「眠れる女と狂卓の騎士」(上・下)
スティーグ・ラーソン/著
ヘレンハルメ 美穂 (翻訳),
岩澤 雅利 (翻訳)
ペーパーバック: 494ページ、473ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語, 日本語, 日本語
ISBN-10: 4152090480
ISBN-13: 978-415209048597
発売日: 2009/7/9
宿敵ザラチェンコと対決したリスベットは、相手に重傷を負わせたものの、自らも傷つき、瀕死の状態に陥ってしまった。現場に駆けつけたミカエルの手配で、リスベットとザラチェンコは病院に送られ、一命を取りとめる。だが、彼女の拉致を図っていた金髪の巨人ニーダマンは逃走してしまう。この事件は、公安警察の特別分析班の元班長グルベリに衝撃を与えた。特別分析班は、政府でも知る人の少ない秘密の組織で、ソ連のスパイだったザラチェンコの亡命を極秘裡に受け入れ、彼を匿ってきた。今回の事件がきっかけでそれが明るみに出れば、特別分析班は糾弾されることになるからだ。グルベリは班のメンバーを集め、秘密を守るための計画を立案する。その中には、リスベットの口を封じる卑劣な方策も含まれていた…
リスベットは回復しつつあったが、様々ないわれのない罪を着せられていた。リスベットを守るためミカエルは、彼女の弁護士になった妹のアニカ、警備会社の社長アルマンスキー、彼女の元後見人パルムグレンらを集めて、行動を開始する。だが、特別分析班は、班の秘密に関与する者たちの抹殺を始めた。さらに彼らの過去の悪事を露見させる書類をミカエルたちから取り戻すべく、強硬策に出る。一方ミカエルは、病院内にいるリスベットと密かに連絡を取ることに成功、必要な情報を彼女から得ようとする。そして、特別分析班の実態を暴く捜査を開始した公安警察と手を組み、巨大な陰謀を解明しようとする。やがて、リスベットの裁判が始まり、特別分析班に操られた検事とアニカ、リスベットが法廷で白熱の闘いを繰り広げる!
世界中に旋風を巻き起こした驚異のミステリ三部作、ついに完結!
ということで、実は「ミレニアム」3部作の完結篇。
刊行は3年前で、その年のミステリーベストなどで3部作がベストワンに輝いている。そのときに2巻までは読んだのだが、その後、話題が広がり、図書館で見つけることがなく、ついつい延び延びになってしまった。
昨年、本国での3部作映画化に次いで、米国でも第1話がダニエル・クレイグの主演でリメイクされ、それを見ていると、やはり続きが気になって、気になって・・・
で、ようやく読み始めることができて、第1巻の映画や、第2巻のストーリーを思い出しながら読むことになる。
ミレニアムというのは左翼系の雑誌の名前。といっても過激な部分はなく、政府に対する批判やスウェーデンの闇を暴くことが中心になっている。
ミカエルはその雑誌の経営者であり編集長だが、ある財閥の背景を暴いたことで政府から目をつけられ、雑誌をやめることに。そのときにミカエルの身上調査をしたのがリスベットだった。
リスベットは天才ハッカーの女性で、背中にドラゴンの刺青をしている。第1巻「ドラゴン・タトゥーの女」の由縁である。
失業したミカエルは地方の金持ちの伝記の執筆をまかされることに。だが、この豪族の一家には秘密があり、なおかつ、36年前にある少女が邸宅のある島から謎の消失をしたまま行方不明になっている。
その調査を進めるためにミカエルはリスベットを協力者として迎える。
この話が映画化された第1巻。本国版は原作に忠実に、米国版は結末が違っている。
だが、女性差別、ネオナチの暗躍など、主要なテーマは踏襲されていた。
第2巻では、リスベットの過去が少し現れてくる。
そしてミカエルの標的が姿を現す。人身売買、日常的な強姦など、スウェーデンの暗部が描かれる。
だが、3巻へのつなぎの要素が多く、早く次を、という欲求が加算されるばかり。
リスベットは幼いころ、母を虐待する父親・ザラチェンコとの反目から父親をクルマごと燃やそうとしたことがある。それが「火と戯れる女」というわけ。
ザラチェンコはソ連から亡命したのだが、公安警察のスパイとして、政府の暗部で行動していた。
公安の実態をつかんだミカエルは、それを公表することの危険も理解していた。
その恐れのとおり、ミカエルとリスベットは襲撃を受ける。リスベットは頭に銃弾を受け、地下に埋められてしまう。
そして第3巻。
リスベットは病院のICUに隔離されている。
ザラチェンコや、その一味との対決のなかで瀕死の重傷を負い、頭部にも銃弾を受けていた。頭部の銃傷は外科医により銃弾も取り除かれ、奇跡的な回復をみせる。
かたや、ザラチェンコも重症のまま病院に収容され、リスベットのとなりの部屋で治療を受けていた。そしてリスベットの命を奪おうとするかのような動きをみせる。
ザラチェンコが回復して真相を語るのを恐れる公安警察内の一部の組織は、ザラチェンコを処分、さらにリスベットをも標的にする。
リスベットは重要参考人として拘束され、誰にも面会が許されない。
そこでミカエルは自分の妹をリスベットの専任弁護士として彼女を担当させる。
弁護士のアニカはリスベットを理解し、ミカエルとの連絡役として重要な役目を果たすことになる。加えて、手術を担当した外科医師もリスベットの本質を見抜き、協力を惜しまない。
傷が回復したリスベットのもとにミカエルからPDAが届く。
そこからは天才ハッカー・リスベットの面目躍如だ。まずyahooにふたつのグループを作る。「狂卓」(アーサー王の円卓のもじりだという)、そしてもうひとつが「騎士」だ。これが日本版のタイトルだね。そこにリスベットとつながりのある優秀なハッカーたちが世界中から集まってくる。当然電脳世界に国境はないのだが、何人かはコンピューターをクルマに積んで直接コペンハーゲンまでやって来る。
すべては、回復したリスベットを待っている裁判に向けての対応策を練るためだ。
だが、裁判が始まる前に、ミカエルや、ミレニアムをやめて新聞社の編集長になった共同経営者のエリカに悪の公安組織の手が伸びる。これを予知したリスベットが、ネット仲間を通じて妨害する手際のあざやかさ。
そして公安警察の良心的な警官たちは、ミカエルに協力して警察の悪の部分を断ち切ろうとする。
やがて回復したリスベットはミカエルの妹の弁護士とともに裁判に臨む。リスベットの異常さを訴え法的に拘束しようとする組織に対して、リスベットとミカエルは裁判での対抗弁論と雑誌や単行本、TV放送をも巻き込んだ対抗手段を取る。
いやあ、おもしろい。法廷場面は短すぎて、ある書評ではリーガル・サスペンスだ、などとおっしゃる方もおられたが、そこまではいかないまでも、そこに盛り上がりを持ってくる手法は納得。それより、PDAを手にしたリスベットがここぞとばかりネットの海をさまようあたり、これはコンピューター小説じゃないか、と、古い言い方で思ったりする。
さてこそ、著者の急逝でシリーズはここでおしまい。
たしかに、次巻への伏線らしきものもあり、残念なことこのうえないが、そこはそれ、物語は続く、だがそれは別の話だ。
2013年の年頭の2週間、3年遅れだけど楽しませていただきました。
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