2010年7月23日金曜日

亜梨沙は夢から醒めたのか。未来はどっちだ?

「スリープ」
乾 くるみ

単行本: 323ページ
出版社: 角川春樹事務所
ISBN-10: 4758411611
ISBN-13: 978-4758411615
発売日: 2010/06/30

羽鳥亜里沙(はどり・ありさ)という14歳の美少女が主人公。IQ140にしてテレビ番組のリポーターも務める。中学生ながら高校卒業以上の学力を持ち、高校3年間を無為に過ごすことに戸惑いを覚えている。などと、少女マンガそのままの導入部。

亜里沙はアモルファス氷を応用した冷凍睡眠装置の開発が行われているという「未来科学研究所」に取材に訪れる。氷のガラス化、アモルファス氷の概念はすでに冷凍食品などで実用化されているというのを「カンブリア宮殿」でみたことがある。
そこで亜里沙は、人体を分子レベルで数値化できるという高解像度MFTスキャナーの第一号被写体として、乞われるままにその装置の内部にはいった。そこで意 識が途切れ・・・、

目が覚めたのは30年後の世界。同い年だった少年が、44歳になったノーベル賞科学者として亜里沙を冷凍睡眠から復活させ たのだと解説する。

というタイムワープもののSFか、と思わせるが、ここに大きな仕掛けがある。

30年後の世界では、亜里沙の復元は公表されないまま、所長と研究者が行方不明になった事件が発生したということで、軍が極秘捜査を始める。
研究所で何が起こったのか、行方不明になった所長はどこに行ったのか、静脈認証システムを追跡すると、30年前の少女が忽然と姿を現し、逃亡したことが分かる。
亜里沙と同じくTVリポーターとして活躍していた「鷲尾まりあ」は、30年後の世界では軍の機密部隊でサイバー部隊として出世している。その部下に「貫井要美(ぬくいいるみ)」という著者の分身ともいうべき女性軍人がおり、二人による亜里沙追跡劇が物語の半ばを占める。
逃亡した亜里沙は数日をかけて30年後の世界になじんでいくように見えるが、体内組織はそれを裏切っていく。細胞の再生が思い通りにいっていない。やはり無理な科学なのか。

そこで、物語は急展開する。読者は「???」となること請け合い。

いきすぎた科学と宗教というテーマも背景にあるが、未来では科学の進歩は極端に進まず、格差社会が進展し、一部の裕福層だけが僅かな技術進歩を享受しているという現実が痛々しい。
年末のミステリーベストに顔を出すことは確実な一冊。

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