2010年1月12日火曜日

「ソウル・コレクター」


「ソウル・コレクター」
ジェフリー・ディーヴァー
ハードカバー: 527ページ
出版社: 文藝春秋
発売日: 2009/10/29


 年末年始はまったく本が読めなかった。逆にどこまで読んだのかの記憶があやふやになり6ページほど戻ってしまったほど。通勤読書の限界を思い知った1週間。
 そしてこれが2010年初のアップになる。
 さて、本文520ページ2段組のハードカバー。2010年版ベストでは、文春3位、このミス5位。
 おなじみリンカーン・ライム警部のいとこアーサーが殺人の罪で逮捕された。今まで彼のことは作品の中で言及されたことがなく、アメリア・サックス刑事ともそのような会話をかわしている。なにか因縁があるらしい。そのいきさつについては巻末近くに解明され、エンディングでさわやかな決着を見せる。
 いとこの冤罪をはらすべく捜査を開始したチームは、似たような事件が何件かあり、情報を操作できる能力を持つ何者かが別人を犯人にしたて、自らは殺人を重ねているらしいことに気付く。
 つまり犯人はネット社会を操り、証拠を作り上げることができる能力を持っているらしい。
 犯人は犠牲者のことをアンテロープと呼び、被害者予備軍たる人間存在そのものをシックスティーンと呼ぶ。一人称で語られる、標的に対する視線は冷酷だが的確であり、それが怖い。
 四股麻痺のライム警部を中心とするチームの捜査は、いつもどおり科学的に行われ、物的証拠しか扱わない。それが、事情聴取に出向いたネットビジネス大手のシステム会社のデータ管理とまったく同じであることが、淡々と語られていく。コンピューター用語やネット中毒者のスラングなども頻出し、それがサスペンス度を高めていく。さきのシックスティーンという言葉は16進数による個人の特定であることも分かってくる。やはり犯人はあらゆる個人情報を手に入れることができるこの社内におり、情報を操作しているのか。
 そして犯人の魔手は警察内部にもおよび、ある刑事の妻が違法入国者として逮捕されたり、アメリアの愛車が盗難車としてしょっぴかれたうえ廃棄処分にされ、チームのリーダー格の警部が麻薬取締法違反で謹慎処分になったりと、捜査陣に危機が迫る。なおのこと、ライムの自宅ラボが停電にされたりして、車椅子のライムの生存を脅かすことにもなる。
 そこで起死回生、ライムは犯人が扱うデータ操作を逆手に取り、行方不明のアメリアの行動をデータ上でさかのぼることで今の居場所を特定することに躍起となるが、すでにそのとき・・・
 40年前のサイバーパンクの世界が今になって現実世界に浸透しているという感想を抱かされる場面もあった。現実の世界は電子の網に覆われており、われわれの行動は誰かによって逐一監視されているのだ、ということを納得させられる一篇。


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