2011年2月8日火曜日

龍馬や勝海舟と関わるひとりの快男児

「荒ぶる波濤」
~幕末の快男子陸奥陽之助~
津本 陽

単行本:281ページ
出版社: PHP研究所
ISBN-10: 4569775047
ISBN-13: 978-4569775043
発売日: 2010/6/10


 陸奥宗光。名前は聞いたことがあるが、実態は定かではなかった。
 坂本龍馬や勝海舟と行動を共にし、龍馬の影として動乱の幕末を駆け抜け、明治政府でも外務大臣を務めるなど、大きな力を発揮する。

 とはいえ、今回はその前半生、宗光となる前の時代をメーンとして描いたおかげで、龍馬のいいとこどりになってしまったようだ。龍馬や海舟の片腕として活躍した、という結論になってしまいそう。
 というのも、歴史解説ルポルタージュを見ているような、あらすじを読んでいるような文体のせいもある。山場といえるものが少なく、淡々と事態が進行していくのだ。

 紀州藩執政として藩をきりもりしていた父が失脚、幼い牛麿、のちの陸奥陽之助は田舎暮らしで成長する。やがて江戸へ出て小次郎と名を改め、刀は苦手だが、勉学と逃げることだけは得意だという青年に成長する。ジゴロのような立場で生活したりして、女にも強いところを伺わせる。
 そのころ、幕末の波が、赦免された一家にも訪れ、父や兄と共に、江戸で脱藩浪人としての暮らしを続けることになる。そのときに出会った龍馬や海舟の薫陶を受け、神戸海軍塾の設立運営にいそしみ、やがて長崎の亀山社中にも参加し、蒸気船に乗っての上海交易などで世界の広さを実感していく。

 龍馬や海舟の視点で事態を見つめる小次郎改め陽之助は、やはり世界観がちがう。その拠って立つところが幕府や朝廷、はたまた薩摩長州土佐といった雄藩の動きをも理解したうえでの物の見方をすることが出来る。いわば超越した歴史家の目なのだ。そのあたりも、物語の抑揚に欠ける部分とつながっているのかもしれない。


 巻末近く、大政奉還から龍馬暗殺にいたる経過が駆け足で語られ、やはり昨年の大河ドラマに合わせた企画なのかなと思わせるところが辛い。
 続刊で明治時代の宗光の活躍が語られるらしい。それを待ちながら、というところか。
 

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