2010年2月11日木曜日

「水魑(みずち)の如き沈むもの」



「水魑(みずち)の如き沈むもの」
三津田信三
576
出版社: 原書房<ミステリー・リーグ>
2009/12/10

 刀城言耶シリーズの最新長編。
 奈良の僻村でおこなわれる雨乞いの儀式。13年前にも不可解な宮司の死亡事件がおこっていた。民俗学のスタンスから伝承と怪奇事件を集めることが好きな刀城言耶は、先輩の京都の禰宜に紹介され、近々おこなわれるというその儀式を見聞すべく、その村に向かう。
 いっぽう、3人称で語られる、戦地から引き揚げて来た母子4人の辛酸が単独の章として物語に挿入される。母とふたりの姉に守られて成長する少年の記憶をメーンに、やがてこの母が今回の儀式をとりおこなう有力な宮司の娘であり、宮司の孫にあたる長姉が今回の儀式で大きな役割を担うことが明らかにされる。母はあっけなく亡くなったが、長姉とその下の姉、そして少年が成長したところに刀城言耶があらわれる。
 長い物語の、中盤を過ぎたあたりで事件が発生。雨乞いの儀式の中、不可解な状況で起こる殺人事件。続いて発生する、祀りを司る神主たちの連続殺人。そのなかで次女が人身御供にされたことが分かる。宮司の娘は人身御供として育てられていたというのか、そしてその娘たちもその標的にされていた?・・・。そして少年の運命は。

 謎が解かれ、それがくつがえされ、そして本当の犯人が明かされたとき、大雨のなかで言耶の思いは薄幸な三人の姉弟の運命に及ぶ。
 ハッピーエンドではないのだが、雨乞いのあとの豪雨、そしてそのあとの晴天のように明るい予兆を見せて物語は終わる。
 言耶と助手の偲のやりとりも面白く、今後のふたりの行方にも興味をそそられる一巻。

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