「二流小説家」
デイヴィッド・ゴードン
青木千鶴/訳
新書: 454ページ
出版社: 早川書房
ISBN-10: 4150018456
ISBN-13: 978-4150018450
発売日: 2011/3/10
ハリーは冴えない中年作家。シリーズもののミステリ、SF、ヴァンパイア小説の執筆で食いつないできたが、ガールフレンドには愛想を尽かされ、家庭教師をしている女子高生からも小馬鹿にされる始末だった。だがそんなハリーに大逆転のチャンスが。かつてニューヨークを震撼させた連続殺人鬼より告白本の執筆を依頼されたのだ。ベストセラー作家になり周囲を見返すために、殺人鬼が服役中の刑務所に面会に向かうのだが…。ポケミスの新時代を担う技巧派作家の登場!アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補作。
すでに昨年(2011年)の年間ミステリベストで第一位を獲得した傑作。それも「このミス、文春、ベスト」の三冠達成という快挙。面白くなかろうはずがない。
売れない中年作家でありながら、今は女子高生クレアの家庭教師で食いつないでいるハリー。
ハリーのもとに、死刑囚の告白本をゴーストライターとして執筆するという企画が舞い込む。ベストセラー作家を夢見るハリーは喜んでこのプランに飛びつく。
死刑囚ダリアンは12年前に、4人の女性を残忍に殺害した。まずヌード写真を撮影し、その後に殺害。そしてその首を切り落とし、遺体をばらばらに切断していたのだ。そしてその惨状をも写真に撮っていた。被害者の首はいまだに発見されていない。
不思議なことに彼のファンだという女性たちがいる。彼のサディスティックなおこないが気に入っているらしい。
被害者の親族たちは、まもなく処刑が執行されることに満足している。
ただ、双子の姉を殺された、ストリッパーのダニエラだけは、何か違う考えをもっているようだ。
ハリーはダリアンへのインタビューで彼の生い立ちを聞く。
今なお送られてくるファンの女性たちからのファンレターを見せられる。
殺人鬼が変態なら、ファンだという女性たちも変態だ。ファンの女性たちはおおむね“S”っ気がある女たちだ。
ハリーにはそんな女性たちの心の動きが理解できた。
というのも、ハリーはミステリー、SF、にとどまらず、ポルノ小説をも、筆名を変えて書き続けていたのだから。
彼女たちのインタビューにおもむいたハリーは、わが意を得たりと感心したり、行き過ぎだと感じたり。このあたり、アメリカ人の肉欲というものをユーモラスに誇張して面白い。
だが、インタビューした女たちが惨殺されてしまう。それも、かつてダリアンが犯した手口とまったく同じ殺され方をしていた。
囚われのダリアンには犯罪は犯せない。誰か模倣犯がいるのか。まさか事件の犯人は別にいてダリアン本人は冤罪なのか。
改めて、殺された女たちの捜査を再開したハリーを謎の銃弾が襲う・・・・
と、ストーリーは二転三転。
探偵をいびる頭のいい女子高校生、ひとくせありそうな女弁護士、おきまりの、探偵にまとわりつく美女、今は立派な編集者になっている別れた恋人。だらしない男の周りは頼りになるいい女だらけだ。
そして、残り100ページのところで、事件は急転直下解決する。
あらためてダリアンへのインタビューを試みたハリーは、悪意の真相ともいうべきものをまのあたりにする。生い立ちにまつわる悲劇、養い親との相克、母親との仲間意識、悪意そのものを抱いて生きて来たダリアンは悪魔ともいえる人間なのか。
その告白の中から、ハリーは被害者たちの頭部が隠されているであろう場所を特定する。だが、掘り返されたそこにあったのは3人分の頭蓋骨だけだった。4人目の遺体はどこにあるのか・・・
饒舌な文体がストーリーを翻弄し、間にはさまれるバンパイア小説がハリーのアンチヒーローぶりを際立たせ、SF小説の部分では進退窮まったハリーの心境をも垣間見させる。こった手法が小説の面白さを堪能させてくれる、2011年のベスト1。
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