2012年9月13日木曜日

長き雨の烙印は消せるのか

「長き雨の烙印」
堂場 瞬一

単行本: 410ページ
出版社: 中央公論新社
ISBN-10: 4120038920
ISBN-13: 978-4120038921
発売日: 2007/11

 
殺人事件の犯人として連行される親友の庄司を、学生の伊達はただ見送るしかなかった。
県警捜査一課で中堅の刑事となった今、服役を終えた庄司が冤罪を申し立てた。
しかし、その直後に再び似通った手口の女児暴行事件が起きる。
伊達は20年前のある記憶を胸に、かつて庄司を逮捕したベテラン刑事・脇坂と対立しながらも、捜査にあたるが―。

 堂場さんには某(読売)新聞の「海外ミステリー応援隊」というコラムで、海外ミステリーの書評を読ませて頂いている(ネットで、ですけど)。月2回とはいえ、その都度膨大な作品紹介をこなしていながら、毎月のように新刊が出る。そしてその作品の分厚さ。いかにもハードボイルドという作品群。タイトルもかっこいい。
 そして今回新作が立て続けに上梓される。文庫化されるものもあって、それが「汐灘(しおなだ)シリーズ」という作品の3作目。シリーズの端緒となったのが2007年のこの作品だ。

 関東北部の海に面した町、汐灘。東京からクルマで2時間くらいの太平洋に面した町。そこで事件が起こる。
 7歳の女の子が乱暴され、海岸に埋められていたのだ。一命は取り留めたが、いまだ意識は戻らない。その犯人として逮捕されたのが庄司だ。庄司は20年前にも少女誘拐殺人の罪で逮捕され服役して、刑期を終え今は農家で細々と暮らしていた。今回は逮捕されたものの、捜査に行き過ぎがあったとして釈放されてくる。
 刑事の伊達は学生時代から庄司の友人であり、かれが20年前に逮捕されたその時も一緒に海を眺めていた。あいつか、あいつがやったのか。そう思いたくなかった。

 主要な登場人物の視点で描写されるので、初めは、今が誰のパートなのかが分かりづらかった。一気に読める人なら、そんなややこしさはないのだろうが。

 刑事の伊達。20年前に庄司を逮捕連行した先輩刑事の脇坂に反感をもちながら、今回の少女拉致事件を捜査する。伊達は庄司の無罪を信じながら、それでは警察を裏切る立場になる矛盾を抱えている。警察組織や同僚刑事に対するいらだちを持ちながら、庄司の無罪を立証する証拠を集めまわることになる。

 弁護士の有田。庄司の冤罪を信じ、彼を立ち直らせて自分の名前を売ろうと、後援会を主宰する。警察の暴力から庄司を救い出したが、市民の反感が庄司に向かうことを恐れ、ひそかにかくまっている。有田もまた、庄司の冤罪の証拠をつかむべく走り回り、確実と思われる証拠を手に入れたのだが。

 高級外車のディーラー社長の桑原。最初の事件で娘を失った桑原は、庄司が今回の事件を犯したと確信して、彼の潜伏先を監視している。心臓に病をかかえた桑原は、優秀な部下に会社を任せて引退を考えている。かれの最終目的は庄司に対する復讐だ。

 いかにもハードボイルドチックな筋で、展開する。
 だが、アクションが少なく、平板な感は否めない。
 動き回るまちは閉塞感漂う田舎町だ。
 そして、雨。

 巻末、すべての破局に向かって突き進む3人に、容赦なく雨が降りかかる。
 長き雨の烙印は3人それぞれに捺された、取り返しのつかない過去への妄執なのかもしれない。

 

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