「県庁おもてなし課」
有川 浩
単行本: 461ページ
出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)
言語 日本語
ISBN-10: 4048741829
ISBN-13: 978-4048741828
発売日: 2011/3/29
とある県庁に生まれた新部署「おもてなし課」。若手職員・掛水は、地方振興企画の手始めに、人気作家に観光特使を依頼するが、しかし……!? お役所仕事と民間感覚の狭間で揺れる掛水の奮闘が始まった!?
地方には、光がある―物語が元気にする、町、人、恋。とある県庁に突如生まれた新部署“おもてなし課”。観光立県を目指すべく、若手職員の掛水は、振興企画の一環として、地元出身の人気作家に観光特使就任を打診するが…。「バカか、あんたらは」。いきなり浴びせかけられる言葉に掛水は思い悩む―いったい何がダメなんだ!?掛水とおもてなし課の、地方活性化にかける苦しくも輝かしい日々が始まった。
5月に映画化。
話題になる前に、というより、刊行以来大人気でなかなか回ってこなかった一冊。
「とある県」とあるのは、著者の出身地である高知県。
話は20年前までさかのぼる。当時、高知県にパンダを呼ぼうという提案をした職員がいた。観光立県を目指すなら、その目玉になるに違いないというわけ。
だが、その提案はもみ消され、うやむやのうちに動物園は移転、職員は窓際に追いやられ、失意のうちに県庁を去った。
そして、今回、県庁に「おもてなし課」が出来る。
一番の若手として掛水が選ばれる。掛水はタレントや俳優、文化人や作家などの著名人に県の観光特使の役割をになってもらうことを提案、自分では若手作家・西門の担当になる。
まず、観光特使の名刺を作って、裏に県の観光施設への無料入場券を印刷した。これを機会があるごとに配布してもらうことにする。
西門は手厳しい。お役所目線でのやり方を批判し、そんなやり方は民間では通用しないことを訴える。
まず、優待券に期限があることだ。期限間近になれば名刺を配れないじゃないか。期限がすぎて、また新しい期限つきの名刺を印刷するのなら同じことだろう。
それこそ県の予算がらみ、縦割り組織がらみの悪弊だった。
そんなこんなの末に、西門はある提案をする。
その昔パンダ誘致論を発表した職員を探し出して、おもてなし課に協力させろ、というのだ。
その伝説の職員・清遠の記録を探して見つけ出したのがアルバイトの多紀。映画では堀北真樹ちゃんが演じる。
彼女との第一仕事は今は観光プロデューサーとして活躍している清遠への協力依頼。
だが清遠の娘・佐和は父を追い出し、家族を崩壊させた県庁の職員たちを毛嫌いしている。電話では埒が明かないと、経営する民宿を訪れた掛水にバケツの水をぶっ掛ける迫力。
それでも、清遠は観光のプロとしておもてなし課に協力し、掛水や多紀とともに高知県内の観光名所の見直しを進める。
高知城の日曜市。旅先で出会ったらおもしろそうな催しだ、と再認識。
台風が過ぎ去った直後の室戸岬。その浜辺の岩場で採った貝をそのまま食べた。
やがて、作家の西門が一時的に里帰り、清遠のプランを後押しする形でおもてなし課に手助けしていく。
西門と佐和、掛水と多紀、二組の恋も深まり、清遠がいなくても掛水たちは立派に観光立県めざして行動できるようになっていった。
清遠のプランは高知県内「おらが村」シリーズとして続いて行く。
吾川スカイパークではパラグライダーの体験をさせられるが、ここの運営が愛好者だけにゆだねられていることを知って掛水は驚く。
だが、清遠の高知県下レジャーランド計画は県の上層部から煙たがられ、清遠はおもてなし課を追い出されてしまう。
それを察していた清遠は掛水と多紀に、自分たちだけでことを進めることが出来るように教育していたのだ。
掛水と多紀はふたりだけで馬路村の調査に出向く。そこは立派にレジャーランド化されて、県外からも大勢の観光客が訪れている。
そこでふたりは「おもてなしマインド」にたどりつく。
この本、2009年から10年にかけて地方紙に連載。巻末の座談会は角川書店の雑誌2011年1月号に掲載された。そして、3・11。出版は3月31日になっている。
観光をテーマにしながら、日本の悲劇を乗り越えて、大きな話題になったわけだが、観光地が果たすべき役割、あるべき姿を描いて共感が広がる。
観光地のトイレ、食べ物、受け入れる側の心配り。そのさりげなさを期待したい。
そう言う意味で、どこの県の観光課の皆さんにも一度は読んでほしい一冊。
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