2012年4月3日火曜日

鮫島の貌がもたらす災厄、解決する事件


「鮫島の貌 新宿鮫短編集」
大沢在昌

単行本: 281ページ
出版社: 光文社
言語 日本語
ISBN-10: 4334927998
ISBN-13: 978-4334927998
発売日: 2012/1/18

2011年の小説ベスト10に続々ランクインの超話題作『絆回廊 新宿鮫Ⅹ』の興奮冷めぬ中、「新宿鮫」初短編集、遂に刊行! 

新宿署異動直後の鮫島を襲う危機を描く作品や、
腐った刑事や暗殺者との対決、
人気コミック「こちら葛飾区亀有公園前派出所」両津勘吉、
「エンジェル・ハート」冴場リョウが登場する異色作、

『狼花 新宿鮫Ⅸ』のサスペンスフルな後日談など、
「鮫」にしかない魅力が一編一編に凝縮された全10作。

「区立花園公園」
 わたしは新宿署でマンジュウなどとあだ名されている冷や飯食いの警部だ。最近、本庁公安のキャリアでありながら、警部として署に配属されてきた鮫島という男に気になるものを感じている。署には大森という腐ったリンゴというべき刑事がおり、大森が悪さをしようとしているのに気付いたわたしは、新宿花園公園まで出向くことに・・・
 最新の作品だが、設定としては新宿署に移籍した当初のエピソード。

「夜風」
 組を破門されたヤクザが鮫島を呼び出した。訪ねたアパートの一室では、丸B担当だった警官が自分の銃で胸を撃たれて苦しんでいる。

「似た者どうし」
 ライブを明日にひかえて、わたしは新宿の街をさまよっていた。ビルの屋上に行くと、Tシャツを血で汚した男の子が身を乗り出している。やめなよ、ここからじゃ死ねないかも知れないよ、と声をかけたことからしばらく話をして別れた。次の日、チンピラに絡まれているその子を見つけたわたしとアイツが彼を助けようとすると、その先を越してアイツと同い年くらいのくせっ毛の男の人がいちはやくチンピラたちをのしてしまった。「冴羽」 と、アイツは声をかけたけど、冴羽はあいさつもそこそこに風のように消えてしまった。一緒にいた香という女性もアイツの知り合いらしい。結局4人でライブハウスに出掛け、リハーサルを見てもらうことになる。
 晶の一人称で語られる、シティーハンター冴羽獠との出会いのひとこま。

「亡霊」
 白い肌と赤い唇だが、つるつるに剃りあげた坊主頭。新宿では名うてのやくざ・須藤を久しぶりに見かけた。だが、なにか様子が違う。故買屋とのトラブルがからんだ因縁話が事件をもたらす。

「雷鳴」
 わたしが店番をしている酒場にやくざが現れた。そのあとにやってきた刑事が鉄砲玉だったというやくざの足を洗わそうと説得する。刑事は鮫島と呼ばれていたが、やくざが店を出て行ったあと、鮫島はわたしに向かって・・・

「幼な馴染み」
 正月ののんびりとした一日。晶と鮫島は鑑識の薮を伴って、浅草へ初詣。そこでスリに襲われた女の子たちを助ける老人と出会う。薮は佃煮屋に案内するが、そこで出会ったのは薮の幼なじみの警察官・両津勘吉、なんとあのコチ亀だった。

「再会」
 わたしが鮫島と久しぶりに再会したのは、高校の同窓会。恩師が元気なうちにと開かれた会だったが、そのお流れで六本木の高級クラブに鮫島を伴うことにした。そこでやくざ風の男たちがからんでくるが、鮫島は軽くあしらう。そして、鮫島を送って行くクルマのなかで、鮫島はわたしの本当の姿を指摘して・・・

「水仙」
 ママフォースという店につとめる謎の中国美人。安というのだが、彼女の周辺にはなにか怪しい動きがある。鮫島は彼女の誘いにつきあいながら探りをいれる。そこに公安の手が伸びて・・・

「五十階で待つ」
 おれはドラゴンの誘いと思われる指令にしたがって、ビルの50階に荷物を届けることに。ドラゴンに気に入られれば今の状態から抜け出して、新しい自分になれる。しかし、エレベーターを降りたときにおれを待ち受けていたのはジーンズに皮ジャケットの刑事だった。鮫島と名乗る刑事は・・・

「霊園」
 事件から1年たって野間の墓園を訪れた鮫島の前に、野間の息子だという男が現れる。鮫島は野間を射殺したという負い目を持ち、息子に対しても強い態度をとれない。息子はそれをよいことに事件の背景を暴こうとする。
 シリーズ第5作「炎蛹」から登場して前前作「狼花」で鮫島と最後の対決をしたロベルト村上、またの名を仙田、深見、そして、本名は間野総治。鮫島のライバルともいうべき男が死の間際にに発した言葉とは・・・

 という10作。中には、なにも鮫島警部が出て来なくてもいいのでは、という作もあるが、そこはそれ、大沢マジックにかかれば、現れた鮫島の風貌がそれまでの物語の流れを引き締め、鮫島のひとことが物語の行方を決めてしまう。
 ファンが期待する鮫島のあるべき姿がそこに描かれている、貴重な短編集。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿

爺の読書録