2012年12月2日日曜日

静おばあちゃんにおまかせはミステリーか、あるいはファンタジーなのか

「静おばあちゃんにおまかせ」
中山 七里

単行本: 318ページ
出版社: 文藝春秋
言語 日本語
ISBN-10: 4163815201
ISBN-13: 978-4163815206
発売日: 2012/7/12

 
神奈川県内で発生した警官射殺事件。被害者も、容疑者も同じ神奈川県警捜査四課所属。警視庁捜査一課の葛城公彦は、容疑者となったかつての上司の潔白を証明するため、公休を使って事件を探り出したが、調査は思うに任せない。そんな葛城が頼りにしたのは、女子大生の高遠寺円。――円はかつてある事件の関係者で、葛城は彼女の的確な洞察力から事件を解決に導いたことがあった。円は中学生時代に両親を交通事故で亡くし、元裁判官だった祖母の静とふたり暮らしをしている。静はいつも円相手に法律談義や社会の正義と矛盾を説いており、円の葛城へのアドバイスも実は静の推理だったのだが、葛城はそのことを知らない。そしてこの事件も無事に解決に至り、葛城と円は互いの存在を強く意識するようになっていった――(「静おばあちゃんの知恵」)。以下、「静おばあちゃんの童心」「不信」「醜聞」「秘密」と続く連作で、ふたりの恋が進展する中、葛城は円の両親が亡くなった交通事故を洗い直して真相を解明していく。女子大生&おばあちゃんという探偵コンビが新鮮で、著者お約束のどんでん返しも鮮やかなライトミステリー。
<担当編集者から一言>
警視庁捜査一課の葛城公彦刑事は、警官殺しの容疑がかかる過去の上司の潔白を証明するため、個人的に捜査をするが、行き詰まる。そこで、葛城が頼りにしたのは、名推理で過去に事件解決に貢献した女子大生の高遠寺円。でも、実際に事件の真相に導いていたのは、元裁判官である円の祖母だった!? 異色の探偵コンビが、軽やかに事件を解決。『さよならドビュッシー』『贖罪の奏鳴曲』で、注目の著者による連作短編のライトミステリー。(IY)

 昨年の「このミス」でも話題になった『さよならドビュッシー』いらいの中山作品。

 可愛い女子大生とおばあちゃんの表紙が目を引く。
 イケメン刑事と美人女子大生のコンビが事件の謎を解く。ただ、女子大生のバックには静おばあちゃんがいた。静おばあちゃんは日本で14番目の女性裁判官だった。両親を亡くした円(まどか)は、おばあちゃんに育てられ、きびしくしつけられていたのだ。

 警視庁刑事の葛城公彦は、円と大学近くの大型書店の喫茶コーナーで待ち合わせ、事件のいきさつを説明する。一緒に捜査に出向いたりするのだが、はて、そんなのありかいな? という厳しい目は置いといて、さらっと楽しむのがライトミステリー。

『静おばあちゃんの知恵』
 横浜の港のそばで警官が殺されていた。それも斜め上方から銃で撃たれている。鑑識では弾丸のライフルマークから、刑事の持つ拳銃で射殺されたと判断する。その銃を持つ刑事の名前も明らかになった。
 だが、その刑事は否認。現にさいきん、その銃を使った形跡もなかった。
 葛城はその刑事に恩があり、みずから再調査に赴く。それも円を連れて。
 円は家に帰り、捜査の経過を静おばあちゃんに説明する。おばあちゃんは「遺体がいったんあおむけに倒れたあとでうつ伏せにされていたのは何故?」と言い出す。

『静おばあちゃんの童心』
 大金持ちだが、吝嗇家の老女が殺された。孫の美緒は赤頭巾ちゃんのような雰囲気を持った女子大生。円は彼女のためにも犯人を捕らえたいと思い、葛城に協力することに。
 それは老女が、女優がかぶるようなつば広の大きな帽子をかぶって街をうろついていた、という行動を再現するものだった。

『静おばあちゃんの不信』
 新興宗教の教祖が亡くなった。たまたまその場に居合わせたのが、警察庁のお偉方の娘。彼女ははその場から遺体が忽然と消えるのを見てしまう。「復活の儀式だ」と信者たちは気にしていない様子。
 経過を知った葛城は、「それは警察用語では死体遺棄というんだ」。おばあちゃんも「今回は、元の身体のまま復活しないことがしないってことが肝ね」。

『静おばあちゃんの醜聞』
 新名所東京スーパータワーの工事中。その地上450メートル付近でクレーンで足場解体中の作業員が突然倒れた。一部始終はモニタ—で監視されていたが、死体を降ろしてみると、腹部をカッターナイフで刺されている。空中の密室ともいうべきクレーン台で、もう1台のクレーンで作業していた外国人技師が犯人と疑われるが・・・
 おばあちゃんが現役裁判官だったころの冤罪事件も出て来る。今回、外国人労働者が犯人と疑われていることで、おばあちゃんは冤罪はあってはならないと主張する。
 「ふたつのことを確認して」というおばあちゃん。それは死体検案書と鑑識報告を見直すことだった。

『静おばあちゃんの秘密』
 南米の小国パラグニアの大統領が東京のホテルで殺害された。軍事政権の独裁者ということで、護衛の兵士や大統領夫人が部屋の周囲を見守っているなかでの出来事だった。
 葛城のもとにその捜査協力の依頼がきた。複数の人間がその銃声を聞き、そのときのアリバイも全員が持っていた。
 おばあちゃんは、「犯人が誰であっても関係ない」と。
 そして最後に明らかにされる、おばあちゃんの秘密とは・・・

 全作を通して、6年前に円の両親が交通事故で亡くなった事件の追求が進められる。犯人はアルコールの匂いがしていたが、警察はそれを証明しなかった。運転していたのは三枝といい、ふたつの事件でも葛城と関係してくる。三枝は本所署の刑事だったのだ。円は葛城の捜査について行ったときに三枝と鉢合わせする。だが、交通事故で最初に出会ったときとはどこか違う印象を抱く。
 そして、最後におばあちゃんの秘密とともに、両親の事故の真相も明らかにされる。
 連作とはいえ、冤罪事件、法曹界の内情や裁判のあり方など、おばあちゃんが孫に教え、円がそれを吸収して成長していく過程がおもしろい。
 

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