2012年9月5日水曜日

事件でござるぞ、といわれても

「事件でござるぞ、太郎冠者」
井上尚登

単行本: 323ページ
出版社: 祥伝社 (2012/5/15)
言語 日本語
ISBN-10: 4396633874
ISBN-13: 978-4396633875
発売日: 2012/5/15


痛快・古典芸能ミステリー

『二人袴(ふたりばかま)』『附子(ぶす)』『瓜盗人(うりぬすびと)』……
推理の鍵は“狂言”の中に?
探偵コンビはイケメン狂言師と強面(こわもて)パンク女!?

煩悩、欲、見栄、嘘―――
狂言にはヒトの真実がてんこもり!?
人気狂言師・峰村(みねむら)みの吉(きち)が主宰する「狂言教室」の生徒が急死した。訃報にみの吉たちが驚く中、「それって筋が通らない」と言い出したのは、新入りの生徒・松永夏十(まつながなつと)だった。無愛想な上に、ツンツン立てた髪と濃いメイク、パンクスタイルで、とても狂言に興味があると思えない夏十だが、狂言の『二人袴(ふたりばかま)』をヒントに、意外な真相を探り出して・・・?

 住宅街の中の能楽堂。あとがきによれば、ある大蔵流の家元に、民家の内部に能舞台があるそうだ。杉並能楽堂といい、こちらは門構えの立派なお宅である。
 そういう住宅街の中にある能楽堂で狂言教室がおこなわれている。そこに新入門してきたのが、ドラゴン・タトゥーの女ならぬツンツンヘアに濃いメイク、黒いアイシャドー、上下黒服のパンク女・夏十。表紙の太郎冠者の後ろに顔を出している。素顔は美女らしい。
 そんな夏十と、バツイチ子持ちのイケメン30男・峰村みね吉、本名・光一郎の周囲に事件が起こる。

「二人袴」
 <中世、息子が嫁の実家にあいさつにいく儀式があった。頼りない駄目息子のために、親父が一緒に付いて行くことになるが、あいにく、袴が一枚しかない。息子が挨拶をしているときに、正式な服装の袴を履いていない親父は隠れていたのだが、そこを先方の太郎冠者に見つかってしまう。弱ったふたりは交代で袴をはいて、舅に挨拶するために右往左往する。ところが、最後に舅がふたり一緒に会いたいと言い出して、息子と親父は左右の袴を別々に履いて珍妙な舞いを披露するはめに・・・>
 狂言教室の生徒である和子が心臓発作でなくなったという。彼女は再婚した夫と一緒に狂言の会に行くはずだったのだが、夫は仕事の都合で来れなくなった。横にいた和子の友人の恵も教室の生徒だが、彼女もまた連れの男性が所用でこれなくなったとかで、ふたりの横はそれぞれ空席だったのだ。夏十はたまたまその会に来ており、その場面を目撃している。
 和子はその狂言の会の途中で様子がおかしくなり、その夜に亡くなっていた。
 夏十と、みの吉は、教室の生徒でもある刑事の保井を頼って、和子の周辺を探る。そこで和子の夫という人物には写真が残っていないということに気付き、なにか、訳があるのではないかと・・・

「花子」(はなご)
 <ある男、旅先で遊女に惚れてしまう。花子というその遊女に逢いたいために、女房には嘘をついて、お堂に籠るという。アリバイ作りのために太郎冠者に座禅襖という着物をかぶせていたが、それに女房が気付いてしまった。ほろ酔い機嫌で帰ってきた男の前には太郎冠者に代わって鬼の形相凄まじい女房が待っていて・・・>
 康子の夫である能役者の久作に殺人の嫌疑がかかる。殺されたのは玄葉という資産家。久作は玄葉に借金していたのだ。久作には浮気をしていた気配もある。その愛人らしき女が犯人と初めは思われていたが、犯行時間にはアリバイがあるという。
 康子の夫や愛人の動きをさぐるうちに、ある児童養護施設の存在が浮かび上がる。

「附子」
 <壷にあるのは『ぶす』という毒薬だから覗かぬように、と言いおいてご主人が出掛けてしまう。太郎冠者と次郎冠者は怖いものみたさのあまり、その『ぶす』の壷を覗き込む。そこには何やらうまそうなものがあり、ついついそれを食べてしまう。なんとそれは砂糖だったのだ。言いつけにそむいて叱られるのを察したふたりは一計を案じ、掛け軸を破るわ、大事な壷を割るわと乱暴狼藉。帰ってきた主人には、粗相をしてしまい申し訳なく、毒を飲んで死のうとしたがいくら飲んでも死に切れず、と訴えるのだが・・・>
 妻の不倫を咎めるため、妻とその不倫相手の目の前で毒薬を呑んで自殺するという事件が起こる。
 現場に乗り込んだ夏十は遠慮なく家捜しをして、ぬいぐるみの中にあるビデオカメラを発見した。そこには自殺したときの情景が録画されていた。

