2012年3月13日火曜日

リヴァイアサン、血沸き肉踊る冒険活劇をどうぞ

「リヴァイアサン」
スコット・ウエスターフェルド(著)
小林 美幸(訳)

新書: 416ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 415335001X
ISBN-13: 978-4153350014
発売日: 2011/12/7


【ローカス賞/オーリアリス賞受賞】世界的ベストセラーの冒険スチームパンク三部作、ここに開幕!
1914年、ヨーロッパではふたつの勢力が拮抗していた。遺伝子操作された動物を基盤とする、英国などの〈ダーウィニスト〉と、蒸気機関やディーゼル駆動の機械文明を発達させたドイツら〈クランカー〉。両者の対立は深まり、オーストリア大公夫妻の暗殺につながった……。両親を殺した一派に追われる公子アレックと、空への憧れから男装し英国海軍航空隊に志願した少女デリン。ふたりの運命はやがて巨大飛行獣リヴァイアサンで邂逅する! 奇妙なテクノロジーが彩る第一次大戦下の世界で少年と少女の成長と絆を描く、ローカス賞受賞の冒険スチームパンク三部作、開幕篇。

 オーストリア大公夫妻が暗殺された。その知らせが届いた夜、息子であるアレックは4人の家臣とともに屋敷を脱出。それを追ってドイツ軍が攻撃を仕掛けて来る。
 かたやロンドンでは、女であることを隠して航空隊をめざす少女デリンが、新兵いじめの儀式めいた飛行訓練を受けていた。

 と書くと、少年少女の成長物語の始まりだな、と理解していただけるだろう。
 だが、時代は1914年。第一次世界大戦が始まる年だ。
 アレックが脱出するときに使うのはダイムラー社製のエンジンを積んだ2足歩行型ウォーカー。攻撃して来た敵は6足歩行の巨大ウォーカーを操って砲火を浴びせて来る。
 デリンが搭乗するのはハクスリーと呼ばれるエア・ビースト(空獣)。人造のクラゲだ。自らの排気で作られた水素を体内に蓄積する、生きたエア・バルーンなのだ。

 スチーム・パンクと呼ばれる。
 少し前の、近代黎明期。現在の単なる過去ではなく、独自の科学が発達している世界。イギリスではダーウィンの進化論に基づき、遺伝子組み換えによる人造生物が人類の手助けをしている。
 また、大陸では蒸気機関やディーゼルエンジンを駆使する機械文明が発達している。やはりドイツが世界の覇者として君臨する野望を抱いているようだ。

 ハプスブルグ家の末裔としてオーストリア=ハンガリー帝国を再生させるために、アレックはドイツ軍の追跡をかわし、スイスへ逃れるべく、従者たちと雪のアルプス越えを試みる。
 デリンは空軍士官候補生と認められ軍に入隊。巨大な生物飛行船・リヴァイアサンの乗員として訓練の日々を過ごしている。そこに密命が下され、ロンドンの生物学博士をコンスタンティノープルへ移送することに。

 そしてアルプスの氷河に埋もれた山頂の城に逃げ延びて潜んでいるアレックたち主従の前に、敵の攻撃を受けて傷ついたリヴァイアサンが不時着する。
 そして、ふたりは出逢った。

 ストーリーとしては単純。それぞれ身分を隠しながら、関わらざるを得なくなるふたりの活躍が楽しい。

 それよりなにより、異様な機械文明、生物兵器、生体乗りもの、それらが数ページおきにはさまれるイラストが理解を助けてくれる。このイラストがないと、読者自身の想像力は恐らく追いついていかないだろう。

 
 巻末、飛行獣リヴァイアサンは地中海の上を漂っている。
 だが、すべての解決は次巻までおあずけだ。
 博士が大事に守ってきた卵からは何が生まれるのか。
 正体を明かさないハプスブルグ家の末裔は世界の平和にどう役立っていくのか。
 そして頑迷固陋だが忠実な家老たち。主家の御曹司を守るためなら厳しい指導を欠かさない。まるで日本の時代劇だね。
 デリンは女として生きることを選ぶことができるのか。


 血沸き肉踊る冒険活劇。なにか懐かしいムードが漂い、むかし、こんな思いを持って読みふけった本があったなあ、と思ったりする。自分が歳取ったのか、今まで読んできた本が悪いのか。


 さあ、異なった文明がつくる第一次大戦前夜の世界をのぞいてみよう。
 

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