2011年4月19日火曜日

もうひとつの京都が妖しのものどもに彩られて


「深泥丘奇談・続」
綾辻行人

単行本: 299ページ
出版社: メディアファクトリー
言語 日本語
ISBN-10: 484013863X
ISBN-13: 978-4840138635
発売日: 2011/3/18

 作者の分身といえる「私」が病院で、あるいは散歩の途中で、ふと見かけたものから謎の世界にはまりこんでいく怪奇短編集。そのパート2だ。
 作者が住まいする京都とはまた別の、「もうひとつの京都」が舞台である。そう、深泥丘というのは深泥ケ池がもりあがったようなものなのかね。
 
 妻には散歩の途中で見かけたあれこれを伝えるのだが、あまり本気にしてもらえずはぐらかされる。妻からは、前にも言ったのにといわれるようなことでも自分にはとんと身に覚えがないことばかりだ。
 そんなあれこれを抱えて向かうのは深泥池病院。ここの石倉(一)という精神科医によくお世話になっている。まだ若い看護師は咲谷という女性。
 めぐる季節とそれに合わせた土着的な催しなどが語られるなかに、ふと、不思議な空間や時間がはさまれていく。

「鈴」誰もいない神社で、風もないのに突然鳴り出す賽銭箱の上にぶらさがった鈴。
「コネコメガニ」近所に出来た新しい店<かに安楽>でお向かいの夫婦と一緒にカニを食べようということになって。
「狂い桜」三月に入ったばかりなのに円谷公園の桜が満開。そんなある日、小学校の同窓会でバーに出掛けたのだが、そこで行われる不思議なお悔やみごっこでは。
「心の闇」これは手術しましょうといわれて、肝臓にできていた心の闇を取り除くのだが。
「ホはホラー映画のホ」私と石倉刑事がコンビとなって活躍する夢を見た。
「ソウ」すぐ上の作品とリンクする夢の続き。ジグソーのピースがもたらすものは。
「深泥丘三地蔵」病院の近くでみかけた地蔵は二つめの地蔵だった。一つめの地蔵は遠い昔になくなってしまったが、三つめの地蔵もあるのだという。
「切断」50もの断片に分断された死体。しかし殺人事件と呼べるのだろうか。
「夜蠢く」蛍光灯のなかに蠢くムカデを退治しようと冷凍瞬殺殺虫スプレーを片手に。
「ラジオ塔」夕焼けのシーンで始まるこのページは赤色で夕焼けのイラストがあしらわれて、不思議なムードをかもし出す。8月の五山の送り火を明日に控えてラジオ塔の周りに集まる子供たちや老人たち。そしてクライマックスにはその塔の跡から。

 すべてのページにイラストがあしらわれるという凝った装丁。文庫になったら、これは無理かも。
 日常と非日常のあわい、人間と人間ならざるもの、現実と虚構がないまぜになって、不思議な、もうひとつの京都を味わい尽くせる。

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