2013年9月8日日曜日

桜庭一樹短編集で恐怖と冒険を味わう

「桜庭一樹短編集」
桜庭一樹

単行本: 252ページ
出版社: 文藝春秋
言語 日本語
ISBN-10: 4163822100
ISBN-13: 978-4163822105
発売日: 2013/6/13

一人の男を巡る妻と愛人の執念の争いを描いたブラックな話から、読書クラブに在籍する高校生の悩みを描いた日常ミステリー、大学生の恋愛のはじまりと終わりを描いた青春小説、山の上ホテルを舞台にした伝奇小説、酔いつぶれた三十路の女の人生をめぐる話、少年のひと夏の冒険など、さまざまなジャンルを切れ味鋭く鮮やかに描く著者初の短編集。著者によるあとがきつき。
担当編集者から一言
1人の男を巡る妻と愛人の執念の争いを描いたブラックな話から、読書クラブに在籍する高校生の悩みを描いた日常ミステリー、人を好きになるということについて深いまなざしで描いた青春小説、山の上ホテルを舞台にした伝奇小説、酔いつぶれた三十路の女の人生をめぐる話、少年のひと夏の冒険など、さまざまなジャンルを切れ味鋭く、鮮やかに描いた著者初の物語集。バラエティ豊かな世界が楽しめること間違いなし、です。(SY)

「このたびはとんだことで」
 お骨になった俺には色彩はわからない。灰色の桜の花びらが散るころに、愛人が訪ねてくる。さんざん妻をないがしろにして、いろいろな女と遊んできた。だがこの女だけは今も俺のことを思っているようだ。骨壺を見ながらあついため息をつき、妻にお茶を頼んでは、そのすきに俺の骨をさわろうとする。あげくのはてに・・・

「青年のための推理クラブ」
 部室に集まってあれこれ話しあうのが読書クラブの楽しみ。その日アンブローズが部室の窓から外の景色をながめていると、ジャンが礼拝堂に入っていくのが見えた。勝手に礼拝堂に入ったりしたらお叱りを受けるのだ。そこにサマセットとヘルマンが部室にやってくる。しばらくして、礼拝堂の中から、シスターがマリア像を花束のようにして新聞紙にくるみ、みつからないように持ち出しているのが見えた。あれはジャンだ、とアンブローズがいう。どうしようと思っていると、おさげ髪の少女がその新聞紙の束を持って帰ってきた。ヘルマンは、あれは3人ともジャンの変装だ、と見抜く。
 おしゃれな少女たちの仮想空間と現実がミックスされたおしゃれな物語。

「モコ&猫」
 大学に入って、モコと知り合った。モコのことをごま油の瓶みたいだ、と言ってしまった俺につけられた仇名は猫だった。同じ映画サークルに所属し、つかずはなれずの関係を続けていくモコ&猫。それを10年後から振り返ってみれば、そんな青春も懐かしく思い出される。舞妓さんの油取り紙ってどんな味だろう。

「五月雨」
 昭和60年6月。東京山の上ホテル。鉄砲薔薇の花びらが散る夜。今風の青年新々作家。年配の小説家。そこに現れた野生の女。「とうとう見つけた。最後の一匹だ。これで村に帰れる」。引き絞られる弓。放たれる銀の矢。五月雨に溶けていくのは・・・

「冬の牡丹」
 32歳の誕生日の夜。酔っぱらった牡丹は隣家の男に助けられる。若いのか年寄りなのかわからない不思議な男だった。やがてその男がアパートの家主だとわかり、交流が始まる。路地裏の飲み屋にも連れて行かれて、おいしい焼酎を教えてもらう。
 牡丹の実家には、妹が単身赴任の夫にかこつけて今も子連れで居座っている。なおかつ、母が見合いのような話を押し付けて来るのに閉口しているのだ。ある日、ついに堪忍袋の緒が切れて牡丹は見合いをすっぽかして帰ってしまう。
 コンパで出会い、独身仲間として付き合う分には気に入っていた不良公務員が、セネガルに赴任することになったから結婚しよう、と言い出す。牡丹にその気はなく、つい振ってしまう。
 家主は「牡丹ちゃん、お前は本当につまんない子だけど、お前なりに一生懸命なんだよなあ」とほめるともなくつぶやく。

「赤い犬花」
 夏休みになってぼくは田舎のお爺さんの家に行かされた。再婚したママの新しいパパの実家だから、血のつながりはない。
 納屋で段ボール箱の中に隠れていると、スカートをはいた子供にみつかってしまった。
 その子はぼくのことを、箱の中から現れる、「妖怪・赤い犬花」だと思ったという。
 自分のことをアキノといい、神隠しにあった女の子が見つかった三本松まで一緒に行こう、とぼくのことをさそう。
 山を登り、山の池に突き落とされ、三本松の直下にある崖では岩登り。
 ようやく登った崖の上で、アキノは実は自殺した姉の名前であり、その子はじつは弟のジュンノスケだと判った。雨の中、今度はロープを伝って崖をくだる。
 そして村に帰ったぼくたちはおとなたちにさんざん説教される。
 熱を出して5日間寝込んだぼくを、ママが迎えに来た。こんどのパパともリコンすることになったので、もう帰るのだという。「ねえ、ママはいつもこう思うの、女の人生って」ぼくはうなずきマシンになっている。
 バス停で、ジュンノスケが手紙をくれた。消しゴムでぼこぼこになった手紙だった。
 桜庭版「スタンド・バイ・ミー」だろうか。
 

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