2010年4月22日木曜日

「プリズン・トリック」

「プリズン・トリック」
遠藤 武文

単行本: 328ページ
出版社: 講談社
ISBN-10: 4062157063
発売日: 2009/8/7

昨年の江戸川乱歩賞受賞作。
書店ではすさまじいコピーで発売されていたので期待度も大。
いわく「あなたは絶対に鉄壁のトリックを見破れない。そして必ず、二度読む。」

ということで一度目の読書。
序章では、「石塚満」という、「私」が一人称で綴る刑務所の一日が淡々と描かれる。
これが、ただの刑務所ではなく「交通刑務所」。一般の犯罪者とは異なり、飲酒運転などで拘束されているわけで、彼らに罪の意識を持たせ、反省させることに重点を置いた、社会復帰を目指すための刑務所なのだ。朝の点呼から始まり、所内で作られた味噌や麦飯の食事、運動、入浴、一般では早すぎる4時の夕食、わずかな自由時間のあとの午後9時の就寝まで、懲役刑9ヶ月の贖罪の日々。ただ途中に不思議な面会者が現れたりして、奇妙な印象を与える非日常のなかの一日が描かれる。
そして「宮崎春雄」に対する殺意が明かされる。何故か、は明らかにされない。

そして、殺人事件。刑務所の中での事件だ。それも密室に近い状況、被害者は奇妙なことに前へならえ、の姿勢をとらされている。犯人は逃亡してしまった。
殺されたのは、石塚。らしい。というのも死体は顔と指紋を薬品で溶かされており、身元を確認できないのだ。直接の死因は筋弛緩剤の注射だと判明する。どうしてそんなものを持ち込めたのか。
死体のそばに「石塚死すべし。宮崎」というメッセージが残されていた。逆だよね。つまり犯人は被害者と入れ替わっているんだな、と読者には分かる。

捜査を始める刑務官たち。長野県と埼玉県、被害者と加害者、彼らをとりまく家族、交通事故の加害者はまた被害者だ。加害者の身内は刑務所に収容されている加害者以上に身に重いものを抱えることになる。
捜査が進み、殺されたのは宮崎、殺したのは石塚、という構図が現れてくる。ところが、石塚を追う刑事たちが石塚の郷里で見つけたのは、収監される以前に事故で植物人間となってしまっている石塚本人だった。では、服役していた石塚は何者なのか? 別人になりすましてまで刑務所に入り込んだのは何故か?
刑務官のひとりが、街で殺される。それも筋弛緩剤注射で。

身元引受人、新聞記者、保険会社の調査員などが入れ替わり立ち代わり絡んでくる。視点がめまぐるしく変わるので読み辛いとの評もあった。たしかに名前が多くて流れについていくのも大変。
主要な登場人物の過去それぞれにいわく因縁があり、もう少し複雑な人間模様も描けたのだろうが、それは欲というもの。乱歩賞の講評にも、志を買うという批評があった。交通刑務所、中央政権と農業利権、警察組織のヒエラルキー、それぞれに対する思い入れが強いのだろう。トリックよりも社会正義に力が入っている一遍。

二度、読むことはないだろうねえ。

1 件のコメント:

  1. メッセージ受け取りました。ありがとうございました。
    Baabaさまの新しいブログも見つけました。
    ちょこちょこ足跡を残していきます。

    ていねいなブックレビュー。とても参考になります。

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