2011年5月18日水曜日

料理が解決できるもの、できないもの


「小夜しぐれ 」(みをつくし料理帖)
文庫: 296ページ
出版社: 角川春樹事務所
言語 日本語
ISBN-10: 9784758435284
ISBN-13: 978-4758435284
ASIN: 4758435286
発売日: 2011/3/15

 おなじみの「みをつくし料理帖」も5巻目。マンネリだとかいわれながらも、ほのぼのムードは健在。澪の控えめな性格は一向に進歩しないのだが、今回はひとつ前進しようという意志もあらわれる。

『迷い蟹』
 つる家の主・種市と亡き娘おつるの過去が明かされる。みそ汁の具に選んだアサリの貝殻のなかに小さなカニが入り込んでいた。迷いガニと呼ばれる、よくある現象なのだ。つる家のあるじ種市の若い日の韜晦と、娘の死のいきさつが語られる。そして、なぜ帰って来なかったという、後悔。カニでさえ、身近な場所に帰ろうとするのに。

『夢宵桜』
 春の一夜、吉原の大籬、翁家で開かれた桜の宴。澪が料理の担当をまかされ、菜の花づくしの献立を考え出す。実れば小判を生み出すともいえる貴重な菜種を、つぼみのまま食する趣向にお大尽は感服するが、ひとり将軍家にゆかりがあるらしい坊主が難癖をつけて座が白けることに。そこにあらわれて窮地を救ったのがひとりの花魁。

『小夜しぐれ』
 伊勢屋の美緒の縁談が本人の気の進まぬまま、まとまりそうだという。拗ねて、つる家に居候してしまった美緒とともに、ひととき浅草に遊んだ澪たち。そこで芳が行方不明となっている息子らしい姿を見かける。気落ちした芳も心配だが、いよいよ縁談が本決まりとなるや、その料理をまかされた澪は心づくしの献立で臨むことに。

『嘉祥』
 現代でも6月16日は「和菓子の日」とされている。このエピソードには澪はじめ、つる家の人々の出番はなく、澪が密かに思いを寄せる謎のお侍・小野寺さまが中心となる。料理番を務める数馬は、まもなくおこなわれる「嘉祥の宴」で供される菓子つくりに今ひとつの飛躍を考えていた。妹や幼馴染の義弟などにからかわれ、応援されながら、澪の様子を思い出して、ひとつのヒントを得る。
 小野寺家の様子や、数馬という名前も初めて(?)出てくる。微笑ましい家族や友人たちに恵まれて、今後の展開にも新たな光が差すようだ。

 料理を食べることがメインというわけではなく、ひとつの物語のなかで、料理を作り、考えることで物語の流れがうねりを見せ、料理が人の定めを打ち破っていくという、昔の「美味しんぼ」のスタイルがなつかしく思い出されるシリーズ。今回はひとつの曲がり角に位置していると思える一巻。
 

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