2010年3月29日月曜日

「絵伝の果て」

 「絵伝の果て」
早瀬 乱

単行本: 381ページ
出版社: 文藝春秋 (2010/2/10)
ISBN-10: 4163286101
ISBN-13: 978-4163286105
発売日: 2010/2/10

サッカー・ワールド・カップの年に送る、蹴鞠・応仁カップ物語。
さる公家の御曹司が巻き込まれた、京都炎上絵巻にまつわる、謎解きと冒険の旅。
といえば、波瀾万丈の一大伝奇物語と錯覚するだろう。残念ながらそうはならない。

貧乏公家の家に持ち込まれた絵巻物らしきものの断片。そこには炎上する塔が描かれている。そしてその周辺に蠢き回る鬼らしきもの。この絵はいつ描かれたのか、いつの時代を描いているのか。では、鬼とはなにか。絵巻は切断されている。では残りの絵巻を見つけ出せば、絵巻は完成するのではないか。そこには何が描かれているのか。それを見たものはどうなるのか。
謎は謎を呼び、怪しい人物が徘徊する。
設定は面白いのだが、登場人物も魅力的なのだが、物語が動かないのが惜しい。

炎上する塔や街はひょっとしたら、未来を暗示しているのではないか。と主人公たちは考える。京の町が燃え上がり、平安の象徴とも言える相国寺の塔が燃える日がくるのではないか。いわばそれは世界の破滅だ。末法の世がいよいよせまっているのでは。
時代は室町末期、細川、山名、日野、そして足利将軍家が覇権を争う時代であり、われわれの時代から振り返れば、それから200年におよぶ争乱の時代の幕開けだと認識している。主人公たちもその予感にとらわれて、京の町をさまよい、鬼を探しにさまよう。

ラスト、避けられない運命のままに、大屋根の上でおこなわれる蹴鞠大会。勝っても負けても死を免れない仕掛けのなかで、蹴り上げた鞠はどこへ落ちて行くのか。
読者は鞠のごとくあちらこちらに翻弄されつつ、最後に著者が仕掛けた罠の中に蹴り込まれることになる。

ことしはサッカー・W杯の年。
と思えば、記念に読むのもいいかも。

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