辻原 登
単行本: 136ページ
出版社: 新潮社
発売日: 2009/12/18
まずは左の表紙をご覧頂きたい。
古い洋館で階段から降りて来るのはひとりの少女。いや、よく見るとなにか影が薄いような・・・。
「わたし」が取り調べの検事に語りかける一人称で綴られた、辻原さんの中篇。
これ一篇で一冊の本として出版してしまう新潮社もえらい。しかし、他の短編に混じってこの一篇を読むのと、この一冊を読み終えた、という感想を持つのとでは印象がまったくちがうのではないか。
検事に対して自分のことを語りかけているのは、5歳になる前田公爵家令嬢の小間使いにやとわれた、女学校を卒業したばかりの18歳の女性。教養もあり、昭和12年という時代では蒙昧な俗世の迷信などを信じることもないのだが、令嬢・緑子には自分に見えないものが見えているらしいことに気付く。そして自分の気付かないときに何かに語りかけていることもあるようだ。それは一体なにか。
不可解な緑子の行動、怪しい使用人の視線、きっぱりと決着せよと命じる家庭教師の英国人女性など、物語は緊張を保ったまま一直線に進む。
二・二六事件から1年後という緊張に満ちた時代の雰囲気を漂わせ、軍人の未亡人、貴族階級の人々、使用人などを交えて織り成される物語。
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