2013年2月9日土曜日

母性を望む、母たち娘たち

「母性」
湊 かなえ

単行本: 266ページ
出版社: 新潮社
言語 日本語
ISBN-10: 4103329114
ISBN-13: 978-4103329114
発売日: 2012/10/31


「これが書けたら、作家を辞めてもいい。そう思いながら書いた小説です」著者入魂の、書き下ろし長編。
持つものと持たないもの。欲するものと欲さないもの。二種類の女性、母と娘。高台にある美しい家。暗闇の中で求めていた無償の愛、温もり。ないけれどある、あるけれどない。私は母の分身なのだから。母の願いだったから。心を込めて。私は愛能う限り、娘を大切に育ててきました──。それをめぐる記録と記憶、そして探索の物語。

 郊外の住宅地。
 高校生の娘が自宅アパートの4階から転落した。
 事故なのか、自殺なのか・・・
 その母は「愛能う限り、大切に育てた娘がこんなことになるなんて・・・」

第1章。 
「母の手記」から始まる物語は、神父さまへの告白という形をとる。
 夫と結婚することになったいきさつ。
 夫の実家に対する、友人からの忠告。あの家は息苦しい。
 夫の実家の人々は人を褒めるということをしない家族だ。
 でも、私は大丈夫。ちゃんと人の思惑を理解して先回りできるのだから。

 結婚後も実家に近い一軒家に住み、実家の母から妻としての教育を受ける。
 自分の母の思い入れがわかる。義母に嫌われてはいけない。
 でも私は大丈夫。褒められることはないけれど、叱られることもなかったのだから。

第2章からは「母性について」の章がはさまれる。
 亡くなった高校生は、同僚の国語教師が前任していた学校に在籍していた。
 「わたし」は新聞報道を見て、なにか、ひっかかるものを感じる。
 「母の手記」では、台風の夜に母が亡くなる悲劇が語られる。
 そして「娘の回想」。
 大好きなおばあちゃんは刺繍が得意なやさしいおばあちゃんだった。だが、台風の夜に自分をかばって亡くなってしまった。
 
第3章
 「母性について」。わたしは国語教師を、たこ焼き屋にさそい、話を聞こうとする。
 「母の手記」。夫の実家で暮らすことになり、いよいよこの家族がきらいになっていく。女子大を卒業した次女の律子が就職もせずに帰ってきて、その世話もせねばならない。
 だが次女はあやしい男にカネを貢いでいるようだ。
 「娘の回想」。実家の離れで暮らしながら、律子と交流を重ねるが、やがて出て行ってしまういきさつ。

第4章
 「母の手記」。嫁いだ長女がこのところ、毎日のように子供を連れて帰ってくる。子供は少し発達障害のようだ。
 そして母は妊娠に気付く。実家の母は気に入らなさそうだ。だが、お腹の子供はふとした事故で流産してしまう。
 「娘の回想」。伯母の子供が母にまとわりついて煩わしい。つい、手を上げてしまう。伯母は祖母といっしょになって母をないがしろにする。そんな時に母の流産騒動。

第5章
 「母性について」。同僚国語教師に聞く。「愛能う限りってなんでしょう?」
 「母の手記」。手芸教室に通うことで、ほっとできた日々。そこで知り合った霊能者のような人とのあれこれ。
 「娘の回想」。母が落ち着いてきたのはうれしいが、なにやらきな粉のような薬を飲まされるのには閉口した。手芸教室で知り合った人から勧められていたようだが、やがてそれもおさまっていく。

第6章
 「母性について」。母性を持たない母親。母親になっても誰かに庇護されていたいと願って母性をなくしてしまう親がいる。
 「母の手記」。夫の浮気。娘の自殺騒動。
 「娘の回想」。祖母が亡くなったときの本当の理由がわかった。私を助けようとして家具の下敷きになったのだが、その時に起こった本当のこと。それを告げたのは父の浮気相手だった。彼女をワインボトルで殴りつけた私は家に帰って桜の木にロープを巻き付ける。

終章
 「母性について」
 父は私の自殺騒動のあと姿を消したが、その15年後の3年前、ひょっこり帰って来て、今は母と暮らしている。認知症が進んだ祖母の介護に、母は明るい表情で臨んでいる。
 わたしは結婚してまもなく母になる。わたしは子供を愛するだろうが、決して「愛能う限り愛する」とは言わないだろう。
 愛を求めようとするのが娘であり、自分が求めたものを我が子に捧げたいと思うのが母性なのではないだろうか。


 という流れで、冒頭の高校生の転落さわぎと、実は18年以前に起こった「わたし」の自殺さわぎがリンクする。母という存在とはどういうものか。母になりたい、それよりも母の子供でいたい。「母性」のなりたちを、それぞれの立場から描く。
 印象がまとまらないので、このレビューを書くのに時間がかかった。
 母になれない娘、娘につらくあたることしか出来ない母。それでも母を愛する娘、母のような母親になりたくない娘。だが、そんな母でも娘を愛しているはずだ。そんな娘でも母を愛している筈だ。
 そういったことかな。少し違う気もするが。
 

 

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