2011年10月11日火曜日

犬たちと人間が奏でる壮大なシンフォニー


「エドガー・ソーテル物語」
デイヴィッド・ロブレスキー 著
金原瑞人 訳

単行本(ソフトカバー):
736ページ(厚さ5cm、702グラム)
出版社: NHK出版
ISBN-10: 4140056045
ISBN-13: 978-4140056042
発売日: 2011/8/25

 どういえばいいのか、この手の小説。
 いかにもアメリカ純文学。ファンタジーっぽい、冒険小説の要素も強い、なにより少年の成長物語だ。

 ウイスコンシン州、カナダとの国境に近い米国北部の州。五大湖の西に位置する。マディソンが州都、ミルウォーキーなんて町もある。物語には関係ないけどハーレー・ダビッドソンの故郷だという。
 そこの農園で犬のブリーダーをしている両親と育ってきた14歳の少年、エドガー。
 父はガー、母はトゥルーディという。両親はソーテル犬ともいうべきシェパードに似た犬種の犬を育て、繁殖させ、訓練をしてから顧客に販売するという方法で種族の犬を増やして来た。
 アーマンディという、母親がわりにエドガーの世話をしていたソーテル犬もいっしょだ。
 だが、エドガーは産まれつき口がきけない。耳は聞こえるのだが、発声できないぶん、手話による会話で両親や犬たちと意思を疎通させている。

 しかし、そこに父の弟、エドガーには叔父にあたるクロードが軍隊から帰って来た時から何かが変わって行く。
 父とクロードは幼いころから確執を続けてきた兄弟だった。それは一家と深いつながりを持つパピノー医師の証言からも明らかにされる。
 そして、悲劇の予兆。いくたびかの父との諍いの後、叔父のクロードは農場を出て街に住むことになった。

 エドガーは犬の世話をまかされ、自分の犬ともいえる、出産から立ち会った何頭かの犬を担当することになる。一人だけで、すべての訓練をこなしていくのだ。
 だが、ある日、父が急死する。その現場に立会い、そのときになすすべもなく、ただおろおろするだけだった自分を責めて、エドガーは落ち込んでしまう。

 夫を亡くした母はそれでも農場を経営していく覚悟で、エドガーにも自覚を持たせようとする。
 エドガーはその期待に答えようとするが、ある夜、父の幻を見る。
 そして、恐ろしい疑惑がエドガーを奈落へ突き落とす。そのショックからエドガーは家出をしてしまうのだ。自分が面倒を見ていた3頭の犬と一緒に。

 さあ、ここからはアメリカらしい冒険が続く。
 田舎町ではあるが、湖があり、別荘地があり、汽車の線路やハイウエイもすぐそばを走っている。
 留守の家をねらって食料を盗んだり、それも家人が気付かぬような量を盗み、侵入した形跡も消し込み、秘かに出て行くのだ。だが、そうもいかない日が続き、空腹をかかえてさまようときもある。
 そんなとき、一緒にいた犬の一頭が足に大怪我を負う。そのときはひとり暮らしの電話技師の家に忍び込んだ直後だったが、その男ヘンリーに助けられる。彼は事情も聞かず、エドガーに援助の手を差し伸べてくれた。
 
 主要な登場人物は、父、母、叔父、医者のパピノー先生、その息子で大男の保安官グレン、あとは町の人たち、そして、心優しいヘンリー・ラム。こんな少ない人物たちがこの壮大な物語を生き生きと活写する。
 そして、犬たち。こちらも、親代わりのアーマンディ、最後までエドガーとともに冒険を続けるエセイなど、個性豊かな存在ばかりだ。

 犬と人間が奏でるシンフォニー。
 大きな悲劇だが、物語の醍醐味を味合わせてくれる大傑作。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿

爺の読書録