「武悪」(ぶあく)
 <武悪という部下が出仕しないと怒るあるじは、太郎冠者に武悪を始末せよと命じる。太郎冠者は魚釣りに誘い、隙を見て殺そうとするが果たせない。切ったことにしてあるじに報告するから、お前はどこかに逃げろ、と武悪を逃がす。報告を聞いたあるじは気を良くし、東山に遊山にいく。そこで都の名残に東山に参詣にきていた武悪と鉢合わせして大騒ぎ。太郎冠者はそれは武悪の幽霊だということにして、武悪には幽霊らしく振舞え、とたしなめる。調子に乗った武悪はあるじの元にあらわれ、冥土であるじの父親から言い付かったから刀剣を差し出せ、と命じる。あるじは父を懐かしく思い刀剣を差し出すが、かさにきた武悪は、あるじ本人も冥土へ連れて来いと仰せつかった、と追いかけだし・・・>
 康子にがんがみつかり、サッカーくじで手に入れた賞金を峰松家へ託すという遺書を書く。1年以内に甥が現れなければ、その遺産は峰村の家のものになるというのだ。甥は上杉幸次郎という立派な名前で、ふらふらと海外をさまよっており、生死も定かではないのだという。みね吉の祖父の3番目の妻・理恵など、その甥が現れませんようにと祈る始末。ところが、当の本人が現れたと、弁護士から連絡が入る。
 そのころ小学校あらしが連続していた。学校のガラスを割ったり、塀にペンキを塗ったり、今度は卒業生のモニュメントをこわしていた。
 果たして行方不明の幸次郎と学校あらしとは関係があるのだろうか。幸次郎は峰松家の弟・光二郎とは幼馴染。
 正体をあばこうとした夏十は・・・

「瓜盗人」
 <瓜を盗みに畑に入ったが、暗くてよくわからない。ごろごろ転がりながら瓜を取り込んだが、そこに人の影。許しを請うが相手はなにもしゃべらない。それは案山子だったのだ。腹をたてた瓜盗人は案山子もこわして立ち去る。次の日、畑の主は自分が案山子になって待ち受けている。そこにまたもや瓜盗人が現れ、瓜をとるばかりか、案山子を相手にお芝居の稽古を始めてしまう。初めは鬼の役で案山子をいじめるが、次は自分が罪人になって鬼に責められる場面を演じていると、背後から案山子が襲いかかってくる。やや、おぬしは。やるまいぞ、やるまいぞ・・・>
 2億円の絵画盗難事件。それもビデオカメラの記録では、停電があり、自家発電に切り替わる間の30秒間に消失しているのだ。絵の持ち主は、みの吉の別れた妻・桜子と付き合い始めたという商社の社長。
 かれは商売に行き詰まっていたというのだが・・・

「釣狐」(つりぎつね)
 <猟師に一族を殺された老狐。恨みをはらすため、猟師の伯父である白蔵主という僧侶に化けて猟師を諭す。狐は本来神であり、玉藻前の言い伝えでは退治された狐の怨念が殺生石になったという。それほどの威力をもつのだ。そんな狐をあたら殺してはいけない。恐ろしい話をきいた猟師は後悔し、狐釣りの罠を捨てる。その帰り、老狐は心ならずも狐釣りの餌に魅かれてしまい、変身を解いて餌を食べてやろうと姿を消す。猟師は、罠の餌がつつかれているのを見て、改めて罠を仕掛け直す。そこに老狐があらわれ罠にかかり、ふたたび猟師と渡り合うことに・・・>
 夏十の過去が明らかになる。
 ある病院で野口という老人を見舞う夏十。野口は狂言のファンでもあり、狂言で使われる面を集めていた。だが、泥棒に面が奪われ、そのときに突き飛ばされてけがを負っていたのだ。
 そして二人の女性と一匹の犬の行方不明事件が起こっていることがわかる。

 パンク女の夏十がなぜ、狂言の家元に居候になろうとしたのか。その理由が、事件の謎を解きながら、徐々に明らかになってくる。

 みね吉と夏十とのかかわり、前妻である桜子との関係も揺れ動きながら物語は進んで行く。
 でも、あんまり狂言のスジとは関係ないね。
 
 

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