2011年11月2日水曜日

「一人で行く者が誰より速い」


「007白紙委任状」
ジェフリー・ディーヴァー (著)
池田 真紀子 (翻訳)

単行本: 456ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-10: 4163809406
ISBN-13: 978-4163809403
発売日: 2011/10/13

 <20日金曜夜の計画を確認。当日の死傷者は数千に上る見込み。
 イギリスの国益にも打撃が予想される。>
 イギリス政府通信本部が傍受したEメール――それは大規模な攻撃計画が進行していることを告げていた。金曜まで6日。それまでに敵組織を特定し、計画を阻止しなくてはならない。
 緊急指令が発せられた。それを受けた男の名はジェームズ・ボンド、暗号名007。ミッション達成のためにはいかなる手段も容認する白紙委任状が彼に渡された。攻撃計画の鍵を握る謎の男アイリッシュマンを追ってボンドはセルビアに飛ぶが、精緻な計画と臨機応変の才を持つアイリッシュマンはボンドの手を逃れ続ける……
 セルビアからロンドン、ドバイ、南アフリカへ。決死の追撃の果てに明らかになる大胆不敵な陰謀の全貌とは?


 さて、ディーヴァーの007である。
 特別仕様のiPhoneをあやつり、ネットでつながる仲間達と連絡をとりつつ、敵か味方か不明な男たち、女たちを相手に孤独な戦いを繰り広げる、現代の007ジェームズ・ボンドなのだ。
 クルマ好き、カクテル好きの嗜好は変わらず、料理に関してもめっぽううるさい。
 カナディアン・ウイスキーのクラウン・ロイヤルをベースにしたカクテル、これを「カルト・ブランシュ(白紙委任状)」と名づけて、ささげたのが今回のボンド・ガールの代表ともいうべきフェリシア。

 セルビアで列車爆破をもくろむ謎の男を阻止、そこで浮かび上がったアイリッシュマンことナイアル・ダンというテロリストの存在。
 ロンドンへ帰ったボンドはMI6本部でいつもの仲間達と情報を確認する。マニーペニーが30代の女性秘書になって、情報アナリストのオフィーリア(フィリー)がオートバイ好きの現代っ子になっているのがうれしい。上司のMが男性になっているのは原作というか、原型に戻った感じ。Qも健在だが、出番はそう多くない。

 アイリッシュマンに命令をくだしていたセヴェラン・ハイトは死体愛好者という側面をもつ怪しい男として描かれる。産業廃棄物処理業者としての表の顔をもつが、それは今や時代の寵児ともいうべき職業でもあるのだ。
 しかし、ロンドンではボンドの活躍には制限が多い。白紙委任状を託されて赴くのは中東のドバイ。

 ここでハイトとアイリッシュマンへの接近方法をセッティングして、ボンドはただちに南アフリカへ向かう。
 ケープタウンでハイトとビジネス関係を結ぶことに成功したしたボンドに、ハイトはいう、
「リサイクルできるのは、ガラスと紙くらいなものだ。アルミやほかの金属はリサイクルするだけ費用がかかる。だが、それは政治的に必要なものなのだ」。

 そして世界の食料危機を救うべく活動をしているフェリシアのパーティーに出席、互いに惹かれあうボンドとフェリシア。
 映画的な見せ場はハイトが作った廃棄物を埋め立て作った広大な庭園だろう。廃棄物を蓄積して作った土地の上に広大な森を作り、地底からの天然ガスを誘導して燃焼させたり、発電設備に回したりしている。

 そして、ハイトとアイリッシュマンとの関係、その背後にある、ある秘密が暴かれたとき、恒例のドンパチ大団円が始まる。

 そのほか、90年代に亡くなったボンドの両親のエピソードなどもはさまれ、続編への期待がもたれる。何作かジェームズ・ボンドものは読んだが、中途半端な設定で終わっていたような気がする。さすがディーヴァー、見事に現代に生きるボンドを描ききった。
 「一人で行く者が誰より速い」とは、ロンドンでオフィーリアが高らかに詠ったキプリングの詩の一節。さて、ボンドは一人でどこへ向かうのか。
 

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