2010年4月7日水曜日

「円朝の女」

「円朝の女」
松井 今朝子

文藝春秋
出版年 2009.11.15
227p

  三遊亭円朝といえば、あなた、幕末から明治初年にかけての、稀代の落語名人、また牡丹灯籠などの原作者としても名の通った、文人墨客としても有名でございます。
その円朝にまつわる五人の女たちとのなりそめを通して、円朝の人となり、芸の肥やしとなった女たちの悲しみ、そして江戸から明治へと移り変わる時代の流れを語るのは円八という弟子の落語家、あたし。
安政七年、武家のお嬢様の「千尋さま」から始まる昔語りは、幕末の動乱のなか、いくさのうわさが飛び交い、訳の分からぬ間に江戸が東京となっていく時代の、庶民の姿を活写して、著者の松井さまの面目躍如といったところでございましょう。
江戸の名残を残す吉原でのお話では、花魁の長門太夫の女っぷりが情趣ゆたかに語られて、その芝居語りと申しましょうか、講談めいた語り口はあたかも一幅の錦絵を目の当たりにするがごとくでございます。
さて、悲しいところでは、円朝のただひとりの息子、朝太郎の母でありながら正式な妻となる訳にはまいりませんでした、芸者のお里さん。
そして、お内儀さんのお幸さん。柳橋の大幸とよばれた気っぷの良さと、権力者や男どもをものともせず一門を束ねて行く肝っ玉ぶりは思わず大向こうから掛け声がかかるほどの迫力であります。
そして3人娘の末っ子、せっちゃん。ははは、これには、ちいとばかり仕掛けがございまして、読むひとを手玉に取り、日清戦争で大陸に赴く俥引きとの悲恋を軸に、最後のオチでは見事なハッピーエンドに仕上げてしまう、これぞ、松井ワールドの真骨頂。
先に直木賞をお取りになった「吉原手引き草」では、何人かのお方のお話をまとめて、花魁の敵討ちを3D方式で描かれたわけですが、今回はあたしひとりにしゃべらせて、あたしひとりのに話術の妙に感嘆していただきやす。
さて、おあとがよろしいようで。

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