2012年8月23日木曜日

腕貫探偵、残業中でも聞き上手

「腕貫探偵、残業中」
西澤 保彦

単行本: 318ページ
出版社: 実業之日本社
言語 日本語
ISBN-10: 440853529X
ISBN-13: 978-4408535296
発売日: 2008/4/18

有能な公務員探偵はオフタイムも大忙し!
「市民サーヴィス臨時出張所」で、市民の相談に乗る腕貫着用の男。明晰な推理力を持つ彼のもとへは、業務時間外も不可思議な出来事が持ち込まれる。レストランに押し入った強盗の本当の目的は? 撮った覚えのない、想い人とのツーショット写真が見つかった? 女教師が生前に引き出した五千万円の行方は? “腕貫男”のグルメなプライベートにも迫る連作ミステリ6編。

<体験の後>
 ぼくが体験したのは、レストランに押し入った強盗による立てこもり事件。<てあとろ>というレストランには、志乃さんという清楚な従業員がいて、この人目当てに店にやってくる客も多いのだが、この日ばかりは改造マシンガンで武装した3人の強盗が飛び込んできた。客の中には住吉ユリエ、安達真緒という二人の美女もいたが、ユリエなどは強盗を向こうにして楯突くなど勇ましい男前ぶり。そうこうしているうちに、店長が自宅に隠してある、店の改装費用につかう現金を取りにいくことになる。だが、帰ってきたランドクルーザーは、そのまま店に突っ込んできた。急展開だ。
 警察も駆け付けて来て、強盗は逮捕され、あやうく難を逃れることができたぼくたちは、解放されて一安心。そのとき、客のひとりが、突然私服刑事に話しかけた。「氷見さん、もうすぐ殺人事件の知らせが届きますよ」。その、痩せた丸いフレームメガネの男は市役所の職員らしく、何人かは顔見知りのひともいたようだ。だが、その発言の真意とは・・・

<雪のなか、ひとりとふたり>
 バレンタインデー。ユリエは隠れ家的な居酒屋で、<てあとろ>の立てこもり事件でも一緒になった丸いフレームメガネの男を発見した。
 そして昨年暮れに写した写真を見せる。妻をスタンガンで殺害して自首した、ユリエと同じマンションの住人・江尻さんという人のクルマが写っている。これを撮影した時刻にマンションの裏にクルマが停めてあったのなら、江尻さんが証言した内容は信じられなくなってくる。
 メガネの男は氷見刑事に電話をかけ、いろいろ詳しい情報を仕入れてくれる。そしてユリエにこういうのだ。「江尻さんは誰かをかばっている」

<夢の通い路>
 実家で見つけたフォトフレームの写真。そこには、高校時代にあこがれていた春日部梨紗と私が並んで写っている。だが、私にはその写真を写した記憶がまったく消し飛んでいる。
 今は沖縄に住んでいる大江に電話して、当時のことを確認する。そうだ、そのころ、実家の借家が火事になったのだということを思い出した。大江は、その写真は私が大江に頼んで写してもらったものだ、という。
 私は仕事の都合で、故郷の櫃洗市へ仕事で出掛けることになった。そこで、離婚して実家に戻っていた梨紗と再会、写真のことを聞いてみる。私は、梨紗にも焼き増ししたプリントを渡していたことを知り、愕然とする。そして火事については、私が自殺しようとしたのではないか、という梨紗の言葉に驚かざるを得ない。
 そして、たまたまアーケードににいた市民サーヴィス課の職員に相談してみると、かれは一言「ロックが掛かった状態ですね」・・・

<青い空が落ちる>
 囲櫃高校の先生だった松島充子・62歳が死亡しているのが発見される。死因は、くも膜下出血による死亡と断定。だが彼女の貯金が引き出されていたのだ。5000万円。その現金はいったいどこへ消えたのか? 捜査を担当したのは氷見の相棒である水谷川刑事。水谷川は囲櫃高校で松島先生の教え子でもあった。
 捜査で事情を聞いた比留間という教師は水谷川の野球部の先輩だった。彼は充子の同僚として充子とも親しかった。だが、前職は銀行の営業マンとして羽振りをきかしたこともあったそうだ。
 水谷川は高校の事務職をしている、同級生だった茂美とともに腕貫の男に相談する。男は「ちかぢか学校を退職する先生はいらっしゃいませんか?」

<流血ロミオ>
 手を延ばせば届く距離にある隣家の窓が、同級生の真美子の勉強部屋だ。その窓越しに夜中のおしゃべりをするのが直紀の楽しみだった。ある夜、真美子から彼女の部屋に誘われて、ついつい窓越しに身を乗り出した健介は・・・
 だが、健介が気付いた時には真美子は首を絞められて死んでおり、下の部屋で真美子の父とお酒を呑んでいた筈の真美子の叔父が、家のクルマで飲酒運転の挙句、交通事故死していた。
 真美子の家庭教師をしていた阿藤江梨子がユリエに相談すると、ユリエは腕貫さんを紹介してくれる。クリスマスの七面鳥の出物を探していたユリエは、そこにいる筈の腕貫さんに逢いに行き、彼の意見を聞く。
 「真美子さんはその日、どこかへ出掛けるつもりだったのではありませんか」と聞き返され・・・

<人生、いろいろ>
 井原健介。同棲中の佐和子を殺して、新しい恋人・珠美との生活を始めようとしていた。だが、約束のホテルに佐和子が現れない。アリバイ工作に花火見物に行く時間がせまり、珠美が殺害役を引き受ける。
 花火見物には住吉ユリエや安達真緒、阿藤江梨子といった、前の作品に出て来た3人組の美女たちも来ている。花火の後、ユリエの発案で有名料亭に出向いた彼女らと別れて、健介は珠美が待つホテルへ行く。
 そこで佐和子と鉢合わせ、珠美、健介ら3人の修羅場となる。
 結局、ふたまた男の健介はふたりともに振られることになった。失意のまま実家に帰った健介は、祖母が押し入れに隠していた数千万の札束が盗難にあっていたことに気付く。
 だが、なにか違和感がつきまとう。この違和感は何なのか? 江梨子に偶然出会った健介は、花火見物でユリエが「ダーリン」と呼ぶ腕貫男のことを話していたのを思い出し、紹介を頼む。ところが、かれは出張中だというつれない返事。しかし、ユリエがいう。「その犯人は健介に近いところにいる人だ。しかもアリバイがある」

 前回に続く腕貫探偵の物語。


 こういろいろなバリエーションがでてくると、やはり、ある種のマンネリはしょうがないかも。そして、自分では気付かないうちに、自分では覚えていないが、というパターンも出てきてしまう。少しずっこいな、という感じも。

 今回、腕貫さんは臨時出張所での依頼受付はあまりしていなくて、私生活の中で事件解決を試みるというパターン。グルメな私生活というが、こんだけ残業していて、そこまで時間があるのかな、とも思ってしまう。

 最後の作品など、腕貫さんに相談しようと思いながらも、腕貫さんが出張中ということが判明するや、依頼者自身が自分で謎を解いてしまうという離れ業。これもしかし、腕貫さんのパワーなのかも。あなおそろしや。

 やっぱり、もう少し続きがほしい。腕貫さんに相談してみようか。
 

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