾ということで、しゃばけ1ダース記念の大騒ぎ。

「跡取り三人」
 江戸の大店3店、それぞれ跡取り息子の器量を確かめようと、稼ぎ競べを始めた。一太郎もそのなかの一人に選ばれて、寄席でお菓子を売ることに。

「こいさがし」
 長崎屋にやってきた娘も交えて、3組のお見合い騒動。そこに河童の禰禰子の妹分もからんできての大騒ぎ。

「くたびれ砂糖」
 お菓子屋の栄吉は未だ未熟者だが、奉公する安野屋にはあらたな3人の弟子がはいりこんできた。その中でも生意気な小僧の世話をまかされた栄吉は。

「みどりのたま」
 隅田川に浮かんでいた男は記憶をなくしていた。そこに荼枳尼天様の神の庭にもう一度いきたいという老人が現れて、おや白択さんどうしました、と。

「たぶんねこ」
 手提げ袋の中に入り込んだ一太郎は、幽霊といっしょに江戸の街をさまよう。幽霊だけに、昼間は動けない。自分ではあれこれ変身したっがている幽霊はねこにも化けようとするが、たぶんねこ、くらいの猫にしかみえない。一太郎を探し回っていた兄やたちとようやく再開できた一太郎は幽霊の居場所にはとっておきの場所をみつけた、と。

 秋のしゃばけも、なかなか趣があってよろしい。

 しばらく停滞気味だったシリーズだが、今回はまとまりもあって評判もよいみたい。

2013年11月8日金曜日

黒警がはびこる組織に挑むのは3匹のはみだしもの

「黒警」
月村了衛

単行本: 232ページ
出版社: 朝日新聞出版 (2013/9/6)
言語 日本語
ISBN-10: 4022511117
ISBN-13: 978-4022511119
発売日: 2013/9/6

あんたは警察の中の“黒色分子"だ!
『機龍警察』の著者による書下ろし長篇警察小説
吉川英治文学新人賞&日本SF大賞、受賞後第一作!!

警視庁組織犯罪対策部の沢渡と滝本組幹部の波多野は、
組織に追われる中国人女性を見殺しにした深いトラウマを抱えていた。
そんな二人のもとに中国黒社会の新興勢力「義水盟」の沈が現れる。
黒社会の大組織・天老会に追われているカンボジア女性サリカを匿ってほしいと沈から頼まれる二人。
サリカは天老会の最高機密を握っているらしい。
やがて二人は背後に黒社会の大組織と癒着する国家権力の影を嗅ぎ取るが……。
ダークな味わいの傑作長編警察小説。

内容(「BOOK」データベースより)

警視庁組織犯罪対策部の沢渡と滝本組幹部の波多野は、組織に追われる中国人女性を見殺しにしたトラウマを抱えていた。そんな二人のもとに中国黒社会の新興勢力「義水盟」の沈が現れる。黒社会の大組織・天老会に追われているカンボジア人女性サリカを匿ってほしいと沈から頼まれる二人。サリカは天老会の最高機密を握っているらしい。義侠心に富む波多野はサリカを隠れ家に匿うことになるが…。トラウマをもつ無気力警官、武闘派ヤクザ幹部、そして若き黒社会の首領が交錯するとき、漆黒の闇に潜む巨悪が顔を覗かせる―『機龍警察』の著者による書き下ろし長篇警察小説。

 沢渡、組対の下っ端刑事に甘んじている。
 というのも、かつて飲酒運転がばれるのをおそれて、ひとりの女を見殺しにしてしまったことがあったからだ。

 波多野。ヤクザの幹部として一目おかれる存在だが、かれもかつて助けるべき女を助けることが出来なかった引目をかかえている。

 そこに、ペンママという、キャラクターの母親らしき名前が浮かび上がる。ペンちゃんのママなのだ。
 その情報をもたらしたのが、中国マフィアの沈だった。

 沈もまた、自らの過去の因縁から逃れられず、復讐心をかかえて警察への憎悪をたぎらしている。
 やがて、ペンママの背後に、警察上層部の局長が関係していることがわかる。
 しかし、その魔手は波多野に及ぶ。

 沢渡は波多野の仇を撃つべく、沈と組んで警察庁上層部への戦いを挑む。

 いやあ、ハードボイルドです。
 公安の星とテレビでウケている若手捜査員に、いいように引き回されながら、最後には溜飲を下げる。ちょっとユーモアがかった仕掛けもあるが、自分を押し殺して、信ずる道を切り開く沢渡はいかにも月村マインドに満ちたキャラクターだ。
 沈とのコンビも、もう少し続けてもらえたら嬉しいのに。

爺の読書録