2012年12月19日水曜日

ノエルがもたらす心安らぐひとときを

「ノエル: a story of stories」
道尾 秀介/著

単行本: 282ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語
ISBN-10: 4103003359
ISBN-13: 978-4103003359
発売日: 2012/9/21


物語をつくってごらん。きっと、自分の望む世界が開けるから――理不尽な暴力を躱(かわ)すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生と祖母の病で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を亡くし、生き甲斐を見失った老境の元教師。それぞれの切ない人生を「物語」が変えていく……どうしようもない現実に舞い降りた、奇跡のようなチェーン・ストーリー。最も美しく劇的な道尾マジック!

「光の箱」
 童話作家として何冊かの本を出している卯月圭介。14年ぶりに故郷の町を訪れた。高校の同窓会に出席するためだ。そこで思い出すのはいじめられていた中学生のころ。そのころから一緒に絵本を作っていた弥生のこと。圭介が小学生のころに書いた童話にイラストをつけ、ふたりで絵本を作っていた。クリスマス・ソングの「赤鼻のトナカイ」をモチーフにした童話だった。その次に圭介が書いたのが「光の箱」という童話。これは「ママがサンタにキッスした」を翻案したものだった。そして高校生のときにふたりの友人となった夏美に訪れた悲劇も同時に思い出す。
 そして今、クリスマスの飾りつけも華やかな同窓会場のホテルを訪れた圭介は玄関でアクシデントに見舞われる。
 弥生もまた、夫とともに同窓会場を訪れたが、折悪しく雨。タクシーの運転手がわき見をしていたその瞬間・・・

「暗がりの子供」
 莉子は小学校3年生。居間に飾り付けられたお雛様の段々のなか。そこは暗がりだけれど、ぼんぼりの明かりで絵本が読めるのだ。すると、父と母の話し声が聞こえた。
 病気の祖母を引き取って面倒をみることになりそうだという。母のおなかにはもうすぐ産まれそうなあかちゃんもいて、莉子にはどちらも楽しみだ。だがおとなには、おとなの事情があるのだろう。父母にはそのどちらも大変な重荷に感じているようだ。
 莉子が読んでいた絵本は「空飛ぶ宝物」という卯月圭介が書いた絵本。真子ちゃんという女の子が地下の世界に迷い込み、こびとたちと一緒に病気の王女様を助けようとするお話。
 病気の王女様は背中の羽根を痛めてしまったので、宝物を使ってもう一度、空を飛べるようになりたいと思っていたのだ。
 だが、あるときおばあちゃんのお見舞いに出掛けた莉子は、バスにその絵本を置き忘れてしまう。
 それ以来、莉子には真子ちゃんの声が聞こえるようになる。
 真子ちゃんは、赤ちゃんが産まれると莉子にはだれも構ってくれなくなる、と言い出す。お母さんが階段の上で足をすべらせるように仕掛けをして、お腹の中の子供を殺したらどうか、と作戦をたてた。
 そして、ある午後、母の悲鳴が聞こえ、あわてて病院に電話をかけることに・・・
 
「物語の夕暮れ」
 教職を辞して10年になる与沢。妻が亡くなって3か月。今まで妻と一緒に続けてきた「松ぽっくりクラブ」での読み聞かせのボランティアもそろそろ終わりにしようと思っている。
 そんなとき、児童文学の雑誌で実家の写真を見つけた。幼いころに住んでいた海辺の家だ。何年か前に人手に渡ったのだが、この家をある童話作家が手に入れ、改装して住むことにしたという。
 たちまち、思いは昔に飛ぶ。
 少年のころ、祖母にもらった一円玉を握りしめて、お祭りの夜店であそんだこと。その頃あこがれていた、ときちゃんのこと。そして、そのころから、おはなしを作って、ときちゃんに聞かせていたこと。カブトムシと蛍が、光の箱を奪い合う物語。月桂樹の葉の香りとともに思い出す。
 与沢は作家に手紙を出して、ある依頼をする。それは近く始まる村祭りの祭り囃子を電話口で聞かせてくれないかということだった。
 妻を亡くし、生きる希望もなくなった与沢は、飼っていたインコを逃がし、部屋で練炭を燃やして一酸化炭素中毒で死のうとする。そのときは電話口から祭り囃子が聞こえているのだ。 
 
「四つのエピローグ」
 圭介は恩師からの手紙を受け取り、妻とともに逢いに行こうと思う。この電話が終わったら、そう話そう・・・
 真子はインコを追いかけたが、インコは急展開して古いマンションの方向に逃げていった。その時、鳥かごがかかっている窓辺を見つける。インコはそこからにげだしたのだろうか・・・
 若い郵便配達員は、マンションの郵便受けに入らない、書籍らしい郵便物をどうしようかと悩んでいる。ベルを鳴らしても住人は不在のようだ。午後にもう一度来てみようか、釣りをしていると思われる老人に直接渡しに行こうか。そういえば、夏の終わりに、この部屋のあるじの老人と若い男女と小学生の女の子が、病院の前の公園で笑い合っているのを見たことがあったなと思い出す。
 
 それぞれの物語がエコーしながら結末に向かっていく。
 赤鼻のトナカイが引くソリに乗ったサンタが運ぶ光の箱は、プレゼントをもらったそれぞれの人の心の中に何かを残して行く。
 「ノエル」と題されたストーリー・オブ・ストーリーズ。クリスマス・シーズンには泣かされる話がうれしい。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿

爺の読書録