2012年12月8日土曜日

伏は日本版ヴァンパイアサーガになるのだろうか


「伏(ふせ)」
贋作・里見八犬伝
桜庭 一樹・著

単行本: 480ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 416329760X
ISBN-13: 978-4163297606
発売日: 2010/11/26

桜庭ワールド、今度は江戸時代へ!
娘で猟師の浜路は江戸に跋扈する人と犬の子孫「伏」を狩りに兄の元へやってきた。里見の家に端を発した長きに亘る因果の輪が今開く
江戸で「伏」と呼ばれる者による凶悪犯罪が頻発。小娘だが腕利きの猟師浜路は、浪人の兄と伏狩りを始める。そんな娘の後を尾け、何やら怪しい動きをする滝 沢馬琴の息子。娘は1匹の伏を追いかけ、江戸の地下道へと迷いこむ。そこで敵である伏から悲しき運命の輪の物語を聞くが……。『里見八犬伝』を下敷きに、 江戸に花開く桜庭一樹ワールド。疾走感溢れるエンターテインメントをお楽しみください。(YS)

 疾走感あふれる、との評どおり、ストーリーは疾駆する。
 浜路、14歳。猟銃を肩からぶらさげた犬人間狩りのプロの少女。
 道節、21歳。酒びたりの浜路の兄、ひげづらの大男。
 このふたりが、江戸の片隅で身を潜めている「伏」どもを探り当て、狩りをする。

 伏と呼ばれる犬人間とは、いつのころからか、江戸の街なかに隠れ棲む、犬と人間との混血生命体。ときたま悪さをし、人間を殺し、八つ裂きにしたり、腕を切り落としたりする、という。命は短く、二十歳前後に死んでしまう。からだのどこかに牡丹の模様のあざがある。

 さて、江戸にでてきた浜路は、さっそくその嗅覚で伏を発見したが、取り逃がしてしまう。
 兄とともに伏のさらし首を見るが、それは人間とまったく見分けがつかないものだった。
 滝沢馬琴の息子・冥土にさそわれ吉原に。そこで花魁になっていた伏の正体を暴き、銃で撃ち抜く。凍鶴とよばれるその太夫は「どうせ寿命だし」といいながら、おはぐろどぶに身を沈めて死んでいく。
 そのとき凍鶴が残した書き置きを届けるべく、冥土と一緒に、伏の潜む町家を訪ねる。

 いっぽう、冥土は父の馬琴に対抗するかのように「贋作・里見八犬伝」を書き継いでいた。
 応仁の乱の直前、安房の山奥・里見の国で起こった美しい姫とその愛犬との物語。そこに登場するのはやんちゃな伏姫。その弟の鈍色。鈍色が銀色の森の前で見つけてきた大きな白犬・八房。
 八房を欲しくなった伏姫は天守から身を投げるという賭けに勝ち、弟からその犬を奪い取る。
 だが、戦乱の世は里見の国にもおよび、隣国が里見の城を取り囲む。そのとき城主は八房にいう。「敵の大将の首をとってくれば、娘の伏姫をお前にやろう」
 そしてその通りに、八房は翌朝、敵の大将の首をくわえて帰ってくる。
 やがて、城主の約束のまま、伏姫と八房は森に消えていく。
 何年かののち、八房は誤って猟師に撃たれ、正気を失った伏姫は城の天守の奥深くの座敷牢にかくまわれる。
 それから永い年月が経ち、今は誰もその話を忘れているが、その地にいけば、昔話は今も息づいている。

 これは里見八犬伝の裏返しの物語。だが、逆に真実をついているのかもしれない。
 浜路は吉原での捕り物騒ぎで知り合った信乃という歌舞伎役者を追い詰め、凍鶴太夫の息子の親兵衛、さらし首になっていた伏の妹・雛衣など、市中に潜む犬人間の実態を目の当たりにする。
 伏は隠れ住むことなく、役者や花魁、町医者や大店の町娘として、陽のあたる場所で生きていたのだ。
 信乃は、あるとき伏たちがそろって安房の国へ、自分たちのルーツを探る旅に出たときの思い出話を語る。


 そして湯島天神の地下から江戸城へ通じる地下道を発見した信乃と浜路は、対決しながらもこころを通わせる。

 そして、江戸城での対決。信乃に天守から突き落とされた浜路は兄に救われる。冥土はそれを面白おかしく瓦版にして世間に発表する。
 やがて、浜路と兄の道節は天下公認の伏狩人としての鑑札をいただくことになった。

 だが、どうだろう、読者は伏にこそ感情移入して、その存在を容認し、その未来を信じたいと思うのではないか。
 だとすれば、浜路と道節の兄妹は、読者の反感を買う悪役なのだ。
 造形的には天真爛漫な浜路やあっけらかんとした道節、ふたりと伏を結びつける滝沢冥土など、決して悪人ではない。
 そして伏も、自らの出自を知らぬまま世の中を生き抜いていく寂しい存在だ。
 
 今回、アニメ化され、文庫にもなった。爺が読んだのもその文庫版だ。

 いろいろスピンオフ作品もあるようだ。
 今後どういう展開を見せるのか、楽しみなところも。
 

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