2011年11月16日水曜日

3部作完結、でもでも、もう少し読みたい

 「エージェント6(シックス)」〈上〉〈下〉
トム・ロブ スミス (著)
田口 俊樹 (翻訳)

文庫: 393ページ、479ページ
出版社: 新潮社
ISBN-10: 4102169350
ISBN-13: 978-4102169353
発売日: 2011/8/28


 『チャイルド44』『グラーグ57』――そしてレオ三部作、ここに完結!
 運命の出会いから15年。レオの妻ライーサは教育界で名を成し、養女のゾーヤとエレナを含むソ連の友好使節団を率いて一路ニューヨークへと向かう。同行を許されなかったレオの懸念をよそに、国連本部で催された米ソの少年少女によるコンサートは大成功。だが、一行が会場を出た刹那に惨劇は起きた――。両大国の思惑に翻弄されながら、真実を求めるレオの旅が始まる。驚愕の完結編。

 冒頭、1950年から開幕する物語は、レオとライーサの出会いのきっかけとなる、モスクワで開かれた、とある演奏会をめぐってのいきさつ。国家保安省へ入局間もないレオが警護を担当した黒人歌手ジェシー・オースティンは、みずからの生い立ちと、白人優先社会への反動から、共産主義のシンパとして名を馳せている。今のソヴィエトこそ理想社会だと信じるジェシーだが、彼が立ち回る先はすでに国家警察により事前に準備されつくした理想的な社会を演出されているだけなのだ。人民のための店を装う、あらかじめ準備された官僚むけの雑貨店、そこに出入りする一般市民もそれを演技している。だがその日ジェシーが突然立ち寄りたいといった学校では、何の準備も出来ていない。そこにはライーサが教師として勤めていた。
 ライーサのもてなしで学校を見学したジェシーは、そのかいあって、その夜のコンサートを見事にやりとげる。「インター・ナショナル」を高らかに歌い上げるジェシーは再び共産主義の理想を信じる歌手に戻っていた。

 そして15年後、1965年。
 この間の出来事が前作の2冊になる。国家保安省と秘密警察に翻弄されたあげく、レオは保安省を退職、工員として身をひそめる人生を送っている。ライーサは合唱団を率いて、養女とした娘ふたりとともにニューヨークへ赴くことになる。国連本部でコンサートが行われるのだ。しかし、レオには何か嫌な予感があった。
 ライーサの下の娘エレナが突然行方をくらませ会いにいったのが、今は落ちぶれて知る人も少ないジェシー・オースティンだった。エレナはある意図をもってジェシーに近づき、コンサート直後のひとつのプランを提案する役目を負っていた。
 だが、それは罠だったのだ。そして起こる悲劇。

 そして8年後、フィンランド国境で国境警備隊に逮捕された男がいた。
 ここまでが文庫の上巻。たまたまなのだが、構成がぴったりで、下巻への期待が高まる。下巻はレオを中心とした物語が展開していく。

 その7年後、1980年。灼熱の、そして酷寒のアフガニスタン。ソ連による侵攻が始まってまもないころ。
 レオは再び秘密警察の訓練官として、現地の若者たちを教育する任務に携わっていた。アヘンの悪癖におぼれながら、しかしレオの本心はアメリカに行き、妻の死の真相を突き止めることにある。
 カブールで発生した上級将校の失踪。アフガン新政権の大臣の娘と恋仲になったと見られたが、それが許される社会ではない。
 真相を追求する立場上、苦慮するレオだが、国家にも反乱兵にも味方することはできない。
 その綱渡りのような状況から逃げ出すために、ひとりの孤児と自分の部下をともない、アメリカへ脱出する手段を探し始めるレオ。
 
 1年半後、強行手段でニューヨークへ到着することができたレオ。しかしアメリカへ脱出したことが国にばれると、娘ふたりに累が及ぶことになる。その前に目的を遂げ、対策を講じなければならない。
 そこで発見した「エージェント6」とは何者なのか?

 謎としては驚くほどの仕掛けはない。
 レオの突き進むエネルギーが全てだ。そこまでして突き止めたい真相というより、国家に左右され、共産主義に毒され、また反共に燃えることでしか自分を支えられない人々、それらの立場を理解し、ひとつの高みから自分を見つめ直すことができるレオならばこそ達成できた謎の解決。
 
 それで救いはあったのか。ソ連の崩壊につながるような事態にレオは関わっていたのだろうか、ということも知りたくなる完結編(?)
 

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