2012年4月12日木曜日

アイアン・ハウスは絶望と希望をもたらす

 「アイアン・ハウス」
ジョン・ハート ()
東野 さやか (翻訳

ハヤカワ文庫、上・下
単行本: 373ページ、405ページ
出版社: 早川書房
言語 日本語
ISBN-10: 4151767053
ISBN-13: 978-4151767050
ISBN-10: 4151767061
ISBN-13: 978-4151767067
発売日: 2012/1/25

凄腕の殺し屋マイケルは、ガールフレンドのエレナの妊娠を機に、組織を抜けようと誓った。育ての親であるボスの了承は得たが、その手下のギャングたちは足抜けする彼への殺意を隠さない。ボスの死期が近く、その影響力は消えつつあったのだ。エレナの周辺に刺客が迫り、さらには、かつて孤児院で共に育ち、その後生き別れとなっていた弟ジュリアンまでが敵のターゲットに! ミステリ界の新帝王が放つ、緊迫のスリラー。
マイケルは作家として成功を収めたジュリアンとの再会を果たす。だが、弟は深く心を病んでいた。孤児院アイアン・ハウスでの忌まわしい記憶にいまだ取り憑かれているのか。しかも、ギャングの魔の手が迫るなか、弟を養子にした上院議員の邸宅の敷地で無残な死体が見つかる。それは孤児院でジュリアンを虐めていた連中の一人の成れの果てだった。まさか、弟が犯人なのか。交錯する謎が新たな謎を呼ぶ! 著者の新境地。

 アイアン・ハウスとは、ノース・カロライナ州アッシュビルから40マイル西にはいったアイアン・マウンテンの裾野にある孤児院。10ヶ月の赤ん坊だったマイケルと、未熟児として生まれた弟のジュリアンはその孤児院に収容された。
 少年になったマイケルは孤児院で孤高の存在となる。悪ガキどもから一線を画し、決して負けない、くじけない少年だった。しかし弟のジュリアンはひよわでいじめられっこだ。ジュリアンを凶悪な少年たちから守り、ある事件からいじめっ子を刺殺してしまったジュリアンにかわり、自分が犯人として自首することでジュリアンを保護する。
 やがてマイケルはアイアンハウスから脱走。同じ頃、弟のジュリアンは上院議員の養子として引き取られていった。

 そして現在、マイケルは恋人エレナの妊娠を機に、ギャングの組織を抜けようとしている。しかし組織はそれを許さず、エレナにも魔の手が延びてくる。ふたりは、レストランの爆破という暴挙に出た組織からの逃避行を続ける。
 今や風変わりな児童書作家として成功しているジュリアンだったが、その精神には病んだ部分が今も広がっており、母親として愛情をそそぐ上院議員夫人アビゲイルは、自分の手に負えないものがあると思っている。

 さすがに苛烈。すべての書評がことしのナンバーワンの評価をくわえている。
 マイケルとエレナの逃避行をメーンに、それを追うギャング内部の確執、ジュリアンと上院議員家族たちの仮面的な生活。多彩な登場人物がきっちり描かれ、スピーディーな展開に、はらはらどきどき。

 マイケルは逃亡の中で、弟のジュリアンにも組織の手が及ぶのではないかと考え始める。心配して訪ねて行った上院議員の家はガードマンに厳重に守られ、その意味では身の安全は確保できているとひと安心。しかし、統合失調症により精神に変調を来たしたジュリアンにはマイケルを認識することができたのかどうかもはなはだ怪しい。

 そして、マイケルは議員の家の前の湖にあったボートハウスで死体を発見する。あたかも少年時代にジュリアンが悪童を刺し貫いた同じ場所にナイフが残っていた。手際よく湖に死体を始末するマイケルに愛想をつかしたエレナはひとりで逃げ出してしまう。
 警察はまもなく湖の底の捜査を始める。だれかが目撃して通報したのだ。だが引き揚げられた死体はマイケルが始末した死体ではなかった。ほかに2体の遺骸が現れる。
 
 マイケルは思い始める。すべての発端は「アイアン・ハウス」にあるのだ。アイアン・ハウスへ行かなければ・・・

 ここから下巻。
 マイケルはアイアン・ハウスの経営者だった男から、孤児院のいきさつを聞き、ハウスで夜を過ごすことに。過去が蘇ってくる。
 そのころエレナが組織につかまり、マイケルが知る組織の資金のありかを白状させるための人質となってしまう。
 凶悪なギャングが拷問を繰り返す。普通でも堪え難いものだろうが、ましてエレナは身重だ。マイケルは自らも傷つきながら、組織の仲間割れに乗じてエレナを救出することに成功、ふたたび上院議員夫妻の世話になることに。
 そこで明かされていく数々の謎。
 そしてマイケルとジュリアンの出生の秘密が明らかになる。
 だが、そこで破綻が・・・

 いやあ、疾風怒濤の大作。
 だがね、主人公はギャングなんだよ。すご腕の殺し屋だ。出て来るヤツは悪者ばかり。冷静なギャングの二代目、残酷な殺し屋。上院議員にしても、ギャングと結託して裏金作りに懸命だ。貧しさから子供を放り出す母親もいた。
 
 なのにこのさわやかさはどうだ。アクションも楽しめる。
 そして、最後の最後、末尾の一行に感動して涙するのは爺だけだろうか。 
 

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