梨木 香歩
単行本: 290ページ
出版社: 筑摩書房
ISBN-10: 4480804285
ISBN-13: 978-4480804280
発売日: 2010/10/10
もうすぐ40歳になるというフリー・ライターの山本翠。イギリスの画家ターナーからとったというペンネームが「棚」。
棚には結婚していないがパートナーと呼ぶべき恋人・鐘二がいる。自分は実家の賃貸マンションに間借りしながら、11歳の犬・マースと暮らしている。
アフリカでリポーター風な仕事をしていたが、帰国してから11年になる。
ちょっと理想的な生き方をしていますな。高等遊民というのか・・・、たとえが古いからやめておこう。
この世代のあこがれみたいなものかも知れない。ずいぶん前に読んだ「家守奇談」では学士あがりの主人公ののんびりした日常を描いていた。
そういうムードを期待しながら読むのだが、少し趣が違う。
まず、老犬が子宮の病気になる。出来物が出来て大学病院で手術となるのだが、その時の扱われ方にショックを受ける。
瘤だというが実態はわからない。手術の痕も痛々しい。だが、とりあえずの危機は脱したようだ。
古本屋で、前にアフリカで知り合った片山海里の著書を見つけた。「アフリカの民話」。
その本の中に、悪霊「ダバ」が現れる。マースに巣くった瘤はダバだったのかも知れない。
鐘二にそれを話すと意外な事実が帰ってきた。片山海里はすでに死んでいる。
そのあたりから、アフリカがどんどん近づいてくる。出版社からアフリカの現状をリポートしてくれ、という仕事が舞い込むのだ。
そして片山は膨大なアフリカの呪術の記録を残していたことが分かる。その本に導かれるようにして棚はアフリカへ行くことになる。
ウガンダを訪れた棚は現地のガイド・マティとともに呪術医を訪ねる。
ダンデュバラという呪術医に一夜の宿を与えられた翌日、鐘二の友人・三原が訪ねてくる。鐘二が心配して三原に棚の様子をチェックしてもらうよう依頼されていたのだという。
三原やマティと一緒にアフリカ奥地を訪ねることになった棚だが、そこで出会った、双子の妹を捜す女性の生い立ちが、ウガンダの現実を浮かび上がらせる。
巻末、「ピスタチオ」と題された棚の短編小説が提示される。
いつの時代か、鳥検番として生きた捨て子の話だ。
洪水から人々を救い出し、アフリカを救ったのはピスタチオだった。
だが、現実のアフリカはどうだ・・・
ファンタジーになりそうでならない、だが、これはこれで梨木ワールド。