2012年9月20日木曜日

断絶からよみがえる男たち

「断絶」
堂場 瞬一

単行本: 371ページ
出版社: 中央公論新社
ISBN-10: 4120039978
ISBN-13: 978-4120039973
発売日: 2008/12/20

 
閉塞感漂う地方都市・汐灘の海岸で発見された女性の散弾銃による変死体。県警は自殺と結論づけたが、捜査一課・石神謙は他殺の線で捜査をつづける。一方、地元政界は、引退する大物代議士・剱持隆太郎の後継選びで混迷を深めていた。石神と剱持、まったく異なる人生を歩んだ、二人の運命が交錯する。

 汐灘サーガ第2巻。
 まず、剱持隆太郎のパートから始まる。
 元運輸大臣も経験した現役の衆議院議院であり、県政に暗然たる勢力を及ぼす地元のボスだ。苦しい選挙を勝ち抜き、これが最後の選挙だと思っていた。次の選挙には息子の一郎を第一候補にあげている。

 そして2年後。
 石神謙。県警捜査一課の刑事。
 海岸で女性の死体が発見される。散弾銃で自殺した様子だ。だが身元がわからない。身元を示すものが何もない。石神は、所轄の大型刑事・身長182センチの坂東とともに捜査にあたる。坂東が、この事件は不審だと声を上げた。どうやってこんな所まで来たのだろう、タクシーだろうか。散弾銃で死んだにしては、どうやってその銃を運び込んだのか、銃を入れてきたカバンはどこへ行ったのか。
 石神は、これは自殺ではない、と考え始める。

 やがて、警察の上層部から横やりが入った。これは自殺だ。捜査は中止せよ。
 あやしい。その怪しさは、匿名の電話で弾ける。相澤紗季という女を調べろ、というのだ。

 石神は養子だ。捨て子を育てて来たと父は告白している。その設定がやがて「サーガ」の意味合いを深める。県の出納長を努めていた父は、今は退職して悠々自適の身だが、議員の劍持とは肝胆相照らす仲。劍持の思惑を理解しつつも、刑事である息子とやがて対峙することになっていく。

 劍持は、県知事が対立候補として次の選挙に乗り出そうとしているのが気に喰わない。第二公設秘書も裏切ろうとしている気配だ。そのうえ、息子の一郎が不始末をしでかしたようだ。
 
 ストーリーは一筋に進む。
 代議士の息子の不始末というのは、亡くなった女性と関係がありそうだ。
 代議士はその事件ををもみ消そうとする。
 石神は情報をつかむために東京へ出向き、神楽坂で、ある情報をつかむ。
 その証拠を持って汐灘へ戻った石神。そこに、劍持の第一秘書が出頭してきたという電話がはいる。なりふり構わぬ劍持の保身の姿勢に憤りをかくせない石神だが、そのとき、父が発した言葉は・・・

 
 前作に登場した伊達刑事も要所要所に登場して、同輩として、ポイントを押さえたアドバイスを残していく。彼もいまや男の子を持つ子煩悩な父親になっている。
 「断絶」というタイトルが意味するものは、政治家と国民の乖離。警察の真実追求にかける信念と、それにあらがう政治家独自のモラル。政治家とはどうしようもない生き物だ、という怒りが全編にあふれている。
 親と子の断絶は、しかし、血のつながりを超えた愛情を産み出すことになる。
 サーガと銘打たれた、悲劇から立ち上がる男たちの物語。

 

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