2010年7月10日土曜日

「小暮写眞館」

おめでとう、2010年度文春ミステリーベスト第7位。


「小暮写眞館」
宮部みゆき



単行本: 722ページ
出版社: 講談社
ISBN-10: 4062162229
ISBN-13: 978-4062162227
発売日: 2010/5/14


昔は写真館だった古びた屋敷に引っ越して来た花菱一家。長男の高校生、英一が主人公。彼は家族からも、友人たちが呼ぶのと同じように「花ちゃん」と呼ばれている。まだ小学生の弟、光は「ピカ」だ。この古家には、亡くなった写真館のご主人の幽霊が出るという噂も。冒頭、花ちゃんのもとに謎の高校生から心霊写真が持ち込まれ・・・

 とお決まりのように始まるのだが、この作品、ホラーではない、ミステリーでもない。たしかにミステリー仕立てともいえる手法だが。
宮部ワールド全開で、登場人物のそれぞれの絡み方が面白い。
念がこもった写真の謎を解くことが物語の中心となるのだが、その過程で、花ちゃんとその家族、友人、周囲の人々との関わり、とりわけ、その相手の背景がこと細かく描かれていく。人物が生きて動き出すと言われる所以である。
親友のテンコこと店子力(つとむ)、コゲパンとあだ名されるテナーサックス女子、そして鉄道ファンの集まりや、あやしげな実験映画を作っているメンバーなど、魅力的な登場人物だ。不動産屋の従業員である順子さんが大きな比重を占める頃になると花ちゃんも大きく成長を遂げている。


表題作から「世界の縁側」「カモメの名前」と続く3篇にはそれぞれ心霊写真めいた、その場には関係ない人物や物体が写し出された写真が登場するが、4篇目の「鉄路の春」では、花菱家4人に重くのしかかるひとつの「念」が描かれ、その解放にいたるカタルシスで幕を閉じる。そして700ページのこの本を閉じて改めて表紙の写真をみたときに、一度行ってみたいな、と思うのはじじいだけだろうか。
 ご丁寧なことにこの小湊鐵道の正面写真がブログにされている。興味のあるかたはどうぞ。

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